100社超の実例から見えた早期化の要諦-決算早期化・武田雄治氏短期集中連載Vol.3

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前回は、経理部が目指すべき姿と、それを実現するための「仕組み」「意識改革」について確認しました。短期集中連載の最終回となる第3回では、視点を実践に寄せます。

「決算資料のフォルダを見れば、決算発表日がわかる」という武田雄治さんが、これまで上場企業100社以上の決算資料を見てきた経験から導き出した、決算早期化を実現している会社に共通する6つの特徴を解説していただきます。

<シリーズ記事>
Vol.1 そもそもなぜ決算早期化が求められるのか
Vol.2 なぜ経理部の進化が必要なのか
Vol.3 100社超の実例から見えた早期化の要諦(本記事)

【執筆者プロフィール】
武田 雄治

武田公認会計士事務所 代表
大手監査法人、東証上場企業の財務経理部門に勤務後、独立。「経理を変えれば会社は変わる!」の信念のもと、一貫して上場企業・上場準備企業の決算・開示支援を行い、決算早期化・IFRS導入支援の分野では第一人者と評される。ブログ『CFOのための最新情報』は月間のべ10万人以上が閲覧しており、ブロガーとしても有名。2023年に沖縄に移住。主な著書に、『決算早期化の実務マニュアル〈第3版〉』、『「経理」の本分』、『「社長」の本分』(いずれも中央経済社)など多数。

決算発表が早い会社の特徴とは?

これまでのコラムで述べてきたとおり、決算早期化(決算短信の30日以内開示)を実現している上場企業は10.2%しかありません(※)。
決算早期化を実現している会社には特徴(共通点)がありますし、決算発表が遅い会社には特徴(共通点)があります。
今回のコラムでは、決算早期化を実現させた会社の特徴を述べていきます。自社でできていないものがあれば、取り入れていくようにしましょう。

決算発表が早い会社の特徴

  1. 「森を見る視点」(業務全体を見渡す視点)を持っている
  2. 経理担当者への教育・指導・管理が徹底して行われている
  3. 決算業務が属人化していない(決算業務がマクドナルド化している)
  4. 決算資料がシンプルであり、分量が少なく、体系的に保管されている
  5. 財務分析を徹底して実施している(セルフ監査を実施している)
  6. 監査を理解し、監査に協力的である

※出典:株式会社日本取引所グループ「2026年3月期決算発表状況の集計結果について」『日本取引所グループ公式サイト』、2026年6月4日、https://www.jpx.co.jp/news/1023/20260604-01.html
(最終閲覧日:2026年9月25日)

1. 「森を見る視点」(業務全体を見渡す視点)を持っている

「決算早期化を実現した会社と、決算早期化が実現できない会社の最大の違いを1つ述べよ」といわれたら、決算担当者が「森を見る視点」(業務全体を見渡す視点)を持っているかどうかの違いだと断言できます。

決算発表が遅い会社は、「森を見る視点」が欠落しており、「枝を見る視点」になっています。つまり、単体担当者は単体決算だけにしか目が行かず、連結担当者は連結決算だけにしか目が行かず、開示担当者は開示業務にしか目が行っていません。決算担当者でありながら、自社の最終成果物を見たことがない人もいます。経理部内で「縦割り行政」が行われているため、業務の「手待ち」「手戻り」「重複」が生じ、決算の工数が増大します。

決算早期化を実現するためには、経理部全体、バックオフィス全体、会社全体、グループ全体を見渡す視点が欠かせません。また、最終成果物を理解し、開示から逆算して決算・開示業務を組み立てる視点も欠かせません。

2. 経理担当者への教育・指導・管理が徹底して行われている

決算早期化を実現している会社は、経理担当者に対して、きちんと教育し、直接指導し、適切に業務を管理しています。定期的に部内で勉強会をしている会社もあります。そのため、経理部員の能力、知識は総じて高いです。

一方で、決算発表が遅い会社は、それができていません。そのため、部課長クラスの一部のベテラン社員のみが決算・開示の知識を有しています。

前回のコラムで述べたとおり、経理部は「経営の中枢部門」であり、「経営の司令基地」にならなければなりません。そこをまず全経理部員が理解すべきです。

バックオフィス人材への教育に投資を惜しむ経営者が少なくありませんが、それでは経理部が進化することもなく、決算早期化を実現することもできません。

3. 決算業務が属人化していない(決算業務がマクドナルド化している)

決算早期化を実現している会社は、マクドナルドの店舗のオペレーションのように、パートタイマーでも業務を回すことができるくらいに決算業務がシンプルです(これを私は「決算業務のマクドナルド化」といっています)。

一方で、決算発表が遅い会社は、適切な業務分担がされておらず、部課長クラスの一部のベテラン社員に業務が過度に集中しています(もしくは業務を抱えています)。つまり、決算業務が属人化しています。

一部の決算担当者が業務を握りしめたくなる気持ちは理解できますが、これは、いわゆる「自分がやったほうが早い病」です。決算業務が「属人化」している会社は例外なく決算発表が遅く、その属人化こそが決算発表遅延のボトルネックでもあります。

決算業務が「属人化」している会社は、「脱属人化」「標準化」「シンプル化」「単純作業化」を目指さなければなりません。「決算・開示はベテランの業務」「若い者には任せられない」という考えは思い込みです。決算早期化を実現している会社は、若手社員やパートタイマーが決算業務を担っており、経理部長が率先して決算をやることはありません。

4. 決算資料がシンプルであり、分量が少なく、体系的に保管されている

決算早期化を実現している会社は、決算資料がシンプルであり、分量が少なく、体系的に保管されています。一方で、決算発表が遅い会社は、その逆で、決算資料が複雑で、分量が多く、体系的に保管されていません。

私は、これまで上場企業100社以上の決算資料を閲覧・分析してきたため、決算資料や共有フォルダを見ただけで、その会社のおおよその決算発表日を当てることができます。決算発表が遅い会社の多くは、決算資料も共有フォルダも「ぐちゃぐちゃ」「めちゃくちゃ」のカオス状態になっています。

決算資料がカオス状態になるのは、経理部員の全員が「森を見る視点」を持っていないためです。最終成果物から逆算して必要な決算資料だけを作成すれば、それほど多くの資料を作成する必要はないはずですが、「枝を見る視点」になっているため、各担当者が属人的に好き勝手に資料を作り、似たような資料が増殖していくのです。資料が増えれば、決算の工数も監査の工数も増えます。これが決算発表を遅らせているのです。
決算早期化を実現するためには、決算資料を極限までシンプルにし、極限まで分量を減らすべきです。資料の数を減らせれば、決算の工数も減らすことができます。

5. 財務分析を徹底して実施している(セルフ監査を実施している)

決算早期化を実現している会社は、財務分析を徹底して行っています。また、圧倒的な決算早期化を実現させている会社は、「セルフ監査」を実施しているというレベルまで異常点発見のための分析を実施しています。一方で、決算発表が遅い会社は、財務分析をやっていません(やっていても、分析が甘いと言わざるを得ません)。財務分析は監査法人(もしくは他部署)がやるものだと思っている会社すらありますが、前回のコラムでも述べたとおり、財務分析は決算業務のひとつです。

財務分析を実施していない会社が、今後財務分析を実施すると、工数が増えると思われるかもしれませんが、そうではありません。これまで財務分析を実施していない(もしくは、分析が甘い)から、開示業務の工数だけでなく、監査業務の工数まで膨れ上がるのです。

決算の最終ゴールは、単体試算表や連結精算表を完成させることではなく、各利害関係者に対して価値ある情報をタイムリーに提供・報告することです。そのためには、財務分析を実施し、分析結果を言語化し、それを開示資料にまとめ、開示しなければなりません。財務分析をせずに、どうやって価値ある情報を利害関係者に開示することができるのでしょうか。

6. 監査を理解し、監査に協力的である

上場企業であっても、「監査がしやすい会社」と「監査がしづらい会社」があります。当然、前者は監査がスムーズに終わりますが、後者は時間がかかります。もちろん、前者は決算発表が早い会社で、後者は決算発表が遅い会社です。

「監査がしやすい会社」とは、①期末監査の初日に必要な資料がすべてそろっていること、②第三者(監査法人)が資料を見てわかること、③会社側である程度のリスク評価を行い、全勘定科目の財務分析を(セルフ監査といえるレベルまで)実施していること、④分析結果がドキュメント化されていること、⑤大きな変動やリスクがあるものなどは、そのエビデンス(証憑類のコピーなど)もあらかじめ用意されていること、などをきちんとやっている会社をいいます。

ここまでやっていると、監査法人から資料提出依頼をすることも、質問をすることもなく、監査工数を削減することができます。

一方で、「監査がしづらい会社」は、上述したようなことができていません。そのため、資料提出依頼も質問も多く、監査の工数が増えるのです。

決算早期化を実現させるためには、監査を丸投げするのではなく、監査のことを理解し、「監査の受け方」を変えるべきです。

<シリーズ記事>
Vol.1 そもそもなぜ決算早期化が求められるのか
Vol.2 なぜ経理部の進化が必要なのか
Vol.3 100社超の実例から見えた早期化の要諦(本記事)

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