「同じ社名」の2つの出版社、社長が混乱訴え…「社名かぶり」どう防ぐ?

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新興出版社の「文鳥社」。名作文学を16ページ以内にまとめた、文鳥文庫と呼ばれる本を販売しています。紙が売れにくくなったこの時代に、あえて新たな本の形を提案するというコンセプトで2015年に東京で設立されました。

そんな「文鳥社」とまったく同じ社名の出版社、もう一つの「文鳥社」が京都に存在します。設立は2017年です。

社名をめぐり、文鳥文庫を展開する「文鳥社」の牧野圭太社長が「同じ社名の出版社が2つあることで混乱が起きている」とネットに投稿し、出版界隈で話題を呼んでいます。

他社と同じ社名で、新しく会社を設立できるの?

牧野社長は「『あちらの文鳥社』の書籍の問い合わせが、『こちらの文鳥社』のメールボックスに届いたことは一度や二度ではありません」と、業務にも影響が出ていることを明かしています。そもそも「似たような業態」で、「同じ社名」の会社を設立することは可能なのでしょうか。

実は、登記する本社所在地が異なれば、他社と同じ会社名でも新しく会社を設立することは可能なのです。

今回のように会社名の「かぶり」や「類似」はまれですが、商品やサービスでは名称が似通るケースは少なくありません。企業がこのようなトラブルを避け、自社のビジネスを守るためには何ができるのでしょうか。

ヤクルトが最高裁で棄却された「商標」とは

(1)商標を登録する

社名がかぶり混乱を訴える牧野社長の投稿文には、「僕らは『文鳥社』を会社として登記しましたが、『商標』をとっていませんでした」とあります。意外に思われるかもしれませんが、会社名も商標登録することが可能です。

「会社名」「サービス名」「商品名」などの商標は、特許庁に申請することで、商標原簿に登録することができます。この商標原簿に登録されると商標権というものが発生し、類似商標などを使われて不利益を得た場合「商標権侵害」を訴えることができます。

この訴えが認められれば、商品やサービスの提供を停止させる、損害賠償を請求することができます。文鳥社の件では会社名を商標登録していなかったため、法的措置は取れないのです。

こうした商標登録を自分で行う場合は①商標出願料3,400円+(8,600円×区分数)(2018年5月現在)②商標登録料 28,200円×区分数 ③合計40,200円の費用がかかります。
ただし、出願したタイミングでは商標権が発生しないため、申請中に商標権侵害があっても権利が行使できない点と、10年単位で更新が必要になる点に注意が必要です。

(2)立体商標を登録する

商標は、名前だけでなく「形状」「デザイン」などを登録することが可能です。具体例としては、「コカ・コーラのビン」「不二家のペコちゃん人形」などで、最近では「キッコーマンのしょうゆ卓上びん」が登録されました。多くの人が認知しており、形状の模倣をさけるために立体商標として登録ができます。

この立体商標は、類似製品や機能性まで包括するため非常に強い効果を持ちますが「登録の難しさ」でも知られています。申請した事業者や個人が作ったという「独自性」のアピールが必要で、多くの人が「立体商標=この会社・商品」と認知していることが前提になります。

例えば、「ヤクルト」の包装容器として容易にイメージされる容器の形。多くの人に認知されているものの、1996年に立体商標の申請を行なった際には棄却されました。この判断を不服として最高裁まで審議をしたものの、こちらも棄却。その後14年の月日が経ち、やっと2010年にヤクルトの容器が立体商標として認められました。


参考|ヤクルト容器の立体商標が認められる(ヤクルト本社ニュースリリース)
http://www.yakult.co.jp/news/article.php?num=515

この他にも「動き商標」「音商標」「位置商標」「輪郭のない色彩」なども登録できるようになりました。申請・登録にかかる費用は(1)と同じになります。

「オフィスグリコ」の模倣を防いだ対策

(3)意匠権により製品を守る

新製品の魅力的なデザインや外観は、売り上げにも直接関係してくるため、他社からも模倣されがちです。「意匠権」は、製品や商品などのデザインについて独占性を守る権利になります。

立体商標との違いは、あくまでデザインの「新規性」「独自性」を登録する点です。広く認知される前であったとしても登録が行えるので、後追いでの模倣を防ぐことができます。ただし、あくまで製品外観だけの「意匠」を認める権利なので、商品名やサービスロゴなどは認められないので注意が必要です。(2)の立体商標を申請するために、まずは「意匠権」の申請・登録を行い、広く認知されてから立体商標として申請するという事も多いです。

意匠登録の出願には16,000円の費用がかかり、秘密出願(新製品として未公開な商品など)の場合は追加で5,100円必要です。

(4)革新的ビジネスはビジネスモデル特許で守る

ビジネスにおいて、「サービス内容」や「事業内容」がかぶることは多々あります。そんな中でも、「新規性」があり「ITを使った発明」であるものであれば、特許として登録することが出来ます。

「ビジネスモデル特許」と呼ばれるもので、有名な事例だと「オフィスグリコの商品管理装置」や「アマゾンの1クリックで購入できるシステム」が認められています。このビジネスモデル特許を取得することで、通常の特許と同じく、他社からの模倣を阻止や損害賠償を請求できるようになります。

ただ、ビジネスモデルを作ったらそのままビジネスモデル特許として登録できる訳ではなく、あくまで「ITを使った発明」である点が大切な要素です。例として挙げた「オフィスグリコ」はもともと、富山の薬売りがモデルになっており、そのままではITを活用しておらず、新規性も見出せません。管理装置や管理方法が「ITを使った発明」として認められ、新規性がある点からビジネスモデル特許として認められました。

ビジネスモデル特許は、「出願請求」「審査請求」「登録」の費用がかかります。こちらも個人でも出願することはできるのですが、専門的な用語や図表の書き方が必要で、弁理士に依頼するのが一般的と言われています。費用感としては、50万〜100万円かかり、申請するビジネスモデルが難しい場合や、他の特許との独自性を説明しなければいけない場合には費用がより高くなります。

商標や特許はコストと考えずに、保険と考えよう

商標権や意匠権など、申請・登録には少なからずお金がかかります。特に起業したてのタイミングでは、申請書類作成の手間や登録料が重くのしかかる可能性があります。

しかし、冒頭の文鳥社の牧野社長は、会社名を商標登録しなかった「自分の貧困な想像力を呪うしかありません」と後悔をにじませています。トラブルを防ぐための「保険」と考え、事業におけるインパクトやリスクを洗い出してみてはいかがでしょうか。

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