限られた人員で企業不正をどう防ぐか 専門家3名が語る企業不正の防止策

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「ダブルチェックが形骸化している」「特定の担当者に業務が集中している」──企業不正は、こうした日常業務の小さな隙から生まれます。

2026年9月8日・9日に開催されたセミナー『事例で分かる企業不正の実態とその防止策~限られた人員で企業を守る仕組みづくり~』では、書籍『従業員不正の防止と事後対応』の著者である専門家3名が登壇し、身近な不正事例をもとに、経理部門が担うべき不正防止の仕組みづくりについて語りました。本記事ではその要点を振り返ります。

【登壇者情報】
税理士法人メディア・エス
代表社員/公認会計士・税理士/税務会計研究学会理事
白土 英成 氏
税務会計研究学会理事・税理士法人メディア・エス代表社員。千葉県市川市にて平成元年公認会計士白土会計事務所開設。税理士登録。平成21年田口安克と税理士法人メディア・エス設立。主要著書「設例・図で見る役員給与の税務」(中央経済社)、「優しく分かる原価計算」(共著、日本実業出版社)、「会社解散・精算の実務」(共著、税務経理協会)、「従業員不正の防止と事後対応」(共著、税務経理協会)ほか

税理士法人メディア・エス
代表社員/公認会計士・税理士
田口 安克 氏
平成5年田口公認会計士事務所開設。平成21年税理士法人メディア・エス代表社員就任
2013年~2019年聖学院大学非常勤講師。2024年から大原大学院大学 会計研究科会計専攻 客員教授。主要著書「事業承継計画書から株式譲渡契約書、遺言書まで」(共著、日本実業出版社)、「優しく分かる原価計算」(共著、日本実業出版社)、「従業員不正の防止と事後対応」(共著、税務経理協会)ほか

社会保険労務士法人 タジマ事務所(市川事務所担当)
代表社員 / 特定社会保険労務士
田島 雅子 氏
大手百貨店の人事教育担当を経て、1998年に夫が経営する社労士事務所(千葉県市原市)を手伝うために退職。2002年に夫と共にタジマ社会保険労務士事務所を開設。翌2003年に、千葉県市川市の白土会計事務所(現・税理士法人メディア・エス)内に事務所を移転し2拠点で営業。2006年社会保険労務士法人タジマ事務所(市原本社と市川支店)に法人成りし、現在に至る。

なぜ今、経理が「不正」を学ぶべきなのか

千葉県市川市と東京に事務所を構える税理士法人メディア・エスには、近年、顧客や金融機関から不正に関する相談が多く寄せられているといいます。白土氏は、不正を「社内不正」と「経営者の不正(組織的不正)」に分け、社内不正には「従業員単独で行う不正」「従業員同士の共謀による不正」「従業員と会社外部の者との共謀による不正」の3パターンがあると整理しました。

白土氏:不正は、単に不正を行った人物だけの問題ではありません。不正をさせてしまった仕組みの問題が根底にあって、さらにその根底には組織風土、いわゆる社風があると感じています。そして、不正防止で最も重要な立場にいるのが経理担当者です。不正防止には経理の仕組みが重要で、その仕組みづくりは経理の仕事です。

不正の3つのパターンと、経理が不正を学ぶべき理由
不正の3つのパターンと、経理が不正を学ぶべき理由

経理担当者が持つべき4つの心得

白土氏は、経理担当者が日頃から持つべき心構えとして、次の4つを挙げました。

  1. 不正の不利益を徹底教育
  2. 情報コントロールと確認プロセス構築
  3. 広範囲な情報収集
  4. 小さなSOSのサインを感知

白土氏:不正は本人だけでなく、家族や紹介者、経営者まで不幸にしてしまいます。また、会計は事実の裏返しですから、社員の勤務態度や生活態度、交友関係といった情報も、実は経理に集まってくるんです。仲間の言動や服装、髪型に変化が表れたときは、本人からのちょっとしたSOSのサインかもしれない。そう感じ取ることが大切です。

経理担当者の心得
経理担当者の心得

不正はなぜ起きるのか──企業風土と「不正のトライアングル」

白土氏は、日本公認会計士協会の経営研究調査会研究資料第12号(※1)をもとに、上場会社等で会計不正を公表した会社数が増加傾向にあることを紹介しました。直近でも、上場企業グループによる架空の循環取引や、経営幹部による私的流用が相次いで報じられています。

※1:日本公認会計士協会『経営研究調査会研究資料第12号 上場会社等における会計不正の動向(2025年版)』(日本公認会計士協会、2025年)、https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-3-10-2-20250724.pdf(最終閲覧日:2026年10月26日)

── 会社や経営者による不正は、なぜ起きてしまうのでしょうか。

白土氏:経営トップの意向を幹部や現場が忖度して、不正に手を染めてしまう。ハラスメントも含めて、問題の本質はすべて企業風土、組織風土につながっています。動機として多いのは、業績プレッシャーの根底にある数字至上主義の風土です。数字を上げること自体は悪くありません。ただ、そこに不正ができてしまう環境が重なり、「会社を守るためのやむを得ない措置だった」と正当化してしまう。これが一番怖いんです。

さらに白土氏は、自身の監査経験から「経理部員や経理担当役員など、核となる人が辞めたときは要注意」とも指摘しました。

これを受けて田口氏は、ドナルド・R・クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」を解説しました。

田口氏:人は、不正を犯す「動機」を持ち、不正を犯せる「機会」を認識し、自らの行為を「正当化」できる理由を見いだしたときに、不正に踏み出します。借金の取り立てに追われるといった経済的要因や、職場の人間関係のストレスが動機になる。ルールが曖昧で、見ている人がいないことが機会を与えてしまう。この3つが同時にそろったとき、不正の発生リスクが高まります。

不正のトライアングルの具体例
不正のトライアングルの具体例

事例で学ぶ従業員不正と防止策

事例1:得意先から回収した売掛金を私的に流用

健康食品を扱うある会社で、営業担当者が、得意先から回収した売掛金を遊興費に充てていた事例です。ヒット商品で売上が大きく伸びる陰で、回収面は社内でも問題視されていませんでした。税務調査の反面調査で、得意先が認識している売掛金残高との差異が見つかり、約250万円の使い込みが判明しました。田口氏は、防止策として次の3つを挙げました。

  1. 売掛金残高確認書により、残高確認を行う
  2. 売掛金の回収は銀行振込
  3. 連番で領収書管理

田口氏:中間期末や決算期末に残高確認を定期的に行うのは有効ですし、営業担当への牽制にもなります。中小企業ではいまも現金回収が残っていますが、たとえ少額でも銀行振込を徹底することが大事です。現金で回収する場合は、市販品ではなく自社独自の領収書に連番を打ち、書き損じも必ず戻させて、勝手に破棄させないことですね。

なお、万が一不正が起きた場合の税務処理についても解説がありました。第三者からの損害賠償金は、法人税基本通達2-1-43により損失の計上時期と切り離して益金に算入できますが、この「他の者」に従業員は含まれません。従業員による横領の場合は、横領損失の損金算入と同時に損害賠償金収入を益金に計上する、両建ての処理になる点に注意が必要です。

事例2:馴染みの店の白紙領収書を使って架空の経費精算

営業成績のよい営業課長が、接待に使っていた店から白紙領収書を受け取り、架空の経費精算で着服していた事例です

白土氏:一番の問題は、売上成績がいい営業マンだからと、接待相手や内容を経理部も営業部長もまったくチェックしていなかったことです。厳格にチェックして、事前承認と事後報告を求める仕組みが必要です。

白土氏が挙げた防止策は、次の5つです。

  1. 事前承認体制の確立
  2. 特定の従業員による特定店の利用を禁止
  3. 接待の二次会・三次会を全面禁止
  4. 交際費の予算策定
  5. 仮払精算の期限短縮

白土氏:何のために誰と飲食をするのかを報告させ、承認を受けてから仮払金を渡し、速やかに精算させる。二次会、三次会も、やらないならやらないとルールを決めることです。その根底にあるのも、やはり組織風土なんです。

交通費・取引先との共謀・二重請求にも注意

このほか、営業担当者が私的な交通費を会社経費として精算していた事例、資材の発注担当者が仕入先と共謀して架空発注を行い、キックバックを受け取っていた事例、総務・経理を兼任する担当者が会社のクレジットカードで私物を購入し、経費を二重に請求していた事例が紹介されました。

対策として挙げられたのは、法人用ガソリンカードの導入と走行距離・給油量の整合性チェック、社用車の運行記録の管理、発注業務と検収業務の分離(職務分掌)、相見積もりの徹底、カード利用明細と領収書・納品書の突合、業務のローテーションなどです。いずれも「ルールを作り、それをチェックする仕組みを持つ」という点で共通しています。

経理部門内の不正と、労務面のリスク

── 経理担当者自身による不正は、どう防げばよいのでしょうか。
田口氏は、経理担当者はお金の流れを把握し、実際に動かす立場にあるため、不正が起きると金額が大きくなりやすいと指摘します。長年経理を一人で任されていたベテラン社員が、通帳と印鑑を一人で管理して少しずつ預金を引き出し、決算時には残高証明書を偽造していた事例も紹介されました。

田口氏:まず、預金通帳を管理する人と銀行印を管理する人を分けること。インターネットバンキングでも、データの作成者と最終承認者を必ず分けます。そして、社長や役員が、銀行から直接届く残高証明書の原本を確認すること。一人に経理業務を長く固定させない、税理士や会計士など外部のチェックを入れることも有効です。

人事労務の観点からは、田島氏がタイムカードの不正打刻や残業代の不正請求、日報への虚偽記載といった労務面の不正を取り上げました。

田島氏:紙のタイムカードや自己申告の日報から、PCのログやスマートフォンのGPSと連動したクラウド勤怠管理システムに切り替えて、客観的な記録を残すことが有効です。どういった行為が不正にあたり、どんな処分が下されるのかを、就業規則や懲戒規程で明文化しておくことも大切ですね。そして何より、相談窓口や定期的な面談を通じて、社員の異変に早く気づける風通しのよい職場をつくることです。

限られた人員で会社を守るには

「経理や総務に人を割けない」「職務分掌と言われても、担当者が1人か2人しかいない」。多くの中小企業が抱えるこうした悩みに対し、白土氏と田口氏はITツールやクラウドサービスの活用を挙げました。

白土氏:クラウド会計や経費精算システムを導入すれば、領収書の電子化や、クレジットカード・銀行口座との自動連携ができます。手入力によるミスや改ざんの余地をなくし、承認フローを可視化できるんです。

田口氏:承認履歴がすべてログとして残るので、誰がいつ申請し、誰が承認したのかが明確になります。権限設定を適切に行えば、少人数でも承認権限の分離をシステム上で実現できる。金融機関とのAPI連携を使えば、経営者が手元のスマートフォンで口座残高や入出金明細をリアルタイムに確認することもできます。

登壇者からのメッセージ

最後に、不正対策に取り組む経理担当者や経営者に向けて、3名からメッセージが寄せられました。

田島氏:不正を防ぐ仕組みは、社員を疑うためではなく、社員を不正の誘惑から守るためのものです。働きやすい環境と明確なルールを整えて、安心して働ける会社づくりを進めていただければと思います。

田口氏:「うちの会社は大丈夫」「長年いる社員だから信頼している」という油断が最も危険です。性善説に立ちながらも、仕組みとしては性悪説に立った客観的なチェック体制を整える。それが結果として、会社と社員の双方を守ることにつながります。

白土氏:不正対策は経理部門だけで完結するものではなく、経営トップの姿勢や組織風土と密接に関わっています。経理の皆さまは、数字の異常値や社員の小さなSOSに最初に気づける、非常に重要なポジションにいらっしゃいます。自信を持って仕組みづくりに取り組んでいただければと思います。

※本記事は、2026年9月8日に開催されたセミナー「事例で分かる企業不正の実態とその防止策~限られた人員で企業を守る仕組みづくり~」をもとに構成しています。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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