文章コミュニケーションが多い経理担当者のための「伝わる」ビジネス文書術

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経理担当者 文章術

企業のスムーズな運営を支える要である、経理や人事総務などのバックオフィス部門。メインの担当業務のほか、意外と手間がかかるのは「社内コミュニケーション」ではないでしょうか?中でも、文章で伝える場面。日々のメール連絡に始まり、報告書、マニュアル作成、社内説明資料…など、文章を書く機会は想像以上に多くあります。

明確に伝えることはもちろん、効率的に書け、問い合わせが無くなり、うまく社員が動いてくれて……、業務がスムーズに回るようになったならば。そんな一歩上のレベルの経理担当者を目指すため、上梓した本は60冊以上、ビジネス書を数多く手がける上阪徹氏に「伝わる」文章を書く技術について教えてもらいました。テンプレートやフォーマットといった形式の話ではなく、より本質に迫るお話です。

文章を書くことをなりわいにして、20年以上になります。雑誌やウェブサイトに記事を書いたり、書籍を執筆したりするのが仕事の中心ですが、今では文章の書き方をテーマに講演やセミナーでお話しすることも少なくありません。「文章技術」の本は世の中にたくさんありますが、実はテクニカルなこと以上に大切なことは、書く上での「マインドセット」だったりします。これだけで、文章は大きく変わるのです。これは本の執筆などといった、書く仕事を専業にしている人だけでなく、メールや報告書など、仕事の中で日々文章を書く機会が多い人にとっても十分に生かせるものです。5つご紹介しましょう。

1.まずは前提を理解する。「文章は読みたくないもの」

文章を書くことを生業にしている、というと、さぞや書くことが好きなのでしょうね、と問われることがありますが、まったく違います。これは著書でもカミングアウトしていますが、子どもの頃から大の作文嫌い。書くのはずっと苦手で、高校でも大学でも苦労しました。しかも、読むのも嫌いです。
私は偶然、仕事をすることになった広告コピーをきっかけに文章が書けるようになっていったのですが、今も好きという意識はありません。しかし、むしろこれが私の今に幸いしたと思っています。とりわけ読むのが嫌いだったことが、です。なぜなら多くの読者が、同じような感覚を持っていたからです。
読むのは面倒なのです。できれば読みたくない。この読み手の感覚が前提にあれば、書き手の文章は変わります。できるだけ読むのが大変にならないように書こうとする。例えば、書き出しは相手の興味あるところから入ろう。ダラダラ書かずに結論を先に書こう。読みやすくなるよう行替えをどんどんしよう。わかりやすい展開を作ろう。誰でも理解できる言葉を使おう……。
端的に言えば、サービス精神。「文章は読んでもらえない」「人は文章をできれば読みたくない」と前提を変えれば、読み手の立場に立って書くことができるようになるのです。

2.最初に意識すべきは「目的」と「読み手」

仕事柄、「文章を見てください」と言われることがあるのですが、私は文章を見ただけで評価することは絶対にしません。多くの方が「どう書くか」を強く意識されていますが、それ以上に大事なことは、「相手に何を伝えたいのか」だからです。つまりは、文章の目的。それを達成することこそ、文章の意味だからです。
ところが、この「目的」が意外に忘れられがちです。なんとなく文章を書いてしまう。いや、書けてしまう。ここが文章の落とし穴です。そうすると、あれ、これは何のために書いているんだっけ、といったことにもなりかねません。
最初に意識すべきは、「この文章の目的は何か」です。報告なのか、指示なのか。謝りのメールなのか、新商品のアイデア提案なのか、励ましのメッセージなのか……。どこに、何の目的で、どんな内容の文章を書くのか。もっといえば、どんな読後感、感想を持ってもらいたいのか。それを明確にしておくだけで、伝わる文章に近づけます。
そしてもうひとつ意識したいのが、誰に読んでもらうのか。「読み手」です。文章は、読ませたい相手がいるはずです。それはいったい誰なのか、できれば顔まで思い浮かべる。それこそ、高齢者に向けての文章と、小学生に向けての文章は違うはずです。社長と課長と部下でも違う。「読み手」を意識すれば、どんな文章が必要になるのかがはっきりとわかっていくのです。

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3.「どう書くか」よりも「何を書くか」

文章を書く、というと、うまい文章を書かなければいけない、というイメージを持ってしまう人が少なくないようです。気持ちはとてもよくわかります。誰しも「文章が下手だ」とは言われたくない。しかし、面白いもので、「文章がうまい」と言われたいと思いながら書いている文章というのは、実は読み手にその思いそのものが勘づかれてしまう。私はそう思っています。むしろ、逆効果になるのです。
うまく見せようとすると何が起きるのか。本当は素直に書けばいいところを、うまく見えるような言葉や文章を選んだり、実は自分ではいまひとつ腹落ちしていないフレーズを使ってみたりする。そうすることで、本来ならわかりやすく書けていたはずの文章が、むしろわかりにくくなってしまったりするのです。
文章、とりわけビジネス文章の目的は、相手に何かを理解してもらうことに他なりません。これ以上の優先順位はない。仮に「うまい文章」が書けたとしても、読者の理解度が落ちてしまえば、本末転倒です。
それこそ、表現などいらないのです。必要なのは、「内容」です。もっといえば、文章の「素材」。何を書くか、ということ。そこにこそ、集中しなければいけません。極端な話、それさえしっかりしていれば、素材を並べただけでも伝わる文章になるのです。

4.起承転結などの「セオリー」は必要ない

もう20年以上にわたって、たくさんの文章を仕事として書いてきましたが、私は一度たりとも「文章のセオリー」を気にしたことはありません。例えば、起承転結。例えば、「、」や「。」の位置。文章の書き方の本も読んだことがありません。そんなことよりも、読者が読んでわかりやすいものであれば、まったく問題ないと思っているからです。これこそが目的だから。うまい文章を書くことや、セオリーを守ることが目的ではないのです。
もとよりこれだけビジネス文章が当たり前の時代になってすら、文章を学ぶ機会はそれこそ小学校で止まってしまっているのではないでしょうか。では、小学校のときに教わったのは、果たしてビジネス文章だったのか。違う。評論や文学だったのではないですか。子どもの頃に習った作文技術は、そのときの勉強にすぎなかった、ということです。にもかかわらず、セオリーを守ろうとするから、やっかいなことになります。伝わらない文章を作ってしまったりすることになるのです。
では、どうすればいいのか。極めて方法はシンプルです。それは、「しゃべるように書く」ということ。目の前の伝えたい読者がいたとする。彼らに伝えたい内容をしゃべって聞かせるとすれば、どういう展開、構成、言葉の使い方がいいか。それを考えて、文章にしていけばいいのです。実際、私はいつもこれをやっています。しゃべりながら書いていることもあります。

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5.伝わりやすくなる方法「形容詞を使わない」

私の書くキャリアのスタートは、リクルーティング広告の制作でした。会社が人を採用する求人広告です。このとき、新人コピーライターが必ずやってしまう広告コピーがありました。それが、「当社はいい会社です」でした。
「当社はいい会社です」というキャッチフレーズの会社に、真剣に仕事を探している人は反応するでしょうか。しないでしょう。説得力がまるでないから。どの会社にも言えてしまうから。イメージがまったくわかないから。
文章というのは、こういうことが起きるのです。伝えたつもりが、ちっとも伝わっていない。多くの場合、その元凶になるのが形容詞です。「いい」という形容詞を使ってしまったからこそ、伝わらない文章になってしまったのです。
そこで私がいつも意識しているのが、形容する言葉をできるだけ使わないことです。それはつまり、具体的な内容を挙げる、ということ。「残業がない」でも「離職率がこの5年でゼロ」でも「年齢に関係なく出世できる」でもいい。事実(これがまさに素材です)でもって、「良い会社」とイメージできる具体的な内容を使うのです。
形容詞を使わないと決めたとき、意識するのが、ひとつは「事実」。もうひとつが「数字」です。形容詞を使わず、事実や数字に目を向ける。伝わる文章の方法のひとつです。

まとめ “文章”を書こうとしない

長く文章を書く仕事をしてきて、さらにはいろいろな人の文章に接することになり、やがて文章でうまくいかない人、文章を書くのが嫌いになってしまっている人の共通点が見えてくるようになりました。それは一言でいえば、“文章”を書こうとしてしまっている、ということです。
何のことか、と思われるかもしれませんが、多くの人には「文章とはかくあるべし」という強いイメージがあるのです。それは小学校のときに学んだ作文技術であったり、社会に出てから読むようになった新聞やビジネス雑誌の影響もあるかもしれません。いずれにしても、「文章とはかくあるべし」が頭の中に定まっていて、それをなんとかして書こうとしてしまうのです。
しかし、そもそも文章は単なるツールでしかありません。それこそ、しゃべって伝えるのも、文章で伝えるのも、内容を伝えるという目的を達するという意味ではまったく変わりはないのです。もっと言ってしまえば、しゃべりをそのまま文章化しても、相手にしっかり内容が伝わるなら、まったく問題はない。
ところが、「文章はかくあるべし」とばかりに書いてしまうことで、書くのに手間取ったり、結果的にわかりにくくなってしまうことが少なくないのです。それこそ、うまい文章などいらない。わかりやすい文章さえあればいいのです。
書く上でのマインドセットを変える。5つをご紹介しました。これで、文章を書くハードルはぐっと下がります。そして同時に、伝わる文章に近づけるようになります。文章技術を表面的に学ぶよりも、ずっと伝わる文章が書けるようになると私は考えています。

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