繰越欠損金は本当に「財産」なのか? 別表7(1)から読み解く赤字の実態とキャッシュフロー

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決算書は経理担当者にとって見慣れた書類ですが、同じく決算のたびに作成される「法人税申告書」は内容を読む機会が少ないという方も多いのではないでしょうか。しかし法人税申告書の中の「別表」には、決算書からは読み取れない会社の実態が記されています。

本シリーズでは、CSアカウンティング株式会社 代表取締役社長の中尾篤史氏(公認会計士・税理士・社会保険労務士)に、経理担当者が押さえておくべき別表の見方を解説いただきます。

第1回は「別表7(1)」——繰越欠損金の実態を読み解きます。

決算書だけ見て安心していないか、という問いかけ

取引先の与信判断やM&Aにおける企業価値評価、あるいは自社の決算チェックを行う際、多くの方はまず貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)を入念に確認するはずです。

「営業利益が黒字化し、当期純利益もしっかり出ているから安心だ」

「純資産の部を見たら、繰越利益剰余金がプラスになっているから財務内容は健全だ」

しかし、本当に決算書の数字だけでその企業の安全性を判断してよいのでしょうか。実は、決算書がどれほど健全に見えていても、税務上の実態や将来の資金繰りリスクが決算書の表面には現れてこないケースが多々あります。その最たる例が「過去の赤字(繰越欠損金)」の扱いです。決算書だけを見て胸をなで下ろしていると、思わぬ認識違いに足元をすくわれることになります。

 

法人税申告書からしか読み取れない情報とは何か

会計上の「当期純損失」と、法人税法上の「欠損金」は似て非なるものです。会計上の赤字は損益計算書に現れますが、「税務上、過去の赤字がいくら繰り越されていて、将来の儲けといつまで・いくら相殺できるのか」という情報は、決算書には一切載っていません。これを正確に把握できる唯一の書類が、法人税申告書の「別表7(1)(欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書)」です。

税務上、過去に生じた赤字(青色欠損金)は最長10年間繰り越すことができ、将来の黒字(所得)と相殺して税負担を大幅に抑えることができます。「赤字は将来の節税原資になるから会社の財産だ」と言われる所以です。

しかし、これは「期限内に十分な利益を出して使い切れてこそ」意味を持ちます。別表7(1)を見なければ、その赤字が本当に価値ある節税原資なのか、それとも活用されずに消え去る単なる傷跡なのかを判断することは不可能です。

 

最低限見ておくべき箇所とそのポイント

別表7(1)を開いたとき、実務上必ずチェックすべきポイントは以下の3点です。

  1. 「翌期繰越額(将来使える赤字の残高)」

別表7(1)の下段にある翌期繰越額の合計欄を確認します。ここに金額が残っていれば、翌期以降に所得が発生しても税金を圧縮できるため、将来生み出されるキャッシュフローにプラスの影響を与えます。

 

  1. 「控除限度額の制限(50%制限の有無)」

繰越欠損金を当期の所得から控除できる割合は、会社の規模によって大きく異なります。

  • 中小法人等(資本金1億円以下など): 所得の100%まで控除可能
  • 大法人(資本金1億円超や大企業の子会社): 所得の50%までしか控除できない

もし対象企業が大法人である場合、過去にどれほど巨額の繰越欠損金があっても、当期利益が出ればその半分には容赦なく法人税が課税されます。「赤字があるから今期は無税だろう」と高をくくっていると、想定外の納税資金ショートに陥ります。

 

  1. 「発生年度と切捨て時期」

欠損金は発生した事業年度ごとに1行ずつ管理されており、古いものから順に10年で権利が消滅(切捨て)します。直近で期限切れを迎える欠損金がどれだけあるのか、将来の利益計画と照らし合わせて確認することが不可欠です。

 

粉飾や異常値のサインが申告書側に出るケース

別表7(1)と決算書を突き合わせることで、会社の「見栄」や「粉飾」の兆候が浮き彫りになることがあります。

 

サイン1:決算書は「黒字・剰余金あり」なのに、申告書は巨額の欠損金

中小企業などでよく見られるのが、金融機関対策のために「資本準備金を取り崩して欠損填補を行った」ケースです。 会計上、資本剰余金で過去の繰越損失を相殺すると、貸借対照表の純資産は見栄えよくプラスに回復します。しかし、これは単なる資本取引の振替に過ぎず、税務上の繰越欠損金は一切減りません。決算書だけ見ると一見立ち直ったように見えても、別表7(1)を見ると過去10年間にわたる深刻な経営不振の歴史が克明に残っていることがわかります。

 

サイン2:使い切れずに「切捨て」が連続している

毎年のように欠損金が控除限度期限(10年)を迎えて切捨てられている会社は、構造的な収益力の低下(万年赤字、もしくは利益を出す力がない状態)に陥っています。M&Aのデューデリジェンスなどで「繰越欠損金が〇億円あるから買収後のタックスメリットが大きい」と評価されていても、買い手側に利益を稼ぐ力がなければ、ただの机上の空論に終わります。

 

まとめ:決算書と申告書、両輪で会社の実態を見る

決算書(P/LやB/S)は、あくまで会計基準に基づいて企業の経営成績と財政状態を表した「表の顔」です。それに対して法人税申告書の別表7(1)は、税法という客観的かつ厳格なルールのもとで、その会社が背負ってきた赤字の履歴と将来の納税予測を冷徹に映し出す「裏の顔」と言えます。

赤字を「単なるリスク」と捉えるのか、「キャッシュを守る武器」と捉えるのか。その分水嶺は、別表7(1)に記載された期限や控除限度額を読み解く力にかかっています。

決算書で当期の業績を把握し、申告書で将来の税負担とキャッシュの残存力を見極める。この「両輪の視点」を持つことこそが、経営分析や与信判断で失敗しないための確固たる防壁となるのです。


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