経理の仕事が、今、まさに変わりつつある――そう感じている方は、決して少なくないはずです。制度対応に追われながらも、AIやDXの波は待ってくれません。そのうえ、組織やキャリアの先行きも、かつてほど見通しやすくはなくなっています。
本記事では、BPO企業のパイオニアとして25年以上のキャリアの中で数多くの経理現場に携わってきたCSアカウンティング株式会社 代表取締役社長・中尾篤史氏に監修・執筆いただいた資料『CSアカウンティング流 経理の論点2026』の内容をかいつまんでご紹介します。個別の制度解説や操作マニュアルではなく、経理パーソンが「今、考えるべきこと」を明らかにし、現在地を確認し、行く先を見渡すための地図として編まれた一冊です。2027年を見据えるにあたり、2026年の論点を今一度おさらいする機会としてお役立てください。
※本記事は2026年7月に公開した『CSアカウンティング流 経理の論点2026』の抜粋版です。内容は2026年4月30日現在の情報に基づいています。
CSアカウンティング株式会社
代表取締役社長/公認会計士/税理士/社会保険労務士
日本公認会計士協会 租税調査会 租税政策検討専門委員会 専門委員。 著書に『経理業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)活用のススメ』、『DX時代の経理部門の働き方改革のススメ』、『瞬殺!法人税申告書の見方』(税務研究会出版局)、 『正確な決算を早くラクに実現する経理の技30』、 『BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる』(共著)、 『対話式で気がついたら決算書が作れるようになる本』(共著)、 『経理・財務お仕事マニュアル入門編』(以上、税務経理協会)、 『たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる』(宝島社)、 『経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集』(日本能率協会マネジメントセンター)、 『明快図解 節約法人税のしくみ』(共著、千舷社)、 『給与計算・社会保険業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)活用法 -付加価値を生む人事・労務部門のつくりかた』(日本法令) など多数。
Part1 令和8年度「制度・基準」の最前線
論点1 新リース会計基準:2027年強制適用への「最終点検」と「定着」
2027年4月1日以後開始する事業年度から、オペレーティング・リースを含むすべてのリース取引を原則として資産・負債に計上する新基準が強制適用されます。資料では、契約の洗い出しからリース期間の判定、税務調整の具体的な仕訳の工夫までを解説。編集部として特に興味深かったのは、「AIに一次判定を委ね、人間はグレーゾーンの判断に集中する」という役割分担の提案です。数百件の契約書を人の目で確認する負担を、どう減らすかという泥臭い課題への答えが示されています。
論点2 令和8年度税制改正:グループ間取引における書類保存義務の強化
資本関係のある関連者との取引について、対価の算定根拠を示す書類の保存が義務化されました(2026年4月1日以後に開始する事業年度の取引から適用)。保存がなければ青色申告の承認取消事由になるという、見過ごせないペナルティも紹介されています。大企業だけでなく、親子会社や兄弟会社を持つ中小法人も対象になる点は、意外と知られていないのではないでしょうか。
論点3 サステナビリティ開示の義務化と決算早期化
SSBJ基準の段階適用により、非財務情報の開示体制構築が急務となっています。あわせて、株主総会前の有価証券報告書開示を求める潮流が、決算早期化の圧力を強めている実情も指摘。経理部門の役割を「数値の集計者」から「価値情報の編集者」へと位置づけ直す視点が印象的でした。米国SECによる気候関連情報開示規則の撤回提案の話も読みどころ。「対岸の火事ではない」とする指摘に、海外の規制動向と日本の開示実務のつながりを考えさせられます。
論点4 内部統制の再構築:経営者無効化リスクと巧妙化する不正への備え
相次ぐ会計不正を背景に、「不正のトライアングル(機会・動機・正当化)」という理論を、あえて経営者自身に当てはめて解説しています。「送金指示から実行まで複数名のシステム承認を必須としているか」など、内部監査で経営層に投げかけるべき質問例が具体的に示されている点が読みどころです。
Part2 テクノロジーが変える経理の現場
論点5 組織レベルの生成AI活用:AIによるナレッジの体系化と組織共有
属人化しがちな経理のノウハウを、RAG型チャットボットや動的マニュアル生成で形式知化する手法を紹介。「この処理の過去の例外対応は?」とAIに問いかけるだけで後任者が自ら正解にたどり着ける、というくだりは、引き継ぎに悩んだことのある方なら思わずうなずく内容ではないでしょうか。
論点6 分散したSaaSの高度活用:「AIエージェント」によるサービス連携と共生
一時期「SaaSの死」という刺激的な言葉も語られましたが、資料では「消滅ではなく、AIを核としたSaaSの再定義である」と位置づけている点が興味深いところです。具体的には、複数のSaaSをAIエージェントが横断する活用イメージを提示。たとえば、契約書と請求データの不一致を自動検知するといった例が紹介されています。
論点7 個人レベルのAI活用:経理パーソンのAIへの向き合い方
思考の壁打ちや規程のドラフト作成など、個人レベルでのAI活用シーンを多数紹介。一方で「職業的懐疑心」を持ち続ける重要性にも触れており、AIの結論を会計基準や税務当局の通達など信頼度の高い情報と照らし合わせ、検証を習慣化することの大切さを改めて考えさせられる内容です。
Part3 人・組織・キャリアの未来予想図
論点8 「作業」消失時代のキャリア:AI時代のキャリア考
仕訳入力や帳票確認といった「作業」はAIが代替していく一方で、経理パーソンにはAIの結果を鵜呑みにせず「本当にこれで正しいのか」と問い続ける職業的懐疑心、AIの出力を見極める判断力がこれまで以上に求められるようになります。そのうえで、経営計画の策定やM&Aへの関与、経理部門自体のDX・AI活用の企画、組織のマネジメントなど、数値の先にある経営判断により深く関わる役割が広がっていく――そんなキャリアの再設計を提言しています。作業が減ることを脅威ではなく、経理としての専門性をより発揮できる好機として捉え直すヒントになるパートです。
論点9 M&A・組織再編時代の経理:激変する環境への適応力
M&A件数が増加する中、買収側と被買収側それぞれに求められる資質を整理。たとえば買収側にはデューデリジェンスやPMI(買収後の統合プロセス)を遂行する力、被買収側には新しいレポーティングラインへの適応力などが挙げられています。なかでも、買収主体が外資系企業の場合、社内の標準語が英語になり得るという指摘は、グローバル化の波を身近に感じさせます。
論点10 BPOとAIの融合:アウトソーシングの「活用」から「共創」へ
労働力人口減少を背景に、BPOを単なる外注ではなく「共創パートナー」として再定義。かつては「自分の仕事が奪われるのではないか」とネガティブに捉えられがちだったBPOの位置づけが、ここまで変わってきているのかと感じさせられます。コア業務への集中、属人化の解消、不正の抑止に加え、人材確保が困難な時代における「調整弁」としての機能や、採用・教育コストの高騰を抑える戦略的意義など、導入メリットも多角的に整理されています。
まずは「現在地」の確認から
本資料は、経理パーソンが「今、考えるべきこと」を見渡すための地図として編まれています。10の論点すべてに目を通す必要はありません。自社に関係の深いところから拾い読みしていただくだけでも、次の一手を考えるきっかけになるはずです。
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