経理で生きていくための、「流し」の理論 経理担当者のキャリアアップ vol1

「このまま経理の仕事を続けていいのか?」。そうぼんやりとした迷いを感じている方もいらっしゃると思います。そんなときは、先達に訊いてみる。……というわけで、フリーランスで経理・経営コンサルティングをしている前田康二郎氏に、キャリアについて聞きしました。

フリーランス経理の仕事の作り方

私は「フリーランスの経理」として活動しています。「フリーランスの経理です」と自己紹介をしてもピンとこない方も多いようで、最近では「流しの経理です」と言った方が、どっと笑ってくださりイメージがつきやすいようです。
実際に、今お受けしている仕事もそのような形態のものが多いです。

初めは経理の仕事、たとえば「上場準備をしていて人手が足りないので実務のサポートや社員にアドバイスをして欲しい」「起業をしたのだけど、フルタイムで経理専任の事務員に払える予算はまだないので、経理を手伝ってもらえないか」といった経理そのものの依頼から始まります。

多くの場合、経理に関してはマニュアルやワークフローを作った後に、繰り返しトレーニングしていくことによって2,3カ月で解決の目途がついてしまいますので、これで仕事も終わりかなと思っていると、今度は「このような新規事業をやるのだけど、客観的に見てどう思いますか」「給与計算ってわかりますか」「企画会議に出て計数的な面から意見をもらえませんか」と、経理そのものではない仕事の依頼へとシフトしていきます。当たり前ですが、課題のない会社などない、ということが改めてよくわかります。

その際に、「とりあえずやってみます」というスタンスでやってみると、だいたいの場合、自分で調べたり人に聞いたりしてやっていると、なんとか形になるものです。
その経験やキャリアが、日々、年々少しずつ積み重なっていき、仕事の範囲も広がり、今受けている仕事の半分は経理以外の仕事になっています。そして昨年は、ある会社の社外役員に就任させて頂くこともできました。

成果がみえづらい、経理という仕事

では、私自身が皆さんに誇れる華々しい会社員時代のキャリアがあるかといったら、そうではありません。仕事は確かに頑張ったつもりでしたが、会社員時代に役員になることはありませんでした。

それがフリーランスとなった今、このような役職のご依頼を頂けるということは、「私の場合は」今の仕事の形態が「たまたま合っていた」ということなのかもしれません。
当初、「フリーランスの経理」になる、と会社員を辞めるとき、周囲の人は「どうやって食べて行くんだ」「経理で独立なんかできない」と心配、反対する方がほとんどでした。
私自身も、今振り返ると何の根拠があって独立したのだろう、と思うほどですが、ただ私は、20代の頃からどうして営業や企画のフリーランスやコンサルタントがいるのに、経理にはそうした人がいないのだろう、とは思っていました。

経理は営業のように成果報酬がつくような業務は、なかなかありません。だから、他の人の2倍3倍のスピードで仕事をしても、2倍3倍の量をこなしても、給与そのものには反映されにくい傾向があります。だとしたら午前中にA社の経理の1日分の仕事を終わらせて、午後はB社に行き、午後の時間だけで1日分の経理の仕事をする。その代わり報酬は少し割安にし、たとえばA社、B社それぞれでフルタイム30万円もらっている人の業務レベル、業務量の仕事であれば、A社で午前中20万、B社で午後20万という契約をして、フルタイムの人と同じ結果を出していたら、A社もB社も10万円分得をするし、本人は反対に収入が40万円になって得をする。そして単純にキャッシュの面だけではなく、A社、B社それぞれで得たスキルをさらにお互いの会社の社長や社員の人達に還元することもできて、皆がWIN-WINになる。現実的にそのように仕事を受注していくまでは確かに大変かもしれませんが「無謀」とまではいかないのではないか、と思っていました。

そのような考えを持って独立をし、当初は会社員時代にお世話になった取引先の役員の方からお声掛け頂きスタートをして、皆さんの善意の上に今までやってこられました。
そうした中で、なぜ続けることができたのか、というと、そこが「流し」の理論になります。

「流し」の理論

「流しの歌手」は、リクエストがあったら、とりあえず歌う。もし知らない曲だったとしても、お客さんにフレーズを教えてもらって歌う。どんなことをしても「歌おうとする姿勢を見せる」ということではないかと思います。すると、それを見ていた他のお客さんからも「この曲も歌える?」とリクエストがあったり、お店の店主も「また店に顔を出してくれる?」となったりします。
私も、やったことがない仕事でも、物理的に時間がとれない場合以外は、なるべく「やってみよう」とはします。私自身もできないもの、知らないものも、未だにたくさんあります。ただ私は、知識は当然大切ですが、「仕事への取り組む姿勢」というのが、仕事上では大きなポイントになるような気がしています。時には知識よりもそのことのほうが大切な場面があると思っています。「できるかわからないですけれど、とりあえずやってみましょうか」という姿勢が、見ている人達から、「これもできますか」となり、「ではまた来月も」という形で仕事を依頼してくださっているのではないかと勝手ながら考えています。

そうして恥をかきながら得た経理や経理以外の知識が、また自分自身の業務範囲を広げていくのだと思っています。
こうしたことは、フリーランスの私に限らず、今、会社員である方達にも同じことが言えると思います。

経理の枠からはみ出てみる、経理部以外の目線から会社を見る


経理社員であれば、本業は当然経理業務ですが、職場の周囲の部署から計数的な相談を受けることもあると思います。たとえば、人事部から「人件費の予算作成で苦労しているのだけれど」と相談を受けたり、営業部から「売上の割に利益率が下がっているのだけれど原因がよくわからない」と相談があったりしたら、皆さんどのように対応するでしょうか。
こうした「グレーゾーンの相談」というのは、実際の会社内で日常的にあることです。経理業務の範囲外であるとも言えますし、範囲内であるともいえます。つまりは「受け手」の判断に委ねられるゾーンの相談になるのです。

当然「わからない」「忙しい」「業務範囲でない」という理由で断る権利もあります。ただ、もし相談に乗って一緒に数字を見てみると、「人件費って単純にその人の年俸だけを考えればいいと思ったけれど、会社負担の社会保険料や備品、転勤が発生する場合だったらその異動に伴う費用も加味して予算組みしなければいけないのだな」ということが改めて自分も理解できるかもしれません。また、「このクライアントは売上が多いけれど、粗利率が他のクライアントより低い。つまり仕事自体の受注はしやすいけれど、安易に受け過ぎると全体の粗利にもマイナスの影響が出てくる」ということが改めてわかれば、現場も、「仕事を取りやすい営業ではなく、粗利を高く狙える営業をしよう」と、営業方針そのものに対しても役立つことができます。つまり、自分自身も、「人事」や「営業」といった、「経理部以外の目線」から数字を見ることができるようになっていくのです。
このような「部署間の仕事上の連携、つながり」によって、経理への信頼度も上がり、また経理社員自身も、経理そのものにプラスアルファされたスキルやキャリアが構築されていくはずです。

「経理を中心軸にして、その周囲の数字に関わることだったら、大体知っている、やったことがある」という人が、経営者や現場が助かる経理社員であることは間違いありません。
そして経理社員自身も、「自分は経理だけでなく、あらゆる範囲の仕事をこなせているからどのような環境や時代になっても柔軟に対応できる」と、自信を持つことができ、将来に不安を感じることも少なくなるはずです。

「経理のスキルだけでどうやってキャリアアップしていくのだろうか」と不安に思っている人は、「自分の業務はここからここまで」「新しい業務は上司が手取り足取り教えてくれて当然」と自分自身の固定観念をお持ちの人に多いような気がしています。

その不安を取り除く方法を一つお伝えするとしたら、やったことがない仕事、できるかどうかわからない仕事でも、拒絶しないで、とりあえず話だけは聞く。どうしても自信がなかったら「もしわからないことがあったら質問してもいいですか」と一旦予防線を張って調べてみる、取り組んでみる。すると、「案外、自分…できるかも」と、新たな自分の一面を発見できると思います。「どうせ…」「自分なんて…」と思わず、もっと自分に期待をしてみてもいいのではないでしょうか。
「(自分は)経理しかできない」という考えから、「(経理も○○もできる)人へ。少しの勇気と行動で、同じ会社、同じメンバーの変わらない日常といった社内の風景であっても、自分自身はキャリアアップに向けて一歩ずつ前進していけるはずです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(クロスメディア・パブリッシング)など。最新刊は『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)。



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