大角 暢之氏にきく「RPA」は経理の未来をどう変えるのか?

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ビジネス分野で大きな盛り上がりをみせる「RPA(Robotic Process Automation)」。前回の記事ではジャーナリストの佐々木俊尚さんに、RPAのもつ特徴や、RPAが日本人の働き方を変える可能性についてお話を伺いました。
連載2回目となる今回は、日本のRPA市場をリードするRPAテクノロジーズ株式会社 社長の大角暢之さんにRPA市場の現状や問題点について伺いました。10年ほど前、RPAという言葉がないころから、このテーマに取り組んできた先駆者です。

取材ご協力:
大角 暢之(おおすみ のぶゆき)
一般社団法人日本RPA協会 代表理事/RPAテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長。
早稲田大学を卒業後、アンダーセンコンサルティング株式会社(現アクセンチュア株式会社)に入社。
2000年オープンアソシエイツ株式会社を設立し取締役に就任、ビズロボ事業部を発足し、「BizRobo!」の提供を開始。2013年ビズロボジャパン株式会社(現RPAテクノロジーズ株式会社)を設立し代表取締役社長に就任。2016年7月一般社団法人日本RPA協会を設立し、代表理事に就任。

 

RPAは「ITツール」ではなく、人事のための「人材技術」

― 大角さんはRPA協会を設立するなど、RPAの普及に精力的に取り組んでいらっしゃいます。普及の手応えはどうでしょうか。

まずRPA市場の参入企業数という「横の広がり」について、RPA BANKが集計したデータを見ると、2015年時点ではおそらく私たちRPAテクノロジーズ1社だけだったのが、2016年には65、2017年には185もの企業が参入を遂げており、2018年には330社にも達すると見込まれています。

この数値には実質的にRPAではないASPサービス(*1)を販売する企業なども含まれていますが、いずれにせよ市場におけるプレーヤー数は増えており、それに伴いエンドユーザー社数も増加しているといえます。また、以前はRPA市場への参入を目指すのは首都圏の企業が中心でしたが、いまでは全国的に動きが広がりつつあります。

RPAのスケールという「縦の広がり」についても、RPAの全社全部署での導入を決めている企業が出現しているほか、RPAをAIと組み合わせてデジタルレイバーの高度化を目指す動きも生じてきています。つまり縦と横の広がりがそれぞれ一気に拡張している状況です。

ただし、「RPAをツールとして購入し、PoC(*2)として試験的に導入した」という企業は上場企業でも全体の10%弱程度に留まるでしょう。そして残念ですが、そのうち半分以上の企業はRPA導入に失敗すると私は思っています。

【脚注】
*1 Application Service Provider、インターネットなどを経由して遠隔からアプリケーションを提供するサービスのこと
*2 Proof of Concept、新しい概念やサービスが経営現場で実現できることを示すために実施するトライアル

― それはなぜですか。

RPAはITではありません。人事の問題を解決する「人材技術」なんです。だから本来は、派遣社員やアルバイトを雇うという感覚で使うのが正解です。

RPAの処理にエラーはつきものです。画面上でおこなわれる操作を単に記録しているだけに過ぎず、想定外の画面が出てくるだけでロボットは処理できなくなる。ですからRPAを使う際には、たとえばこれまで4人がかりでおこなっていた仕事であれば、ロボットだけに仕事を任せるのではなく、ロボット1台と人間1人で処理する体制へと移行するべきなんです。そしてロボットが例外処理を出したら、その都度人間が直す。これを続けていくと初日は50%程度の精度でしか業務を処理できなかったロボットが、人間のアルバイトと同じように、1ヶ月経つと99%の精度で仕事をこなせるようになります。社内の大部分をIT化したが、どうしても人力で回さなければならない仕事が残ってしまっている。そういうときにひとつロボットをサクッと作り、仕事をやらせて生じたエラーは現場で修正する、というのがRPAの正しい使い方なんです。
ところが、「RPA」という言葉がいわゆる「3文字ITワード」として定着してしまったことで、無意識のうちにRPA のことをITだと錯覚してしまう方がいます。するとRPAを導入した企業では、出てきたエラーメッセージへのクレーム対応に社内の情報システム部が追われ、また、RPAベンダー側も無理やりエラーを起こさないロボットを作るために、たとえば全ての画面遷移のパターンを洗い出さなければならなくなるなど無意味な手間が生じる。

この意味で、「RPA」という言葉は危険です。ITではなく人事の技術であるということを伝えるためにも、私自身はRPAという名称よりも「デジタルレイバー」という名前のほうがより適切な呼称だと考えています。そもそも、はっきりした投資対効果を出したいのであれば、RPAを使うのではなくITアプリケーションを作ったほうがいいんです。

「RPA」がバズワード化したことへの懸念

― お話を伺っていると、そもそもRPAという概念の内容自体には、それほど「新しさ」がないようにも思えるのですが。

そうなんです。全然新しくないんですよ。バズワードとして定着した感のあるRPAですが、どのようなRPAプロダクトでも原理的にはマクロツール、単なるレコーディングツールでしかありません。実は、現在世界中に存在するRPAツールのなかで、始めから「RPA」を作ることを目指して開発されたツールはひとつもない。テストの自動化ツール、マッシュアップツール、マクロツールなど……それらを応用して開発しただけ。もちろん、これからは状況が変わってくると思いますが、少なくとも現状はそうなっています。

ではなぜRPAがバズワードになったのかというと、3、4年前に全米BPO(Business Process Outsourcing)協会が「全米RPA協会」へと改称したことがきっかけです。そこから「3文字ITワード」として「RPA」が広まった。当初は受託産業を意識したITソリューションとして世界的に普及が進められましたが、その時点では日本はあまり受容に積極的ではありませんでした。
しかし、KPMGやアーンスト・アンド・ヤングなどといった欧州の会計事務所系のファームがシェアードサービスによる業務無人化を進めているという情報が国内に伝わり、日本のコンサルタントファームが社員を次々に視察に向かわせるようになると状況は変わりました。これが2016年1月のことです。次第にRPAテクノロジーズへの問い合わせも増加し、テレビ出演するようになると、経産省の方からご訪問をいただくようにもなりました。

ただ、普及とともにRPAが「欧米からきた高度なテクノロジー」と誤解されてしまうのではないか、という懸念を私はもっていました。RPAの強みというのは、マクロというAIなどに比較すると参入するための技術的敷居が低いテクノロジーを使っているにもかかわらず、KPIを改善し、高い経営効能が期待できるという点。ですからRPAを導入する際には、いかにしてデジタル上で動く新しい「労働者」を社内に増やしていくかを考え、それに合わせて社内環境を整えていくべきです。

― RPAがもつ本来の特徴が誤解されて広まると、結果的にユーザーからの幻滅感が広まり、普及の阻害要因になってしまう。大角さんは、現在のRPAブームに対してそうした危機感を抱いていらっしゃるのですね。

ブーム自体は終わってもいいんです。いずれにせよRPAの特徴である「技術的なハードルの低さ」と、それにもかかわらず「KPIを大きく改善できる」という高い経営効能を考え合わせれば、企業にとって導入しない手はありません。

ただ、RPAをITとして捉えて参入することだけは本当に止めてもらいたい。私はITサービスや受託系業務を手がける企業ではなく、派遣会社など人材系の企業がRPAに取り組むようになって欲しいのです。

たとえば派遣会社のキューアンドエーワークスでは、派遣社員にRPAを学ばせて一緒に派遣先に向かわせるという「ハイブリッド派遣」をおこなっています。人間が派遣先で業務をおこなうのではなく、RPAに仕事をやらせて人間はエラーだけをカバーする。すると、時間効率がすごく良くなります。こうしたRPAの使い方こそが正しいと私は思っています。

― 最後に、大角さんが考える、今後のRPA普及において重要になるポイントをお聞かせください。

ひとつは人材不足の解消です。ロボットを作り、調整していく人材、そして、ロボットを業務のなかで上手に管理・マネジメントしていく人材が枯渇しています。

今後RPAの自社内製化が重要性を増すと予想されますが、その際に大事なのは、どうやってロボットのエラーメッセージを処理するか、どの部署にどのロボットを配置させるか、また、新業務が生じた際にロボットをどう組み替えるかなどについて考えるプロフェッショナルの存在です。

私は将来、人事部と経営企画の間に、社内の生産性が低い部門にデジタルレイバーを派遣する「デジタルレイバー部」を設置する経営組織が登場すると確信しています。工場にはFAを司る生産技術部門がありますが、これに相当する部署が、オフィスの仕事の現場にも置かれるはずです。

もうひとつは、RPAの適用範囲と方針を「人がやらざるを得ない領域」に絞ることです。現場の業務課題を情報システム部に報告した場合、投資対効果が大きいと判断された業務に関してはすぐにシステム化の検討が始まるでしょう。しかしその反面、投資対効果が低いと見込まれた業務は全て人手で処理することになってしまいます。RPAは今後、こうした領域にフォーカスしていくべきでしょう。

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