
近年注目を浴びる「フリーランス」という働き方。フリーで働くライターやエンジニアはよく聞きますが、それ以外にもさまざまな職種でフリーランスは存在します。今回はフリーランス医師として活躍する「おると」さんにインタビュー。Twitterやブログで人気を集めるおるとさんの普段の仕事内容や収入事情に迫りました。
フリーランス整形外科医
大阪府出身、30代前半。数年間常勤医として働いた後にフリーランス整形外科医として独立。医師転職についての情報を発信するブログ「フリドク」を運営をスタート。2018年10月にTwitter開設後、味のある言葉の数々と医療のお役立ち情報の発信により半年も経たずに1万5,000人以上のフォロワー数を獲得。現在も整形外科医として、複数の病院でフリーランス医師として勤務している。
目次
クリニック開業に向けてフリー医師へ…周囲から反対も
――おるとさんはなぜフリーランスになったのですか?
フリーランスになる前は、病棟のある病院で整形外科医として働いていました。僕はクリニック開業を将来の目標にしていたため、将来を考えると手術や病棟の経験や知識は必要ありません。このまま病院で勤務していても開業に必要な知識やノウハウの勉強ができないと思ったんです。
キャリアアップのために転職を選ぶ方もいますが、医者の場合は職場を変えてもやることは同じです。そこで、地域に基づいた医療や経営など、クリニック経営に必要な勉強をするためにフリーランスになりました。今は複数の医療機関で働きながら、医療や経営について勉強をしています。
――フリーランスになると決めたとき、周囲の反応はいかがでしたか?
同僚や先輩たちからは反対意見も多くもらいました。医療業界ではフリーランスに対する認識がまだ甘く、「真っ当な道から逸脱しているポジション」になるんです。あまりに若くして開業することについても同様で、みんな「大丈夫なのか?」と心配していました。
家族には事後報告でフリーに転身したことを伝えました。僕は医者家系なのですが、親の世代となるとフリーランスの働き方を詳しく分かっていないので、相談よりも報告という形をとりました。実際、報告したときは、「フリーランスってなに?」と言われましたね。
ですが、まだまだ割合としては少ないですが、ドラマなどの影響もありフリーランス医師自体の認知度は上がってきているように感じます。
――積極的にフリーランス医師になりたいと思う方はあまりいないんですね。
そもそも医者の世界は封建的で、患者のため、医学のために粉骨砕身して働くのが当たり前とされており、そこから外れるとやはり周囲の目も気になります。みんな積極的にはフリーランスにはなりませんし、手術をして、研究をして、論文を書いて……といういわゆる真っ当な道を進みます。フリーランスは開業しているわけでもなく、中途半端なふわふわした存在に見られるので、「どうしてもフリーランス医師になりたい!」と思う方は少ないのではないでしょうか。
ただフリーランス医師は働き方を柔軟に自分で設定できるので、結婚や出産を機にこの働き方を選ぶ女医さんは多いです。働き方が多様化している時代ですから、おそらく5〜10年後には、女性に限らずこの働き方を選択する方はもっと増えるんじゃないかと予想します。
「病院と勤務日数は自由」フリー医師の働き方
――フリーランス医師の働き方は、病院勤務の医師とどう違うのでしょうか?
いわゆる病院勤務の「常勤医」は正社員と同じです。みなさんが一つの会社に務めるように、一つの病院で働かれている先生のことです。常勤医には、論文を書いたり、技術を勉強したりするための研究日というお休みの日が週に1回ほどあります。しかしこの日を休務日にせず、「非常勤」として他の病院と契約を結びバイトに行く医師がほとんどなんです。
一方、フリーランスは常勤という形はとらず、非常勤やスポット勤務のみで病院と週の勤務日を自由に決めて働きます。極端なことを言うと、週1日働くだけでもいいんです。子育て中の医師などが、非常勤として週に2〜3日勤務している場合もあります。
――おるとさん自身は今、どのようなスケジュールで働かれているんですか?
今は5つの病院で勤務しています。フリーランス医師は勤務日や勤務時間を自由に組むことが可能です。
月曜日:A病院
火曜日:Bクリニック
水曜日:Cクリニック、Dクリニックの2カ所
木曜日:Eクリニック
金曜日:Eクリニック
土曜日:Cクリニックor F病院当直
――勤務先はどうやって探すのですか?
医師を募集する医師求人会社を利用することもあります。また、知り合いの先生に紹介してもらうなど、自分のツテで仕事を探すことも多いです。
医師求人会社を利用する場合だと、登録後に3件ほど案件を紹介されるので、面接をして気に入った案件があれば契約に進みます。知りあいのツテですと面接をスキップすることもありますが、同じような流れです。契約によっては、すぐに「来週から働いてほしい」となる病院もありますが、仕事がはじまる2〜3カ月前に面接をすることが多いです。
大幅に収入アップ! フリーランスと常勤医の収入事情
――フリーランスになって、収入は大きく変わりましたか?
一般的に常勤医は年俸制ですが、フリーランスは「日給×勤務日数」で考えます。フリーランス医師の平均時給は1万円くらいなので、日給で換算すると8万〜10万円。
常勤医は忙しく、拘束時間が長いので、時給換算にするとフリーランス医師のほうが高いですね。必ず収入がアップするとは言えませんが、僕は週6日働いているので常勤医の時代に比べるとかなり収入がアップしました。
――お医者さんは総じて給料が高いイメージでしたが、フリーになるとさらにアップすることもあるんですね。
そもそも常勤医は朝早くから夜遅くまで勤務、夜間オンコールによる対応、当直業務など、実生活での拘束時間が異常に長いため、収入を時間単位で考えると思ったよりかなり安くなります。体力勝負なところもありますし、そう考えると過酷な職場とも言えます。
しかし、常勤医は年次制の昇給制度が整っています。この昇給制度は実績に伴わず、存在しているだけでも給与が上がるような仕組みなので、普通の企業とは少し違うかもしれません。また、ごく稀にインセンティブをもらっている常勤医もいます。
フリーランスで働く上で最も重要なのは「契約書作り」
――フリーランス医師のメリットを教えてください。
まずは休みをつくれることです。僕が常勤医だった頃は月2〜3日程度しか休日がなく、5日連続で病院に泊まり込むことなどもありました。フリーランスになってから勤務時間内は以前より忙しくなりましたが、残業はほとんどありませんし、休みも週1日以上あります。
僕自身が一番メリットに感じているのは、仕事を自分で選べることです。今はやりがいを感じられる仕事ができているので本当に勉強になっていますし、仕事の密度が上がったと感じています。
――逆に、デメリットだと思う部分はありますか?
雇用の不安定さです。急に契約を切られることもあり、立場が非常に弱いです。
また、契約について揉めることもあるので、そのときは自分で弁護士を手配して戦わなければなりません。相手を信頼しすぎると自分が痛い目にあうこともあります。後からトラブルにならないよう、事前にしっかりと契約書を作ることはフリーランスとして働く上で最も重要ですね。
あとは、医療の知識が更新されにくいこと。大学病院などにいたときは、勉強のために学会参加などは積極的にできましたが、フリーになると自発的に勉強する機会をつくらなければ技術や知識が古くなってしまいます。新しい薬剤もどんどん出ますし、治療によってはカルテを見られただけで「古い知見しか知らない」と気づかれてしまうもの。そのため、フリーランスであっても、ちゃんと自分から学会に参加したり、スケジュールを調整して勉強したりする必要があります。
――フリーランス医師に必要なスキルはなんでしょうか?
患者や職場スタッフとちゃんとコミュニケーションが取れることです。フリーの立場で患者やスタッフと揉めてしまったら契約切りになる可能性もあります。トラブルが起きないようコミュニケーションに気をつけなければいけません。
あとは社会人としての基本マナーを大事にすること。必要なスキルは医師以外のフリーランスの方々と変わりません。
情報不足にならないために…Twitterで同業者と情報交換も
――Twitterに力を入れ始めたのはフリーランスになってからですか?
そうです。「フリーランス医師の働き方がもっと世の中に認知されたらいいな」と思ってTwitterを始めました。短期間でフォロワーさんがここまで増えたのは、運がよかったと思います。フリーランス医師が後続してくれれば、現役のフリーランス医師も働きやすくなっていくと思うので、「このTwitterを見ている人も後に続いてくれれば」という意味も込めています。
――フリーランス医師同士でコミュニケーションを取ることはあるのですか?
Twitter経由で知り合い、連絡を取り始めた方もいます。そもそもそうでもしないとなかなかフリーランス医師には出会えず、貴重なお互いの情報を共有できません。仕事の探し方や病院と揉めてしまったときの対応など、フリーランス医師ならではの悩みを共有し、みんなで解決策を提示しあっています。
――どんどんフォロワーが増えていけば、新しいこともできそうですね。
医療的な役立つ情報を発信し続けたいし、そこから新しい仕事などにもつながっているので、非常に充実した生活を送っています。たくさんの人に見てもらえる中で発信を続けることで、フリーランス医師の認知もさらに上がればうれしいです。
目標である開業は、現在はあまり急がずに、やりたいことをやってからでいいと考えるようになってきました。常勤医だったころと比べて経営や地域医療に関することもかなり勉強できていますし、僕はフリーランス医師を有意義な仕事だと思っています。書籍の出版も決まっていますので、楽しみにしていてください。
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