ある聖職者の横領〜「絶対にやりそうにない人だった」を生まない考え方

「経費精算」の不正について前田康二郎氏に解説いただく本企画。今回のテーマは、横領について。不正を生まないようにするための体制づくりについてお届けします。

ある日、書店で立ち読みをしていると、以前、知人が関わっていた組織の聖職者が満面の笑みを浮かべた写真とともに記事に出ていました。その知人に「この人知っている?」とSNSで送ると、「ああ、何年か前、横領でその組織から断罪されて逃げ回っていた人だよ」と、あきれたといわんばかりの返事が返ってきました。
その聖職者は、組織の支部長の立場だったのですが、所属していた人から組織宛てに寄付されたお金を、自分個人宛てに寄付されたものだと言い張り、そのお金を流用していたそうです。残念ながら寄付した人は既に他界されており、「死人に口なし」。ただ、寄付をしたことを聞いていた遺族が不審に思い、本人を問い詰めたのですが、反対にその遺族をその組織から追い出してしまったのだそうです。
その一部始終を見ていた周囲の人たちが第三者機関を立ち上げ調査をした結果、実際の書面など物的証拠はないものの、やはり私的流用の疑いが濃厚と判断されました。ところがその幹部は、その報告会の直前に突如支部長を辞任し、遠隔地に引っ越しをして違う支部に転籍してしまったそうです。結局疑いは残ったまま、数年のうちにうやむやになり、またその違う支部の支部長として雑誌に笑顔で登場した、ということなのです。

「普通はそんなスキャンダルがあったらうわさになったり支部間同士で連携とったりしないの?」と知人に聞いたのですが、「そんなことがもし漏れたら、おたくの支部は危機管理がなさすぎる、と自分たちの恥になると思って、他の支部に話せないのだよ」と言っていました。その知人がいつも「お金というのは、いくら親しい間柄で人数の少ない組織であっても、本来は2人以上で確認しないといけない」と口癖のように言っていた理由がよくわかりました。

横領をさせる環境とさせない環境

上場企業では内部統制ルールなどが厳格に設定されていますが、そうでない「良心」で営まれているような組織では、ダブルチェックなどのルールを作ること自体が「お互いを疑うなどということは良くない」という考え方により、言い出しにくい環境があったりするのかもしれません。
しかし、人というのは、誰でも過ちを犯すものなのです。それもどのような時に犯しやすいかというと、「1人の時」なのです。

もし、本当にお金に困っていて、目の前の金庫にお金が入っているのがわかっていたら、やはり金庫の扉を一度は開こうとする弱さは誰でもあるのではないでしょうか。しかしそこに鍵がかかっていたら、その時に「ハッ」とわれに返り「なんてことを考えていたのだ」、「やはり知人に借りられないか聞いてみよう」と思い直すことでしょう。
しかし、そこに鍵がかかっていなかった場合はどうでしょうか。そのお金を見て、触れて、「明日すぐ返せば、一瞬借りただけということになるから」と自分に言い訳をして、拝借してしまうかもしれません。警察に現行犯で捕まるリスクもなく、知り合いに頭を下げて借りる屈辱を味わわなくても済むからです。そして借りてすぐ返すつもりが、やはり返せず、しかし1日、2日、1週間、1カ月たっても誰にもばれていないということがわかったら……。堕ちるところまで堕ちてしまうのです。

横領というのは、当然本人が一番悪いのですが、その横領をさせる環境を作った人たちにも一定の責任はあるということなのです。「組織内で横領があったなんて恥ずかしくて公表できない」というのは、そうした深層心理が働いているからなのではないでしょうか。それを証明するかのように、その横領があった組織においても、「本人に責任を取らせるべき」という声がある一方で、「誰でも過ちはあるのだから許してあげよう」と言う声も上がったというのです。一見、寛容で度量のある考え・組織だと思ってしまいそうになりますが、本当にそうでしょうか。

この件に限らず、横領した人が心から反省をして、弁済も少しずつしていきます、ということであれば、「誰にでも過ちはあるのだから」という考え方はわかります。ただ、そうでない場合、たとえば証拠があるのに一切認めない、あるいは開き直ったりした場合でも、「許しましょう」というのは、どのような心理なのでしょうか。私はおそらく、それは「優しさ」ではなく、「すり替え」なのではないかと思います。
つまり、本当の優しさであれば、「一緒に反省しましょう」となるはずです。横領した本人が一番悪いけれど、自分たちにも気の緩みがあった。だから二度とこのようなことが起きないように、ルールを徹底しましょう、と考えることもできるはずです。また、今回はたまたまあの人が横領をしたけれど、ひょっとしたらこの緩い体制であれば、自分も同じようにやっていたかもしれない。だから単にその人を糾弾するだけではなく、「自分ごと」として今後の対策を考えよう、となるはずです。

そうした経緯も議論されず「今回のことは許してあげましょう、そして隠密に……」というのは、つまり、表面上は「優しさ・寛容」のように見えますが、実際は「無関心・無関係でありたい」「なきものにしたい」という気持ちから来ているのではないでしょうか。
「これ以上関わりたくない」「まったく迷惑な人だ」「とんだとばっちりで自分たちが恥をかくじゃないか」そのような気持ちが、そうさせてしまうような気がするのです。
ただ、そうしてうやむやにしてしまうことで、結局また「誰か」が誘惑に負けて、その緩い管理体制の中で横領をしてしまい、第二、第三の不正が起きてしまうことになるのです。不正というのは、環境さえ整えば、「誰でも」、たとえ聖職者であっても、やってしまう可能性のあることなのです。

一般の会社でも同じことが言えます。
「お互いを信頼しているから」といって、金銭やデータの管理や内部統制は何もしなくて良いという論理にはなりません。「信頼し合っている仲間同士だからこそ、ささいな誘惑から罪を犯す人をこの組織から出さないようにしよう」という発想が必要なのです。

横領がおきにくい理想のバックヤードの体制

バックヤードの体制について、「少数精鋭」が望ましいとは思います。しかしワンオペレーション、つまり、たった1人ですべてを管理する、ということは、生産性の点では良いかもしれませんが、内部統制、不正抑止、という点では逆効果です。そのような組織であれば、「その人1人さえクリアすれば不正ができる」、あるいはその担当者本人が「自分1人しか管理していないから、不正ができる」という「魔」が差してしまう可能性があります。
月額数十万の社員の月給を節約したばかりに、結果的に数千万円の横領を許してしまった、ということになれば本末転倒です。不正というのは、「やりそうだな」という人であれば皆が監視、注意しているので、もし不正をしていても現行犯などで見つかる可能性も高く、見つかるまでの期間も短いので被害金額も高額になりません。前述の聖職者のように「まさか立場的にやらないでしょう」という人がやればやるほど不正が長期化し、見つからないのです。その結果、金額も莫大になるのです。

横領のニュースを見て「どうしてここの会社の人たちはこんなに莫大な金額の被害に気付けないのだろう」と皆さんも思うことでしょうが、実際に横領した人を見ると「ああ、この人だったら確かにワンオペレーションで任せてしまうかもしれないし、まさかそのようなことをするようには見えない」温厚そうな人だったりするのです。
だからこそ、「いい人そうだから」という判断基準は、内部統制に加味してはいけません。人柄や能力に関係なく、どのような人であっても、モラルが守られる体制が理想の体制です。

「内部統制が大切なのはわかるけれども、バックヤードにかける予算は限られている」、そのような組織での良い体制の目標は「ツーオペレーション」です。
全体で十数人しかいない会社で、数字のチェックのために2人も専用で置けない、という場合は、隣の社員や、社長が休憩中に「少しだけ一緒にチェックをお願いします」とお願いしたっていいのです。そうした危機意識を持っている経理担当者がいる、ということが社内に周知されれば、「この会社では簡単に不正はできない」と、誰もが思うはずです。
経理担当者自身が不正の「けん制」のアイテムになる、ということも大切なのです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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