【髙田明×辻庸介】「失敗したことがない」社長に学ぶ、成功の条件

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人口減少・高齢化によって企業の生産性の低下が不安視される今、企業が今後より成長するためにはイノベーションが不可欠。経営課題を解決したいリーダー層にそのヒントを提示するイベントが、髙田明社長をはじめ経営者が多数登壇する10月5日開催「マネーフォワード クラウド Expo 2018」(マネーフォワード主催)です。

髙田明社長といえば、ジャパネットたかたを創業し、現在はJ1サッカーチーム「V・ファーレン長崎」の再建を担うイノベーター。次々と新しいことを仕掛け、世の中を驚かせ続けている髙田社長の“頭の中”はどうなっているのか? 今回はイベントに先立って髙田社長とマネーフォワード辻庸介社長がイノベーションの極意を語り合います。(NewsPicks Brand Design制作)

新しいもの=イノベーションではない

髙田 「変革」という言葉は、「古いものを新しくする、新しいことを発案する」という意味ですが、僕は新しいものを生み出すことだけがイノベーションではないと思っています。「既存のもの」「新規のもの」などと言っていること自体が古い気がしてならないんです。

これまでを振り返って、「僕も少しはイノベーターだったのかな」と思うことがあります。

ジャパネットでシャープさんのテレビを扱った際に、テレビ台と一緒に紹介したんです。そうすると、とても好評を得て、テレビと台を併せて購入するというイノベーションが起こりました。そして次にテレビとレコーダーをセットで紹介すると、これもまた売れて、新しいイノベーションになりました。

2つの色を合わせるとまったく違う色になるように、既存のものであっても、そこに新しいものを加えればイノベーションは起こるんですよね。

「捨てるもの」「残すもの」「加えるもの」、僕はこの3つを意識することでイノベーションは起こせると思っています。

新しい「喜び」を生めているか?

 私たちマネーフォワードは行動指針として「ユーザーフォーカス」という言葉を大切にしていますが、企業のコアとなる活動は、とにかくお客様のために商品やサービスを提供していくことですよね。

髙田社長のように消費者に新しい価値を提供することは、大きなイノベーションだと思います。UberもAirbnbもFintechも、新たな価値をユーザーに提供して喜んでもらった、それがイノベーションと呼ばれているんですよね。

「お金」はツールに過ぎないですが、それで人生の選択肢が狭まってしまうこともある。お金に関する不便なことや知識不足、情報格差など、そんなカスタマーペインを解消できるサービスをつくれるとすごくワクワクしますし、お客さんの感謝までいただけることが本当に幸せだなと思います。

髙田 やはりお客さんが本当に喜ぶものを届けていかないと、企業は続かないですね。まさしく辻さんは現代のイノベーターですよ。僕はアナログのイノベーターなので、ITのイノベーターとは違いますね(笑)。

 いえいえ、ITはレバレッジが効きやすく、広がりやすいんですよね。インターネットやクラウド、スマートフォンを通じて、いいものがあれば一気に広がっていきます。

例えば、スマートフォンが登場して、世の中がパッと変わった。次になにか新しいものが出てきたらまた社会が大きく変化するでしょう。

その変化をきちんとキャッチして、どのように発信していくかという方法は時代によって変わってくると思います。でも、ユーザーに新しい価値を届けて喜んでいただくという企業の本質はほとんど変わらないと思うんです。

髙田 人間の幸せって、誰かのために役に立ってこそですよね。

アイデアより大切なこと

 イノベーションを成功させるために必要なことは、アイデアより「エグゼキューション」(実行すること)だと思います。

100人いたら100人が思いつくようなアイデアでも、それを本当にやり尽くしてお客様に満足してもらえるところまでかたちにできる人はほとんどいません。これをやり切れる人が真のイノベーターなのでしょう。

髙田 一歩一歩、進むしかないんでしょうね。千里の道も一歩から、ローマは一日にして成らずというように。

まず、今すべきことを30個書き出してやり始めても、世の中はどんどん変化していくので、その課題自体も変わっていく。まさしく今日できることをしっかりやっていくしかない。

そうしていると、必ず次の課題が生まれます。それを解決したら、また次の課題が出てくる。社内の課題だけでなく、取引先やお客様に関係することもあります。もう多岐にわたるので、部分的なことではなく全体最適を考えていかなければ、最終的にイノベーションは起こせません。

つまり、今日できることをきっちりやっていけば、みんな成功するんです。もしできないのであれば、それは本当にやり切れていないから。やったつもりになっていることが多いんだと思います。

 やり切るという意味で、ここまででいいと思うのか、どこまでも先に進むのかは本当に重要ですよね。目の前の課題をブレイクスルーして、前進し続けるということには終わりがないじゃないですか。でも、先へ先へ行かないと“普通”で終わってしまいます。

「僕は失敗したことがない」その理由

 髙田社長は「目標を持たない経営」とおっしゃっていますが、本当に目標はないんでしょうか?

髙田 はい、今この瞬間を大事にするだけです。「今を一生懸命生きる」が僕の信条ですから。

今だって、僕、ドキドキしているんですよ。辻さんとどんな会話ができるのだろう、と。せっかく機会をいただいたので、少しでもよいお話ができるようにということしか考えていません。結果よりも、今この瞬間のプロセスを大事にしているんです。

 緊張感は僕のほうが負けてないと思います(笑)。

僕もプロセスが大事だとは理解していますが、どうしても結果を重視してしまいます。目標を達成できなかったときはヘコみますし、原因を分析して次に向けて改善したくなるんです。

髙田 もちろん、改善は絶対に必要です。目標は達成できたほうが絶対にいいですが、うまくいかないこともあります。そのときに一番悔いが残るのは、「やらなかったこと」だと思うんです。

僕はもうすぐ70歳になりますが、これまでの人生で一度も失敗したことはありません。

これには説明が必要なのですが、失敗とはうまくいかなかったことではなく、一生懸命にやらなかったことだと解釈しているからです。一生懸命やってうまくいかなかったことは、試練だと。だから、いつも走り続けています。もう70歳近いと動悸や息切れがして大変ですよ(笑)。

 こんなにエネルギッシュな髙田社長が70歳近いって驚愕です。

強い思いが成功への近道

髙田 僕は社員には厳しくて、ジャパネット時代は“褒めない社長”で有名でした。息子なんかは今でも「このくらいやったら褒めてもらってもいいんじゃない?」と言います。

でも、ひとつできたときにはもう次のステップが始まっています。僕は常に進化したいという思いがあるので叱るんですよね。ただ、成長してほしいと愛情を持って叱りますから、社員にはあまり嫌われなかったんですよ(笑)。

 嫌われるイメージはまったくないですね(笑)。やっぱり髙田社長は思いが本当に強いですね。

僕は、思いが強い人が成功に最も近いと思っています。だから、社内でもこういう事業をやりたいという確固たる意志があれば、年齢や性別に関わらず、どんどん任せているんです。

「MF KESSAI」というグループ会社の社長は今31歳で、取締役は26歳ですが、2人とも非常に優秀だと思っています。31歳の社長は、社内の人間から「あいつは会社に帰ってこない」とか、「机が汚ない」などと言われていて(笑)、もちろんまだ社会人として未熟なところは多々あります。でも、お客様の抱えている課題に対して、新たなサービスを提供したいという強い思いがありました。

僕は、彼がお客様のところに何度も通いつめて対応している姿を見て、よいサービスを提供できるのは、やはりこういう人間なんだろうなと思ったんです。

髙田 若くしてもうそんな仕事を任されているんですね。

 経営に携わったり大きな仕事を任されたりすると成長のスピードが加速します。せっかくベンチャーに入ったのだから、そういうチャンスをなるべく与えてあげたいと思うんです。

僕自身もソニーで働いたあと、マネックス証券に入って松本大さんの下で9年ほど鍛えていただきました。2004年の入社時には社員がまだ40人くらいだったんですが、気づいたら1000人近くて。その間に、さまざまなことを任せてもらい多くのことを学びました。マネーフォワードでも、そんな体験をしてほしいという思いがあります。

「夢」を世界に発信していく

髙田 辻さんのお話を聞いていると、次から次に広がる夢が本当に楽しみですね。

 髙田さんのような大先輩にそう言っていただけると、すごく励みになります。会社を経営していると悩むことも多いですが、髙田社長が本当にしんどいときはどうされていますか?

髙田 とにかく、くよくよしないことですね。終わったことを嘆いても、先のことを考えても意味がありません。「今を一生懸命生きる」もうこれだけで健康になると思います。なんせ、僕はあと48年生きますから。

 117歳、日本一ですね。

髙田 ギネス記録まで生きますよ。日本人男性の健康寿命は平均72歳くらい。あと数年で健康寿命がなくなると思ったら、サッカークラブの社長なんてやっていられないですよ(笑)。でも、あと48年あると思ったら、まだまだいろんなことにチャレンジできる。

2017年にV・ファーレン長崎の再建を引き受けましたが、スポーツはこれまでとはまったく違った世界で同じようにはいきません。でも、サッカーには夢があるんですよね。長崎からメッセージを世界に発信していくために、今は全国を飛び回っています。

 髙田社長のお話をお聞きしていると、イノベーターにはやはりビジョンが大切ですね。そして、それをいかに言葉で熱く伝えられるか。

髙田 僕はミッション、パッション、アクションが大切といつも言っています。

自分の仕事・役割を終えて死んでいくときに、ミッションを持っていないと、企業も人も寂しい人生を終えるんじゃないかなと思うんです。

そして、それを達成するためには、常にアクティブに情熱を持っていること。つまり、パッションですね。でもミッションとパッションがあっても、アクションを起こさなかったらなにも生まれません。

 確かに、その通りですね。

髙田 トップは夢を語らないとダメだと思うんです。でも、語るためにはやっぱりアクションを起こしていなければ説得力がない。僕みたいに、語り過ぎも困りますけどね(笑)。

 いえいえ、本当に勉強になりました。「マネーフォワード クラウドExpo」でお話しいただくのが楽しみです。

(構成:尾越まり恵 編集:樫本倫子 写真:北山宏一 デザイン:國弘朋佳)

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