内部統制の陥りがちな6つの罠と解決策―ポイントを掴んだ内部統制で企業を守る

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内部統制を構築したものの、「現場の業務負荷がむしろ増えてしまった」「仕組みを整えたはずなのに、いつの間にか形骸化してしまっている」といった悩みを抱える企業は少なくない。

過去に当社が開催したセミナー「内部統制の陥りがちな罠とその解決策~ポイントを掴んだ内部統制で企業を守る~」では、当社執行役員 グループCAOの松岡俊が、実務で陥りがちな内部統制の6つの罠と、適正な内部統制を構築するための4つの実務ポイントを解説した。本記事ではその要点を振り返る。

【登壇者情報】
株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO(Chief Accounting Officer) 公認会計士
松岡 俊

1998年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応プロジェクト等に携わる。英国において約5年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019年4月より当社参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験(2020年登録)に合格。

そもそも内部統制は何のために必要なのか

セミナーの冒頭では、事前アンケートの結果が共有された。「現場の業務負荷が多くなっている」「形骸化してしまっている」という声が目立ち、内部統制の構築・運用に課題を抱える企業の多さがうかがえる。

内部統制に関するアンケート結果
内部統制に関するアンケート結果

松岡は、内部統制を「組織における業務上のリスクに対応するための決まり事を設け、それに基づいて業務を行っていくプロセス」と定義する。内部統制には「業務の有効性及び効率性」「報告の信頼性」「事業活動に関わる法令などの遵守」「資産の保全」という4つの目的があり、J-SOX(内部統制報告制度)が対象とするのはこのうち「報告の信頼性」に限られる。一方、資産の保全などの目的は上場・非上場を問わず取り組むべきものであり、内部統制は上場企業だけに必要なものではないという。

内部統制は「上場企業にだけ必要」と捉えられがちですが、ざっくり言うと、組織において業務の支障になるようなリスクに対応するために設ける決まり事やルールのことです。そのルールに従って組織の中の人が業務を行っていくプロセス全般を指しています。これは上場企業でなくても、会社として当然やらなきゃいけないことだと思うんですよね。

どんなに気を付けても、会計処理などで担当者が誤った方向に進んでしまうなどのミスが起こることは避けられない。内部統制が機能していれば早期に気付き、軌道修正を図ることができると松岡は強調する。

もし内部統制が全くなかったとしたら、実際の処理と本来の処理のギャップが、ミスに気づかないままどんどん拡大してしまいます。社内で本格的な謝罪が必要なレベルや、場合によっては対外的に影響が出るレベルにまで発展し、修正にも膨大な時間がかかってしまう。こういった報告に関する信頼性を担保する内部統制は、J-SOXの有無や上場・非上場にかかわらず、企業として、そして自分自身の身を守るためにも持っておくべき統制なんです。
「正しい処理」と「実際の処理」のギャップを内部統制によって軌道修正
「正しい処理」と「実際の処理」のギャップを内部統制によって軌道修正

上場企業の場合、これに加えて文書化による「見える化」と監査が求められる。この対応において、様々な実務上の課題が発生しがちだと松岡は説明する。

内部統制の陥りがちな6つの罠

松岡は、実務において陥りがちな6つの失敗パターン(罠)とその問題点を挙げている。

1. やっていないことを書いてしまう

J-SOX対応の趣旨を十分理解しないまま文書作成を進めると、実態と異なる「あるべき姿」を記載してしまうことがある。

「実際はやっていないんだけど、本来はこうあるべきだから」と、やっていないことを書いてしまうことが実務では意外と起きます。作成担当者が趣旨を理解せずに進めると起きがちな罠です。いざ監査の際に「こういうことやってるって書いてあるのに実際やってないじゃないか」となると、不備としてバツがついてしまいます。

2. リスクを大量にピックアップしすぎる

担当者が業務に詳しいあまり、細かなリスクまで次々と文書に追加してしまうケースがある。

リスクを細かく出しすぎてJ-SOX関連文書をどんどん追加してしまう、これもありがちです。「私はこのプロセスに詳しくて、こういうリスクも把握してるぞ」と細かいところまで書いてしまうと、あとで痛い目に遭います。J-SOX対応は毎年続く監査なので、こうした工数の積み上げが一種の「負債」になってしまうんですね。本当に必要なものだけに絞り込むことが、実務ではものすごく重要です。

3. 監査法人からのスコープ拡大提案を安易に受け入れてしまう

監査法人からの「閾値は超えていませんが、念のためこのグループ会社もJ-SOX対象に入れますか?」といった提案を十分な議論なしに受け入れると、監査費用が大幅に増加してしまう。

監査法人からの「監査対象のスコープを拡大しましょう」という提案を、安易に受け入れてしまいがちです。とくに深い議論もせずに追加してしまうと、当然ながら監査費用も大幅に増加してしまいます。本当に必要なのかどうか、監査法人としっかりと議論し確認することが非常に重要です。

4. 何でも上長が確認・承認するというコントロールになりがち

紙やハンコによる承認は形骸化しやすく、上長の目視に頼る統制には限界がある。

何でも上長が承認するというコントロールになりがちという点です。紙とハンコの場合、面倒だからと課長に任せきりになったり、ハンコの押し忘れが起きたりと、形骸化しがちです。「何でもかんでも上長に目視で承認させる」という統制一本足打法にはそもそも限界があります。人間がやることなので、すべての間違いを見つけ出すのは難しいですよね。

5. プロセスが標準化されておらず、複雑で文書化が難しい

企業の成長に伴い、グループ会社や事業部が増える過程でシステムやプロセスがバラバラのままだと、文書化の負担が急増する。

企業の成長に伴ってグループ会社が増えていくと、システムや体制、プロセスがバラバラになりがちです。そうなると、当然バラバラなプロセスごとに個別の文書を書かなくてはならず、J-SOX文書全体が膨れ上がってしまいます。対策として、プロセスを標準化して全社で同じやり方に統一できれば、J-SOX文書の記載を大幅に削減できるので非常に有効です。

6. J-SOX文書作成後に期末直前でプロセス変更してしまう

期末直前のプロセス変更は、監査の時間的余裕を奪うため避けるべきである。一方で、「文書があるから改善しない」という考え方も本末転倒である。

実務上ありがちなのが、J-SOX文書を作成し終わった期末直前にプロセスを大幅に変えてしまうことです。期末ギリギリに変更されると、監査を終える時間的余裕が一気になくなってしまいます。一方で「J-SOX文書があるから業務改善を一切しない」と捉えられてしまうのも本末転倒です。事前に監査法人や内部監査としっかりコミュニケーションをとり、「このタイミングなら大丈夫」とすり合わせたうえで柔軟に変えていくべきだと思います。

適正な内部統制を構築するための4つの実務的ポイント

これらの罠を回避し、実効性のある内部統制を構築するための4つのポイントを松岡は解説する。

ポイント1:ITで統制を構築することをまず考える

手作業でのシステム間連携はステップが増えるほどリスクポイントも増えるため、API連携などのIT統制を優先的に検討することが推奨される。

まずITで統制を構築できないかを考えることです。データを手作業でダウンロードし、表計算ソフトで加工して別システムにアップロードするような手順だと、ステップが多い分リスクポイントも増え、結果としてJ-SOX文書の記載も膨らんでしまいます。できるだけフローをシステムで設定してしまえば、勝手に手順を変えられることもありません。「システム上の想定通りに操作しないと前に進まない」という型にはめることで、デザインされた内部統制が確実に実行されていくことになります。
システム連携によりRCMの記載量を減少させた例
システム連携によりRCMの記載量を減少させた例

ポイント2:費用対効果を考えた統制デザイン

すべての業務を厳密に統制するのではなく、重要度に応じたメリハリが必要であるという。金額に応じて承認者数を変えたり、少額で大量に発生する経費精算はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を活用したりする方法が有効である。

内部統制は車のブレーキのようなものです。ずっと踏みっぱなしでは前に進めませんが、かけなければ事故を起こしてしまいます。費用対効果やバランスを考えたデザイン(設計)が重要で、具体的には「重要でない部分は軽くし、本当に重要な部分にはしっかりリソースをかける」というメリハリをつけることが大切です。
金額に応じて承認者数を変える分岐ルール例
金額に応じて承認者数を変える分岐ルール例

ポイント3:色々なタイプの内部統制を組み合わせる

上長のチェックに依存するだけでなく、システムで事前に入力ミスを防ぐ「予防的統制」や、事後に増減分析などでエラーを見つける「発見的統制」を組み合わせることが重要である。

上長がスーパーマンならいいのですが、どうしても個人のチェック能力に依存してしまいます。見落としたら即エラーというのは怖いですよね。だからこそ、システムによる「予防的統制」や、事後的な「発見的統制」など、複数の網を重ねて用意しておくことをおすすめします。
アラートの設定やオートメーションによる予防的統制の例
アラートの設定やオートメーションによる予防的統制の例
当社でおこなっている発見的統制の例
当社でおこなっている発見的統制の例

ポイント4:監査の効果的な実施とそのフィードバックの活用

監査法人や内部監査との協力体制を整え、監査をスムーズに進める工夫が求められる。

監査をスムーズに進めてもらうために、協力体制をしっかり組むことが重要です。それが結果的に監査コストの削減にも繋がります。当社では主要な会計系システムについて監査用IDを用意し、証憑を保管しているオンラインストレージも監査法人に開示するなど、フルオープンな体制を敷いています。

また、監査が終わったら終わりではなく、しっかりと反省会を開いてフィードバックを活用し、改善点があれば継続してコントロールを見直していくことが欠かせません。

ちょうどいい内部統制になっているかの見極め方

自社の内部統制が適切に機能しているか、どう見極めればよいのだろうか。松岡は以下のように見解を述べる。

シンプルに言えば「財務会計でエラーが起きていない」ということだと思います。J-SOX監査をパスして形式的に整っていても、実際の処理で大きなエラーが発生してしまえば、結局は内部統制に「不備があった」という評価になってしまいます。文書を埋めることにとらわれず、「どうすればこのエラーを本当に防止できるのか」をメンバー全員で真剣に考え、より有効なコントロールへと継続的に改善し続ける姿勢が重要だと考えています。

まとめ:自社を守るための内部統制へ

松岡は最後に、内部統制は監査のために仕方なく行うものではなく、自社を守りエラーを防ぐための仕組みであると強調する。手作業や人に依存する統制からITを活用した統制へとシフトし、関係各所とのコミュニケーションを密にしながら継続してブラッシュアップしていくことが、適正な内部統制への近道と言える。

  1. 紙・ハンコ・表計算ソフトの手作業より、IT(クラウド)を優先する
  2. 内部監査、監査法人、事業部とのコミュニケーションを重視する
  3. 内部統制を継続してブラッシュアップし続ける

内部統制は、J-SOXの有無や上場・非上場に関わらず、企業が自らを守るために本来備えておくべき仕組みである。最初から完璧な内部統制は存在しないという前提のもとで、フィードバックを受けて改善を重ねていくことが、実務担当者に求められる姿勢だといえる。

※本記事は、2025年2月19日に開催されたセミナー「内部統制の陥りがちな罠とその解決策~ポイントを掴んだ内部統制で企業を守る~」をもとに構成しています。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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