ここ数年で急速に耳にするようになった「フィンテック/Fintech」(=FinanceとTechnologyを組み合わせた造語。ITなどを駆使した革新的な金融サービスの潮流)。既に一部の会社では経費管理にフィンテックが導入され始めていて、近い将来、会社の経理業務を一新する可能性も秘めています。そこで今回はマネーフォワード取締役であり、「Fintech研究所」所長を務める瀧 俊雄氏に、経理におけるフィンテックの有用性をききました。前編のテーマは“フィンテックとキャッシュレスの最新トレンドについて”です。
瀧 俊雄(たき としお)
1981年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、2004年に野村證券に入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。その後スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年にマネーフォワードの設立に参画。2015年に同社「Fintech研究所」の所長に就任。同研究所を通し、国内外のフィンテックの最新動向を発信する。
今のメインバンクより圧倒的に便利な金融サービス
― 近年よく耳にする「フィンテック」ですが、そもそもこうした流れはいつぐらいから、どのようにして始まったのでしょう?
フィンテックという言葉がはやりだしたのは2014年暮れぐらいからで、それ以降にアメリカでも日本でも急激にフィンテックという言葉が検索され始めました。だから日本が特別に遅れているというわけでは決してないんです。
フィンテックをけん引する大きな要因の一つが、スマートフォンです。日本でも40代以下人口におけるスマホの普及率が8〜9割にもなったことで、従来の銀行のモデルとは別の形で格段に便利なサービスを享受できるんじゃないかという風潮が生まれました。確かに従来の銀行というのはちょっとつまらないというか、セキュリティーの観点からも新しいIT技術を積極的に使えないところがありました。それにずっと適応してきた銀行および銀行アプリに対し、もしIT企業が銀行を一から新たにつくるとしたら、もっと便利で直感的なものになるはずだよね、という期待感が出ているんです。
実際、グーグルやAmazonが銀行を作ったらと考えてみれば、圧倒的に便利なものになりそうですよね。そういった意味では、われわれはスマホを手に入れたことで、便利なことに対し、ますます貪欲になっているとも言えます。
具体的にはどういうサービスかというと、たとえば消費者目線からすると、従来であれば振り込みをするには銀行に行くか、銀行のサイトでIDとパスワードを入力し、そのあと乱数表を探し出してきて打ち込むという手間が存在していました。でも今やAmazonで買い物をする際は、クレジットカード経由でワンクリックで買えてしまいますよね。銀行取引もそれくらい身近になるべきじゃないか、というわけです。
もしくは「銀行なんていらない」という人たちもだんだん出てきています。電子マネーとか仮想通貨とかで代用できるんじゃないか、と。このように、もともと存在していた銀行というもののあり方を考え直そうという動きが、フィンテックが起こった大きな背景としてあるんです。
― 現状では実際にどんなフィンテック的サービスが存在しているのでしょう?
われわれマネーフォワードのように、お金の情報をわかりやすくするタイプのサービスもあれば、たとえば送金とかワリカンとか、従来であれば現金で行う必要があったり、高いハードウエアが必要だったところを、不要にするサービスもあります。4人で飲みにいって7000円だったお会計をどう割ろうかとなった時に、1人1750円ですとスマホでピピと速やかにワリカン決済できるようなサービスです。そういう身近な状況で価値を供給できる事業者が、今のフィンテックの重要なゾーンになっています。
たとえば最近では、手持ちの物の写真を撮って送るだけですぐに電子マネーが受け取れる「CASH」というアプリもあります。本当に身近な距離感なんです。酔っ払っていても理解できるくらいのサービス、というのが重要なのかなと思います(笑)。
支出が可視化すると、あらゆることが変わる
― 銀行が展開するサービスはフィンテックじゃないという声もありますが、業種がどうこうというのは関係ない?
そうですね。フィンテックといっても超ローテクなフィンテックもありますし、銀行のアプリって実はすごく便利だったりもします。そもそも支払いを現金ベースで行えば、それでもう債権・債務が解消できるわけですよね。銀行であればそれを1番確実に履行でき、アプリなどを使えば銀行に行かなくてもできるわけです。そういう点で銀行は最近いいアプリを出しています。じぶん銀行さんのアプリとかもすごく便利ですね。だからフィンテックは、意外とプレーヤーを問わないところがあるんです。
たとえ古いサービスでも、今風に作り直せばガラッと変わりますよね。スマホの普及率が40〜50%だった5年ほど前だと話が変わりますが、今は8〜9割になっています。そうなると、たとえばインスタグラムがそうであるように、はやるものが全く変わってきますよね。昔はメールで写真をやりとりするものだったのが、今やSNS上に飾っておくものになってしまった、というように。みんながスマホという同じものを持つことで、世の中の価値観がシフトしている。それに金融を合わせようというのがフィンテックだと思います。
― フィンテックと密接に関わってくるのが、クレジットカードや電子マネーなどを使い非現金ベースで決済する「キャッシュレス」の仕組みだと思います。キャッシュレス化のメリットはどんなところにありますか?
消費者側からすると、まずは財布という持ち物が減ることです。やはり人間には、物を持ち歩かなくてすむのならできるだけ持ち歩きたくないという志向が明確にあります。持ち歩くと忘れ物のリスクも発生するし、腰痛になる恐れもあります(笑)。どういうことかというと、私が診てもらっている骨盤の先生いわく、尻ポケットに財布を入れると座る時に傾いたりして骨盤がゆがむそうです。まさに私がそのケース1です。だから骨盤をゆがませないためにも、キャッシュレス化は大切だなと(笑)。
何よりも、これまでの“なんだかわからないけど3000円なくなっている”という状態が、マネーフォワードなどを使ってちゃんと支出記録が見られようになるのはすごく大きなことです。お金の行き先がすべて可視化されることで自分の消費を最適化できますし、必然的に支出がデータ化されるので、経費の精算や確定申告にも使えます。この部分がキャッシュレス化の大きな目的の一つになってきます。
経費精算の処理が劇的に速くなった
― 経理業務におけるキャッシュレス化は、いまどんな状況ですか?
会社から従業員に配布され、経費の精算にも利用できる法人向けキャッシュカード=コーポレートカードもありますが、実際はあまり使われていないのが現状でしょう。従業員が泣きながらエクセルに経費の内訳を打ち込んで提出する(笑)、というのが日本の経費精算のスタンダードだと思います。
この領域に、たとえばコンカーさんなり弊社なりがちゃんと着目して自動化を進め始めたのは、ここ数年のことです。それにより、おそらく経費申請の部分ではある程度、自動化されてきましたが、その裏で経理担当側がさっとデータを作ってそれを正確に業務に活かすというところに関しては、まだまだこれからだなと思います。
ただ個人的実感でいうと、私はもともと経費精算にA4の用紙が3〜4枚必要な人間なんですが、たとえばモバイルSuicaの内容が自動的に同期されて精算に使われたり、カード型のSuicaリーダーに読み込むだけで内訳がデータ化されたりと、経費精算の処理自体はものすごく速くなっています。もはやこの1年間で、現金由来の精算はほぼゼロになりましたね。可能な店であれば会計はキャッシュレスで払うようにしています。
― 経費精算を処理する側からすると、キャッシュレス化でどんないいことがありますか?
支出が電子データ化されることで、“あれ、あなたこの日は仕事してなくないですか?”というのを検知するAIが作れるようになるはずです。これにより、欠勤しているのに交通費がかかっている、みたいな不正検知が自動化されます。これは本質的にはすごく重要で、経費の現場ってすべての明細をチェックしているわけではないと思うんです。でもこんなふうにAIが導入されれば、“一罰百戒”ではないですが経費を申請する側に規律が生まれるでしょう。
やはり変な支出を減らしたいというのは、会社からしたら常に思っていることなので、そういうところがすごく大事になってくると思います。不正検知という文脈でいうと、某大手企業の有名社長さんは、10万円以上の経費に関してはすべて自分ではんこを押していた、という話もあります。社長が直接処理するとわかっていたら、自然とみんなすごく経費をちゃんと考えるようになりますよね。それだけでも会社ってうまく動き始めたりするものです。
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