タピオカを文化として根付かせる。TAPISTAに聞く、レッドオーシャンで勝ち抜く戦略

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若い女性を中心に大ブームを巻き起こしているタピオカ。女子中高生の間ではタピオカティーを飲むという意味の「タピる」や「タピ活」が流行語になるほど人気が過熱し、今やテレビでも連日タピオカの話題が取り上げられています。

そんなタピオカ店がひしめく東京に、2019年4月にオープンしたタピオカドリンク専門店「TAPISTA(タピスタ)」。下高井戸の1号店のオープンから4カ月足らずで都内6店舗、大阪1店舗、静岡1店舗の計8店舗を展開しています。

なぜ、ブームが加熱しているタイミングでタピオカ市場へ参入し、短期間でここまで拡大ができたのでしょうか? そのこだわり、他ブランドと差別化戦略など、競争の激しいレッドオーシャン市場で勝ち抜く術を中野正幾社長に聞きました。

「タピオカを日本に文化として根付かせたい」出店の理由

【プロフィール】中野 正幾(なかの まさき)
TAPISTA代表取締役社長。2001年、東京大学卒業後、大手保険会社に入社。その後、エッジ株式会社(その後、ライブドアに商号変更)に転職し、M&AアドバイザリーやVC業務に従事。株式会社ライブドアファイナンスの代表取締役社長を務める。2007年、株式会社ダーウィンズを起業。現在は、同社を含む持ち株会社ダーウィンホールディングスの代表取締役社長を務める。
Twitter:@masaki_dz

――タピオカ市場に参入したきっかけを教えてください。

きっかけは、「消費者の声が直接聞ける事業を行いたい」と思ったことでした。

もともと、TAPISTAの親会社であるダーウィンホールディングスでは、通信販売企業向けのコールセンター事業といったBtoBビジネスを主力としてきました。しかし、次第に消費者の声を直接聞けるBtoC事業をやってみたいと思い始めたんです。

健康食品や化粧品を扱う通信販売会社も立ち上げたのですが、通信販売だとBtoCといってもお客さまの声を直接聞くことは難しい。そこで、もっと直にお客さまの声を聞ける事業として飲食店事業をやってみようと、4年前から台湾でゴルフバーやラーメン屋を始めました。一方で、日本でも何かしらの飲食店を始めたいと思っていました。

本格的に日本での飲食事業展開を検討し始めたのは、2018年12月頃です。

――なぜタピオカ専門店を選んだのでしょうか?

1つは、タピオカがトレンドになっていたから。やるならトレンドに乗っているものがいいだろうとタピオカに決めました。

もう1つは、僕自身がタピオカ好きだからです。台湾で6年ほど仕事をしている間に慣れ親しんだタピオカを、日本に広めたいと思いました。

タピオカは、台湾ではすっかり文化として根付いています。しかし、日本では一過性のブームで終わってしまうのではないかという予感があったんです。そこで「ブームを文化にする」をミッションに、タピオカドリンク専門店を作ろうと決意しました。

トレンドの波を逃さない。レッドオーシャンを勝ち抜く戦略

――検討からオープンまで半年足らずと、かなりスピード感を持って進めていますよね。

タピオカで参入するなら2019年がラストチャンスだと考えていました。具体的にどのデータでそう判断したかというのは難しく、肌感覚としか言えないのですが……。「トレンドが去ってからの参入では遅い」と直感的に感じていました。さらに、都内繁華街のタピオカ店の増加や世間における話題性から、ブームのピークは2019年中ではと感じました。

もちろん、タピオカドリンク専門店が確実にレッドオーシャンになることは見えていたので、多少の迷いはありました。ただ、競争社会の中で戦って勝ち残っていくのがビジネスの面白さでもあり、そこに挑戦していきたいという気持ちが大きかったです。

――オープンから約4カ月で都内6店舗、全国で8店舗まで拡大したのも、トレンドの波に乗るためですか?

はい。ブーム真っ只中に飛び込むからこそ、ある程度の店舗数を短期間で増やさなければと考えました。

仮に2020年の夏にオープンしたとしても、認知度はそこまで上がらないでしょう。ブームのときに店舗を増やすからこそ「あそこの店に行ってみよう」と消費者は思うんです。

また、1店舗だけオープンしたとしても数ある中の1つにしかなりません。ある程度の数を同時にオープンするからこそ話題になります。ビジネスはトレンドに乗ることが特に重要。まずは今のタイミングで店舗数を増やすことで、ブランドを確立させる戦略を意識しました。

早い段階で地方に展開したのは、地方はまだブルーオーシャンだから。タピオカドリンク専門店の数も少ないですし、「東京で話題のタピオカドリンク専門店」がまだ到達していないんです。実際、都内の店舗の混雑は現在落ち着いてきましたが、立川や静岡、大阪の店舗はまだまだ連日大行列です。

徹底的なこだわりが差別化につながる

――他ブランドとの差別化は、どのように図りましたか?

「感動空間を作り出す」を理念に置き、「味」「空間」「接客」の3つ全てにこだわったことが、結果的に差別化につながっていると思います。他店やマーケットを分析して差別化を考たりはしなかったですね。

もちろん、タピオカドリンク専門店を出店するタイミングや店舗の数と場所などはマーケットを見て考えています。しかし、サービスや世界観の作り込みでは他店の分析に振り回されず、「文化として根付かせる」「感動空間を作り出す」をひたすら突き詰めてこだわりました。

――そのこだわりについて教えてください。

第一に、タピオカドリンクが本格的で美味しいこと。タピオカを出しているお店では、電子レンジで温めて使う「クイックタピオカ」を使用しているところが多いんです。一方TAPISTAでは、沸騰したお湯にブラウンシュガーを入れたシロップで生タピオカを60分煮込み、20分蒸らして、さらに20分間黒糖の蜜に漬け込んでいます。原価が高くなりますし、手間もかかりますが、味や食感がまるで違います。

紅茶も、100種類以上試した茶葉の中から厳選した本格的なタピオカミルクティーを提供しています。

しかし、本格的でおいしいだけでは「感動空間」には届きません。そこで、弊社がかなり力を入れているのが接客です。

タピオカドリンク専門店では、味は本格的ですが接客がうまくできていないケースも多いのが実情です。でも、感動空間を作り出すには、味はもちろん、接客やお店の空間そのものが欠かせません。TAPISTAでは他の専門店よりも充実したマニュアルと研修期間を設けています。

「いらっしゃいませ」ではなく「ようこそTAPISTAへ」と言ったり、ポイントカードをお渡しするときに「もう〇ポイント貯まりましたね」と声をかけたりするなど、一般的な接客の枠にとらわれないよう工夫をしています。

スタッフには、「君たちは感動空間を作るアクターなんだよ」と強く伝え、ただドリンクを提供するだけではなく、どうしたらお客さまに喜んでいただけるかを考える機会を設けています。

やはり丁寧に接客をされると嬉しいもの。些細なことですが、それが「また来よう!」と思ってもらえる動機につながるのではないでしょうか。

お客さま世代の声を取り込み「感動空間」を作り出す

――空間デザインや、パッケージデザインなどにも強くこだわったのでしょうか?

TAPISTAの店舗は「French Diner(フレンチダイナー)」がテーマになっています。映画のワンシーンのような空間を作り出し、来店した人に感動してもらえるような空間を目指しました。

デザインを中心としたブランディングは、ターゲットと同年代であるクリエイターの辻愛沙子さん(株式会社エードット)にお願いしました。こちらからは「タピオカを文化として根付かせる」「感動空間を作り出す」という理念の部分だけしっかりお伝えしたのみ。あとは、コンセプト含め全てお任せしました。「French Diner」というテーマも、辻さんが提案してくださったんです。

ブランディングは、プロであるクリエイターの領域ですし、彼女はターゲット層にも近い。僕があれこれやるよりも彼女にお任せするほうが、ターゲットに届く「感動空間」が実現できると考えました。

――ターゲット層と同世代のスタッフの声を、積極的に取り入れているのですね。

「感動空間」を作り出すには、既存の枠にとらわれず「本当にターゲットが求めているものは何か」を考えなければなりません。ターゲット層に近いスタッフの声は、とても重要です。

メニューにも10〜20代のスタッフの声が反映されています。「生いちごみるく」やトッピングの「ストロベリーミルクフォーム」は、甘いデザートのようなものが欲しいというスタッフの意見から実現したメニューです。タピオカを写真に撮ってInstagramなどのSNSに投稿する人も多いので、綺麗に見え写真映えするように色合いやシロップの塗り方もこだわっています。

他にも、下高井戸の店舗では、8月中に夏祭りイベントとしてヨーヨー釣りをしていて、釣れた数だけタピオカをプラスできるイベントを実施しました。これも店舗スタッフの提案なんですよ。メニューや店舗限定フレーバー、イベントなど、様々な案が上がってくるんです。

スタッフから上がってくる案の中には、オペレーションの観点や予算の観点から見れば、実施が難しい場合もあります。経営者として、そういったコストと現実性を確認しすり合わせることが必要ですが、できるだけ上がってくる案を実行するようにしています。

新たな気づきのきっかけになる、地域のハブのような存在に

――7月21日の参議院選挙の際は「選挙に行ったらタピスタ半額キャンペーン!」が話題になりました。これもスタッフの声がスタートですか?

このキャンペーンは、クリエイターの辻さんが所属しているエードットの役員から提案があったことがきっかけでした。

世の中に対していいことをするのは、企業の1つの目的であり、存在意義だと思っています。TAPISTAの「選挙へ行こう!キャンペーン」だけでは世の中を変えられないかもしれませんが、取り組みがニュースになり他店に広まれば、若者の投票率が上がるかもしれない。投票率が上がれば日本の未来も変わるのでは、という気持ちがあります。

反響は大きく、都内6店舗と静岡店で合計3,266人の方がキャンペーンを利用されました。TAPISTAのお客さまは若い世代が多く、またタピオカドリンクは選挙とはかけ離れた存在ですよね。だからこそTAPISTAのキャンペーンが、これまで選挙に関心の少なかった人の選挙へのハードルを下げ、変わるきっかけになっていれば嬉しいです。

今後も選挙に限らず、何かしら若者の意識が変わったり、社会貢献につながったりする企画は行っていきたいですね。

――最後に、TAPISTAの展望や目標を教えてください。

現在、地方へはフランチャイズで出店していますが、今後はさらにフランチャイズ店を増やし、店舗数を拡大していきたいです。最終的には、TAPISTAというブランドを全国展開し、各地域に感動空間を1つずつ増やしていくことを目指しています。

ディズニーランドのような感動する空間や接客を、500円で体験できるようにしたい。そして、「TAPISTAに行けば何かいいことがある」と思ってもらえたり、TAPISTAでの体験が悩みの解消につながったり、新たな発想につながったりする、そんな地域のハブのような存在になれると嬉しいですね。

(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社)

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