田村夕美子の『経理塾』第2回:経理パーソンが扱う“データ”そのものに向き合う

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経理としてスキルアップし、社内での評価を上げるためにはどうすれば良いのか?一番大切なのは「本質に対し向き合いながら、自身に備わっている“個”の潜在能力を引き出し、具体的に行動してみること」と言うのは、経理向けの研修やセミナーを行っている田村夕美子さん。Bizpedia読者に向けた田村夕美子さんの経理塾、第2回です!

前回の記事:田村夕美子の『経理塾』第1回:経理のコミュニケーション術を再考する

“データ”との向き合い方を再考してみると……

こんにちは。田村夕美子です。今回は経理スタッフには馴染み深い、“データ”との向き合い方を考えていきましょう。

仕訳データや経費精算データ等々、経理パーソンはさまざまな種類のデータと向き合っています。主な仕事は「予算科目に相違はないか」、「エビデンスと突合して、計上誤りはないか」といったチェック・確認作業がほとんどかもしれません。しかし、それらデータ処理の方法、捉え方を振り返り、わずかでも軌道修正していくことで、経理部内のみならず自社の発展や社会貢献、顧客満足度の向上、ひいては自分自身の成長にもつながるのです。

是非、あなた自身や部下・後輩にも勧めながら、最後までお付き合いください。では、経理塾第2回目の開講です!

CASE2:システム導入等で効率面・正確性には功を奏している!との自負で大丈夫?

(今回の塾生→中堅IT企業 経理チーム主任Bさん 男性40代)

“IT企業の経理チームですからね、データ処理などのルーティンワークについては常に「効率性」を重視しています。前倒しで仕上げるようにしたり、自社全体のフローを見直して少しでも作業効率が上がるような方法を考えたり、皆で意見を出し合いながら進めていますよ。今後ですか?RPA導入も視野に入れています。ウチは業種柄、情報もたくさん集まりますので、他社が開発しているシステムとも鑑みながらより良い方法を検討しています。”

自身の仕事のスタンスを客観視→軌道修正する!

今回の塾生Bさんは、IT企業の経理パーソンといった環境も影響し、現状をより良くすることを念頭に仕事を進めている姿勢が感じられます。他社が開発しているシステムとも鑑みたり、経理単体で従事するルーティンワークのみにフォーカスせず自社全体のフローを見直したり、視野を広めながらマネジメントに当たっているところは敬服すべきでしょう。

このような意識の高いBさんであれば、次のステップに踏み出すことも容易なはずです。ただ単に効率性・正確性を重視するだけでなく、ルーティンワークそのものの捉え方を見直し、深い観察をしながら、思考して具体的な行動をとることも視野に入れてみてはいかがでしょうか?

お勧めしたい方法の一つに、「自身のスタンスを客観視してみる」ことがあります。ここで、私がセミナーや研修をする際に取り入れているワークを紹介しましょう。簡単なワークなのでぜひ試してみてください。

以下に2点の質問を用意しました。あなたの答えをメモ用紙に書き留めるか、スマホ内のメモ機能に入力してみてください。
(参考までに今回の塾生Bさんのアンサーを紹介しています。本項をお読みのスタッフクラス以外の主任、課長そして部長クラスの方もご一緒にどうぞ。)


Q1:あなたが本日行った経理仕事を一点、記入してください。

A1:

(Bさんの回答:スタッフらが入力作業したデータの確認。)

Q2:その仕事について、気を配った点や工夫した点を記入してください。

A2:

(Bさんの回答:進捗状況を見ながら、業務の早期化やミス防止についての指導をしながら、スタッフの意見を聞いて、やり辛いところを改善する案を検討した。)


 

以上の質問2点に対しての正答などありませんが、日頃、従事している仕事について改めて記入してもらうことで、自身がどこにウェイトを置き、そして不足な点があるか否か等々、客観視できるでしょう。中でも注視していただきたい点はあなたがどのような言葉を用いて、自身の仕事を表しているかといったところです。

たとえば、今回の塾生のBさんは、A1で「入力作業」といった言葉を用いていますが、ひょっとしたら潜在的にBさんが率いる部下の方々の仕事について、“作業”の一環として見ている懸念があります。もちろん一概には言えないでしょうが、A2に目をやれば、スタッフらの意見を聞いている様子が解るので、現場の視点を尊重しながら、今後もマネジメントに当たる期待ができるでしょう。

さて、あなたのアンサーはいかがでしたでしょうか?今回は経理が扱う“データ”がテーマですが、これを機に自身のスタンスを客観視され、軌道修正すべき箇所が表れた方もおられるかもしれません。本項を紐解きながら、あなたが担うお仕事に取り入れてはいかがでしょうか。

実践編:“つながり”を再確認。経理の使命が効いたデータの扱い方とは?

数字のチェック・集計・確認だけに注力していたらもったいない!

仕訳データやそれらに関連する資料類には何が表されているのか?との問いに対し、多くの経理パーソンは、勘定科目や計上額、そして摘要など、簿記知識がある人ならではの返答をするでしょうが、そもそも論で言えば、自社全体の経営活動について表れている重要な情報源です。それらを経理スタッフらは、日々チェック、集計、確認しています。

しかしながら、チェックや集計・確認といった仕事ばかりに力を注いでいるのだとしたら、もったいないばかりか、本質から乖離していると言っても過言ではありません。

例えば、接待交際費が発生したデータ一つにしても、接待をする相手方の多くは見込み客ですが、将来的に収益化を実現できれば、顧客の位置となり、自社にとっての利益確保、キャッシュの創造が可能になります。ひいては、適正に納税することで国や行政など、社会に対しても貢献が可能でしょう。

至極当然な仕組みで今さら感を覚える方もいるでしょうが、もしもあなたに部下が一人でもいるのだとしたら、果たしてその方がこのようなつながりを意識しながら取り組んでいるのか、確認することは肝要でしょう。

データが顧客・社会・自社・自身にどのようにつながっているのか?再考してみる

 

営業部員と連携し、有効な情報発信を行うことができる

データを扱っている経理スタッフ個々が、会計システム等を活用してデータを整理し、関連部署や上層部に対して情報発信できるような体制を構築することは必要でしょう。つまりは、担当者自身が気づきやすい環境を整えるイメージです。そして発信先の相手に届くように、できるだけ分かりやすく伝えられるように個々で思考しながら、行動するのです。

次に具体的な方法を一例として挙げます。

たとえば、営業部に対し、見込み客のタイプごとの接待交際費の集計額と収益・利益額を併せて見てもらいましょう。また、時期や季節あるいは外部情勢により、過去にどれくらいの影響が及んだのか、振り返ってもらう等もできるでしょう。このように営業部員らとコミュニケーションを取りながらあらゆる観点で有効な情報発信ができれば、営業部側も効果的な活動を検討し、実践していけるでしょう。
そして営業部員らの効果的な活動により、前述したように顧客満足度が向上し、収益・利益の確保やキャッシュの創造が実現できる上、適正な納税も可能になります。ひいては社会貢献にも通じていくのです。

まずは “データ処理”の捉え方、意識を変えることから

いわゆる“データ処理”は、ルーティンワークの一つですが、経理スタッフは誰よりも早期な段階でデータに触れているのです。筆者が講演やセミナー先でよく見聞きするのが『ウチの経理はルーティンワークばかりで、成長しようとしない・・・』『発展しない・・・』とのセリフです。では果たして、ルーティンワークについて、ここまでスタッフらに意識を促しながら当たってもらっているのでしょうか?

今回の塾生であるBさんも、部下らにここまで意識を促しながら、仕事に当たってもらっているのか、そして本項をお読みのあなたも自身に置き換えて、振り返り、軌道修正できる箇所があれば、確実に前進することができるでしょう。

顧客・社会・自社とのつながりを再考し、個々ならではの観点での仕事に取り組む。こうしたスタイルが一般的になれば、いやでも経理部内のみならず自社全体の生産性は上がり、経理スタッフらの成長にもつながっていくのです。

ルーティンワークのみに注力せず、自身の価値観をフルに発揮した経理パーソンになるために

これまでは、経理部に配属され、上司や先輩から教わったり、マニュアルをひもといたりしながら、データに関する仕事に当たっていた方も多いでしょうが、今後はあなた自身に潜在している能力、価値観をフルに表出する意識で取り組んでみてください。

もし、『そんな余裕ない!』『情報不足!』といった事情があれば、あなたの上司に対し、遠慮せずに改善を求めてみましょう。部下を指導、育成する能力のある上司であれば当然、あなたの取り組みを支援してくれるはずです。そして、あなた自身も会計知識のみならず、様々な知識を得るために学んでいけば、顧客・社会・自社・自身にとってより良いアウトプットができるようになるでしょう。ひいては、あなたのパフォーマンスに影響され、他の経理スタッフもそれぞれの思考を持って取り組むようになるはずです。

あなたならではの観点でデータをまとめ、情報発信できるように、今からその一歩を踏み出してはいかがでしょうか。

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