多くの企業の「経理の現場」を歩き、実務の最前線でコンサルティングを行ってきた、中尾篤史先生による連載第5回をお届けします。
テーマは「経理の現場のリアル」。現場で実際に起きている「本音の悩み」にフォーカスし、実務家ならではの視点で、解決の糸口を提示していただきます。
今回フォーカスするのは「BPO」。単なる代行サービスと捉えると、思わぬ落とし穴が待っています。これを回避し、「攻め」の体制を作る基本を教えていただきます。
「外に出せばラクになる」という誤解
近年、経理部門の採用難や法改正への対応による業務過多を背景に、BPO(業務プロセスの外部委託)を検討・導入する企業が非常に増えています。「プロに任せれば、社内の人手不足も一気に解消し、業務も効率化されるはず」と期待を膨らませる経営者や管理職の方は多いのではないでしょうか。
しかし、いざBPOをスタートさせてみると、「思ったよりコストが上がってしまった」「かえって自社の確認の手間が増え、以前より忙しい」「現場との調整がうまくいかずギスギスしている」というお悩みを、実務の現場ではよく耳にします。
実は、BPOは単なる「代行サービスへの丸投げ」ではありません。今回は、経理BPOでつまずいてしまう企業のリアルな失敗談と、驚くほどスムーズに業務を回せている企業の成功法則について、わかりやすく紐解いていきます。
実務でつまずく「3つのうまくいかないパターン」
まずは、BPOの導入現場でよく起きている、リアルなお悩みの原因を3つご紹介します。
①「今のまま、とりあえず外注」が招く、非効率のスライド
よくあるのが、「急な退職者が出てしまい、社内に引き継げる人がいないから、大急ぎでBPOを導入した」というケースです。
現状の業務フローに無駄や非効率な部分がたくさんあるにもかかわらず、見直しを行わないまま、いきなり外部のベンダーへ引き継いでしまうと、非効率な手順がそのまま固定化されてしまいます。
一度その状態でスタートしてしまうと、よほどの問題が起きない限り、不便なやり方のまま業務が進んでいってしまいます。一見「外部に任せて回っている」ように見えても、実態は無駄な作業に高い委託料を払い続けているという、もったいない状況に陥りがちです。
②担当者の交代で、当初の「目的」がブレていく悲劇
当初は「コスト削減のために、定型業務をBPOに任せよう」と目的を明確にしてスタートしたはずなのに、自社の担当者が変わることで方針がグラグラと揺れてしまうことがあります。
新しく就任した自社の担当者が、個人的な意向で「あれもこれも確認してほしい」とBPOベンダーに細かすぎる要求をしてしまうケースです。
社内調整を経ない属人的な指示により、ベンダー側の工数(作業量)が跳ね上がり、結果として委託費用(コスト)が当初の予算を大幅にオーバーしてしまうという遠回りが生じてしまいます。
③「現状に詳しいだけ」の消極的な人をつなぎ役にしてしまうミス
BPO導入の実務リーダー(窓口)を選定する際、「今の経理実務に一番詳しいから」という理由だけで担当者を決めてしまうと、プロジェクトが停滞することがあります。
その人がもし「これまでのやり方を変えたくない」とBPO導入に後ろ向きだった場合、課題が見つかっても解決に動かなかったり、BPOベンダーからの問い合わせや打ち合わせを後回しにしたりするなど、自社側のボトルネックになってしまいます。
「業務を変える」「BPOを成功させる」という強い意志とゴールイメージがない人を選任してしまうと、進むものも進まなくなってしまうのです。
成功に導く「3つのうまくいくパターン」
一方で、BPOのメリットを最大限に享受し、経理組織をスマートにアップデートできている企業には、以下のような共通の特徴があります。
①目的がブレず、委託側も「一緒に汗をかく」姿勢を持っている
成功している企業は、導入の目的が常に一貫しています。 例えば「自社の経理品質を高めること」が目的であれば、そのために一定のコスト(投資)がかかることを許容します。
また、BPOベンダーに業務を丸投げするのではなく、一定の品質をキープするために自社側も関与し続け、業務の流れを一緒になって確認します。ベンダーを、単なる下請けではなく「共通のゴールを目指すパートナー」として扱っているため、業務の精度が安定しやすいのです。
②「業務をスリムにしてから出す」という手順を踏んでいる
BPOを始める前に、まず自社の業務棚卸しを行い、無駄な作業を削減・整理してから導入する企業は非常に強いです。
導入初期の「整理の段階」では、業務フローの書き出しや手順の標準化が必要になるため、自社側の工数はやや多くかかります。しかし、この段階でBPOベンダーと「より良い、よりシンプルなやり方」を一緒に模索しておくことで、将来的に余計な作業や手間が発生しない、極めて効率的な運用フローを構築することができます。
③役割が明確で、能動的にコミュニケーションを取る体制がある
うまくいく企業では、担当者が自らの役割をしっかり認識し、「どういう状態になればゴールか」というイメージを共有しています。 こうした担当者は、BPOベンダーに対して指示を出すだけでなく、「今、進捗はどうなっていますか?」「何か困っていることはありませんか?」と能動的に打ち合わせの場を設けます。
日頃からこまめにコミュニケーションを図っておくことで、お互いの認識のズレがなくなり、突発的なトラブルが起きても軌道修正をしながらゴールに向かって進めることができます。
今すぐ見直したい、経理BPOを成功させるための処方箋
もし、自社でこれからBPOを検討する場合、あるいは今まさにBPOの運用で苦戦している場合は、次のアクションを意識してみてください。
- 平時からの業務分担と「慣らしBPO」:属人化をなくすため、平時から担当を分担しておくことはもちろん、急な欠員で慌てて丸投げするのを避けるために、まずは経費精算の一部など「スモールステップ(部分導入)」から始め、外部のベンダーに少しずつ業務に慣れておいてもらうという現実的なアプローチを推奨します。
- やり切る意思のある「推進者」の選任:担当者を選ぶ際は、単に現状のやり方に詳しい人ではなく、「BPOを通じて組織を良くしたい」というゴールイメージと、変化を貫徹する意思を持った人をアサインしてください。
- ベンダーとの「共通のルールブック」づくり:担当者が変わっても目的や依頼内容がブレないよう、BPOの目的や範囲、コミュニケーションのルールをドキュメント化して社内で共有しておきましょう。
BPOは「外注」ではなく「信頼できるチームの構築」
経理BPOの本質は、自社の面倒な作業を外部に押し付けることではありません。自社と外部ベンダーが手を取り合い、よりミスが少なく、スピーディに決算を締められる協働チームを作るプロセスです。
最初に業務を整理する手間や、担当者がベンダーと向き合う時間を惜しまないこと。それこそが、将来的に経理部門が本来注力すべき経営分析やDX推進にリソースを集中させ、持続可能な組織へと成長するための最もリアルな成功ルートなのです。
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多くの経理の現場を見ているCSアカウンティング社だからこその、リアルな知見・知恵をまとめていただいています。
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