はじめての予算作成 ── “作るだけ”で終わらせない「使える予算」の基本的な考え方

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不慣れな方にとって、予算編成ほどつかみどころのない仕事もありません。

何日もかけて数字を積み上げ、修正を重ね、ようやく承認された予算。しかしこの数字でよかったのか、確信が持てない。あるいは翌月には、もう誰にも開かれなくなっている。

そうならないための道筋を示してくれるのは、公認会計士の福原 俊氏です。福原氏は、大手監査法人で監査に携わったのち、上場企業3社を経験し、その間、スタッフから経理部長・経営管理室長などの管理職を務めてきました。数字を「作る側」と「使う側」の両方を知る実務家が、「作って終わり」にしない予算の考え方と作り方を解説します。

0. なぜ予算を作るのか

「日々の業務で手いっぱいで、来年の数字を予測する余裕なんてない」
「どうせ作ったところで計画通りにいかないから、作る意味がないのでは?」
「言われたから毎年なんとなく数字を作っているけれど、正直なんのためにやっているのかよく分かっていない」

新たに経営企画部門に配属された方や、事業責任者・管理職になったばかりの方の中には、このように考える人も多いかもしれません。

たしかに、事業が順調な時期は、「売上を入れて、経費を払い、手元に残ったお金で翌月を迎える」という、いわゆる「成り行き経営」でも会社は回っていきます。しかし、原材料の高騰や人件費の上昇、急速な市場環境の変化が激しい現代において、成り行き経営の会社は予期せぬトラブルで一気に窮地に立たされるリスクを抱えています。

言い換えれば、予算を持たずに事業を動かすのは、「目的地への航海図やコンパスを持たずに、勘だけで海に出る」ようなものです。予算作成の最大の目的は、会社の将来を「成り行き任せ」にせず、目標とする未来へ確実にたどり着くための「作戦」を立てることにあります。

まず最初にお伝えしたいのは、「予算を作らない」というのも、経営における選択肢の一つであるということです。

事業が円滑に回っているうちは、無理に予算を作る必要はありません。予算作成に追われて目の前の本業がおろそかになっては本末転倒だからです。

しかし、「事業をさらに成長させたい」「社員が増えてきたので組織として目指すゴールを共有したい」「銀行からの信頼を高めて資金繰りを安定させたい」と考え始めた会社にとって、予算を作ると本当にたくさんのメリットがあります。

では、「予算」というのはいったいどのようなものなのでしょうか? ここから、予算の基本的な考え方から具体的な作り方、社内で活かすためのポイントまでをわかりやすく解説していきます。

1. 予算とは「こうなりたい」という会社の目標である

本記事では予算を「1年かけて到達したい数値目標」として扱います。

  • 予測(見込み): 「現状のままだとこうなるだろう」という単なる成り行きの予想
  • 予算(目標): 「会社をどこへ導きたいのか」「そのためにいくら稼ぎ、いくら使うのか」という経営者の意志を数値化したもの

予算とは、単なる「数字の予測」ではありません。目標を明確に数値化して初めて、「目指す姿」と「現状」とのギャップを客観的に認識し、手遅れになる前に適切な手を打つことが可能になります。目指す姿を数字にしておくことで、社内で共通のゴールを持てるようになります。

2. 作るかどうかは、会社と経営者次第

前述の通り、予算は絶対になければならないものではありません。感覚と経験でしっかり舵取りできている会社であれば、作らないのも立派な選択肢です。会社として目指すべき目標を数値として持っておく必要があるかどうかは経営者のタイプや会社の状況によって違います。まさに会社次第です。

ただし、「必要な場面」なのに作らないのはもったいないことです。資金繰りに不安があるとき、社員に組織としての目標を伝えたいとき、あるいは銀行から計画書の提出を求められたとき、予算は大きな力を発揮します。作る場合には、社内でも役立つ「使える形」にしておきましょう。

3. 予算を作るためには「月次決算」で会社の現状を把握することが大事

予算づくりを考えるうえで最も重要なのが「月次決算によって会社の現状を正確に把握すること」です。

どれだけ立派な予算を作っても、月次決算で「予算」と「実績」の対比(予実管理)ができなければ、その予算を作成した意味はまったくありません。

年に1回の年度決算だけの確認では会社の状況把握があまりにも遅すぎてしまい、予算と実績のズレに気づいたときには手遅れになってしまいます。

予算を「絵に描いた餅」にせず経営に活かすためには、毎月の成績をタイムリーに捉え、予算と実績を正しく対比するための「月次決算」が不可欠になります。ここで意識すべき実務のポイントが2つあります。

① 足元の状況を正確に早く、数字でつかむ

月次決算の精度を高め、なるべく早いタイミングで足元の業績を把握することです。そもそも現在地(今の数字)が正しく把握できていなければ、予算との対比すらできません。間違った数字をもとに予算を組んだり予実を比較したりしても、現場が混乱するだけです。

② 「発生主義」を取り入れて実態に合わせる

小規模な会社では、現金が入ってきたとき・出ていったときに記帳する「現金主義」になりがちです。しかし月次決算で予算と実績を正しく比較するには、業務の完了や請求書の発行ベースで売上を計上し、サービスを受けたときに費用を計上する「発生主義」を取り入れることが重要です。もし「いきなりすべての取引を発生主義にするのはハードルが高い」と感じる場合は、まずは売上や仕入などといった、事業の骨組みとなる重要な項目から優先的に発生主義へと切り替えていきましょう。徐々に範囲を広げていくことで、運用上の負担を抑えながら月次決算の精度を高めることができます。

「予算を作るためには、まず月次決算で会社の現状を正確に把握する」。そして毎月の月次決算で予算と実績を対比して初めて、予算は価値を持ちます。このステップを飛ばして使える予算は作れません。毎月の数字を正しく固めることが、すべての出発点となります。

4. 良い予算の条件は「頑張れば届く」水準

予算の金額は、次の2つのバランスで決めます。

  • ある程度の頑張り(ストレッチ)が必要であること
  • 現実的に達成可能であること

どれだけ頑張っても届かない数字は、最初から現場に諦められてしまい、目標として機能しません。逆に、簡単に達成できる数字では、努力するきっかけになりません。「少し背伸びすれば届く」くらいが理想のバランスです。

5. 最初に作るもの:予算損益計算書と「売上の細分化」

予算といっても、作成する書類にはいくつか種類があります。ほとんどの会社が最初に作るべきなのは、予算損益計算書です。

目標とする業績は「売上」と「利益」であることが多く、利益につながる費用の内訳を見るには損益計算書が最も適しているからです。

なお、「予算貸借対照表」や「資金繰り表」といった書類もありますが、これらはすべての会社で常に作成しなければならないわけではありません。資金繰りに少し不安がある場合など事前に確認しておきたい場合に限り、必要に応じて作成すれば十分です。

損益計算書を作成するうえで、最も工夫が必要なのが「売上」の捉え方です。売上をたった1つの科目(売上高)として一括りにしていると、売上アップのヒントが見えません。そのため、経営していくうえで重要な切り口で売上を細分化して管理することが大切です。

たとえば、以下のように売上を細分化してみます。

  • 顧客に注目した細分化(パレートの法則):「売上上位2割の顧客で売上金額の8割を占める」という偏り(2:8の法則)を意識し、新規と既存、あるいは業種やエリア別に売上を分けてみる。エリア別(東京と神奈川など)に分けておくと、どの地域の売上が伸びているかが一目でわかります。
  • 販売形態や販路別の細分化:事業によって利益率が異なる場合があります。売上の内訳を分けることで、どちらを伸ばせば利益につながるかという傾向が明確になります。

また、予算損益計算書に添える資料として、「売上の根拠(客数・単価など)や前提条件」を別にまとめておくことが一般的です。

6. 運用ルール:月次で、会計システムと同じ形式で作る

予算損益計算書は、必ず「月次(毎月)」で作りましょう。毎月の決算のたびに予算と実績をタイムリーに比べられるので、目標とのズレに早く気づき、軌道修正を図ることができます。

その際、会計システムから出力される月次推移表と同じ形式にしておくことを強くおすすめします。項目の並びや名称がそろっていれば、実績データを表計算ソフトで書き出して並べるだけで、予算と実績の対比(予実比較)ができます。対比の手間を限界まで減らすことが、継続のための大きなコツです。

7. 管理会計の出発点は常に「経営者目線」である

予算づくりでは、書式や会計システムの設定に気を取られがちです。しかし予算の管理をはじめとする管理会計業務でいちばん大切なのは、「経営者目線」です。

たとえば、予算が厳しくなると削減の検討対象になりやすい費用に、広告宣伝費・交際費・交通費があります。頭文字をとって「3K」とも呼ばれるこれらは、経営者の判断で増減しやすい科目です。これらは予算でも実績でも細かく分けて記録し、予算を立てた前提も用意しておくと、削るかどうかの判断材料として非常に役立ちます。

8. 予算を社内で活用するためのポイントと失敗対策

予算は作っただけでは意味がありません。社内で活用されて初めて価値を持ちます。

  • ① 予算の前提条件を資料化する(売上の根拠や変動費率の設定理由を明確にする)
  • ② 月次で予算と実績を比較する(対比して差異が出たら原因を分析し、翌月以降の行動に反映させる)
  • ③ 経営者などが数字を見る習慣を作る(数字を見る頻度を増やし、会社の現状把握を進める)

よくある3つの失敗パターンと対策

  1. 最初から完璧を求めすぎて挫折する

    • 対策:まずは売上高、主要な原価、人件費、家賃など、金額の大きな主要科目からざっくり作りましょう。
  2. 予算を作ったあとに使わない

    • 対策:毎月の月次決算が締まるタイミングで、必ず予算と実績を対比・確認する定例会議を仕組み化しましょう。
  3. 経営層だけで抱え込む

    • 対策:「なぜこの数字が必要なのか」「達成するとどんな良いことがあるのか」のストーリーを現場に伝えましょう。

まとめ:予算は“作ること”より“使うこと”が大事

予算は作ること自体が目的ではありません。

「月次決算で会社の現状を正確に把握し、会社の目標(経営者の意志)を明確にし、売上を細分化して傾向を掴んだうえで、月次で実績と対比し、現状とのギャップを埋める行動を修正する」
この一連の流れを回すための仕組みです。

予算を作っても、月次決算で実績と対比できなければ意味がありません。予算を作ったことがない会社でも、まずは月次決算の土台を整え、損益計算書の月次予算から始めれば十分です。予算は、会社の未来を描き、行動を導くための強力なツールです。ぜひ、自社の状況に合わせて無理なく取り入れてみてください。

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