越境経理~経理から組織を変えていく~ 1. 経理と他者との「境界線」を自ら越えていく

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「越境」

最近のビジネス書界隈では、「越境」という言葉が話題となっており、タイトルに越境の名がついた書籍も数多く出版されています。

そこで今回のシリーズでは「越境」という言葉をキーワードに、今の経理、そしてこれからの経理についてお伝えしていきたいと思います。

これまで私も会社員時代、そしてフリーランスとなった今でも、ことあるごとに経理の重要性、経理社員の重要性を経理以外の方達にもお伝えしてきましたが、営業など他の職種に比べて、どうも経理の重要性を実感として認識してもらうことがなかなか難しい側面がある気がしています。

その理由を考えると、大きな原因の一つとして経理業務の特殊性にあるのではないかと思っています。

経理業務の特殊性

経理業務の特徴として「他言できない情報を多く取り扱っている」という点があります。

それがどのような影響を及ぼしているかというと、たとえば経理部門の社員と営業部門の社員が一緒にランチに行っても、営業部門の社員は自分の営業に関する仕事の悩みをオープンに打ち明けることができても、経理部門の社員は、取り扱う内容によってはオープンに悩みを言うことができないということが起こります。

結果的に、経理社員は常に相手の悩みを聞く「受け手」にまわり、経理に関する悩みを経理以外の人達に打ち明ける機会がない、という慣習が出来上がってしまいます。それ自体は悪いことではありませんし、現場の人達からは「経理の〇〇さんは、いつも自分達の悩みを聞いてくれていい人だ」という評価になると思います。

一方で、「経理の〇〇さんから悩み事って言われたことがないから、経理って営業に比べて悩みのない仕事なのかな」「そういえば経理って計算する以外に何をしているのかな」「仕事の深い部分を聞いたことがないから経理が毎日何をやっているのかよくわからないな」という印象を周囲から持たれてしまっている可能性もあるということです。

冷静に考えてみると、私たちは、自分の専門分野以外に関する仕事の内容について、「営業とは~」「エンジニアとは~」「デザイナーとは~」などと、学校や社員研修などでわざわざ習うことはありません。

営業やエンジニア、デザイナーなどの同僚や友人、知人から、日常会話の中で具体的な仕事の範囲や内容を聞いて、深くその仕事について知ることのほうが多い気がします。

そしてアクシデントやトラブル対応などの難しい局面をどう乗り切ったか、というような話を聞いて、よりリアルに「営業は大変なのだな」「エンジニアも苦労が絶えないのだな」「デザイナーって重要なのだな」と心に印象づけられると思うのです。

経理社員の悩み事の多くは「他言できない」悩み

そのように考えると、経理の悩みの多くは「他言できない情報」が含まれているのではないでしょうか。

「今の売上のままだとあと半年しか会社が持たないから気が気じゃないよ」などとはとても言えないでしょうし、既に解決したこと、終わったことであっても「先月ぎりぎり融資が下りたから助かったけど、あれがなかったら今潰れていたよ」「〇〇さんの不正が発覚してさ、大変だったよ」などということも言えません。

結局言える範囲の内容といえば「エンジニアの〇〇さん、いつも経費精算をこちらから言わないと出してくれないよ」「営業の〇〇さん、今月も月次決算が締まった後に請求書を出してきて本当に困る」というような、他言しても許されるレベルの悩みくらいしか他部署の人には言えません。

経理の立場から見ると、それでも特段問題ないのですが、言われた相手からすると、「経理の悩みってそれくらいなんだ。自分のほうがもっと大変だな」と、「誤解」をされていたことがきっとこれまで多々あったのだろうな、と今、フリーランスになっていろいろな組織を俯瞰する立場になってから気付きました。

「経理って大変なんだね」と言ってもらいたいわけではありませんが、経理にも大変な局面が他の職種と同じように多々あるということを知ってもらうだけでも、他者から見た経理の重要性の認識はかなり違ってくるのではないかと思うのです。

私自身も元来はおしゃべりな性格でしたが、経理の仕事を始めて、徐々に機密情報も取り扱う仕事が増えていくにつれて口の開きも重くなり、同僚と食事や飲み会などに行っても、仕事の話題になると、つい喋りたい誘惑にかられてしまうので、極力仕事の話にならないように話題を変えたり、また、職場で経理社員が深刻な顔をしていると「うちの会社、何かあるんじゃないの?」と聞いてくる人もいるので、詮索されないように悩みが全くないふるまいを意識したり、無意識に他者との「壁」を作っていたこともあったかもしれません。

境界線によって阻まれる経理のデジタル化と予算

今回、「越境」という言葉を見た時に、私は最初に「境界線」という言葉が浮かびました。

経理と経理以外には、まず物理的な業務上の境界線があります。内部統制上の境界線もあります。そして今お伝えしたような無意識なレベルでの境界線もあるのではないかと思います。

それはそれで必要なものですし、これからもあり続けるものですが、さまざまな会社で経理の置かれている労働環境を見ていると、その境界線を必要に応じて越えて往来することもこれからの時代は必要なのではないかと思います。

今の時代の労働環境改善には職場環境の「デジタル化」が必須ですが、経理業務には多くのデジタルと相性の良い証憑やフローがあるにもかかわらず、他部署に比べてデジタル化が遅れています。その理由は、経理に予算が他部署に比べて与えられていないからです。

ではなぜ予算が与えられていないかというと、先ほど申し上げたように、経理の悩みや課題、要望が「越境」することなく部内でとどまってしまうがために、他部署や経営陣に認識されづらく、課題のある他部署を優先に予算はつけられ、結果的に喫緊の課題や問題がなさそうな経理部門には最後予算が残っていないということが起きるのだと思います。

理想の経理の未来像のために自ら「越境」する

ただし、これではいつまでたっても経理の職場環境は改善されません。業務のデジタル化のためには、ソフトウェアを導入できる金額の予算を経理部門に組んでもらわないと実現できません。

そのためには、やはり経理の重要性や課題を会社に認識してもらう必要があります。これは受け身ではなく、自発的に行動、発信していく必要があるのだと思います。

自分達のほうから経理と他部署、経理と経営陣の間にある境界線の「壁」を越えて、経理そのものや経理社員への理解をより深めてもらい、予算を組んで経理環境のデジタル化を実現する。

そしてDX化をした後に、新たな仕事の領域を広げて会社に貢献をすることで、今まで以上に評価をされていく。そのような姿を経理の未来像としたいものです。

そのような理想の経理像を実現するために必要なポイントやコツを「越境経理」と称して、次回以降お伝えしていきたいと思います。

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