<図で考えると数字は良くなる> 第9回 肩書の種類が増えるほど、管理コストは増大する

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カタカナの肩書

外国から日本に流入する文化や様式などのうち、既存の日本語では翻訳しづらい、対応しきれないものなどを、「一旦外国の言語の発音のまま受け入れる」場合に、カタカナが使われるそうです。

最近アフタヌーンティーが人気ですが、それを日本語に訳すと、既存の飲料の商品名のようになってしまいますし、もともと日本にはない外国の習慣ですから、外来語として一旦受け入れ、ひらがなでも漢字でもなくカタカナで表記をします。

そしてアフタヌーンティーという文化が定着すれば、そのまま言葉として定着しますが、そうでない場合は言葉ごと消えて皆の記憶から忘れ去られてしまうということです。

日本語にはこのようなシステムがあるので、他国の言語よりも、外国の言葉を外来語として受け入れやすい言語だそうです。

日本語で日常会話を行うためには、約10,000の単語を覚える必要があるそうです。一方でフランス語は約2,000語と言われているそうですから、それだけ日本人は、海外の言葉を受け入れる、つまりそれだけ海外の文化や様式を受け入れやすいということでしょうし、必要でないものも、とりあえず受け入れてしまう体質でもあるのだと思います。

社内の肩書は、もはやカタカナ肩書のほうが多い?

これが近年如実に表れているのが、日本の会社組織の「肩書」ではないかと思います。

今までの漢字表記の肩書に加えて「クリエイティブディレクター」「データサイエンティスト」「カスタマーサクセス」など、ありとあらゆるカタカナの肩書が皆様の会社にも今や日常的にあふれていると思います。

そのメリットとしては、新しい肩書には新しい雇用がつきますので、雇用が活性化するでしょうし、新しい肩書の人達に向けてのビジネス本が出るなど、新たな市場も生まれて活性化することでしょう。

そしてそのような新しい肩書に憧れる人達もどんどん出てきて、モチベーションの高い人達が新しい肩書を武器に組織の中でも活躍してくれることでしょう。良いスパイラルになれば、会社の売上や利益にも良い影響をもたらすことでしょう。

一方の課題として、「モチベーションが上がるから」「なんとなくかっこいいから」「今の呼称だとダサくて誰もなり手がいないから」というような、漢字呼称などで既にある肩書をあえて横文字にし出すと、それは懸念しなければならない点もあります。

たとえば、「経理担当」だと普通過ぎるから、

    「アカウンティングディレクター」
    「アカウンティングクリエイター」
    「アカウンティングデザイナー」
    「アカウンティングサイエンティスト」
    「アカウンティングアナリスト」

など、どんどん横文字の肩書を作って各々名刺にも印刷して名乗り始めたらどうなるでしょうか。

名乗る側はいいと思うのですが、名乗られた側からすると「一体どういう仕事だろう」「経理とは何が違うのかな」など、その人の仕事内容が逆に不明確になる場合もあります。

無尽蔵に意味が不明瞭な肩書が増えていくことで、その役割や責任の所在もあいまいになっていく可能性もあります。

肩書が増えるほど、管理コストが増える

そして一番の課題は、管理コストがものすごくかかっていくということです。

新たな肩書が一つ増える分、総務人事部は、名刺や組織図など、さまざまな管理がひと手間加算されます。新たな肩書が増えれば増えるほど作業時間も増え、人件費などの労務コストも比例して増えていくのです。

これは、会社の会議資料の法則にも似ています。

最初はシンプルな数枚程度だった資料が、そのうちに、あれも必要これも必要、とどんどん増えていき、気づけば30枚、40枚になって、会議資料を作るためだけに数日前から皆が通常業務の手を止めて資料作成に没頭、会議当日も資料をひたすら全て読み上げるだけで終わってしまい、話し合いの時間がなくなってしまうという本末転倒な状態に陥ることがあります。

会議資料の場合は、そのような状態に陥らないために、上限10枚、と制限をしてしまい、また新たな資料を会議資料に加えたい、という提案がなされたら、それを了承する代わりにどれか1枚を削る、というルールを課すことで会議資料全体の質も維持できますし、それにかかる作業人員の手間もコストも無尽蔵に増加することを防げます。

肩書が無尽蔵に増えて収集がつかなくなっているような組織がもしあれば、今後は肩書の設定に「新規の肩書を追加する場合はどれか一つ減らす」など前提条件をつけることをお勧めします。このようにルールを課すことで管理コストも無尽蔵に増えずに済むのです。

「副、サブ、バイス」は一人だけ?

また、「副、サブ、バイス」といった呼称も、あなどれません。出版業界では、「副編集長」が何人もいるというのを初めて知ったとき、とても驚きました。

なぜそのような習慣があるのかと伺ったら、諸説ありますが、編集長でも副編集長でもない肩書だと取材相手が会ってくれないとか、取材相手もそのほうが喜んでくれるということがあるので、編集長は一人しか設定できないので「副編集長」という肩書を何人かで共有する習慣ができたと聞きました。

現場サイドの事情はなるほどと思うことはありますが、これが管理面、経営面からすると、いろいろなことを考えさせられます。

まず編集長や副編集長というのは、私のイメージでは編集部長というような管理職の呼称だと思っていたのですが、実際にそのような会社もあれば、全く関係なく、編集長や副編集長であっても管理職でない人はたくさんいるという話も聞きました。

そうなると、それこそ総務人事部では管理がさらに大変で、中には名刺管理と組織図の調整などの管理のためだけに残業することもあるのだろうなと容易に想像ができます。

肩書文化も「やり過ぎ」は会社の数字を下げる

日本は肩書で人付き合いをする人も多いですが、海外ではどこに勤めているかは関係なく、あくまでも「個人対個人」での付き合いが優先される国も多くありますし、むしろそのほうがスタンダードかもしれません。肩書に依存する習慣が会社に根付くと「自分の仕事がうまくいかないのは、自分に肩書がないせいだ」という人も増えます。

本来、肩書というのは、実績のある人、実力のある人に「後から」付与されるものです。これが逆になってしまい、自分を盛るための装飾品のような存在になってしまうと、それでモチベーションが上がって頑張る人もいるかもしれませんが、自分を磨く努力をしなくなる人も出てきます。

社員の実力が落ちると会社の数字も下がりますので、何事も「過剰」は慎むべきだと思います。一見、会社の数字とは何の関係のないように見える事柄でも、会社で起こっていることは、全て数字と関連しています。

経理目線で、さまざまな会社の不思議なこと、不可解なことを分析して、売上や費用、利益と関連づけて考察してみるのも興味深いと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。

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