【前編】山田真哉さんに聞く、“進化” する経理担当者になるための考え方

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そもそも経理部門の役割とは? そして、経理部門で働く人にとって欠かせない視点とは? 今回、そんな素朴な疑問に答えてくれたのは、公認会計士で、芸能文化会計財団の理事長を務める山田真哉さん。160万部突破のベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を世に送り出し、会計の世界をわかりやすく伝えてきた山田さんならではの視点で、企業における経理の意味と変化していく価値について語ってくれました。

取材ご協力:
山田 真哉(やまだ しんや)
神戸市生まれ。公認会計士・税理士。大学卒業後、東進ハイスクール、中央青山監査法人(PwC)を経て、一般財団法人芸能文化会計財団の理事長に就任。
主な著書に、160万部のミリオンセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)、シリーズ100万部『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫他)。
現在、文化放送『浅野真澄×山田真哉の週刊マネーランド』等に出演中。行政改革推進会議・法務省・農林水産省の外部有識者等も務める。約50社の顧問として社長の参謀役になっている。

 

経理部門は、戦略部門になっていく

経理を含む管理部門全般に言えることですが、社内で「利益を生み出さない部門」として逆風にさらされることがあります。しかし、管理部門は人間の機能に置き換えると、脳のようなもの。全体としての最適解を出すために必要不可欠な部門です。

数多の情報を収集、分析する、Webの世界で言えばアクセス解析に似ています。自らコンテンツを作るわけでも、広告を取ってくるわけでもありませんが、アクセス解析を行い、傾向を分析する部門がなければ、Webの世界ではビジネスが成り立ちません。
情報を収集するだけならば、単なるビッグデータですが、これを集約、分析し、意味付けをすることで役立つデータに変えることができるのです。

そうした情報の収集、分析をすべて数字ベースで行うのが、会計の世界。会計の絶対条件は、すべての単位を貨幣単位にすることにあります。つまり、経理は社内にある情報を収集し、金銭価値に置き換え、整理、分析する戦略部門とも言えるのです。

データを積み上げ、有益な情報を生み出す

例えば、広報部、企画部、営業部などが協力して、ある商品の広告を打ったとしましょう。その効果を金銭価値に置き換えるのも経理部門の仕事です。
マス広告の効果というのは、非常に数字として把握しづらいもの。営業部門は広告の費用対効果に対して、“広告を打てば売れるだろう”と基本的に大ざっぱな認識でいます。一方、経理、管理部門は「広告費はいくら」で、「売り上げが何%伸びたか」、「どの程度の期間で効果が途切れたか」など、1つ1つのデータを具体的に積み上げていきます。
こうして導き出された堅い数字は、経営にとって非常に有益な情報となります。

ところが、経営企画部といった花形部署に比べると、経理部門は地味な部署というイメージがあります。その理由の一つとなってきたのが、時間です。
堅い数字を導き出すまでには、情報を整理するために膨大な時間が必要でした。紙ベースの伝票、領収書を整理し、数字を抽出し、人海戦術で処理していく。このため、有益な分析を行うのに3カ月、半年、1年というタイムラグが生じていたのです。
日々、状況が変化し、対応していかなければならない営業部門にとって、経理部門の出す堅い数字は過去のデータ。今ここにフィットしていないことで、重要視されないという構造がありました。

しかし、今後はフィンテックが普及することで、情報の収集、分析の速度は加速度的に早くなっています。今はまだ過渡期と言えますが、いずれ、経理部門は経営に役立つ数字をリアルタイムで提示できるようになっていくでしょう。
例えば、「プランA、プランB、プランC。それぞれを選択した場合、キャッシュフローはこう変化します」「5人を新規採用すると経費はこうなり、売り上げの予測値はこう変化します。10人を新規採用すると……」など、経理部門がキャッシュをベースにした案を経営陣に伝えていくイメージです。
そうなったとき、経理部門を戦略部門と位置づけ、活用する企業も登場するはずです。

会社の経理の一部ではなく、全体を把握すること

とはいえ、現場にいる経理部員が戦略的な視点を持つのは、難しい現状があります。00年代以降、ITの導入で経理作業の負担は軽減されました。しかし、ITの導入に合わせて多くの企業では経理部門の人員を削減したため、結果的に一人ひとりの仕事量は増えています。

また、多くの場合、各経理部員は分業して経費、売り上げなどの一部分を担当しています。ですから、企業経営の根幹に関わるデータを扱いながら、全体を見渡しにくい状況にあるわけです。

例えば、人さまの家に行って料理を出してもらい、味わうことはあっても、なかなか冷蔵庫の中を見ることはできません。何が入っていて、それをどのように調理してくれたのでしょうか。
実はもっとおいしい食材が、惜しくも冷蔵庫の中に残されているかもしれません。あるいは、冷蔵庫の中にはありふれた材料しかなかったのに、すごく上手に調理してくれたのかもしれません。今、あなたの目の前にある料理が出てくるまでの本当の経緯は、冷蔵庫の中を見なければわからないわけです。
それを間近で目にすることができるのが、経理部門です。

しかし、現実には担当別の分業制で、冷蔵庫全体を把握しているヒマはなく、冷凍庫しか見ない人、野菜室しか開けない人、水の補充だけを担当している人などに分かれてしまっています。
けれどもそこは意識の持ちようで変えていくことができます。20代でも30代でも「全体を見よう」と思えば、チャンスは身近に転がっています。

経理部門で頭角を現し、経営の中枢に近づいていく

今、自分が担当している仕事、扱っている数字は、会社全体の中でどのような意味を持っているのか。そんな視点を持ち、全体を理解しようとするだけで、経理部門で働く意義は大きく変わってくるのではないでしょうか。
例えば、私の友人はソフトバンクの経理部門に採用されましたが、経理部門でキャリアを積んだ後、企画部に移り、会計知識のある人材として抜てきされ、大型の買収案件に欠かせないキーパーソンとなっています。
このように経理部門で頭角を現し、経営の中枢に近づいていくというパターンは今後も増えていくはずです。

後編はこちら:【後編】山田真哉さんに聞く、これからの経理担当者に求められる能力とおすすめ本3冊

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