<図で考えると数字は良くなる> 第7回 数字の共有がなければ社員は危機感の持ちようがない

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「数字」への接触回数が少なくなれば、危機意識は皆薄れる

「数字に関心がない人ほど危機意識が低い」。これは私が長年経理をやってきて、そして生きてきて感じることの一つです。

以前、知人がどう見ても収入に見合わない散財をしていたので、「そんなにお金を使って大丈夫なの?」と聞いても「大丈夫、大丈夫!」としか言わないので、「急に仕事を辞めるとか、何かあったとしてもしばらくやっていける蓄えはあるの?」と聞いたら「そんなこと言われても、よくわからないよ」と一蹴されてしまいました。それはコロナ前の出来事でしたので、その知人が元気であることを祈るばかりです。

「数字を見せてもらえない人ほど危機意識が低くなる」これも私が長年数字を見てきて感じることの一つです。

今は共働きのご家庭が多いですが、昔は一家の大黒柱が稼いできて、給与は稼いできた人が管理をして、他の家族は少しの生活費やお小遣いだけ渡されて、自分の家にいくら貯金があるのか、管理している一人以外は誰も知らない、という家庭も珍しくなかったと思います。

管理者がきちんと管理をしてくれていたらいいのですが、財テクに失敗して借金まみれになり、それを他の家族に黙っていて、後から知って大変なことになったということもしばしば耳にしたことがあります。

数字を見せてもらえない他の家族は、「自分の家にいくらあるんだろうか」「預けているお金はどう管理、運用しているのだろうか」ということを最初は気にしている人も、次第に気にしなくなり、収入のことも支出のことも気にせずなんとなく過ごしている状態になっていきます。

そしてたまに「うちにはいくら貯金があるの?」「家計は大丈夫なの?」と聞いても、「そんなことは心配しなくていいからやるべきことを毎日やってくれたらそれでいいから」と言われて、それに素直にに従うのです。そしてある日突然、お金が全くない、住んでいる家を出て行かなければいけない、といったことに見舞われる人もいるのです。

このシチュエーション、皆さんも家庭ではないどこかで体験したことがあるかもしれません。そう、職場です。

「数字を知らなくていい」と言われる会社に、自分の人生を預けていいの?

社員が「コロナ禍で、うちの会社は本当に大丈夫でしょうか」「いくらうちの会社には資金があるんですか」と聞いても、「そんなことは心配しなくていいから、君たちは自分のやるべきことをやってくれていればそれでいいから」と経営者に言われたことはないでしょうか。

そしてある日突然、オフィスの縮小移転、リストラなどが言い渡された会社もあったかもしれません。

私は今フリーランスですが、会社員であれば、自分の勤めている会社の資金がいくらあるのか、もし、コロナ禍で売上が激減したら会社としてあと何カ月は大丈夫なのか、借入のあてはあるのかなど、質問をしても会社側が誰も教えてくれなかったら恐怖です。それだけで「まずいということかな」と転職などを考え始めるかもしれません。

なぜなら自分の人生をその会社に委ねているからです。いくらいい役職でも、いくら高額の報酬をもらっていても、会社がつぶれたら、その場にいた人達は全て「ただの人」にリセットされます。

その後から転職活動を始めても、このご時世ですから競争も激しくてうまくいかないこともあります。面接官に、「自分の会社が経営危機なことくらい、会社がつぶれる前に普通はわかるんじゃない?」と思われてしまわないか、他の人より条件が不利にならないか、と気にしてしまうかもしれません。

会社側の立場に立つと、「ネガティブな兆候や数字を社員に言うと、社員がパニックを起こしたり、次々に辞めてしまったりするかもしれないから」という理由で、社員に会社の現状の数字を言いたがらないケースがよくあるのですが、社員側にしてみたら、「なぜ数字が悪いことを早めに言ってくれなかったのか」「もっと早めに言ってくれたら、社員一丸となって何とか立て直すことができたかもしれないのに」「もっと早く言ってくれたら希望のところに問題なく転職できたのに」と思わざるを得ません。

私は会社の調子がいい時も悪い時も、会社の主要な数字というのは、たとえ聞いていない社員が一部いたとしても、全社員に継続してアナウンスし続けるべきと考えています。

「組織」は「情報の共有」をして初めて組織であるメリットが活かせる


たとえば次の二つの会社があります。

A社:会社側が数字を開示する気もなく、社員が会社の数字を知る気もない
B社:会社側が積極的に数字を開示し、社員も関心をもって会社の数字を知りたがる

どちらの会社が生き残りそうでしょうか。どちらが健全そうでしょうか。どちらの経営者が信頼できそうでしょうか。どちらの社員がやる気がありそうでしょうか。

組織というのは、他者との協力や情報などの共有ができてそこで初めて組織であるメリットが活かせます。そうでなければフリーランスで仕事をしているほうが、よほど自由で気楽です。

組織でいながらお互いに無関心だったり、好き勝手な行動をとったりすることほど無意味で非効率なことはありません。

組織として活動するのであれば、数字をはじめ、さまざまな情報を組織に属している人達全体で共有し、全員がそれを理解できていたほうが、間違いなくメリットを活かせ、組織も成長し、その対価も得られます。

経営者の方の中には、社員に対して「君は新聞もネットのニュースも読んでいないの?それでは常識が備わらないから困るよ」と言っている一方で、自社の数字は一部の幹部以外には教えていない人もいるかもしれません。

しかしそれではつじつまが合っていません。自社のあらゆる数字を自社の社員に常に見せなければ、良い社員が育つはずがないのです。そうしないと数字と行動を結びつける習慣が育たないからです。

つぶれる会社は「秘密主義」の会社が圧倒的に多い理由

経営危機の会社は数字を社員に知らせていなかったケースが圧倒的に多いです。数字が悪化し始めている指標が出ていても全社的にアナウンスされていないので、現場が改善に気付ける機会をも奪ってしまいます。

業績に関係なく、いい時も悪い時も「開示する習慣」をつけておけば、経営者が目の届かないところでも、現場の社員が、数字の悪化原因を日常業務の中から探り、その問題解決のための提案をしてくれます。

そのことによって数字がこれ以上悪化することを普通は防げるのです。組織である以上、お互いの持っている情報をもったいぶらず、出し惜しみせず、一つでも多く共有できる仕組み作りをすることで、組織であるメリットをより活かせるのです。

もともと数字に関心がある人も、数字を見せられない生活を強制され続けたら関心を失ってしまいます。だから数字の危機にも全く気づけない鈍感な身体になってしまうのです。

反対に、もともと数字に関心がなかったような人でも、数字を見せられる生活を続けていれば、無意識に数字を意識せざるを得ない敏感な身体になり、「自分達の行動習慣に、何かマイナスになることがあったのではないか」ということを考え、気づき、提案し、改善し、危機を脱することができるのです。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。

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