「J1で最も経営がうまい」川崎フロンターレに聞く、ファンに愛される企画作りの3つの工夫

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川崎フロンターレ 企画作り

2018年に2年連続のリーグ優勝を果たしたサッカーチーム「川崎フロンターレ」。Jリーグに所属するクラブをビジネスマネジメントの側面で分析した「Jリーグ マネジメントカップ2018」でも、J1チームの第1位に選ばれました。

川崎フロンターレの経営力の1つに、スタジアム集客率の高さがあります。エンターテインメント性に富んだユニークな企画で観客を呼ぶ工夫や、企画に注ぐ時間を創出するために行っている業務効率化についてお聞きしました。

自分たちだけが面白いのではダメ。大切なのは「お客様にどう楽しんでもらうか」

【プロフィール】若松 慧(わかまつ けい)
1988年生まれ。神奈川県出身。大学を卒業後、吉本興業株式会社に入社。マネージャー業務などを経て、株式会社川崎フロンターレに入社。オフィシャルグッズショップ、ボランティア担当を経て、事業推進部集客プロモーショングループに。ホームゲームイベントや、地域のホームタウン活動を務めている。

――「サッカーのクラブチームの運営」とは、どのような業務を行っているのでしょうか?

選手に関わるチーム側と、チケットやグッズの企画・販売、営業、広報、運営、集客などの各事業のグループに分かれています。また、ホームタウンである川崎市内の子どもたちを対象としたサッカースクールや、プロを目指すアカデミーの運営、フットサル施設やスタジアムを管理する部署もあります。私は集客プロモーショングループに所属していて、イベントの企画・運営やホームタウンでの活動が主な業務内容です。イベント企画は、試合会場や試合前の時間に行うものだけではなく、地元の学校や地域イベントで企画を行うこともあります。

実際に行っている一つ一つの仕事自体は、打ち合わせや企画の考案、資料の作成、物品の準備や関係各所との調整など、一般企業の業務とほとんど変わりないと思います。ただ、スポーツチームとしてまず選手がいて、その活動をサポートする人がいるという構造のもと成り立っているところは特殊かもしれませんね。

――業務の中で一番大変だと感じるのはどんなことですか?

イベントの企画ですね。やはり新しいことを考えて作り上げる業務は大変です。

もちろん、試合の日などは一日中動きまわるので、体力的に大変ではあります。でも、それは楽しみでもありますし、頑張れば乗り越えられるものでもあります。一方で企画のような、サポーターにどう喜んでもらえるのかを考えて突き詰める仕事は、明確な答えがありません。だから悩んでしまうことも多いです。私たちだけが面白いと思っていてもダメなんです。常に、ファンやサポーターの方々が楽しんでもらえるように試行錯誤しています。

「勝敗に関係なく地元に愛されるチームへ」斬新なイベントが生まれた理由

――川崎フロンターレのイベントは話題性のあるユニークさで有名ですが、特に反響があったイベントはありますか?

2016年に「宇宙」をテーマに開催した企画は大反響でした! ホームスタジアムである等々力陸上競技場で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の大西卓哉宇宙飛行士と生交信を行ったんです。NASAと連携し、実際に大西さんと会話をして、大いに盛り上がりました。他にも、選手が宇宙服を着て写真撮影したり、外の広場に宇宙に関するブースを出展したりと、「宇宙」というキーワードからさまざまなアクションを生み出しました。

この企画は、漫画『宇宙兄弟』とのコラボで、『宇宙“強大”』と文字を変えた企画名にしたんです。当日の試合に、選手は作者の小山宙哉先生がデザインした「宇宙服ユニフォーム」を着用して臨みました。ユニフォームは実際に限定販売もしたのですが、ファンからはかなりの人気でしたね。

実際に選手が着ていた、『宇宙兄弟』コラボのユニフォーム

また、SNSを活用した例では、2018年と2019年に行ったハロウィンの企画の反響が大きかったです。2018年はホームゲームの間が1カ月空くことがあったんです。そこで、サポーターに少しでもフロンターレを感じて楽しんでいただきたいと考え、選手が仮装した写真をチームの公式Twitterに日替わりで投稿したんです。

また、普段は告知ポスターを貼っているスタジアムのコンコースも仮装した選手の写真をポスターで埋め尽くしました。この企画では、何より全ての選手が初めてホームゲームイベントに参加してくれたのが嬉しかったですね。選手に親しみが湧くだけでなく、川崎は「川崎ハロウィン」でも有名な街なので、“川崎らしさ”にもつながっています。

――なぜ斬新なイベント企画を始めたのでしょうか?

「地元に愛されるチームになって、川崎にスポーツの文化を根付かせたい」という考えが、独自の企画を行う文化につながっています。

川崎フロンターレは、Jリーグの設立から5年後の1996年にチームが設立されました。当時はJ2からのスタートでした。Jリーグが始まってから少し経っていること、そしてJ2であることで、地元の方々の興味がなかなか川崎フロンターレに向かなかったんです。

また、当時は川崎を拠点にしていたスポーツチームが他地域へ移転するという事態が続き、地域の方々の愛着や期待も低く、川崎にはスポーツ文化が根付きにくい状態でした。例えば、「ヴェルディ川崎」というチームがあったのですが、2001年に東京に拠点を移してしまって。サッカーだけではなく野球でも川崎から別の地域へ拠点を移すチームがあったため、「川崎フロンターレもすぐにどこかに移転するんでしょう?」と、地域の方々には思われていたようです。

そこで、「勝敗に左右されずに、まずは地元の人たちに愛されるチームにならないといけない」と考え、始めたのがイベント企画でした。

川崎フロンターレ設立初期のユニフォーム

もともと、チーム設立直後から不定期でイベント企画をやっていました。現在のような競技場の外の広場を使って、本格的に始めたのは10年くらい前からですね。今では「ホームスタジアムでの全試合で何かしらのイベントを行う」という宣言をしています。

――数々の企画はどのようにして立案しているのでしょう?

役職や経験関係なく、会議室に集まってみんなで企画を固めています。学生のアルバイトから面白いアイデアを出れば、「それでいこう!」と実現に向けて各担当が動き出すこともあります。くだけた話から派生して企画が生まれることも多く、変に“会議”という意識を持たずに、かなり柔軟な形で進めています。月に1回はサポーターとスタッフ合わせて20〜30名が集まる定例会も行っており、そこで企画の話をしてアイデアを膨らませることも多いですね。サポーターはスタジアムの熱狂を作る一番の存在なので、彼らの意見は大変貴重です。

これまでたくさんのイベントを行ってきたので、正直「もうアイデアが出ません!」という気持ちになることもあります(笑)。そんなときは、サポーターはじめ、会場に来てくださったり、地元で出会ったりする方々に「何かいいアイデアありませんか?」と相談することもあります。こういった地域とのフランクな付き合いの中で生まれたアイデアは非常に多いです。

「サッカークラブ」としてかしこまっているより、地域やファンのみなさんと一緒に手作りしている感覚ですね。

企画を立てるときに意識している3つのこと

――企画を立てるときに、意識していることを教えてください。

大きく3つあります。1つ目は「川崎」というキーワードを入れること。川崎に住んでいる人に喜んでもらい、川崎フロンターレのことを知るきっかけになることで、地域の方々と私たちお互いがいい関係になれることを強く意識していますね。先ほどのハロウィンの企画も「川崎」というキーワードを意識していますし、地元の企業や教育機関とのコラボも数多く行っています。

2つ目は社会性があるかどうか。ただ「面白いから」という理由だけでは自己満足で終わります。イベントの開催が社会貢献になり、私たちの想いにもきちんとつながっていることを心がけています。例えば、震災復興支援として、毎年「陸前高田ランド」というイベントを行っており、陸前高田の名産品を集めて、試合の日にスタジアムの広場で屋台を出しています。ただの復興支援ではなくて、「販路の拡大」も大きなテーマです。本当に美味しい名産品が集まっているので、毎年サポーターの方々に人気のイベントの一つです。

そして最後は、話題性です。世の中にインパクトを与えられる内容か、ゲストはインパクトを与える人物かも重要です。もちろん、ただ呼ぶだけでなく、そこから「一捻り」してこだわれるかが大きなポイントです。

この3つがうまく組み合わさることで、心に残るイベントが実現できると考えています。

――一般的な大型のイベントではなく、ダジャレを効かせたり地元と組んだりとユニークでエンタテイメント性の高いイベントにすることには、どのような意図があるのでしょうか?

ファン・サポーターに喜んでもらい、選手を身近に感じてもらうためですね。Jリーグの試合は、ホームグランドとアウェイ(相手の本拠地)を行ったり来たりするのですが、アウェイでの試合が続くことも多いんです。公式戦でホームグラウンドが使用できるのは、年間で20試合くらい。地元の方々は、365日の中でたった20試合しか川崎フロンターレの選手と直接触れ合う機会がありません。

だからこそ少しでも身近に感じてもらい、選手やサポーターと一丸となって、川崎フロンターレを盛り上げたいと思っています。その一歩として、思わず行きたくなるようなイベントや、会いたくなるような雰囲気作りを大切にしています。

選手がサッカーのプロなら、我々は運営のプロ。選手が死にもの狂いで練習をし、試合をしているからこそ、私たちも全力で盛り上げるべく挑戦しています。

――「選手にイベント出演させるなんて……」という、ネガティブな意見はないのでしょうか?

もちろん、最初はありました。実際に、優勝ができないシーズンが続いていたときに「選手にイベントをやらせているから勝てないんだ」と、外部から言われたこともあります。しかしそんなとき、嬉しいことに「地域貢献として活動するのはサッカー選手として当たり前のこと。いろんな人と触れ合うことで自分がより成長できる」と、選手から声が上がりました。

なぜイベントをやるのかという信念がきちんと選手に伝わっていないと、選手も「やらされている」と感じるかもしれません。そういった空気は簡単にサポーターに伝わってしまいます。ですが、きちんと背景を説明することで、選手も理解して協力的に一緒に取り組んでくれるんです。

現在は、2年連続優勝だけではなく、9年連続Jリーグで「地域貢献度が高いチーム」No.1にもなれました。イベント企画を通じてさまざまな事業と連携していくことが、結果としてチーム力アップにもつながると証明できたと思っています。

「決定」に時間を使わない。川崎フロンターレの業務効率化とメリハリの付け方

――創造性が高い業務が多いからこそ、そこへ注ぐ時間を創出するために行っている作業効率化の施策はあるんでしょうか?

一番は、会議や書類の検討に使われる時間のスリム化が挙げられます。多くの企業では企画提案の際、資料を作り込み、上司や他部署に資料を回して承認を得て……と時間がかかることがありますよね。

ですが川崎フロンターレの場合は、大枠の資料だけ作成したら、あとは全て一度の会議で決定していきます。その会議では社員だけではなくアルバイトも含めて一同に集まるので、その場で「それ面白いよね」「これはどう?」など企画をブラッシュアップ。あっという間に企画の肉付けができることがポイントだと思います。

その他に、2018年8月からビジネス向けチャットツールを導入しました。それまでは社内メールと電話が主な情報伝達ツールだったのですが、メールは社内でしか送受信できず、連絡が遅れることが多かったんです。そこで、より早く情報伝達ができるようにし、業務に必要な資料を見つけやすくするためにチャットツールを使用しました。

チャットルームは部署ごとに分けてやりとりしているので、以前と比べて情報共有のスピードがアップしましたね。また、事業推進部集客プロモーショングループと関わりが深い、グッズを扱う部署と共同のチャットルームを作ることで、仕事の進行がスムーズになりました。最初は使い方が分からなくて戸惑う社員もいましたが、スマホですぐに返せますし、これまでは社内のPCでしか確認できなかったチラシのデータなどが外で見られるのは助かっています。

反対に、チャットツールを導入したことで、対面だからこその安心感や感情の変化をもっと大切にしようと思うようになりました。チャットツールは確かに効率的ですが、コミュニケーションはサッカーと一緒で、“生”で見たり聞いたりすることによって、感情が動くし心が豊かになると思うんです。そのため、今はより対面時に丁寧にコミュニケーションを取るようになったと思います。

――作業効率が日々アップするなかで、あえて時間をかけていることはありますか?

サポーターにイベントも試合観戦も安心安全で楽しんでもらえる関係性作りですね。イベントをコンスタントに続けるために、会議や情報処理にはできるだけ時間をかけませんが、スタジアムに来てくださるサポーターや地域の方々との関係作りは時間を惜しむことなく丁寧に行います。

また、イベントを開催するときにはあまり広告代理店を挟みません。自分たちが思い描いていることは、直接クライアントに話さないと伝わらないからです。代理店を挟まないと手間はかかりますが、イベントが終了したときに「また一緒にやろう!」と声をかけてくださることが多いです。川崎フロンターレの想いがブレないように、人との関わりは丁寧にしています。

川崎フロンターレに特色あるユニークな企画を根付かせた人物の1人に、現在東京オリンピック・パラリンピック組織委員会に出向して企画担当をしている天野春果がいるのですが、彼は既に出向していた2017年に初優勝を決めた試合後、喜ぶと同時に私に「調子にのって広告代理店を使いまくるんじゃないぞ、自分たちで心を込めて手作りし続けろ」と釘を刺したんです。もちろん、チームや企業、企画の目的によっても異なると思います。でも、地元に愛されるチームになるために企画を立てている私たちにとって、自分たちで取り組むことはとても大切な魂なのだと痛感しました。

――最後に、今後の展望を教えてください。

地道に汗をかいて、謙虚にコツコツと経営を続けていきたいです。リーグ優勝はもちろん、「J1で最も経営がうまいチーム」と言っていただけるのはとても嬉しいですが、そこであぐらをかいて“考えること”はやめたくないですね。また、サッカーは勝負の世界ですが、同時に「暖かいもの」だということを忘れてはいけません。

今、川崎フロンターレは組織としても少しずつ大きくなってきています。主力として活動する世代も少しずつ若くなっていくでしょう。それでも、「地元に愛されるチームになるために」という信念が薄まらないように、しっかり伝え実践して継承していく。そして、今後も選手やスタッフ、サポーターが一丸となって、一層「強くて、面白い」川崎フロンターレを目指していきたいです!

(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社)

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

Bizpedia編集部

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