【常見陽平×西村創一朗】副業で幸せになる人は2割? 働き方のプロに聞く「副業の心構え」

読了まで約 12

「副業元年」とも言われた2018年。1月には厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表したことで大きな注目を集め、副業に興味を持った方も少なくないでしょう。

そこで今回は、働き方・人材評論家の常見陽平さんと複業研究家の西村創一朗さんに、現在の副業事情や、副業を始める際に気をつけるべきこと、心構えについて、お伺いしました。

政府の副業解禁は見切り発車?

【プロフィール】
常見陽平@yoheitsunemi
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業後、リクルートに入社。玩具メーカー、コンサルティング会社、一橋大学大学院社会学研究科修士課程での学び直し、フリーランス活動を経て千葉商科大学国際教養学部専任講師に。雇用・労働、キャリアなどをテーマに調査・研究、執筆、講演など精力的に活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)など著書多数。

 

――副業解禁に向けた動きに対して、おふたりはどのように考えていますか?

常見陽平さん(以下、常見):国が副業解禁に舵を切ったのは、個人的にはかなり見切り発車じゃないかなと思っています。というのも、労使協定や社会保障など、考えておかなければいけない問題がまだたくさんあるからです。

副業は雇用ではなく、注文を受けて仕事をする請負になるケースが中心だと思うのですが、請負は労働時間管理や最低賃金がグレーになっていく。実際にはキャリア形成のための副業ではなく、自分の時間を換金するだけの人も多い。ひたすらアフィリエイトをやっているとか、副業に時間を多く割くようになると、健康管理の問題など、本業に弊害が出てくる可能性もあるわけです。だから、企業が抑制に走るのも理解できます。

実際に、90年代と00年代を比べて副業を禁止する企業は増加しているというデータもあるんですよ。こうした問題点があるにもかかわらず、政府が旗を振って副業解禁へ向かわせようとしているのは、裏に人材不足問題があるからだとも思っています。
 

【プロフィール】
西村創一朗@souta6954
複業研究家/人事コンサルタント。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。2017年9月~2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。 プライベートでは10歳長男、6歳次男、2歳長女の3児の父、NPO法人ファザーリングジャパンにて最年少理事を務める。

 

西村創一朗さん(以下、西村):僕は入社3年目から副業としてブログを始め、2年後に株式会社HARESを設立しました。会社を辞めたのは娘が生まれたことがきっかけです。通勤に費やす時間を娘と過ごしたいと思いまして。

今は“複業(*)研究家”として、大きく3タイプの仕事をしています。1つは個人向けに複業の学校「HARES UNIVERSITY」を開催したり書籍を出したりすること。2つ目は法人向けの副業解禁支援を含め、働き方改革のコンサルティング。そして3つ目が経済産業省の研究会の委員をはじめ、行政と連携した事業です。

こうして説明すると私は副業推進論者だと思われるでしょうが、手放しで賛成しているわけではありません。エン・ジャパンが3,000人の会社員を対象に行った副業に関する調査では、100人中88人が「副業に興味がある」と答えていましたが、これはちょっと異常だなと思っています。正直、副業をして本当に幸せになれる人は2、3割程度だと思っているので。

複業(*)=パラレルワーク。本業のサブの仕事を意味する「副業」ではなく、複数の「本業」を掛け持つこと。

――なぜ幸せになれないのでしょうか?

西村:副業をしたい理由の第1位は「副収入を得たいから」。そして実際に多い副業が1位アンケートモニター、2位株式やFX。でもこの2つは、厳密にいうと副業ではないと私は思っています。特にアンケートモニターはビジネスですらなくて、ただの“デジタル内職”ではないかと。

常見:たしかに。どちらもお金になるという意味では悪くはないのですが、副業をしたい理由や目的が、結局副収入であるというのは少し問題かなと思います。自分が何のために副業をするのかについては、始める前にしっかりと考えておくことが大事だと思います。
 

 
西村:盲目的に、副業すると簡単に収入が増える、あるいは副業がブームだからやってみようと考えるのは、かなり危険ですよね。収入アップが目的なら、デジタル内職の時間をリフレッシュにあてて本業で成果を出すほうが、継続的な年収アップにつながるのではと思います。

デジタル内職は副業じゃないと言いましたが、僕は副業には「起業型」「趣味型」「プロ型」の3パターンがあると思っています。

起業型は、やりたい事業(サービス・プロダクト)を本業の傍ら低リスクで始めるタイプ。趣味型は、ユーチューバーやブロガーといった「好きを仕事に」というタイプです。正直、この2つのタイプは稼ぐ難易度が高いんですよ。

――好きなことでお金を得るのは難しい?

西村:人様にお金をいただくために必要なのは、何らかの価値を提供しなければならない。だから必然的に長続きする副業は「プロ型」になる。これは、本業で培われたスキルや経験、実績を元に請け負う副業です。そのために、まずは「この人に仕事を任せたい」と思ってもらえる人になることが大切だと思います。

「お金がほしい」から副業を始めたわけじゃない


 
――おふたりが副業を始めた頃の話をお聞かせいただけますか。

常見:僕がライターを始めたのは、サラリーマン時代の2006、2007年頃の事でした。その頃はクラウドソーシングという概念すらない時代で、来た仕事を打ち返すという感覚で原稿を書いていました。1本3,000~5,000円なんてこともざらで収入はお遣い程度でしたが、楽しみながらやっていました。結果的にネットニュースの黎明期に貴重な経験を積めて、今につながるいい予行練習になりましたね。

西村:僕は本業でできなかったことをやるためですね。新卒で入社したリクルートでやりたかったことは新規事業開発でしたが、法人営業に配属されました。でも、新規事業の仕事も諦められず、“複業”としてブログを始めました。僕もいきなり稼げるなんてことはなく、50時間かけた1カ月後に初の売上がGoogleアドセンスで発生しました。

常見:いくらくらいでした?

西村:初月は62円、翌月が360円でした。それでも嬉しかった。そうして素直に喜べたのは、お金目的で副業を始めたわけではなかったからだと思っています。

さすがにドメイン代とサーバー代の元を取れる程度は稼ぎたいと思っていましたが、ブログメディアを作って伸ばす経験を積めば、誰かが新規事業の仕事に引っ張ってくれるはずだと考えました。

ただ、結果として立ち上げから3カ月くらいで月間10万〜20万PVくらいまで伸ばしました。その経験と実績が認められ、結果的に副業開始から11カ月後には、新規事業部門に引っ張ってもらえました。

常見:稼げる、稼げないという軸は時系列によっても変わりますからね。先ほど、西村さんが「趣味型」の副業は稼げないとおっしゃった。それはまさにその通りなんだけれども、僕は自分の副業が「趣味型」だという認識をしっかりと持っていて稼げていないことに納得しているなら、それはそれでいいんじゃないかと思いますね。それは、その瞬間に稼げていないというだけで、時間軸を通して見たときに大きなビジネスの入り口になることもあるので。

僕も初めは原稿1本3,000~5,000円で書いていたと言いましたが、続けていくうちに単価が上がったり仕事量が増えていきました。つまり、副業も継続して初めて、ある程度の収入が期待できるようになるのだと思います。
 

副業で大切なマインドは「先義後利」と「プロ意識」


 
――おふたりとも副業の第一目的がお金ではなかったとのことですが、副業をする上で大切なマインドはどういったものでしょうか。

西村:「複業家に贈る5か条」ですね。「先義後利」「本業専念」「公明正大」「自己管理」「他者配慮」の5つで、重要度を高い順に並べています。

働き方には「雇われて働く」「雇われずに自ら働く」「人を雇って働く」の3種類があり、日本人のほとんどは雇われて働く経験しかありません。この働き方の根本はギブアンドテイク。だから、多くの人は「お金を稼ぐ」という利が先にきます。でも、ビジネスの原理原則は本来「先義後利」。つまり、利益は後回しで、先に価値を提供することが大事なんです。

副業をするなら、この先義後利を理解して、お金をいただくのに値する価値を自分が提供できるのかを考えなければいけません。

提供するだけの価値がないのであれば、価値を見つけるところから始めるべきですね。本業に力を入れるのも手ですし、ダブルスクールなどでインプットする、プロボノ(*)として実績を作るなど、価値の作り方にはさまざまな方法があると思います。
 

 
常見:そのとおりですね。お金をいただく以上は、それが3,000円であれ1万円であれ、プロとして引き受けた仕事なんですよ。その意識を忘れてはいけない。

あえてそこに付け加えるなら、僕は「副業は楽しいものであれ」と思っています。これは副業に何を求めるかによるとは思うのですが、謝礼が安い仕事であったとしても、安いなりに楽しめる能力が大切かなと。

――楽しむためにどのような工夫をされていますか?

常見:1番は期待に応えることですね。期待以上の仕事をして、いい意味で裏切ってみる。あとは自分に課題を課して、成長過程を楽しむとか。

副業は本業がある中であえて行うわけですから、楽しめないなら辞めたほうがいいと思いますね。楽しくないのであれば、楽しむ工夫をしたほうがいい。
 

プロボノ(*)=ラテン語で「公共善のために」を意味する pro bono publico の略。もともと弁護士がボランティアなど無償で行う法律家活動を指していたが、現在は、専門家がそれぞれの知識や経験を活かして社会貢献するボランティア活動や、その活動に参加する専門家自身を表す言葉として使われている。

 

副業は目的を叶えるための手段

――これから副業やパラレルワークを始めようとされている方に、アドバイスやメッセージをお願いします。

常見:一番大切なことは、副業の目的をしっかりと考えておくことですね。

西村:そうですね。副業自体が目的になってしまうのは本末転倒ですから。お金なのか、人脈作りなのか、自分がやりたいことのためなのか、認識しておくことが大切ですね。僕にとっての副業は、自分の人生を楽しむために足りないピースを探す旅のようなもの。不足したピースが会社で見つけられるのであれば、副業にこだわる必要はないと思います。

常見:自分の人生を楽しむというところでは、本業も副業もさぼっちゃいけないなと感じますね。つまり、「楽しむことをさぼらないこと」が必要なんじゃないかと。

西村:「楽しむことをさぼらないこと」って、いい言葉ですね。

常見:副業も本業も楽しんでいる人は、本業の人からもいいねと思ってもらえますし、そういった状態がいいなと。

先ほど西村さんが挙げられた副業パターンに「趣味型」がありましたが、僕は趣味型でもいいと思います。大切なのは自分の副業が趣味型であると理解し、稼げないと認識しておくこと。副業の目的は、例えるならば桑田佳祐のソロ活動だと思うんですね。

西村:おもしろい例えですね。

常見:桑田佳祐に限らず、アーティストのソロ活動ですね。桑田さんの場合は、ソロ曲をサザンでやってもいいわけですよ。だけど、サザンのメンバーとまた違った領域のミュージシャンと仕事をしたいとか、そうした自由の場にソロ活動がなるわけです。だからバンドを解散してソロ活動に専念するのではなく、両立することができる。

これを副業に置き換えると、副業はあくまで桑田さんにとってソロ活動のようなもので、自由活動の場。会社としては社員が副業で自由を得られたがために、優秀な人が会社を辞めないで済むという考え方もできます。そこに副業を推進したり解禁するメリットが出てくる。

西村:ストレス発散を目的とした複業ですね。副業はあくまでも手段で。

常見:そう。それと、もしも副業を始めるときは、「これは絶対にやらない」ということを決めておくこと。法令順守的な部分はもちろん、自分の快・不快に関してもですね。その上でなら、やってみて失敗するのはありだと思います。

ただ何も考えずに、ブームに踊らされて始めるようなことはないようにしてほしい。何かが盛り上がっているときには必ず裏があって、副業推進の流れが今あるのは、結局個人の幸せよりも労働力不足の解消という意図もあるわけですから。

だからこそ、最終的に大事なのは副業をする目的をしっかりと考えておくこと。いきなり具体的に考えられない人は、起業した人やフリーランスの人がどういう生活をしているのか、アンテナを張っておくといいでしょう。副業が推進される今の流れは、この機会に自身の働き方を見直してみる、いいきっかけになるのではないかとも思います。
 

取材を終えて……

副業というとやはり収入を期待してしまうものですが、稼ぐことを目的に副業を始めると、失敗する可能性が高いとおふたりは指摘していました。大切なのは、目的意識。副業はあくまで目的を叶えるための手段であり、その上で副業を「楽しむ」ことがポイントになるようです。

そして副業を始める際に意識すべき具体的な心構えとして、利益よりも道義を優先する「先義後利」と「プロ意識」があがりました。自身の能力を武器に、価値を提供すること――その結果が喜びとなり、自身の人生を豊かにすることにつながっていくのです。(文・サムライト)

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。