会社の経理は知っている、不正とモラル⑦~社内備品編~【前田康二郎さん寄稿】

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経費の過剰使用や、架空請求による売上金の横領など、ほぼ100%、どの会社でも起こっていると言われる企業の「不正」。これら不正を食い止めるため、大小さまざまなケーススタディを踏まえながら、そのメカニズムや人間の心理に迫ろうという今回のシリーズ。フリーランスの経理部長として活躍する、前田康二郎さんに語っていただきます。

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CASE7:社内備品の管理

「一体どうなっているの?このまま何も対策してくれないなら、あなたとの縁も切ります」

社長室に呼び出された総務部長は、社長から差し出されたスマートフォンの画面にそう書かれていているのを見て一体何のことだろうと思った。

「Bさんからだよ。困ったことになったなあ。なんとかできないかな」

社長のA氏は、業界の風雲児と言われ、メディアにもよく登場している。そのため交友範囲も広いのだが、ある時、友人の一人であるデザイナーB氏に、社内備品の一つである会社のロゴ入りの布製のトートバッグのデザインをお願いした。イベントなどで資料を入れて来場者に配布したり、社員が営業先に持っていったりするほか、通勤用にそれを使っている者もいる。

既に社内のデザイナーがデザインした会社オリジナルのトートバッグがあるのだが、社長の思い付きで、急遽「限定品」として、B氏に直接A氏がお願いしたのである。

その「限定品」のトートバッグは200個作られ、社員に一人1つずつ配布されたあとは、営業や販促用に、他の備品と一緒に総務部の備品置き場の棚に積み置きしてあった。

そのトートバッグを、ある有名モデルが「頂き物」としてSNSに写真をアップしたところ、かわいいと話題になり、会社のロゴも入っていたため、会社の認知度も急上昇した。それを聞いた社長は喜び、「さすがBさんのデザイン力はすごい!」と社内に触れ回った。

それ以降、毎月1回、新作の会社オリジナルのトートバッグのデザインを社長はB氏にお願いするようになった。

社内備品がフリマアプリで出品されている?

ところが予想外の事態が起き始めた。そのB氏のデザインした限定品のトートバッグがフリーマーケットのアプリサイトに出品されて人気になり、高値で売買されるようになっていったのである。その事態をB氏のマネージャーが人づてに知り、その報告を受けたB氏が、「非売品と言っていたから引き受けたのに、こんな風に取り扱われてしまうのはいったいどういうことか」と、社長に冒頭のように連絡してきたのである。

「でも、渡した相手に『転売はやめてくださいね』とお願いはできたとしても、実際のところ、フリーマーケットのサイトで個人が売買するのは、今の時代、止めようがないですよね」

そう総務部長は答えたが、社長は首を振った。

「もちろんそうなんだけど、今回は少し事情が違ってね。このアカウントを見て欲しいんだ」

社長は、B氏のマネージャーが見つけたというフリーマーケットの出品者のアカウントと売買されている商品リストの画面を総務部長に見せた。

B氏のデザインしたトートバッグだけでなく、もともとあるオリジナルのトートバッグやクリアファイル、ボールペンなど、さまざまな会社のロゴ入りのグッズが「未使用」として大量に出品されていたのである。

「これって、つまり・・・」
「そう、うちの社員の誰かがやっているのだろう、と」
「それでBさんは怒っていらっしゃるんですね」

B氏は、自分のデザインしたものを個人的な金儲けとして流用している社員が御社にいるのではないか、管理体制はいったいどうなっているのだと怒っていたのである。

総務部長は、困った時代になったものだ、と内心呆れつつも、「わかりました。とりあえず対策を考えてみます」と社長に伝え、退席した。

厳格なルールのなかった社内備品の在庫管理

トートバッグをはじめとした会社オリジナルの備品は、これまでは「無駄遣いはしないように」、ということ以外は特に決め事は作らず、総務部の前にある備品の棚に他の事務用品と共に積み上げられ、なくなったら再発注し補充する、という形で管理していた。

総務部長は早速、在庫管理に詳しい経理部長に相談した。

「そんなの簡単ですよ。犯人を見つければいいんですよね」
「犯人、ってそんな言い方…」
「総務部長も社長も人が良すぎるんですよ。あんな適当な管理をしていたら、いつかこうなるんじゃないかと思っていましたよ。正直自分もちょっとやっちゃおうかなって魔が差しそうになりますしね」
「ちょっとやめてくれないかな、今この時にそういう冗談」

実直を絵に描いたような総務部長と、少しやさぐれた経理部長は、お互いにないものを相手が持っているからか、意外に社内でも馬が合う間柄であった。

まあそう怒らずに、と経理部長は総務部長をなだめながら、話の本題に入った。

「まず、これからは、そうした不正が起こらないように、備品に関しては、今後はメールやSNSの機能を使って総務部への事前申告制にして、総務部が承認した分だけ、総務部の社員が管理する棚から本人に渡す形式にしましょうよ。そうすれば、どの社員がどれだけ何のために備品を申請したのかも記録が残るじゃないですか」
「そうだね。最初は少し手間かもしれないけど、無駄な持ち出しも減るだろうし試験的にやってみようか」
「それと総務部長、もう一つ、アナログな作業で申し訳ないんですけど、あることをやって欲しいんです」

転売は社員の「腹いせ」がきっかけだった

3か月後、社長室には、社長と総務部長、そして「ある社員」が座っていた。

「君が一連の転売をやったのか」
「はい・・・すみませんでした・・・」

ある社員とは、デザイン部の部長であるCであった。

なぜこんなことをしたのかと総務部長が問いただしたところ、社内にデザイン部があるのに、自分には何の相談もなく社長が友人だからという理由だけでB氏に勝手にデザインを発注し、デザイン部や自分のメンツを潰された腹いせがきっかけだった、ということだった。

当初は、B氏のデザインしたトートバッグを総務部が不在の時に多く持ち出して、こんなものを流用されては困る、と家に持ち帰って廃棄していたそうだが、C自身のストレスは溜まる一方だった。

ある時社内で、「自分達の会社のロゴ入り備品がフリーマーケットで売買されているらしい」と噂を聞いたCは、学生時代からの友人に、持ち出したB氏デザインのトートバッグを渡し、試しに友人のアカウントで出品してもらったところ、すぐに高値で売れてしまった。

それ以降、友人に品物を渡し、売りさばいてもらい現金化するようになっていった。そのうちに、他のロゴ入りの会社の備品も、友人に渡して出品するようになっていったという。利益は折半していたとのことであった。

なぜCが転売していたことがわかったかというと、経理部長の発案で、「社員番号」をトートバッグに付番したからである。社員にトートバッグを渡す前に、バッグの内側のタグに、申請者の社員番号がわかるように目印をつけておいたのである。

Cは社員番号が36番であった。だから一段目に3つ「・・・」、2段目に6つ「・・・・・・」と、油性ペンで印をつけておいたのだ。その後、しばらく泳がせた後に、頻繁に会社の備品を出品しているアカウントから、トートバッグだけを社長のポケットマネーで総務部長が代わりに全て落札して回収し、社員番号がついているかを確認したのである。

社長室から一旦中座して出てきた総務部長が、経理部長に報告に来た。

「Cが認めました。今回はありがとうございました」
「いえ別に。こういうの、嫌いじゃないんで」
「悪い人ですね、あなたって人は・・・」
「人を極悪人みたいに言わないでくださいよ」
「私はこういうことがあっても、やっぱり性善説で人を信じたいので・・・」

ピュアで実直な総務部長の言葉を聞いて、ため息を経理部長はついた。

「・・・まあ、それは人それぞれですからいいんじゃないですか。でもね、自分がデザインしたものより、社長が勝手に頼んだ外注のデザイナーのほうが人気だとかあからさまに社内で騒がれたら、もしそれが自分だったらやっぱり腹が立つかな、って。社長も、もう少しその辺りのことを想像して行動してくださっていたら、こういう不正も起こらなかったのかもしれませんよ」
「そういうものですかね」
「そういうものですよ。総務部長は総務の立場でいろいろな人間の機微を見ているでしょうけど経理も同じですよ。人間って、100%の善人もいなければ、100%の悪人もいないんですよ。一人の人間の中に善と悪が住んでいて、その人の気持ちや環境次第で、同じ人が善にも悪にも反転するんです。だから性善説でも性悪説でも、どちらであっても社内で不正を起こさない仕組みを作っておかないといけないんですよ」

「新しい時代に起こりやすい不正」に対策する

フリマアプリの登場で、私たちの概念が変わったことの一つに、「こんなものまで売れるんだ」ということが広く浸透したということがあるのではないでしょうか。これまでは、普通にゴミとして捨てていたようなものを、捨てる前に試しにフリマアプリに出品してみたら売れてしまった、という経験がある人も多くいらっしゃるかもしれません。

有名企業の会社案内や紙袋、社名入り・ロゴ入りのクリアファイルなどと言った備品も既に現実世界で売買されています。その中には、明らかに「これは元社員、現役社員が出品しているのでは…」というものもあるのかもしれません。総務や経理など管理部門全体が協力してこうした「新しい時代に起こりやすい不正」に対策をとっていくことが今後さらに重要になっていくことでしょう。

中には、「私は社員を信頼しているので、人を疑うような仕組み作りはしたくありません」という人もいるかもしれませんが、私からすると、それは一見聞こえがいいですが、裏を返せば厳しい言い方ですが「手抜き」ということも言えるのではないでしょうか。

先日、あるワークショップで職場の管理体制などを構築する際に、性善説と性悪説、どちらを基準にするかというテーマになったのですが、私個人の意見としては、何が善で何が悪かということ自体も人によって考え方が違いますから、結論からいえば、「どのような人間性の人がその職場にいたとしても、事故や不正が起こらない仕組み、チェック体制をとる」という考え方がやはりベースとして必要なのではないかとお伝えしました。

社内の備品などの管理方法としては、

  • 転売される可能性のある備品は、特定の部署が引き渡しや在庫管理を担う
  • 隅ではなく、皆が見ているところ、目立つところに置き場を設置する
  • 何をいくつ持ち出したか記名する形にする
  • 備品に管理ナンバーなどをつけておく

などが考えられますが、これで全ての不正を防げるわけではありません。ただ抑止力はあると思います。手順が多い、多くの人目につく、ということは、不正をあきらめる条件の一つになります。

いつの時代でも「何でもあり」「やったもの勝ち」ということは時としてあるのかもしれませんが、「逃げ切れる」まで、社会というのは甘いものではないと経験上思います。

軽い気持ちで転売してはいけないものを転売したことで、その売買益以上に、将来や収入や地位を失ってしまうことも、あるかもしれません。会社は「その人の不正を知っているけれど、泳がせている」ことも実は多々あります。

仕事をしていると、ストレスが溜まることもあるかもしれませんが、「誰も気づいていないから」少しの不正くらいいいだろう、という傲慢な考えにならないように、日々省みたいものです。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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