残業65%減を実現!マネーフォワード経理が実践した「脱・属人化」のリアル

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「この業務は自分にしか分からない」──経理部門に根強く残るこの状態は、業務効率を下げるだけでなく、不正リスクや人材流出の温床にもなりうる。

過去に当社にて開催したセミナー「”経理的” 脱・属人化のための課題と解決策 -業務標準化で残業時間65%も削減できた話-」では、当社執行役員 グループCAOの松岡俊が登壇し、自社経理部門が属人化から脱却し、残業時間を65%削減、月次決算を6営業日短縮した実践知を語った。本記事ではその要点を振り返る。

【登壇者情報】
株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO(Chief Accounting Officer) 公認会計士
松岡 俊

1998年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応プロジェクト等に携わる。英国において約5年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019年4月より当社参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験(2020年登録)に合格。

なぜ経理は属人化しやすいのか

── まず「属人化」とは、どのような状態を指すのでしょうか。

特定業務に関する手順や状況の情報が担当者の頭の中にしかなく、周囲に共有できていない状態を指します。属人化はどの部門でも起こりますが、特に経理は職人気質・保守的な体質から起こりやすい部門です。表計算ソフトに長けた人が、複雑な関数やマクロを駆使したシートを大量に作り込んでいる状況もよく見られます。
“経理的”属人化が起こる背景

── 属人化に陥りやすい業務領域はどこにあるのでしょうか。

開示資料作成や連結会計、申告書作成など専門性の高い業務は特定の担当者に依存しがちです。領収書請求書処理やシステム間の手作業でのデータ連携、売上仕訳なども、特有のノウハウや表計算ソフトの多用により属人化リスクが高い領域です。

属人化がもたらす6つの問題点

松岡は、属人化が引き起こす問題として6点を挙げる。

1. 業務改善が難しくなる

業務改善の基本は「現状把握」です。属人化していると業務プロセスが他者に共有されず、効率的かどうか客観的に判断できません。担当者自身も現在のやり方に自信を持っているため、改善の必要性を感じていないケースが多いのです。

2. 知識が組織に蓄積しない

野中郁次郎先生のSECIモデルではナレッジマネジメントの考え方として、暗黙知を他者に移転する「共同化」、言葉や文書にする「表出化」、新たな知識を生む「連結化」、体得する「内面化」というサイクルで組織の知識が発展します。属人化している組織では、この暗黙知が個人の中に閉じ込められ、サイクルが回っていきません。

3. 他のメンバーがサポートできない

その人にしか分からない業務のため、体調不良や急な休暇があっても誰もカバーできません。結果として有給休暇や育児休暇も取りにくくなります。

4. 不正リスクが高まる

属人化があると不正の機会が増えてしまいます。近年、あるスポーツ選手の資金管理を巡り、担当者一人に情報が集中していたことが要因となった不正事件が大きく報道されました。同様のリスクは企業の資金管理にも当てはまります。

5. ノウハウが失われる

特定の担当者が退職すると、ノウハウが失われます。頭の中にしかノウハウがない場合、後任の担当者は何を聞けばいいのかすら分からず、時間だけが過ぎてしまいがちです。

6. 品質が一定しない

業務のルールが担当者の頭の中にしかない場合、同じ処理でも担当者によって対応が異なります。例えばAさんは経費精算をOKとしたのに、Bさんは同じ内容をNGとする、といった状況です。業務品質が一定しないと、社内外からの信頼も損なわれます。

マネーフォワード流「脱・属人化」の4つの取り組み

── どうすれば属人化から脱却できるのでしょうか。

バックオフィス業務は年々複雑化し、属人化が進みがちです。脱却には業務の徹底した標準化が必要で、ポイントは3つ。①情報を文書化・明文化し共有する組織文化をつくること、②クラウドツールを活用すること、③最終的にBPO(業務のアウトソース)を検討することです。

マネーフォワードも、2019年頃はこの3点とは正反対の状態にあった。外部開示資料や税務申告書はほぼ1名で作成し、ノウハウは担当者の頭の中にしかなかった。経費精算や請求書処理も承認ルールが明文化されておらず、対応にばらつきがあった。当時(2018年7〜12月)の経理部門の平均残業時間は月63.3時間に達し、平均有給取得日数は月0.25日と低い水準にあったという。

自社サービスを使いこなせていなかった頃の数値
自社サービスを使いこなせていなかった頃の数値

取り組み①:共有する文化づくり

会社全体のMVVC(ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー)を経理本部レベルにも落とし込み、2019年後半頃から組織カルチャーを定義しました。自社サービスを利用してフィードバックを行い、サービス向上に貢献することを経理本部のミッションと定義し、情報を文書化・共有し合う文化も定義しました。
行動指針に「ナレッジの文書化・共有」を明記し、社内SNSツールをその土台として位置づけました。さらに文書化・共有の行動を人事評価にも反映し、担当者レベルでも自分のプロセスを文書化する文化が根付いていきました。

取り組み②:属人化を排除する組織体制への改革

グループ会社共通でプロセス標準化に責任を持つ「プロセスオーナー」を設置し、特定の会社でスモールスタートした成功パターンを他のグループ会社に横展開する体制を取っています。現在、国内グループ会社20数社を同じ会計システム(マネーフォワード クラウド会計Plus)で統一し、経理本部がシェアードサービスとして一括受託しています。

取り組み③:クラウドツールの活用

クラウドツールは複数人が同時にソフトウェアを共有・編集できる点が大きな特徴です。当社では以前Microsoft Excelが中心で、共同作業が難しく大きな事故につながったこともありました。まずはGoogleスプレッドシートに統一し、リアルタイムでの共有・連携ができる形にしました。
※編集注:現在はMicrosoft 365の機能を活用することでMicrosoft Excelでも共同編集が可能です。

バックオフィス周りのシステムも、2020年頃から優先度をつけて段階的にクラウド化しました。特に手作業がボトルネックだった請求書の受け取り・支払業務を最優先に改善し、会計システムのリプレイスや予算管理の改善、クラウド給与計算システムの導入、消込業務の改善、経費精算のBPO導入、開示資料の自動化などを進めました。各システムをAPIでデータ連携する形に切り替え、給与計算も含めてクラウド化した結果、現在はボタン一つで会計システムと給与計算システムの連携仕訳が自動化されています。

優先度をつけて段階的にクラウド化を推進
優先度をつけて段階的にクラウド化を推進
クラウドシステムはカスタマイズの自由度が低い分、全ユーザーが同じバージョンを使います。カスタマイズ可能なオンプレミスシステムは、バージョンの違いや個別のカスタマイズによって操作方法に差が生じることがあります。一方、クラウドシステムは操作方法が統一されているため、新入社員でもすぐに業務を習得できます。機能が定期的にアップデートされる点も、新しい法制度への迅速な対応につながっています。

取り組み④:BPOの活用

クラウドシステムは一つのバージョンしかないため、BPO(外部の専門業者に業務を委託)しやすくなります。特にクラウドシステムを提供するベンダー自身がBPOも提供している場合、システムに精通した担当者が対応してくれるため、大幅なコスト削減が見込めます。

当社でも、以前は経費精算の経理承認を2名で月初に処理していましたが、ルールは担当者の頭の中にしかありませんでした。科目ごとの承認ルールを文書化し、誰でも対応できる形にしたうえで外部ベンダーへの委託に切り替えました。BPOへの委託には業務の標準化・文書化が不可欠であり、いわば究極の属人化排除といえます。

BPO導入後の業務フロー
BPO導入後の業務フロー

脱・属人化がもたらした5つのメリット

──こうした取り組みによって、実際にどのようなメリットがあったのでしょうか。

1つ目は、経理メンバーが欠勤してもBPOベンダーが組織として対応してくれるため、通常通りのオペレーションを継続できるようになったことです。

2つ目は、育児休暇などのライフイベントの際にも気兼ねなく長期休暇を取得できる体制になったこと。当社経理本部では2022年以降、対象男性社員の育児休暇取得率は100%(4名中4名)です。

3つ目はコスト面のメリットです。全社員に対する経理人員比率は、ベンチマーク(IT・通信業平均)の1.7%に対し、当社は2017年頃の2.5%から現在は0.8%まで下がりました。

経理人員比率は2.5%から0.8%に
経理人員比率は2.5%から0.8%に
4つ目は、月初の繁忙期の山が改善されたことです。以前は、限られた人数で経費精算・売上処理などを順番にこなす『直列』の進め方だったため、月初に業務が集中し繁忙期の負荷が大きくなっていました。現在はBPOが立替経費精算を担当している間に、正社員が売上処理を進めるといった形で複数の業務を同時並行で進められるようになり、この繁忙期の山が緩和されました。

5つ目は決算の早期化です。2019年頃、部門別のPL報告は10営業日ほどかかっていましたが、現在は4営業日に短縮されました。経営陣の意思決定の高速化にも貢献しています。

月次決算を10営業日から4営業日に短縮
月次決算を10営業日から4営業日に短縮
2019年から2025年にかけて、経理部門全体の残業時間は65%削減、従業員サーベイのスコアは40%向上しました。2018年頃は全社最下位グループだった従業員満足度スコアは、現在はトップグループに位置しています。
従業員満足度 経理本部数値推移
従業員満足度 経理本部数値推移

脱・属人化を進める上での2つの不安と、その向き合い方

── 標準化を進めると、個人の創意工夫や成長機会が失われるのではないか、という不安の声もあると思います。

よく挙げられる不安は2点です。1つは「標準化を進めると誰がやっても同じ機械的な業務になり、やりがいが失われるのではないか」というもの。しかし実際は逆で、標準化により生まれた余裕を、事業部の相談対応やコスト削減活動、業務プロセスの改善といったより高いレベルの業務に使えるようになります。

もう1つは、基本業務をBPOに委託すると正社員がノウハウを身につける機会を失うのではないかという不安です。しかし、そのような心配はありません。委託後も正社員は、BPO側からの質問への回答や制度改正などの変化に応じたプロセスの改善に携わり、オーナーシップを維持します。その結果、プロセス全体を管理するマネージャーのような立場となり、作業に追われていた以前よりも深く業務を理解できるようになります。

属人化排除の先にある、経理の新しいミッション

── 最後に、属人化排除の先にある経理の役割についてお聞かせください。

属人化を排除した先では、企業価値の向上につながる活動により多くの時間をかけていくべきだと考えています。意思決定の高速化に貢献する決算・開示のスピードアップや報告品質の向上、費用削減の提案、経理の枠を超えた収益活動などです。属人化を排除して初めて、こうした活動に時間をかけられるようになります。経理も単なる作業者ではなく経営に貢献できる存在として成長していくべきであり、その第一歩が属人化の排除と業務標準化だと考えています。

標準化はボトムアップだけでは進めにくく、トップダウンで進める必要がある領域です。組織文化の醸成から始め、クラウドシステムが想定する標準プロセスに合わせて部門間のデータ連携を進め、最終的にはBPOも目指してみる。今回ご紹介した内容が、皆さまのプロセスを見直すきっかけになれば幸いです。

※本記事は、2025年2月27日に開催されたセミナー「”経理的” 脱・属人化のための課題と解決策 -業務標準化で残業時間65%も削減できた話-」をもとに構成しています。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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