- 作成日 : 2025年12月24日
不動産における告知とは?告知方法や告知書の書き方を解説
不動産取引では、物件に関する重要な情報を契約前に正しく伝えることが欠かせません。設備の故障や周辺環境の問題、過去の事故など、契約判断に影響する可能性がある事実を事前に共有する行為を「告知」と呼びます。近年は心理的瑕疵や周辺環境のクレームなど、説明不足を原因としたトラブルが増えており、より慎重な情報整理と分かりやすい伝達が必要です。
当記事では、告知の基礎や種類、告知書の書き方、実務における伝え方など、トラブル防止と適切な対応に役立つ知識を解説します。
目次
不動産における告知とは?
不動産における告知とは、物件の契約判断に影響する可能性が高い事実を、オーナーや仲介会社が入居希望者や購入希望者へ事前に伝える行為です。物件の状態や周辺環境、過去の事故など、利用者が知っておくべき重要な情報を正確に共有することが目的になります。後から「聞いていない」というトラブルを避け、安全に取引を進めるための基本的なルールです。
告知(説明)すべきかどうかは、売主・貸主が把握している事実について、取引の目的や事案内容、経過時間、周知性等を踏まえ、信義則上の観点から判断されるのが一般的です。賃貸・売買のどちらでも「契約の目的を妨げる可能性がある事実」を丁寧に伝える姿勢が求められます。宅建業者が売主となる場合や媒介・代理を行う場合には、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について適切に告げる(不実告知や故意の不告知をしないことが求められます。
告知を適切に行うことで、契約後のクレーム防止やオーナーの信頼確保にもつながり、結果として安定して管理業務を受注できるようになるでしょう。
重要事項説明との違い
告知と重要事項説明は混同されやすいですが、役割と説明する主体が異なります。告知はオーナーや管理会社が主体となり、物件の過去の出来事や現在の状態について幅広く説明するものです。一方で重要事項説明は、宅建業者が法に基づき実施すべき手続きであり、宅地建物取引士に書面を交付して説明させるものです。
重要事項説明は、権利関係や法令制限、設備状況、契約内容の重要部分などを文書で示し、買主や借主が不利益を受けないようにすることが目的です。これに対し、告知は「契約判断に影響する可能性がある情報」を幅広く扱います。
実務では告知不足がトラブルにつながりやすく、オーナーや仲介担当者は丁寧な情報提供を意識する必要があります。
告知事項の種類は?
告知事項とは、物件の契約判断に影響する可能性がある重要な情報を指し、大きく「心理的瑕疵」「物理的瑕疵」「環境的瑕疵」「法的瑕疵」の4つに分類されます。これらを正しく理解しておくことは、オーナーや仲介担当者が適切な説明を行う上で不可欠です。
ここでは、4種類の告知事項について解説します。なお、最終的には相手方の契約判断に重要な影響を及ぼす事実かという観点から、個別判断します。
心理的瑕疵
心理的瑕疵とは、事件性のある死亡や自殺、孤独死など、物件そのものに物理的な損傷がなくても、借主や買主の心理に不安を与える可能性がある事実を指します。「一般的に相当な嫌悪感を抱く事象」がある物件は、心理的瑕疵がある状態です。法過去の裁判例を見ると、事案の内容や周知性、経過時間等を踏まえて判断しています。国土交通省のガイドライン(人の死の告知)では、取引の対象不動産で人の死が生じた場合の告知の考え方を整理しており、自然死・日常生活上の不慮の死は原則として告げなくてもよい一方、その他の死については契約判断への影響を踏まえて対応することが求められています。
また、告知すべき範囲は、発生した場所、発見場所、事件の内容によって異なります。近年は孤独死の扱いなどが注目されていますが、「自然死や日常生活の中での不慮の事故」などは告知不要とされる場合もあります。心理的瑕疵は特に判断が難しい分野であり、ガイドラインや過去の裁判例に沿って慎重に対応しなければなりません。
物理的瑕疵
物理的瑕疵とは、建物や設備に損傷や欠陥があり、通常の使用に支障が出る状態を指します。代表例として、雨漏り、シロアリ被害、給排水設備の故障、構造上の欠陥などが挙げられます。物理的瑕疵は外見では分かりにくいことも多いため、オーナーや管理会社は修繕履歴や点検記録を把握し、契約前に適切に説明する必要があります。
特に売買契約では、買主が物件の将来性や資産価値を判断する上で大きな情報となるため、瑕疵の有無は大切です。物理的瑕疵が判明した場合は、現状を正直に伝えるとともに、補修済みかどうか、再発防止策が講じられているかを明確にすることで、契約者の不安を軽減できます。
環境的瑕疵
環境的瑕疵とは、物件の外部環境によって利用者の生活に支障が生じる可能性がある状態を指します。代表例として、騒音・振動・悪臭・日照不足、近隣の工場や交通量の多い道路の影響、周辺の嫌悪施設(火葬場、暴力団事務所など)の存在が挙げられます。物件自体に欠陥がなくても、周囲の状況が利用者の快適さを損なう場合、契約判断に影響するため告知が必要となります。
環境的瑕疵は、物理的瑕疵と異なり建物の修理で解決できないケースが多いため、事前の説明が特に重要です。実務では、過去のクレーム内容、周辺環境の変化、近隣トラブルなどを把握し、事実に基づいて丁寧に案内する姿勢が求められます。
法的瑕疵
法的瑕疵とは、物件の利用や建築に関して法律上の制限があり、契約者が想定どおりに使用できない状態を指します。代表例として、再建築不可物件、用途地域の制限、建ぺい率・容積率オーバー、建築基準法に抵触した増改築、接道義務を満たさない土地などがあります。
法的瑕疵は、登記簿の記載内容、役所調査、図面の確認など、専門的な知識が必要になる分野です。買主や借主が「知らなかった」となると重大なトラブルにつながるため、仲介担当者には、法令や行政手続きの知識を踏まえた丁寧な説明が求められます。また、制限があっても利用には支障がない場合もあるため、具体的な影響を分かりやすく伝えることが大切です。
心理的瑕疵に関する取り扱い
心理的瑕疵は、物件の契約判断に大きな影響を与えるため、賃貸・売買のどちらでも慎重な扱いが求められます。特に「いつまで告知すべきか」「どこまで説明する必要があるか」は、実務者が悩みやすいポイントです。ここでは、告知事項の取り扱いについて解説します。
賃貸での告知期間の目安
賃貸では、心理的瑕疵の告知期間について国土交通省のガイドラインが1つの目安になります。取引対象不動産(および通常使用が必要な共用部分)で、自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生した場合、事案発生から概ね3年が経過した後は原則として告げなくてもよいと整理されています。ただし、3年以内であっても、自然死や日常生活の中の不慮の事故については告知対象外とされています。
ただし、買主・借主から事案の有無を問われた場合や、社会的影響などの特段の事情がある場合は、経過期間にかかわらず告げる必要があります。
一方、社会的影響が大きい事件や、継続的に報道されている事案など、入居希望者の判断に重大な影響がある場合は3年が経過していても告知が必要となるケースもあります。賃貸の実務では、期間だけで判断せず、事案の内容と世間の認識を踏まえた慎重な対応が求められます。
出典:「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました」|国土交通省
売買での取扱い
売買では、賃貸とは異なり心理的瑕疵の影響が資産価値に及ぶため、より詳細で丁寧な説明が求められます。ガイドラインでも売買取引は「買主が長期的に物件を所有する」点が重視され、告知期間の明確な年数は示されていません。つまり、事案の性質や社会的影響度によって、告知期間が賃貸より長くなる可能性があります。
また、買主が投資目的で購入する場合には、入居需要への影響を考慮した説明が必要です。売買では、年数基準ではなく「買主の合理的判断に影響するか」を軸に、事実を正確に伝える姿勢が大切です。
告知が不要となるケース
心理的瑕疵があっても、すべてが告知対象になるわけではありません。国土交通省のガイドラインでは、自然死、老衰死、日常生活の中での不慮の事故(転倒による外傷など)は、原則として告知不要とされています。また、発生から相当の時間が経過し、社会的影響が極めて小さくなっている場合も、告知義務が生じないことがあります。
さらに、同一室内ではなく共用部で起きた事故や、隣室・上下階で発生した事案は、内容によっては告知対象外になることがあります。ただし、事案が社会的に大きく注目された場合や、近隣住民の間で広く知られており、契約判断に影響する可能性が高い場合は告知が必要です。告知不要の判断は慎重を要し、ガイドライン・過去の裁判例・管理の実態を総合的に踏まえることが大切です。
出典:「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました|国土交通省
告知書とは?
告知書とは、物件の契約判断に影響し得る事実を、オーナーや売主が書面にまとめて買主・借主へ伝えるための文書です。口頭での説明だけでは「聞いていない」というトラブルが起きやすいため、重要な情報を明確に記録する役割があります。ここでは、告知に必要な告知書について詳しく解説します。
告知書の目的
告知書の目的は、物件に関する重要な情報を正確に伝え、契約後のトラブルを未然に防ぐことです。心理的瑕疵や物理的瑕疵、周囲の環境による問題、過去の不具合や事故など、契約者が判断する上で知っておくべき事項を明示します。口頭説明は記憶違いや認識のズレが起きやすいため、書面に残すことで双方の認識を一致させる効果があります。
また、告知書には「説明責任を果たした」というエビデンスとしての役割もあります。後に「聞いていなかった」と主張された場合でも、書面が残っていれば紛争の防止につながります。特に心理的瑕疵の扱いは判断が難しく、認識の相違が起きやすいため、告知書で明確に整理しておくことが大切です。
告知書の記載事項
告知書には、物件の契約判断に影響する可能性のある事実を具体的に記載します。瑕疵の種類の他にも、「いつ・どこで・どのような事象が起きたのか」「補修済みか、再発の可能性はあるか」「現在の状況にどの程度影響するか」など、契約者が判断しやすい情報を盛り込みましょう。曖昧な表現や推測は避け、確認できた事実のみを記載します。
なお、宅建業者は、原則として周辺住民への聞き込みやインターネット調査などの自発的な積極調査義務はありません。 売主・貸主へ告知書の提出を依頼すれば十分であり、回答がない場合もその旨を伝えるだけで足ります。
ただし、告知書の内容は後の重要事項説明とも連動するため、正確さと明確さが重視される項目です。
付帯設備表との違い
告知書と付帯設備表は混同されやすいですが、目的と内容が大きく異なります。付帯設備表は、設備の有無や状態、故障の有無などを一覧で整理する書類で、主に物理的設備の現状を確認するために使われます。エアコン・給湯器・照明・鍵・インターホンといった、入居時・引渡し時に現地で確認できる設備情報が中心です。
一方、告知書は物件の状態だけでなく、心理的瑕疵や周辺環境、法的制限など、設備以外の重要情報を広く扱います。設備表が「備品・設備の情報整理」であるのに対し、告知書は「物件全体のリスク情報の共有」が目的です。両者は役割が補完関係にあり、不動産取引では付帯設備表で設備の状態を整理し、告知書で物件の重要事実を伝えるという形で使い分けられます。
告知書の書き方は?
告知書を正しく作成するには、事実を整理し、契約者が誤解しないように明確な表現で記載することが重要です。ここでは、告知書の基本的な作成方法を解説します。
記載方法の手順
告知書の作成は、「事実確認」「情報整理」「文書化」「ダブルチェック」という流れで進めます。
まず、オーナーや管理会社が過去の事故、修繕履歴、周辺環境トラブルなどの情報を収集します。次に、事実と推測を分け、契約判断に影響し得る内容を抽出します。文書化する際は、いつ・どこで・どのような事象が起きたか、補修状況や現状への影響を時系列で簡潔にまとめます。最後に、担当者同士で内容を確認し、記載漏れや誤解を生む表現がないかをチェックします。
記載者の役割
告知書の記載は、原則として情報を把握している「オーナー」または「売主」が主体となります。その上で、管理会社や仲介会社が内容の整理や文書化をサポートする形が一般的です。オーナー側が把握している情報が最も重要となるため、曖昧な部分は必ず確認を行い、推測に基づく記載は避けます。
仲介担当者は、契約者が理解しやすいよう表現を整え、法律上の取扱いやガイドラインに適合しているかをチェックする役割を担います。
作成のタイミング
告知書は、契約手続きの初期段階、具体的には媒介契約締結後から内見案内までに準備しておくことが望ましいでしょう。早い段階で準備することで、募集図面やオンライン掲載時に適切な告知ができ、問い合わせへの回答もスムーズになります。
また、売買では重要事項説明書や契約書の作成と並行して整えることが一般的です。事実確認が遅れると誤情報の掲載や説明不足につながるため、あらかじめ情報の洗い出しを進めておくことが大切です。
記載時の注意点
告知書を作成する際は、事実に基づいた内容のみを記載し、憶測や曖昧な表現を避けることが基本です。「思われる」「たぶん」などの推測語は使用せず、確認できた事実だけを書く姿勢が求められます。記載する場合も、遺族の名誉や平穏に配慮しなければなりません。
また、専門用語の多用は契約者の誤解を招くため、なるべく平易な表現を心がけます。心理的瑕疵の扱いでは、国土交通省のガイドラインに沿った判断が必要です。加えて、過去の履歴と現在の状況が混同しないよう、時系列を明確にしましょう。
告知の伝え方とは?
告知すべき事実が整理できたら、適切なタイミングと方法で伝えることが重要です。伝え方を誤ると「聞いていなかった」というトラブルにつながるため、媒介業者やオーナーは一貫した説明を行う必要があります。ここでは、告知事項の伝え方を紹介します。
募集図面での表記
募集図面では、契約者が物件を比較・検討する段階で目にする情報であるため、告知事項の要点を簡潔に示すことが求められます。心理的瑕疵がある場合は「過去に室内で死亡事案あり(詳細は担当へ)」のように、事実を伏せずに明確に記載します。物理的瑕疵であれば、雨漏り・設備の故障歴・修繕済みかどうかなどを記載し、誤解を避けることが大切です。
また、環境的瑕疵については、騒音や近隣トラブルなど「契約判断に影響する可能性がある」内容を過不足なく伝える必要があります。募集図面は広告でもあるため、表現が過度にぼかされたり、不必要に詳細すぎたりしないよう調整が必要です。図面と実際の説明内容に矛盾が出ないよう、社内で表記基準を統一しておきましょう。
重要事項説明での伝達
重要事項説明では、宅地建物取引士が法令に基づき、契約者に対して重要な情報を正確に伝える責任があります。物件の権利関係や法令制限に加え、告知書に記載した瑕疵情報も明確に説明することが求められます。口頭だけでなく書面で残るため、後日のトラブル防止に極めて重要な工程です。
心理的瑕疵がある場合は、内容を簡潔かつ誤解のないよう伝えます。物理的瑕疵や修繕歴に関しては、現在の状況や再発の可能性を含めて丁寧に説明することで、契約者が適切な判断をしやすくなります。また、売買では特に資産価値に影響するため、詳細な情報提供が必要です。説明内容が告知書や募集図面と一致しているかを確認し、情報の食い違いが起きないよう注意することが大切です。
問い合わせへの対応方法
問い合わせ時の対応は、実務上もっともトラブルが起きやすい場面です。契約者が気になる点を確認するため、質問の仕方によっては告知事項が曖昧に伝わることがあります。そのため、担当者は事実を正確に伝えることを基本とし、推測や曖昧な表現を避ける姿勢が求められます。
心理的瑕疵に関して質問があった場合は、ガイドラインが示す範囲に基づいて「事実のみ」を説明し、過度な感想や推測は加えません。物理的瑕疵や環境的瑕疵については、「いつ」「どこで」「どのような状態か」「現在はどうか」を確認した上で回答します。問い合わせの内容は記録として残しておくことで、後の説明漏れ防止にも役立ちます。全体として、丁寧で一貫した対応が信頼獲得につながります。
適切な告知が不動産取引の信頼を高める理由
告知とは、心理的瑕疵・物理的瑕疵・環境的瑕疵・法的瑕疵といった告知事項を正確に整理し、事実に基づいた内容を適切なタイミングで伝えることです。特に心理的瑕疵は判断が難しく、国土交通省ガイドラインの解釈や社会的影響を踏まえた慎重な対応が求められます。
告知書を活用して事実を明文化すれば、双方の認識のずれを防ぎ、後日の紛争抑止にも効果があります。不動産の契約は専門的な判断が伴うため、情報提供の質がオーナー・仲介会社の評価にも直結します。告知を丁寧に行うことが、円滑で安心できる取引につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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