フリーランスのメンタル管理は「命の問題」 Dr.ゆうすけに聞くメンタルヘルス対策

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心身ともに健康で働くことが求められる時代。企業に属さないフリーランスや個人事業主は、フィジカルだけでなくメンタルヘルスも自己管理しなければなりません。

仕事の生産性に影響するメンタルヘルスですが、本人は気をつけているつもりでも収入を優先して頑張りすぎてしまい、気づけば疲弊していることも。今回はメンタルヘルスをライフワークにする内科医の「Dr.ゆうすけ」さんに、フリーランスとして働く人に知ってほしいメンタルヘルスケアについて聞きました。

メンタルヘルスの不調は「命に関わる問題」と捉えよ

【プロフィール】Dr.ゆうすけ
都内の内科に勤務するかたわら、ライフワークとしてメンタルヘルスの相談に応じている。Twitterを通じて「心」や「ネガティブ感情とのつきあい方」についてつぶやきを発信。noteマガジン「月刊・自己肯定感」では「自己肯定感」や「現代における幸福感」について書き綴っている。「スプラトゥーン2」の総プレイ時間が1,400時間超で、ウデマエS+2というほどのゲーム好き。好きな言葉は「勇者とは勇敢な者のことではなく、人に勇気を与える者のことだ」。
Twitter:@usksuzuki
note:月刊・自己肯定感

――内科医であるにも関わらず、なぜライフワークとしてメンタルヘルスの相談に応じているのでしょうか?

もともと、生きづらさを感じていたり、仕事で悩んでいたりする人が周囲に多かったんです。彼らの相談に乗っているうちにメンタルヘルスに関心を持ち、現在ではライフワークにしています。

そういった経緯もあり、相談者へはカウンセリングというよりも「安心して雑談できる相手」として接しています。知人から紹介があったときにメンタルヘルスの相談に応じるという形がほとんどです。医師の知識が大きく活きていますが、医師として、というよりもプライベートで関わっている面が大きいです。

――本稿のテーマであるフリーランスの方からはどのような相談を受けますか?

「仕事をセーブできない」という相談をよく受けます。フリーランスは労働量が収入に直結しているケースが多いため、仕事を断るのに勇気がいります。自分のことを顧みず、次から次へと仕事を受けてしまい、キャパオーバーを招いてしまうんです。

クライアントの期待に応えたいという気持ちも大きく作用していると思います。人の要望を受けて、成果を挙げたときの高揚感は、何にも代えがたいものがありますよね。それは大きな原動力になる一方で、精神を消耗しかねない諸刃の剣なのです。

――とはいえ、生活していくために目先の仕事を優先してしまいそうです。

極端に言うと、「目の前のお金を取るか」「命を取るか」という話です。臨床心理士の高垣忠一郎先生の言葉で「世間の相場」と「命の相場」というのがあるのですが、相談を受けた際はこれをよく説明します。

「世間の相場」とは、自分に対する世間からの評判や人気、収入といった、周囲から見た評価での相場のこと。「命の相場」とは、水や食料、空気、天敵といった、命に直接かかわる物事の相場のこと。人間はこの2つの相場を基準にして物事を考えています。

例えば、クライアントから仕事を任されたとき、「評価を上げたい」とか「単価を上げたい」と考えるかもしれません。この考えは世間の相場の話です。

一方、例えば「砂漠を歩いていて水がない」という状況に直面したら、それは命の相場の話になります。私たちはだいたい世間の相場の中で生きています。現代の生活では、普段は水や食料の心配をしなくていいので、命に関わる問題をほとんど意識しないからです。


Dr.ゆうすけさんが記した「世間の相場」と「命の相場」。命の相場が生きていく上での土台になる

世間の相場を気にしすぎるあまり、その土台となる命の相場が見えていないことがとても多い。でも、どちらを重視するかは明白ですよね。メンタルヘルスの不調があるときには、「これは命に関わる問題なのだ」と考えることが必要です。

――キャパオーバーになっている方には、どんなアドバイスをするのでしょうか?

「とりあえず、休む」です。「休む」とは、自分に対しての様々な要求を、一旦オフにする状況を作るということです。人は要求されたら、それに応えようとしてエネルギーを使ってしまいます。でも精神的に参っている人は、そのエネルギーが足りない状態です。思考力・判断力も落ちて、意思決定するのもしんどいので、なかなか自分から休むという選択が取れなくなります。生産性が落ちていることを気に病んで、仕事量を2倍、3倍と増やしてしまい、悪循環を繰り返してしまう。

僕は、「休み方を覚える」こともプロフェッショナルに欠かせない技術だと伝えています。質の高いパフォーマンスを継続するためのスキルと言ってもいいでしょう。

まずは「しんどいときは休む」という思考をきちんとインストールすること。その次に、しんどくならないように気を配りながら、仕事量をコントロールする術を徐々に身につけていけばいいでしょう。

――例えばクリエイターなどだと、精神的なつらさやストレスを原動力にして働いている人もいるのでは?

そういった精神的なつらさがアイデアの創出につながっている、と考えている人も少なくありません。ストイックに仕事に向き合う姿勢はリスペクトしますが、クリエイティビティを発揮するために苦しまなければいけない、不幸でいなければいけないと思い込み、それがまたつらさを生んでしまっていることもあります。

自分を苦しめるような信念は本当に必要で手放せないものなのか、作り手としての幸せとは何だろうか。ものすごくセンシティブな問いですが、そういったことを対話を通して一緒に考えていくようにしています。

なかなか気づけないメンタルヘルス不調の兆し

――メンタルヘルスに不調があると、どのような症状が現れますか?

うつ病の場合は、まず身体の症状に現れます。例えば、不眠や胃痛、頭痛などが挙げられます。その他にも、仕事に集中できなくなったり、お風呂に入るのが面倒だったり。一見些細に見える身体の症状から始まって、徐々に意欲がなくなるなどの精神的な症状が出てきます。

――頭痛にメンタルヘルスが関係していることもあるんですね。

そうですね、特に頭痛や胃痛は要注意です。朝に頭痛がある人の30%に抑うつ症状が見られたという報告もあります。また、胃カメラで異常が見つからなかった胃痛が、実はうつの初期症状だったというケースも散見します。

なかなか身体の痛みがメンタルヘルスと結びついているとは思わないでしょうし、そうした不調を感じたら、まずは内科に行く人がほとんどだと思います。実際に最終的に「うつ」と診断が出た方でも、最初に精神科や心療内科を受診するのは1割程度だと言われています。よく分からない身体の不調が、「もしかしたら心のダメージによるものかもしれない」と疑えることは、自分を守る上でとても大事な視点です。

――精神科や心療内科はどんな心持ちで受診すればいいでしょうか?

特に肩肘張る必要はないのですが、「現状を変えたい」という気持ちを共有できると、医者やカウンセラーといった治療者と良い関係を築きやすいでしょう。なかなか変えられない「こだわり」や「考え方のクセ」によって、しんどい状況が生まれていることが多いので、お互いがうまく影響を与えあえる関係だと診察も比較的スムーズです。

相性もあると思いますし、治療者とコミュニケーションを取っていて安心できるかどうかという感覚はすごく大事です。「合わないなあ」と感じたら、別の場所を探してみるのも良いと思います。僕は「ラーメン屋みたいなもの」とよく表現するのですが、特にメンタルヘルスの領域は好みや相性が色濃く出ると思うので、好みが合わないと感じたら、その感覚に正直になってほしいと思います。

――診察の所要時間について教えてください。

医師や病院、相談者の状況によっても異なりますが、私の場合は1時間くらい。最低でも30分は対話しますね。即効性があるものではないため、何度か足を運んでいただくことになると思います。回復するにつれて、相談の頻度も減っていきます。

メンタルヘルスケアにおすすめの習慣

――メンタルヘルスケアにおすすめの習慣があれば教えてください。

心がざわついたり不安に駆られたりしたときは、一息落ち着いて「自律神経」を整えましょう。自律神経とは、心臓や呼吸器などの内臓をコントロールする神経で、「交感神経」と「副交感神経」で構成されています。前者は緊張状態や覚醒状態へ導き、後者はリラックス状態へ導きます。それぞれ対照的な機能ですが、普段はバランスのよい状態を保っているため生活に支障はありません。

しかし、ストレスフルな出来事があったり、身の危険に関わるサインを感知したりすると交感神経が優位になり、身体は緊張モードに入ります。脈拍が速くなり、呼吸の感覚も短くなる。緊張しやすい状態が常態化すると心身が疲弊し、メンタルヘルスの不調を招きやすくなります。

ちょっと不調を感じたら、まずは呼吸を整えましょう。息を吸うことで交感神経が優位になり、吐くことで副交感神経が優位になります。具体的には、1〜2秒で短く吸って、6〜7秒くらいかけてゆっくり吐き出す。これを繰り返していくうちに副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが保たれます。

有用性が注目されているヨガやマインドフルネスといった手法も、副交感神経を優位にしてリラックスを促す効果があることが証明されています。


ゆっくりハーブティーを飲んでリラックスするのもおすすめだそう。

――ケアには周囲のサポートも必要ですか?

そうですね。悩み苦しんでいるときに「助けてほしい」と頼れる協力者がいることが理想的だと思います。「お金を稼がないといけない」「休んではいけない」といった自責の感情に苦しんでいるときに、「そんなに頑張らなくてもいいよ」と、“ジャッジ”せずに、受け入れてくれる存在はとてもありがたいですよね。

そうした協力的な存在が、家族なのか、友人や同僚なのか、スナックのママなのか、人によって異なるでしょう。他人に自分の苦しみを打ち明けることに抵抗を感じるかもしれませんが、ちょっとだけ勇気を出してほしい。1人、2人と経験を重ねるうちに伝える技術も上がり、相談のハードルも徐々に下がっていくものだと思います。そうしたコミュニケーションの練習台として、医師やカウンセラーのような治療者を使ってもいいと思うんです。

(取材執筆:名嘉山直哉/編集:東京通信社)

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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