経理の仕事は、もはや数字を扱うだけではない。バックオフィスのDXにともない、経理担当者がシステム導入プロジェクトに深く関わる機会が増えている。
だが「なんとかなるだろう」と行き当たりばったりで進めた結果、日程遅延やコスト増加に陥るケースは少なくない。経理歴27年、数多くの大規模システム導入を手がけてきた当社執行役員 グループCAOの松岡俊に、経理として押さえておくべきプロジェクトマネジメントの「型」を聞いた。
株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO(Chief Accounting Officer) 公認会計士
松岡 俊
1998年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応プロジェクト等に携わる。英国において約5年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019年4月より当社参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験(2020年登録)に合格。
なぜ経理にプロジェクトマネジメントが必要なのか
── まず、経理担当者にとってなぜプロジェクトマネジメントの知識が必要なのでしょうか。
会社の規模やクラウドか自社開発かによって進め方に多少のアレンジは必要になるものの、松岡は「大枠として押さえておくべき要素をしっかり押さえておけば、失敗するリスクは比較的抑えられる」と語る。加えて、こうしたプロジェクトリード経験は、役職の有無にかかわらずキャリア上の大きなアピールポイントにもなるという。
ステップ1:全体最適を見据えた長期的なシステム戦略
── 具体的な進め方として、最初のステップは何でしょうか。

システム選定の際には、次の3つの観点も欠かせないと松岡は指摘する。
-
自社の業種・業態にフィットしているか
固定資産や原価計算など、自社にとって譲れない領域に強みを持つシステムを軸に、周辺機能との連携を検討する -
リリース後の機能アップデートの実績
クラウドシステムはスモールスタートから徐々に機能が拡充されていくため、過去のリリースノートなど見て、更新の頻度や実績を確認する -
BPO(アウトソース)のしやすさ
外部のBPO専門業者がそのシステムを使って業務を請け負えるかどうか。ベンダー自体がシステム利用を前提にBPOを提供している場合もある。近年は「BPO×SaaS」を指す「BPaaS」という言葉も生まれているという。
ステップ2:スコープ決定・体制構築・決裁
── 全体像が見えてきたら、次はどう進めるのでしょうか。
松岡は、マネーフォワード社内でも2019年に業務プロセスごとの作業期間をガントチャート化し、どこに課題があるかを見極めたという。

対象領域が決まったら、体制構築に移る。

理想はコアメンバーを現状業務から離して専任でアサインすることだが、それが難しい場合でも「バイネームで役割を明確にし、部門や個人の目標にも織り込んで評価していくことが、体制という意味では重要だ」と松岡は語る。
体制が整ったら、WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー)でタスクを洗い出し、現実的なタイムラインを作成。そのうえで、経営層への決裁を得るステップに入る。
ステップ3:実行フェーズ——データ移行・業務移行の落とし穴
── 決裁が通った後、実行フェーズで特に注意すべき点はありますか。
松岡は自身の経験として、旧システムでは取引先コード欄がなく取引先ごとに科目を作っていたため科目マスタが1万件近くあった例を挙げる。新システムでは取引先コード欄を独立させ、科目マスタを数百件まで削減してマッピングして移行した。旧システムと新システムでデータ項目が大きく異なることは多く、事前にマッピング表を用意して検討しておくことが重要だという。
業務プロセスの移行についても、松岡は現場への説明の仕方に注意を促す。
マニュアル作成やテスト、トレーニングについては、クラウドシステムであればベンダーが公開している基本操作マニュアルを最大限活用し、自社の運用部分にフォーカスして文書化することで効率化できるという。本番稼働の直前には、WBSに立ち返って実施漏れがないか、クリティカルな問題が残っていないかを確認する移行判定と、万一の際に備えたバックアッププランの用意も欠かせない。
ステップ4:稼働後も続く改善サイクル
── 本番稼働後は、どのようなフォローが必要でしょうか。
経理はインボイス制度や電子帳簿保存法、新リース会計基準など、法制度の変化に常に対応が求められる領域だ。松岡はこうした変化を柔軟に取り込む役割を「プロセスオーナー」と呼び、その役割を明確にしてグループ会社全体で改善を推進していると語る。
松岡が手がけたマネーフォワード社内の経理部門改善プロジェクトでは、請求書受領領域の改善から着手し、その後、財務会計システムや予算管理システム、管理会計システムといった形でステップバイステップで、それぞれおおよそ2ヶ月単位で段階的に対象領域を拡大していったという。

こうした改善を積み重ねた結果として、松岡はマネーフォワード社内の経理部門における実績を紹介する。

「型」を知り、自社に合わせてアレンジする
── 最後に、経理担当者へのメッセージをお願いします。
会社の規模によって、それぞれのステップをどこまで細かく厳密にやるかは変わってきます。開発を多く伴うアドオン型のERPであれば要件定義や開発、テストの工程がより重くなりますし、トレーニングやマニュアルの作成も相当な労力がかかるでしょう。
ただ、基本的な要素と考え方には共通する部分が多いと思っています。今日ご紹介したことを1つの「型」として、皆さんの状況に応じてアレンジしながら進めていただければと思います。システムに限らず、新しい会計基準の導入プロジェクトなどでも、ほぼ同じような考え方が参考になるはずです。
※本記事は2025年2月25日に開催されたセミナー「経理のためのプロジェクトマネジメント術」をもとに構成しています。
※掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。