相手の本当のニーズを掴むためには? 世界のVIPから指名される執事のワークスタイル

日本バトラー&コンシェルジュ株式会社代表取締役社長として、世界のトップ1%のVIPに信頼され、仕事を任されている新井直之さん。近著『世界のVIPが指名する執事の手帳・ノート術』では、MFクラウドの活用について紹介されていました。
そんな新井さんのインタビューを前編、中編、後編と3回にわたってお届けします。前編のテーマは、執事の仕事術。そこには周囲から信頼される裏方としての心構えが詰まっていました。

取材ご協力:
新井 直之(あらい なおゆき)
執事/日本バトラー&コンシェルジュ社長
フォーブス誌世界大富豪ランキングトップ10に入る大富豪、日本国内外の超富裕層を顧客に持つ同社の代表を務める傍ら、企業向けに富裕層ビジネス、顧客満足度向上、ホスピタリティに関する講演、研修、コンサルティング、アドバイザリー業務を行っている。
ドラマ版・映画版・舞台版『謎解きはディナーのあとで』、映画版『黒執事』では執事監修、主演の櫻井翔さん、北川景子さん、水嶋ヒロさん、DAIGOさんらの所作指導を担当。
著書に『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』(幻冬舎)、『世界のVIPが指名する執事の手帳・ノート術』(文響社)、『執事が目にした!大富豪がお金を生み出す時間術』(青春出版社)などがある。

 

世界の大富豪が執事に求めるのは、「時間」という資産

BIZ KARTEをご覧の皆様、初めまして、新井直之です。私は日本バトラー&コンシェルジュという執事のサービス会社を経営しています。
日本ではめずらしい執事のサービスを始めたのは、2008年のこと。以来、フォーブス誌世界大富豪ランキングトップ10に入る大富豪をはじめ、国内外の超富裕層と呼ばれるお客様にお仕えしてきました。

とはいえ、一般的に執事がどんな仕事をしているのか、イメージしにくいところもあると思います。そこで、まずは自己紹介を兼ねて、私ども執事の提供するサービスについてお話させていただきます。

私たちがお仕えするお客様に提供するサービスは、大きく分けて三つあります。

一つ目は、テレビドラマや映画でも描かれることの多い、お客様のご自宅の運営です。
お金持ちがお住まいの邸宅や別荘を快適に維持していくには、ちょっとした企業の総務なみにやることがあります。メイドやシェフの管理・採用、家計管理、家の修繕、冷暖房の調整など、執事の仕事は多岐にわたります。

二つ目は、お客様の身近な相談相手として、よりよい人生を歩まれるためのお手伝いさせていただくことです。
お客様の希望を最優先したスケジュールの管理、服装や所作、マナー等に関するアドバイスを通じたブランディングのお手伝いなど。秘書に近いイメージですが、強い信頼関係が必要となり、執事にとって最も重要な仕事と言えます。

三つ目は資産管理です。
お金持ちは預貯金、株式といった金融資産のほか、邸宅や別荘に美術品などの高価な品物をお持ちです。私たち執事は資産運用のプロではありませんが、信頼できるプロの方々をアレンジし、協力しながら資産の維持管理のお手伝いをしていきます。

この三つのサービスを通して執事がお客様に提供しているのは、「時間」だと言えるでしょう。というのも、大富豪が執事を雇う最大の目的は、「自由になる時間を作り出すため」だからです。

これまでご自分で担ってきたお子様の学校関連の手続きや塾、家庭教師の手配などの雑事、移動手段の確保や宿泊先の手配などを含めた日々のスケジュール調整、仕事や個人資産を関する事務作業……。
どれだけの資産を持っていても1日が24時間であることは変わりません。だからこそ、大富豪は執事を雇い、さまざまな業務を委託することで、ご自分の自由になる時間を作り出そうとされるのです。

執事は顧客満足度を上げるために、複数のプランを用意する

そんなニーズをお持ちのお客様の顧客満足度を上げるために、執事は仕事術として、常にいくつかの選択肢を用意し、1つ1つのご依頼に応対しています。

例えば、あなたが海外の大富豪を成田空港へお迎えに上がるとなったら、どうされますか?
移動手段としては、成田エクスプレスやリムジンバスといった公共交通機関、タクシーやハイヤー、自家用車などが考えられます。
ただし、大富豪は基本的にセキュリティ面の理由から公共交通機関をお使いになりません。
時には執事がハンドルを握ることもありますが、第一の選択肢となるのは、運転手付きの自家用車です。
 
通常、成田空港から東京都心へは45分ほど。しかし、私が日本バトラー&コンシェルジュを立ち上げて間もない頃、激しい事故渋滞に巻き込まれてしまったことがあります。
もちろん、渋滞状況は事前に何度もチェックしていましたが、その日は高速道路に乗った後で事故渋滞に遭遇。都心まで2時間以上かかってしまったのです。

車中、何度か「新井くん、どうなっているんだ?」と聞かれたものの、私にできたのは「申し訳ありません」と謝ることだけでした。すると、その大富豪は目的地に到着後、こう仰ったのです。
「新井くん、君の仕事は私を迎えに来ることじゃない。私を確実に時間内に目的地まで案内することだ」と。
時間をロスしたこと以上に、事態を打開する別のプランを用意していなかったことを指摘されたのです。
 
以後、私たちは万が一のため、常にヘリコプターを押さえておくようになりました。チャーター便のヘリコプターなら成田空港から東京都心の虎ノ門まで20分で、費用は40万円。
万が一、事故渋滞に巻き込まれた場合、高速道路を降り、空港に引き返し、ヘリポートへとご案内。ヘリコプターに乗り換えていただくというプランBをご提案できるようになったのです。
 
さらに、天候が悪化してヘリコプターが飛べないときのプランCとして、VIP向けの旅行会社と提携。いつでも成田エクスプレスの座席を前後8席確保し、セキュリティ面での安全度を高め、移動していただける選択肢も用意しています。

本当のニーズを掴むため、「なぜ?」を3回繰り返す

今、ご紹介した空港へのお迎えの失敗体験では、お客様のお叱りの言葉によって初めて、本当のニーズを知ることができました。このように執事であっても、超能力のように要望を掴むことはできません。
そこで、私たち執事は初めてご依頼をいただいた方にはしっかりと時間を取っていただき、お話をうかがいます。そこで、お客様の物事の考え方、趣味嗜好を学び取っていくのです。

何よりも大切な資産である時間を頂戴するのですから、ムダにはできません。 
心がけているのは、「なぜ、それをするのか」を聞くことです。そして、最終的にはお客様が何も言わなくても執事が先回りしてやっている状態を目指します。

例えば、あるお客様とこんなやりとりをしたことがあります。
正午過ぎ、「新井くん、お腹が減ったからカレーを買ってくれないか?」と言われました。
そこで、「わかりました」と言うのは普通の対応です。そのとき私は「カレーですか。わかりました。でも、カレーお好きでしたっけ?」と、一歩踏み込んだのです。
すると、お客様は「カレーならすぐに食べられるだろう。今、時間がなくてさ」と打ち明け、会話は次のように流れていきました。

「そうですか。次のご予定は?」
「大事な面会があって、15分後に外出しなくちゃいけない」
「でしたら、キッチンに作りおきのお弁当があります。温めればすぐにお出しできますが?」

「なぜ?」を聞いたことで、お客様のニーズを掴み、解決策を提案することができたのです。

また、こんなこともありました。
海辺の別荘で、とある大富豪にお仕えしていたとき、「目の前の木を全部切ってくれ」というオーダーがあったのです。しかし、目の前の木々は公有のもの。勝手に切ることはできません。

ここでも「なぜ?」とぶつけてみました。すると、お客様の願いは「邸宅から海が見たい」だとわかりました。
そこで、私は「母屋をもう一階建て増しし、海が見えるようにされてはいかがでしょうか」「木を切るよりもさらに良い眺めが得られます」とご提案したのです。
 
別荘は改築され、後日、滞在されたお客様から「君の提案を受け入れてよかったよ。素晴らしい眺めだ。ここまでやってくれた執事は初めてだ」というお言葉をいただきました。

こうした小さな「執事がいて良かったな」という感覚の積み重ねが大富豪からの信頼につながっていきます。

同じように一般の会社員の方も、社長や上司から言われたことに対して、最初のうちは「どういう理由でこの書類が必要なんでしょうか?」と背景を聞いていくように心がけてみてはいかがでしょうか。
指示する側、発注する側の本当のニーズがわかってきます。すると、3回目、4回目以降はいちいち説明を受けずとも、スムーズに対応できるようになります。
これは経理や総務といった裏方が実践するからこそ、評価されやすいポイントになると言えるでしょう。
背景を理解した上で仕事をすることでモチベーションが上がります。また、社長や上司にストレスを感じさせないことで、結果的に相手からの信用度が増していくのです。

人が最初に言葉にする要求は案外、表面的なニーズしか表していません。そこで、「なぜ?」と聞いていくと、本心が出てきます。
時間がないから、カレーのように。
こうした本当のニーズにたどり着くために「なぜ?」を3回繰り返しましょう。それが相手の本心、本当のニーズに掴む仕事術となります。

執筆:佐口 賢作 (さぐち けんさく)

1992年より『月刊BIGtomorrow』(青春出版社)のデータマンとして、ライター業に入る。以後、雑誌、書籍、Web、広告制作などで活動。年間平均80人前後のインタビューを行ない、ビジネス書を中心に年間7冊ほどのブックライティングを担当。著作に「ぼくのオカンがうつになった」(PHP)など。



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