会社の経理は知っている、不正とモラル⑩〜経理管理職編〜

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経費の過剰使用や、架空請求による売上金の横領など、ほぼ100%、どの会社でも起こっていると言われる企業の「不正」。これら不正を食い止めるため、大小さまざまなケーススタディを踏まえながら、そのメカニズムや人間の心理に迫ろうという今回のシリーズ。フリーランスの経理部長として活躍する、前田康二郎さんに語っていただきます。

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CASE10:経理管理職

「社長、お久しぶりです」
「お、大先生のお出ましだ」
「やめてくださいよ」
独立してコンサルティング会社を営むAは、会社員時代に勤めていた会社のB社長と年に一度、こうして食事会をしている。AはBの会社で経理部長をしていたが、一念発起してコンサルティング会社を立ち上げた。独立して5年が経ち、Aもさまざまなメディアに登場するようになっていた。

「君が会社を辞めるって言いだした時は、ずっといてくれるものだと思っていたし、独立なんてうまくいくはずがないと猛反対したけれど、今こうして活躍している姿を見ると、やはり君の決断は正解だったのかな」
「いえ、もう毎日必死でしたよ。悩んでいる暇なんてなかったですし。最近クライアント先の社長さんたちから悩みを聞くんですけど、悩めるってことはまだそれだけ余裕がある証拠だよなあ、うらやましい、と思うんですよ」
「相変わらず手厳しいね。確かに。人間、底が見えていると必死だけれど、一旦浮上してしまうとつい気が緩んでしまうときがあるかもしれないね。まあ、まずは乾杯しよう」

経理部長の出世話

AとBはお互いの会社の近況を報告しながら、来年以降の新規ビジネスの話をしていた。
「うちの経理部に君の部下だったCっていただろう。彼が今は経理部長なんだけど、いつもネガティブでさ。私が新規ビジネスを提案しても、理由をつけてなんでもかんでも陰で反対するんだよ」
「ああ、彼は昔からそういう人ですからね」

Aが会社員時代のときも、「もし失敗したらどうするんですか」「内心皆反対していますよ」「これ以上仕事が増えたらもっと自分達が大変になります」といつもネガティブな発言を繰り返して手を焼いた。

「今振り返ると確かに新しいことをすると仕事の負荷もかかるので、不安だったCさんの気持ちも分かりますけど、当時は会社の方針に従うのは当たり前だと思っていたので、Cさんと会社との板挟みでいつも大変でしたよ」
「君が辞めたから今はその分、私が苦しんでいるよ」
ハハハ、と2人で笑った後、Bは言った。
「ところで今度、彼を役員にしようか、という話が他の役員から出ているんだけど、どう思う?」
「どうって、何がですか」
「うん、人間性とか…」
「『良い』って私が言うと思いますか?」

Aが会社員生活から独立をした理由、それはCに「ハメられた」からである。かつてBの推薦でAが役員候補になった時に、Cが手をまわし、人間性がふさわしくない、という噂を社内に流した。それはデマであったのだが、他の役員から「そのような噂が出ること自体が良くない」という意見が出て、Aの出世話は流れた。それに嫌気がさしたAは独立の道を選んだのだった。

「まあそう言わずに。君はもともとサラリーマン向きでもなかっただろう。個人的なことはわかっているけど、今の君のコンサルタントとしての知見からどう客観的に映るか聞きたいと思ってね。経営っていうのは『清濁併せ呑む』ことも必要なことくらい、君ももう5年会社を経営していたらわかるだろう」
「ええ、もちろん」
Aは内心、まだそこまで大人ではないですよ、と思いながら、「プロ」として対応しようと心を整え直した。

部長ならば不正は簡単にできてしまう!?

「別に問題ないと思いますよ。確かに新しいことに対してはネガティブですけれど、経理のスキルは問題なくありますし、指示されたことは当時もきちんとやってくれていましたし、休日や深夜にも残業対応もしてくれていましたから。ただ少し気になることはありましたけど……まあ大丈夫かな」
「いいよ、言ってくれよ。大事なことだから」
「Cさんが入社してくれて以来、毎日遅くまで頑張ってくれていたんですけれど、ふと気づいたんです。Cさんに、ここまで仕事を振っていただろうかって。それで、『急ぎのものでなければ、帰ってくれて大丈夫ですよ』って声をかけたんです。そしたらそれ以来、帰るのが急に早くなって」
「それがどうかしたの」
「いや、仕事もないのに残業代を不正して稼いでいたんだなあって」
「そうなの?」
「ご家庭もありましたしね。それに最近よく聞くじゃないですか。働き方改革が徹底されて残業代が減って逆に困っている家庭があるって。残業代が欲しくて居残っている人って本当にいたんだなあと、そのことだけよく覚えているんですよ」
「ふーん」
「今、Cさんは管理職ですよね。だから残業代はほとんど発生してないでしょうけど、役員になったらきちんと年俸上げてあげてくださいね。そうしないとまた年俸変わらないのに責任だけ増えた、って不正を考えてしまうかもしれませんから」
「あいつはそこまでやれる器でもないだろう」
「そういう見下した偏見がダメなんですよ。社長の会社、私が居た頃と変わっていなければ、50万円の請求書までは各部長の承認決裁でOKですよね。だから部長だったら自分で偽の請求書を作って自分で決裁してしまえば不正なんて簡単なんですよ」
「怖いこと言うなよ」
「だって今、御社黒字ですよね。そうしたら少しくらい費用を水増しさせたところで、社長も気づかないじゃないですか。まあこれは極端な話ですけど、彼はそういう気質があるので、その点だけ社長が教育すれば、社長に聞き従う良い役員になると思いますよ」
「わかった。その点は確認しておくよ」

発覚した経理部長の不正

後日、BからAに連絡があった。税理士に依頼をして、Aが退職して後任にCが経理部長となって以降、帳簿で特徴的なことがなかったか過去5年にわたって調べ直して報告してもらったとのことだった。その結果、新規のコンサルティング費用として、Aが退職した1年後あたりから毎月15万円の請求書が発生していることがわかった。税理士的にはそれほど高額ではないので気にしていなかったそうだが、その当時、一応Cに確認したときは、そのコンサルタントは、社長の知り合い的な存在だと言っていたとのことだった。

しかし、Bはその件は初耳だった。後日Cを問い詰めたところ、架空の請求書を「その他手数料」として処理し、自分の身内を代表にした個人会社に振込をしていたそうだ。月額15万円で4年間、合計720万円。Cが50万円までの支払請求書は承認決裁権を持っているので、簡単にできることであった。結果としてCの昇進話はなくなり、全額返済するという念書までは交わしたが、その後Cをどう処罰するかはまだ検討中だそうである。

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「不正は誰でもする可能性はある」と常々申し上げているのですが、それは、「この人は、良い人だから絶対不正をしない」「この人は、巧妙な不正ができるほどのスキルや知恵はないからノーマークでいい」という「偏見」を持って頂きたくないためです。したがって、「誰でも不正をする可能性があるから常に全員を監視していなさい」という意味ではないのですが、どのような種類であっても不正というものが発生した場合には、やはりその人達に対しては、「金銭的な不正」も並行して行っていないか、気にする必要があります。
なぜなら、彼らは「会社というものは、致し方ない場合は不正をしてもいい場所」という認識の境界線を既に越えてしまっているからです。

「会社での金銭的な不正」というのは、分解すると「会社で不正をしてもいい」かつ「金銭的な不正をしてもいい」の複合体ということになり、両方の条件が同時に満たされることで成立します。この基準に照らし合わせると、まず「残業代の不正受給」「カラ出張代の不正受給」のような勤怠に関わるものが発覚した場合は、既に金銭的な不正の条件を満たしていますので、その人達の仕事の成果物やそれに紐づく経費も不正がないか一度全て洗い出す必要があります。

具体的には、成果物に関しては、制作途上で不正盗用をしていないか、嘘のデータ資料の提出や検品の偽装報告、原材料の偽装などの検証が必要でしょう。また経費に関しては、その担当者に紐づく全ての会計データと、実際のその社員の働きや成果物とを照合して違和感のある取引や金額がないか、検証を行う必要があります。
どの段階で不正が見つかるかによりますが、不正というのは基本的に見つからなければエスカレートしていきますから、「実作業」、「勤怠」、「経費」、このどれか一つが一線を越えた場合、他の二つも時間差の問題だけで、同じように不正行為を行っている可能性があります。

不正に関してのニュースでも、金銭的な不正と非金銭的な不正(データ、検品、品質の不正など)がありますが、非金銭的な不正においても、結局のところ、売上や利益を維持するために行われるものですから、金銭的不正も並行して発生している可能性が低くはないというのが私の考えです。

役員や管理職にふさわしい人物像というのは、その人の仕事の能力、社員からの支持も大切ですが、まず自分を律することができるかどうかということが一番大切なことではないでしょうか。経営者や役員、管理職が不正をしないための防止策も、たとえば同役職のポジション同士でデータや証憑などを交換してダブルチェックするなどの対策を立てることは可能ですが、生産性や効率性を考えると現実の業務上は、なるべく最小限のルールに留めておきたいところです。

せめて管理職以上であれば、「自分達の会社を自分が汚してはいけない」という自覚を持てる人でなければ役職に就いてはいけないでしょうし、仮に不正をしてしまう人物を会社が登用してしまった場合は、「一社員が勝手にやった」のではなく、やはりそれ以上の職位の役員や経営者が、一定の責任を負っても仕方がないのではないかと思います。そうしておかないと、組織というものは、上にいけばいくほど、チェックはトリプルからダブル、そしてシングルへと薄くなっていきますから、「任命責任」でそのリスク部分をカバーしていかないと、無法地帯になってしまうからです。経営陣の方々は不正というものを「自分は不正をしないから関係ない。部下が不正をしたらそれは部下の責任で自分には関係がない」と考えず、組織の根底を揺るがす予兆として常に意識をし、部下に対するモラル教育や不正に関する社内のルール整備などを励行していただきたいと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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