コロナ支援策を素早く打ち出したREADYFOR。スピーディーな意思決定の裏側

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2020年2月末、新型コロナウイルスの感染拡大により、イベント自粛要請が出されました。社会に混乱が広がる中、自粛要請があった翌日2月27日に、中止となったイベントを支援するプログラムを発表したのがクラウドファンディングサービスのREADYFORです。

READYFORでは中止イベントの支援にとどまらず、感染拡大防止活動を後押しする基金や飲食店のサポートプログラムなど、短期間に多数の取り組みを次々と発表。彼らはなぜ、これほどまでのスピード感で動けるのでしょうか。その理由を代表取締役CEOの米良はるかさんにお聞きしました。(※この記事の取材はすべてオンラインで行いました。)

イベント主催者の資金調達手段として、サービス手数料無料で提供

【プロフィール】米良 はるか(めら はるか)
1987年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2011年に日本初・国内最大のクラウドファンディングサービス「READYFOR」の立ち上げを行い、2014年より株式会社化、代表取締役 CEOに就任。World Economic Forumグローバルシェイパーズ2011に選出、日本人史上最年少でダボス会議に参加。現在は首相官邸「人生100年時代構想会議」の議員や内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進室」専門家を務める。

——READYFORの事業内容と、組織体制について教えてください。

当社は、日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を運営しています。

新たなプログラムなどの企画は、メンバーが自主的に動いて立ち上げることも多いです。例えば、2018年7月にはアート好きのスタッフが「アート部門」を立ち上げ、そのメンバーが主導して様々なイベントを行い、アート業界でクラウドファンディングが活用される土壌を作ってきました。

落合陽一氏と日本フィルハーモニー交響楽団がタッグを組んで実行した、テクノロジーで音楽のバリアフリーに挑む「耳で聴かない音楽会」や、オーケストラをアップデートする「変態する音楽会」のプロジェクトでは、合計1,000万円以上の資金を集めています。

一方で、経営層主導で動くケースもあります。例えば、READYFORの事業のもう一本の柱となる法人向けサービス「READYFOR SDGs」の立ち上げは経営層を中心にチームを組んで進めました。新型コロナウイルスによる中止イベント支援プログラムなどもその一例ですね。

——2月27日に発表した新型コロナウイルスによる中止イベント支援プログラムについて、立ち上げに至った背景を教えてください。

2月中旬時点で政府から大規模イベント開催の必要性検討の要請があり、イベントを中止・延期する主催者が増えていました。当社にもこの影響を受けた主催者から資金調達に関する相談が多数寄せられていたんです。そこで、READYFORにできることは何かを考え、いくつかの案と準備を進めていました。

そして、2月26日の政府によるイベント自粛要請の発表。これにより、より多くの主催者がイベントを中止・延期せざるを得ない状況になりました。劇場やイベントスペースへの支払いや、お客様への払い戻しで資金が不足する団体、主催者の続出が予想できたので、すぐに翌日支援プログラムをリリースしました。

このプログラムは、新型コロナウイルスの影響で中止・延期になったイベント主催者を対象に、サービス手数料無料・ALL-IN形式でREADYFORのクラウドファンディングを利用できるというものです。迅速に資金が手に入るクラウドファンディングを活用し、一種の補填のような資金を集めることができます。

※ALL-IN形式:目標金額にかかわらず、期限までに集まった支援金が実行者に支払われる方式

——プログラム発表後はどのような反響がありましたか?

多くのメディアに取り上げられましたね。発表したのが政府による大規模イベントの自粛要請の翌日ということもあり、相当インパクトがあったのではないかと思います。

また、現在までに29件のプロジェクトを掲載し、約2,000万円の支援が集まっています(5月15日時点)。ビジネスとして取り組んだわけではないためこの数字への評価は難しいですが、企画していたイベントが中止になった方々に少しでも使っていただけるものになっているのかなと思います。

状況は刻々と変わっていますし、政府による補填もクリアになりつつあります。そんな中で、選択肢の一つとしてREADYFORがあればいいと考えています。

社会の動きを注視していたことが、素早いアクションにつながった

——なぜ、イベントの自粛要請の翌日に、こんなにも素早く対応できたのですか。

まず、要請の前から議論を進めていたことが挙げられます。

日本で1月中旬に国内初の感染者が確認され、少しずつ感染が拡大していく中で、私たちは様々な社会の行動変容を意識して見ていました。厚生労働省からイベントについて「開催の必要性の検討」を求める発表があったのが2月20日です。「自粛」というキーワードも使われ始め、私たちの今までの生活が制限されていく予兆がありました。

この頃から、経営層として社員の働き方を検討すると同時に、READYFORという企業が社会に対してできることがないか具体的に考えていたんです。

私たちの使命は、クラウドファンディングを運営する企業として、資金を必要な方々に届けること。イベントが中止・延期になった主催者を支援するというこのプログラムのアイデアはCTOの町野明徳から出てきたもので、すぐに役員間で議論し、3日ほどで立ち上げました。

——プログラムを立ち上げる中で特に大切にしたことや、大変だったことを教えてください。

プログラムの開始とほぼ同時期に、全社員を原則リモート勤務へ移行しました。これまでも社員には週に一度のリモートワークを許可していましたが、ここまで大規模なものは初めてです。

130名のメンバーがワンフロアのオフィスに集まって勤務していた時と比べると、リモート勤務は意思疎通が難しく、コミュニケーションコストがかかります。そこで時間を取られないよう、誰が意志決定権を持つのか、役割分担を明確化してからプログラムをスタートするようにしました。

社内だけでなく、社会とのコミュニケーションも非常に重要です。立ち上げの時点からたくさんの皆様に応募をいただくと予想していたため、問い合わせオペレーションは分かりやすく、スピード感を持って動けるものが求められると考えていました。その点は、オペレーションの担当メンバーが従来の経験を生かし、責任を持って短期間でしっかり作り上げてくれました。

その他の点でも、リモートワークという慣れない状況下でスピーディーな意志決定が要求され、メンバーは大変なことも多かったと思います。ただ、当社は普段からきちんと議論をしてルールを作り、体制をアップデートする文化が根づいています。議論すべきところは議論し、任せるところは任せることで、早期の立ち上げを実現できたと思っています。

それから、当社はビジョン・ミッションドリブンな企業であることも重要です。「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」というビジョンの実現を、「想いの乗ったお金の流れを増やす」というミッションを通じて目指す。そんな「必要なところにお金を届けたい」という強い思いを社員が共有しています。ビジョン・ミッションを共有し、お互いに信頼していることも素早く動けた理由だと考えていますね。

できるのにやらないのは、企業のカルチャーを否定すること

——ビジョン・ミッションを共有していることが、なぜ素早い意志決定に影響するのでしょうか?

「これは自分たちがやるべきことなのか」という問いは、すべての意志決定の場面で起こるものだからです。もし少しでも「どうして私たちがこれをやるの?」と考えてしまったり、その点に疑問を抱いてしまったりすると、動きがそこでストップしてしまいます。

私たちは「有事の際にはなんでもやろう」と思っているわけではありません。企業として社会に対してできることを考え続け、「これは自分たちの役目だ」と感じた物事に対してはスピーディーに動く。それができるのは、ビジョン・ミッションが共有されているからこそです。もし反対に我々にやれることがあるのにやらなかったら、それは企業のカルチャーを否定することになってしまうと考えています。

今回に関しても、社会の動きを見ながら「自分たちも何かしたい」と考えていたメンバーがとても多くいました。リモートワークへ移行しても、中止イベント支援プログラムを即座に打ち出せたことは、組織としても強くなっていると実感できた出来事でした。

しかし、早く対応すればそれだけでいいわけではありません。課題は少しずつ広がっていくので、最初の動き出しに止まらず、しっかりと自分たちができるプログラムやサポートを展開していくことが必要です。そこまでしてはじめて、ビジョン・ミッションに基づいてREADYFORとして社会の役割を担ったことになります。

新型コロナウイルスに関連する取り組みは、社内メンバーの働き方、社外へリリースするサービスやプログラムを含め、経営層主導で進めています。中止イベント支援プログラムを皮切りに、飲食店の支援プログラムや、活動基金の設立なども行っています。

——組織全体にこうしたカルチャーを根づかせるために取り組んでいることはありますか。

まず、採用時からビジョンにマッチした人材をしっかり見極めるようにしています。応募者に対して私たちがREADYFORというサービスや会社を通してどんな価値を社会に提供したいのかを明確に伝え、その上で本人の言葉で考えを語ってもらいます。そして、応募者の目指すキャリアとREADYFORのビジョンが一致する人を採用しています。

入社後も様々な取り組みを行っています。代表的なものが2018年夏から導入した「研修」と「3つのコアバリューと7つの行動方針」。研修では、ストレングスファインダーなどを実施し自己理解を促進することや、他人のタイプに合わせて伝わる言葉でコミュニケーションをすることを意識づけるためにプロコーチを招いたコミュニケーション研修などを行っています。READYFORではさまざまなバックグラウンドを持つメンバーが働いているので、自分にとっての当たり前が相手にとっての当たり前ではないことも多いからです。

3つのコアバリューと7つの行動方針は、社内の共通言語を作ることが目的です。メンバー数が増えても組織として迷いなくビジョンに向かっていくために導入しました。

その他にも、リモート期間中はなかなかできていませんが、チームメンバーで感謝を伝えたり、素敵な部分をひたすら褒めあったりする「WIN会」を週に一度行っています。こうしてお互いを認め合うことで、信頼感が醸成されるようにしていますね。

ビジョン・ミッションを共有している組織は、強く素早く動きだせる

——READYFORでは、過去に台風などの自然災害で被害を受けた地域への緊急支援プログラムを実施しています。今回素早く動けたのは、こうした知見があったことも生かされているのでしょうか?

そうですね。中止イベント支援プログラムに関しては、素早くオペレーションをまわすことがとても大切でした。このスピード感で動かせたのは、2011年から1万件以上のプロジェクトをサポートしており、審査やユーザーコミュニケーションなどのオペレーション部分をしっかりと構築してきたことが大きいです。

また、4月3日には「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」を設立、寄付金募集を開始しました。これは基金とクラウドファンディングの仕組みを利用し、医療機関などへ最短2週間で助成金を届けるプロジェクトです。

このプロジェクトでは、感染症の専門家の方々に入っていただき、諮問会などを実施しています。専門家の方々と連携しながらプロジェクトを進めていくという点は、医療関係のプロジェクトで医療機関や医師と連携を取ってくるなどしてきたこれまでの知見が生かされていると思いますね。

——最後に、自社のリソースを活用したサービスや施策を、社会にあわせてスピーディーに打ち出したいと考えている企業に、注意点やアドバイスがあれば教えてください。

やはり、普段からどれだけビジョン・ミッションを共有できているかが重要だと思います。ビジョン・ミッションが共有できていれば、それに即した行動を起こす時に否定は起こりにくい。リスクやデメリットを指摘するような前向きな議論はあり得ますが、足を止めるようなことにはならないはずです。

自分たちはどこに向かっていて、何のためにやっているのか。そのことをメンバー全員が大切にして、丁寧に考えていることで、いざという時に素早く対応できる組織になるはずです。

(取材・文:小沼理、編集:東京通信社、写真・画像:READYFOR提供)

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