
第4回のテーマは、「業務の可視化」。クラウドシステムを使うことのもうひとつのメリットであり、経理業務を効率化するために欠かせない要素でもあります。監修いただいたのは、会計・経理のBPO(* )サービスを25年以上行っている、CSアカウンティング株式会社 代表取締役の中尾篤史さん。多くの会社の経理の現場を見てきた、「経理業務のプロ中のプロ」です。
* BPO……ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称。業務の一部または業務プロセスの全体を外部委託するアウトソーシング形態を指します。
経理業務の効率化と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
API連携によるシステム間のデータ連携や、AI-OCRを使った手入力の削減など、最新の技術を活用した業務効率化は多くの企業が取り組んでいるテーマです。
確かにこれらの技術は、経理業務を劇的に効率化し、重複作業や入力ミスを減らす上で非常に有効です。
しかし、システムを導入しただけでは、真の業務効率化は達成できません。なぜなら、システムを動かすのは人間だからです。
どんなに優れたシステムでも、人が適切なタイミングで使わなければ、その真価は発揮されません。今回は、クラウドシステムを導入することで得られる、もう一つの重要な効果「業務の可視化」についてお話しします。
これは、手待ち時間や業務のボトルネックを解消し、経理部門全体の生産性を向上させる上で見過ごされがちな、しかし極めて重要なポイントです。
クラウドシステム導入前の「見えないストレス」
クラウドシステムを導入する前の経理業務には、多くの「見えないストレス」が存在します。特に、業務の進捗状況が不透明なことは、大きな問題でした。
例えば、次のような事象は発生していないでしょうか?
- どこで止まっているか分からない待ち時間:
経費精算や請求書発行のフローを例に考えてみましょう。申請者は経費の精算を申請したものの、その後どこで承認が止まっているのか分かりません。
- 「言わなきゃいけない」上司のストレス:
経理担当者だけでなく、マネージャー層にとってもストレスは深刻です。部下の業務進捗が分からず、遅延が発生していないか常に気にかけなければなりません。
経理担当者も同様で、伝票の起票や承認が滞っている場合、誰が原因で業務が遅れているのか把握することが困難でした。
結局、担当者が個別にメールやチャットで「〇〇の件、まだですか?」と都度確認するしかなく、これが経理部門と他部署との間に摩擦を生む原因にもなります。
「まだやっていないのか?」と聞くこと自体がストレスであり、かといって何も言わずに放置すれば、期日までに業務が完了しないリスクが高まります。
確認された部下もプレッシャーを感じ、場合によっては人間関係が悪化することもありました。このように、業務進捗の不透明さは、社内のコミュニケーションや人間関係にまで悪影響を及ぼしていたのです。
クラウドシステム導入後の「見える化」でストレスを解消する
クラウドシステムを導入すると、こうした課題が解決します。業務の進捗状況がリアルタイムで可視化されるからです。
- 「誰が」業務を止めているかが一目瞭然に
クラウドシステムでは、ワークフローの各ステップで「誰が」「いつから」業務を止めているかが明確に表示されます。- 経費精算:申請者、承認者、経理担当者、最終承認者など、各ステップで誰がボールを持っているのかが分かります。
- 請求書発行:請求額の申請者、承認者、経理担当者など、それぞれの担当者がどこまで作業を進めているかが把握できます。
これにより、遅延が発生した場合でも、特定の個人に直接督促できるため、効率的かつスムーズなコミュニケーションが可能になります。「まだやってないですか?」といった曖昧な確認は不要になり、特定のタスクを依頼するだけで済みます。
「自走する組織」への変革

業務の進捗状況が可視化されることは、個人の評価にもつながります。作業のスピードや正確さが評価に反映されるようになると、社員は自然と自律的に行動するようになります。これは、経理業務に限った話ではありません。業務フローに関わるすべての社員が、自分のタスクをより早く、正確に完了させようと努力するようになるのです。 最終的な目標は、誰もが自律的に動く「自走する組織」を築くことです。そのためには、進捗状況の可視化に加え、早期完了者を評価する制度を設けるなど、社員が自ら進んで行動したくなるような仕組み作りも重要になってきます。
真の業務効率化は「人の働き方」を変えること
クラウドシステムの導入は、単なる作業効率化だけにとどまりません。API連携やAI-OCRといった目に見える効果はもちろん素晴らしいですが、それ以上に重要なのは、業務の進捗を可視化し、人の働き方を変革するという副次的な効果です。
業務のボトルネックが解消され、無駄な確認作業がなくなれば、社員はより本質的な業務に集中できます。経理担当者は単なる作業者ではなく、会社の経営状況を分析したり、より戦略的な視点で業務に取り組んだりする時間を確保できるようになるのです。
将来的には、AIエージェントが多くの定型業務を自律的にこなしてくれるようになるでしょう。しかし、その過渡期において、業務の「見える化」を活用して、組織全体で効率的な働き方を追求することが、これからの経理部門に求められる重要なスキルと言えるでしょう。
<シリーズ記事>
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「経理の実務Tips」集Vol.3 新リース会計適用前に税務調整に十分な備えをしておこう
「経理の実務Tips」集Vol.4 クラウドシステムの利用で業務の目詰まりがなくなる(本記事)
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