なぜ経理部の進化が必要なのか―決算早期化・武田雄治氏短期集中連載Vol.2

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前回の記事では、「なぜ決算早期化が求められるのか」という大前提を確認しました。第2回では、これを受けて、決算早期化を実現するための「ポイント」と、経理部が目指すべき姿を探ります。

武田雄治さんは、決算早期化を実現している企業とそうでない企業の分かれ目を、経理部が「どこを見ているか」の一点に見出します。

<シリーズ記事>
Vol.1 そもそもなぜ決算早期化が求められるのか
Vol.2 なぜ経理部の進化が必要なのか(本記事)
Vol.3 100社超の実例から見えた早期化の要諦

【執筆者プロフィール】
武田 雄治

武田公認会計士事務所 代表
大手監査法人、東証上場企業の財務経理部門に勤務後、独立。「経理を変えれば会社は変わる!」の信念のもと、一貫して上場企業・上場準備企業の決算・開示支援を行い、決算早期化・IFRS導入支援の分野では第一人者と評される。ブログ『CFOのための最新情報』は月間のべ10万人以上が閲覧しており、ブロガーとしても有名。2023年に沖縄に移住。主な著書に、『決算早期化の実務マニュアル〈第3版〉』、『「経理」の本分』、『「社長」の本分』(いずれも中央経済社)など多数。

経理部は進化する―「情報製造業」から「情報サービス業」へ

第1回のコラムでも述べましたが、経理部は「倉庫業のように」情報をストックすることが仕事ではなく、「製造業のように」付加価値ある情報を生み出し、各利害関係者(特に経営者と投資家)に対して、価値ある情報をタイムリーに提供・報告しなければなりません。

私は、情報をストックして終わっている経理部を「情報倉庫業」(の経理部)、付加価値ある情報をタイムリーに発信している経理部を「情報製造業」(の経理部)と呼んでいます。経理部は、「情報製造業」へと進化させなければなりません。

しかし、経理部は価値ある情報をタイムリーに開示できさえすればいいのでしょうか。もちろん、違います。経理部は、単に「事実」を発信するだけではなく、数字を分析し、その数字の背景にある「真実」をも発信しなければなりません。経営者や投資家が知りたい情報は、「当期の利益は10億円だった」という単なる事実ではなく、「なぜ10億円だったのか」、「なぜもっと利益を出せなかったのか」、「来期の利益はどうなるのか」といった、数字の裏に隠れた真実です。さらに、社会・経済、業界、会社でどのような動きがあったのか、会社の将来性や問題点は何か、潜在的リスクは何か、といった情報も利害関係者は求めています。

つまり、経理部は「情報製造業」にとどまってはいけないのです。本来の経理部は、データを分析し、解読し、それを伝達していく役割も担っています。そのような経理部は、新たな価値を創出したり、企業価値を高めたり、経営のサポートをしたりする「経営の中枢部門」であり、「経営の司令基地」でもあるのです。ここまで進化した経理部を、私は「情報サービス業」(の経理部)と呼んでいます。
経理部は、「情報製造業」のその先の「情報サービス業」にまで進化させなければなりません。各利害関係者に対してサービスを提供する「情報サービス業」に進化した経理部が、「真の経理部」であり、「強い経理部」なのです。

【図表】経理部の3つの段階の進化のプロセス
【図表】経理部の3つの段階の進化のプロセス

決算早期化・効率化のポイント―「森」を見る視点を持つこと

経理部が「情報倉庫業」から「情報製造業」へ、さらに「情報サービス業」へと進化すると、業務範囲は広がります。すると、ますます決算が遅延するように思われるかもしれません。

しかし、決算早期化(決算短信の30日以内開示)を実現している企業の経理部は「情報サービス業」へと進化しています。他方で、決算発表が極端に遅い企業の経理部は「情報倉庫業」にとどまっています。一見矛盾するようなことが、なぜおこっているのでしょうか。

それは、経理部(員)の見ている場所が違うからです。「情報サービス業」にまで進化している経理部(員)は、決算短信を作成・発表することが決算の最終ゴール(主たる業務)と思っていません。他方で、決算発表が極端に遅い企業の経理部(員)は、決算短信を作成・発表することが決算の最終ゴールかのような働き方をしています。

「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という「パーキンソンの法則」のとおり、決算短信を45日目に発表することが最終ゴールになっていると、与えられた時間(決算日から45日間)いっぱいに、決算短信を作成するための仕事が膨張します。しかし、「情報サービス業」にまで進化している経理部は、45日かけて決算短信を作成すればよいと思っていません。決算の速報値はできるだけ早く経営者に伝え、決算短信もできるだけ早く公表し、その先にやるべきことをやっているのです。

つまり、決算を早期化・効率化させるために必要なことは、決算短信作成・発表という「枝」を見るのではなく、経理部の業務全体を見渡す「森」を見る視点を持つことがポイントになります。

【図表】経理のあり方と決算早期化の関係
【図表】経理のあり方と決算早期化の関係

決算早期化を実現する「経理の仕組み」―経理部の主たる6つの業務

経理部を「情報サービス業」へと進化させるには、①経理部のあるべき「仕組み」を構築し、②社長、CFO、経理部長、経理部員、すべての方の「意識改革」をしなければなりません。まずは、「経理の仕組み」について説明します。

経理部には、下図に示しているとおり、「主たる6つの業務」があります。

【図表】経理部の主たる6つの業務
【図表】経理部の主たる6つの業務

見てのとおり、私は、振込、入金消込、経費精算等を日常業務に入れていませんし、試算表作成を決算業務に入れていません。それらの業務を、経理部の主たる業務とは思っていないからです。

決算業務は、試算表完成後から本格化するものです。それがここで示している「アウトプット業務」「分析業務」「開示業務」です。これらの業務は、別個独立したものではなく、1つのベルトコンベアでつながった業務です。つまり、アウトプット業務(決算・監査資料作成)を行うと同時に、分析業務(財務分析の実施)を行い、さらに同時に開示業務(開示資料作成)まで完成させなければなりません。最終成果物である決算短信や有価証券報告書から逆算して、「アウトプット業務」や「分析業務」を同時に行える標準テンプレートを作成すれば、これら3つの業務を同時に行うことが可能になります。これが、ここでいうところの「経理の仕組み」です。

決算発表が遅い会社は、この「経理の仕組み」が構築されていません。たとえば、アウトプット業務を行っても、開示の視点が抜けており、開示資料作成に極端に時間を要したり、分析業務が不十分であるために、会計監査に極端に時間を要したり、ディスクロージャーに手が回らなかったりという非効率を繰り返しています。

経理部を進化させるための意識改革

ここまで述べたような経理部のあるべき「仕組み」を構築するということは、「経理部そのものを見直す」ことでもあります。社長、CFO、経理部長、経理部員、すべての方の「意識改革」が必要です。

社長、CFOは、まず、経理部を「経営の中枢部門」、「経営の司令基地」と位置づけ、「情報サービス業」に進化させなければならないという意識改革が必要です。上場企業の社長であっても、経理部を含むバックオフィスへの変革や投資を渋る人が少なくありませんが、その考えでは、どれほど優秀な経理部長がいても、経理部が進化することはありません。CFOは、経理部のあるべき姿・役割を理解し、社長と経理部長の調整役になるべきです。

経理部長は、経理や決算に特別な思いを持っている人が多く、決算業務を握りしめていることがあります。そのような企業は、決算が属人化し、人材が育たず、決算発表が遅いという共通点があります。企業全体の中で、経理部が何を求められているのか、そのために経理部長は何をしなければならないのかを自らに問うべきです。決算を率先して行うのが経理部長の仕事ではないという意識改革が必要です。

経理部員は、経理部が仕訳や決算だけをやる部署ではなく、「経営の中枢部門」、「経営の司令基地」であるということを理解しましょう。経営者や投資家から「ありがとう」といわれる仕事をしていかなければなりません。そのためには、会社の数字を最もよく理解している経理部が、データを分析し、経営の過去・現在・未来の「ストーリー」を作り、ストーリーの語り部となって、伝達していかなければなりません。まずは、経理部長、さらには、CFOや社長に、期待される以上の情報を伝えていくことからはじめましょう。 

経理部が進化すれば、経営者や投資家からも感謝され、場合によっては経営者を動かすこともでき、ひいては、会社や社会も動かすことができます。こんなやりがいのある面白い仕事はないと思います。
経理部が、「真の経理部」「強い経理部」に進化したとき、結果として決算早期化は実現しているはずです。

<シリーズ記事>
Vol.1 そもそもなぜ決算早期化が求められるのか
Vol.2 なぜ経理部の進化が必要なのか(本記事)
Vol.3 100社超の実例から見えた早期化の要諦

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