
「リモートワークを当たり前にする」というミッションを掲げ、人事や経理などのオンラインアシスタントサービスを提供している株式会社キャスター。社員はオフィスへの出社義務がなく、約700名のスタッフがほぼ全員リモートワークという働き方を採用しています。
大勢のスタッフがリモートワークで働く実態から、リモートワークのメリット、導入のポイント、そしてリモートワークが未来に与える影響について、取締役の石倉秀明さんにお聞きしました。
目次
対面と変わらない。フルリモートのコミュニケーション
株式会社キャスター取締役COO、株式会社bosyu代表取締役。株式会社リクルートHRマーケティング入社、HR領域の営業からスタートし、新規事業や企画を担当。2009年、創業期のリブセンスに入社し、ジョブセンスの事業責任者として市場最年少上場に貢献。その後、DeNAでEC営業統括、新規事業、採用責任者などを歴任し、2016年より現職。
Twitter: @kohide_I
――現在のキャスターの社員規模を教えてください。
グループ会社を含めると社員契約、業務委託契約のメンバーを合わせて約700名のスタッフがいます。拠点は東京と宮崎(宮崎・西都の2カ所)と北海道に構えています。基本的にはほぼリモートワークですが、紙の書類が必要な業務の場合など、必要に応じて出社しているケースもあります。
――出社義務のないフルリモートワークで、勤務時間の管理やスタッフ間のコミュニケーションはどのように行なっているのでしょうか?
一般的な会社と変わらないツールを使っていますよ。勤務時間の管理はクラウド勤怠管理システム、連絡にはビジネス向けチャットツール、ミーティングにはオンラインビデオツールを使っています。
――相手の顔が見えないと、コミュニケーションですれ違いが起こる不安はありませんか?
時にはコミュニケーションのズレもあると思います。しかし、すれ違いって対面でも起こりますよね。コミュニケーションが上手か下手かの話であって、対面かオンラインかで齟齬が起きているわけではないはずです。リモートワークだからといって特別なことはありません。
――コミュニケーションのベースになるようなルールなどもないのでしょうか?
個別でのやりとりはほとんどなく、プロジェクトごとにチャットルームを作り、仕事の進捗状況のやりとりをしています。そうすることで、情報のブラックボックス化を防いでいます。また、業務連絡以外でも雑談のチャットルームを設置するなど、コミュニケーションの全体量を上げるようにしています。
ただ、いずれも自然とそのような文化が根付いているというだけで、ルールとしてかっちりと決まっているものはないんです。
――採用の際も、コミュニケーションはオンラインで完結し、直接会うことはないのでしょうか?
採用面接も全てオンラインです。採用までのスピードがとても早いですし、エリアも日本だけではなく世界にまで広げられます。現に44都道府県15カ国もの範囲に社員や業務委託のメンバーがいることは、オンラインだからこその強みだと思いますね。
オンラインでのコミュニケーションに「人となりが分からなくて不安」という声を聞くこともあります。確かに、対面の場合は言語以外にもその人の表情や、声、香りなど、五感の多くを使って情報を得られますが、オンラインでは得られる情報の種類が対面よりも制限されます。ですが、対面の場合でも一回会っただけでは人の本質は分かりませんよね。
だから、オンラインだから大きく判断が変わるということはありません。オンラインでも数をこなせば十分に情報を得られるようになり、判断ができますよ。
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エリアや雇用形態にとらわれない働き方を。世の中の仕組みを変える
――石倉さんはなぜキャスターに入社されたのですか?
理由としては、以前から世の中の仕組みに対して不信感を抱いていたことが大きいです。
例えば2018年発表の国税庁の調査によると、同じ正社員でも男性と女性で平均収入が3割くらい違います。地方と都市部でも違いますし、雇用形態によっても異なります。さらに、転勤を拒否すると出世のレールから外れてしまったり、給与が頭打ちしたりすることも多いです。その仕組みって、おかしいなと。
僕はキャスターで働く前から、働き方ファームという会社を立ち上げて代表をしていますが、もともと僕が独立しようと思ったのも、どこにいても場所や時間に関係なく稼げるような仕事がしたいと思ったからなんです。
そんな折りにキャスターの代表・中川に声を掛けられました。彼も同じように現状の仕組みに対して不信感を抱いて、「リモートワークを当たり前にする」「労働革命で、人をもっと自由に」をキャスターのビジョンに掲げていました。自身の周囲の働き方だけでなく、多くの人の働き方を変えるチャンスがあり、またその機会を自らの手で作り出せるかもしれないと思って参画を決めました。
――キャスターではエリアや年齢による給与の差はないのでしょうか?
はい。住んでいるエリアによる差や男女差はありません。また、正社員か契約社員かといった雇用形態に関係なく、役割が同じなら給料も同額を支払っています。
リモートワークになることで「仕事ができる・できない」が明確になる
――企業がリモートワークを導入するメリットとデメリットを教えてください。
事業を運営する立場や経営する立場においては、メリットは大きく2つあります。
まずは、圧倒的に人を採用しやすくなること。業務がオンラインで完結するので、居住地に縛られず世界中から採用できます。
もうひとつが、決断のスピードが早くなることです。チャットでオープンにコミュニケーションを取っていると、物事の流れが全て透明化します。現場で何が起きているのか、今どんな状況なのかが追えるので、わざわざミーティングをしなくても意思決定に必要な情報がすぐに取れ、決断に時間がかかりません。
個人にとっても、自分のライフスタイルに合わせた勤務ができるメリットは大きいでしょう。勤務地や居住の関係で転職しなければならないということがなくなります。
反対にデメリットは、個人の立場でいうと運動不足になりやすいことでしょうか。仕事が家の中で完結するので、一歩も外に出なくてもよくなってしまうんです。
――仕事上や職場関係でのデメリットはないのでしょうか?
強いて言うなら、「仕事ができる人・できない人」がはっきりと分かってしまうことですね。
今までは「頑張る姿勢」も評価されていたかもしれませんが、リモートワークになった途端に「行動」ではなく「結果」にフォーカスが当たります。結果が出ていなかったり、ちゃんと仕事をしていなかったりするのを「頑張る姿勢」で誤魔化していた人は、追いつけなくなるんですよ。多くの場合チャットツールにもあまり登場せず、アウトプット量も少なくなります。社員や業務委託のメンバーに限らず、僕たち含めたマネジメント層にも言える話です。
これをメリットと捉える人もいるでしょう。ただ、マネジメント層も含め全スタッフの能力が会社全体に端的に見える環境になるというのは、出社する勤務形態とは異なり、合う人・合わない人のいる点だと思います。
リモートワークは「経営戦略」。導入の第一歩とは
――実際にリモートワークを取り組むためには、どんなことから始めたらいいでしょうか?
リモートワークを導入するには、コミュニケーションと業務の2つがオンラインで完結することが必要条件です。そのため、リモートワークが合うかどうかは、業種や業務内容によります。また、その会社の文化によっても異なるでしょう。
そういったことを確認するためにも、まずは小さく始めてみましょう。例えば、チームの中で3人ほどリモートワークに興味がある人がいたら1週間くらい出勤せずに挑戦してみるといいですよ。また、出勤しているときと、リモート勤務でどんな変化があったのか、検証したいことを明確にするとより実践的になると思います。
――リモートワークに取り組み始める企業は増えてきていますが、なかなか「当たり前」としては根付かない傾向があるように感じます。
なかなか進められないのは、リモートワークを「福利厚生」として捉えているからだと思います。家賃補助などと同じように、社員の満足度を上げるためのオプションとして捉えていると、いまひとつ踏み込めないのかもしれませんね。でも、リモートワークは本来、いかに人材を確保し事業を成長させるかという、経営戦略の話なんです。
現在の大企業は採用市場で人が集まり、十分な人材が確保できています。一方で、中小企業は人材不足。労働集約型ビジネスの場合、事業を拡大したくても人材が確保できないといったことも少なくありません。そこでリモートワークを導入すれば、採用できる人材の範囲が一気に広がります。
リモートワークが増える未来、オフィスの役割はどうなる?
――リモートワークが拡大していくと、オフィスの存在はどう変わるでしょうか?
リモートワークが増えたとしても、オフィスは残ると思います。ただ、目的が変わるのではないでしょうか。例えば、大企業のオフィスは社食や仮眠室やカフェスペース、イベントスペースがあり、街のような役割を果たしていますよね。オフィスはただ仕事を果たすだけの場所ではなく、いろんな機能を果たし、人が集まる場所になると思います。
また、リモートワークで働いているからこそ、人と会うことが価値になると思います。僕自身、リモートワークになったからこそ、人に会う価値を今まで無駄にしていたなと感じるようになり、人と会うことの貴重性に改めて気が付きました。
――マネジメントの役割は変化するでしょうか?
より結果や、やるべきことにフォーカスが当たると思います。行動ではなく、結果をマネジメントする、という本来の姿が求められるようになるのではないでしょうか。
また、結果にフォーカスが当たることで、人材配置の考え方も変化するかもしれません。僕は、事業を拡大していく企業運営において、人材の配置は「適材適所」ではなく「適所適材」であるべきだと思っていて。まず、何をやるのかがあって、そこで初めて誰を入れようかという判断が重要になってくると思いますね。
――最後に、キャスターの今後の展望を教えてください。
例えば、僕が担っている「bosyu」というサービスは、個人が人材を募れるツールです。そのような働き方の選択肢を広げるツールやサービスを一層広げていきます。
リモートワークは、「自己管理ができる人が取り入れられる」と認識されていることも多く、ある種特殊な働き方として見られがちです。そうではなく、普通の人が特に意識することなく取り組めるようになって初めて「当たり前」と言えるわけです。環境を整えることで、真の意味で「リモートワークが当たり前」の世の中を進めていきます。
(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社)
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