「生理でつらいのは仕方がないと…」 ルナルナ運営会社の女性向け制度。開始半年でどんな変化があった?

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女性の健康情報サービス「ルナルナ」をはじめヘルスケア事業を展開する株式会社エムティーアイ。2020年2月より、独自の女性向け福利厚生制度「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」の実証実験をスタートさせました。男性従業員にも女性の体と心の仕組みを伝える講座も実施しています。

プログラム導入の背景から、約半年を経てどんな変化があったのか、女性の月経に対する考え方や、働き方に対してどんな支援や理解が必要なのか。支援プログラムを運用している人事部の鷲頭さんと、プログラムを利用している吉崎さんにお聞きしました。

女性が気軽に「産婦人科」へ行ける世の中に。プログラムを実施した背景

【プロフィール】鷲頭 有沙(わしず ありさ)
2012年、株式会社エムティーアイに人事部として入社。その後、『ルナルナ』などのヘルスケア事業部での勤務を経て、人事部人事企画チームにて多様な働き方の整備・制度企画を担当。

――御社の事業内容と組織体制について教えてください。

鷲頭さん(以下、鷲頭):スマートフォンで利用できるコンテンツ配信を中心とした事業を展開しています。「ルナルナ」などのヘルスケアをはじめ、音楽や動画、生活情報など暮らしをより豊かに彩るサービスを提供しています。

従業員数は2020年6月末現在、連結で約1,100名。女性比率は約37%、全社の平均年齢は38.2歳です。

――2020年2月に開始した「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」について、その内容と取り組みの背景を教えてください。

鷲頭:今回の取り組みは、2月から8月までの半年の実証実験として開始しました。女性従業員向け福利厚生制度として、「ルナルナ オンライン診療」を活用した、婦人科受診と低用量ピルの服薬支援プログラムです。

本制度導入のきっかけは、社内調査の結果で、約8割もの女性従業員が生理痛やPMS(月経前症候群)によって、不調を感じていると答えたことです。そして、その不調が日頃のパフォーマンスにかなり影響があることが分かりました。当社は女性従業員の人数が多いからこそ、会社全体としても取り組んでいきたい課題だと感じましたね。

システム イメージ図

当社は2016年頃から健康経営に取り組んでおり、今回のプログラムもその一貫です。生理痛やPMSに関しても、改善することで従業員が健康的に働くことができパフォーマンスも高くなるであろうと期待し取り組みをはじめました。会社が診療や低用量ピルの費用を負担することは「コスト」ではなく「投資」と捉えています。

――導入にあたり、懸念したことや課題はありましたか?

鷲頭:扱う内容がセンシティブなので、プログラム参加者の情報の機密性には気をつけましたね。施策の運営上、情報が必要な場合のみ担当者には最低限の範囲で共有しますが、自部門の上長や周囲の同僚に知られることがないように配慮しています。

また、このプログラムを導入する際に、あらかじめ男性従業員も含め社内全体に向け「女性のカラダの知識講座」を行うなど、啓蒙教育も実施しました。

――プログラムを運用する上で意識したポイントはありますか?

鷲頭:第一に気軽に産婦人科を受診しやすい環境を作ることを意識しました。

オンライン診療の活用は「会社を休んでまで婦人科治療に行きたくない」という人たちの負担を減らすことが目的です。ただピルを服用するだけではなく、女性一人ひとりが産婦人科へもっと気軽に行けるようなきっかけを作りたいという思いが根底にありました。

そもそも日本は他の国と比べてまだピルや産婦人科への情報が不足していると感じます。社内調査でも、生理痛やPMSについて悩んでいる女性社員が多い一方で、「生理痛を病気として捉えてはいません」「女性だからこの痛みと付き合っていくのは当たり前」という声が多くありました。

生理痛を誰かと比べること自体難しいですし、そもそも病気であると思っていないと病院に行くきっかけも掴めない。また、生理を理由に会社を休むことで心配されことにも抵抗があるなど、意識の面で産婦人科に行きづらくなっている課題はたくさんあります。さらに、病院での待ち時間や費用なども産婦人科へ通うまでのハードルになっていました。

オンライン診療なら病院に行く必要はありません。就業時間内に休憩を取っての受診を可能にし、費用は会社が負担することで、不調を感じたときに気軽に受診できるような運用を意識しました。

男性を含めた全従業員に「女性のカラダの知識講座」を実施

――プログラムの導入だけではなく、男性も含め全従業員向けに「女性のカラダの知識講座」を実施された理由を教えてください。

鷲頭:「女性従業員がキャリアを考える上で、自身の体について理解しておいてほしい」「管理職や男性社員を含め全員に理解してもらった上で、会社として働きやすい環境を整えたい」という2つの目的で実施しました。当日は産婦人科医の先生をお呼びして、女性の体の仕組みやライフスタイルの変化、月経関連の病気、ピルの服用についてなどお話いただきました。

東京大学 大学院医学系研究科 産婦人科学講座 准教授 甲賀かをり先生

生理痛やPMSは女性特有の悩みではありますが、働きやすくしていくには男性従業員や管理職の理解と協力も大切です。いざ相談をされたときに「どんなつらさがあるのか」まで考えられるよう、いまいちど女性の月経にまつわる悩みについて知る機会があるべきだと考え、全社員を講座受講の対象にしました。

――講座を受けた参加者からはどんな声がありましたか?

鷲頭:女性従業員からは「自分の健康や体調を考えられるきっかけになった」という声が上がりました。男性従業員からは「女性の同僚や部下だけでなく、自分の家族の体調を知るきっかけにもなったので、今後より配慮していきたい」という声も出ています。今まで女性の体の知識について情報が少なかった従業員が、生理痛やPMSに対する関心が上がったように思いますね。

吉崎さん(以下、吉崎):私も講座に参加したのですが、先生が「自分にとっての生理の症状、生理前の症状が不快なようであれば病院に行っていいし、治療してもいい」「自分が『つらい』と思ったら、それは病気です」とおっしゃったのを聞いてハッとしました。それまでは、生理でつらいのは仕方がなく当たり前のことだと思っていて、病院にかかってもいいことだと思っていなかったのだと。講座を通じて、生理やPMSへの考え方がガラッと変わりましたね。

制度利用者の声「仕事のパフォーマンスが上昇した」

【プロフィール】吉崎 美帆(よしざき みほ)
『企業向けCARADAパック』の営業に3年間従事し、現在はヘルスケア事業本部CARADAヘルスケア統括部CARADA法人事業部にて『企業向けCARADAパック』のサービス改善などを行う企画を担当。また「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」を利用。

――吉崎さんは、もともと生理についてどのようなお悩みがありましたか?

吉崎:私は生理痛によって会社を休んだり寝込んでしまったりするほど症状がひどいというわけではありませんでしたが、薬を飲めばなんとか我慢できるという程度の重さで、毎月生理前には気分が落ち込んでしまう・イライラしやすくなるなどの悩みがありました。ただ、自分から進んでピルを服用するほどではないと勝手に思っていて、産婦人科医にも行ったことはありませんでした。

それが「女性のカラダの知識講座」で、はじめて「私の状態は病院で相談してもいい症状なのだ」と気づきました。また、生理痛に加え、生理前にパフォーマンスが落ちてしまうと感じていたこともあり、せっかく会社としてプログラムを用意してくれるのであればと思い、利用を決意しました。

――実際に活用していかがでしたか?

吉崎:オンライン診療という形式は、自社のサービスの1つとしてあることは知っていましたが使ったことはなかったので、試してみるまで「どうなのかな」と不安はありました。でも、初診は病院で先生と対面でお話し、2回目からオンラインという仕組みでしたし、ピル服用後の副作用はさほどなかったので、不安はすぐに解消されましたよ。

※脚注:法律上、初診は対面となっていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で現在は時限的に初診からオンラインでの受診も可能です

オンライン診療の画面イメージ

分かりやすい変化では、生理の期間が短くなりました。薬を飲まないとお腹が痛くて耐えられない…といった症状も軽減しましたね。また、以前と比べたら生理前の気分の落ち込みが減ったように思います。気持ちの落ち込みがないだけで仕事のパフォーマンスも向上するので嬉しいです。

女性の働き方をサポートするには、制度を取り入れる理由を明確に

――半年間実施して、どのくらいの反響がありましたか?

鷲頭:今回の実証実験は20名限定で実施しました。実際に診療を受けてピルの処方が難しい、条件に合わないといった人もいたため、現在では15名がプログラムに参加しています。20代後半〜30代前半の女性従業員が大半です。

まだ正式な効果検証ができている段階ではないですが、中間アンケートを行い、「生理期間中にどのくらいのパフォーマンスが出せているのか」「生理によって就業時間中に休憩した時間がどのくらい減ったのか」など時間や日数などの数字はどう変わったのか、効果の指標を算出しました。

アンケートの結果、実際に不調を感じている従業員が減るなど、効果が見えてきています。それによって利用者のパフォーマンスが上がり、会社が負担している受診料・ピルの費用に対するリターンが出ている点も、プログラムの継続要因の1つとして手応えを感じています。ヘルスケア事業を取り組む当社として、健康経営の施策として良い取り組みだと実感しています。

他の企業からも「うちでも導入を検討したい」といった声もいただいています。また、「女性のカラダの知識講座」がSNSやネットメディア上で紹介され、「女性の体調の変化に課題を感じている」というご相談もありました。社内だけではなく社外にも反響があるのは嬉しいですね!

――本格運用に向けて、今後改善したい点はありますか?

鷲頭:現在2つの医療機関でプログラムを実施していますが、今後は利用できる医療機関数を増やす、処方できるピルの種類を増やすなどし、より利用者に寄り添う支援がしたいと思っています。

ピルの服用は継続してはじめて効果が出るもの。「副作用が出ないか不安」といった声に対して、悩みを解消できるような情報発信や講座の開催など、安心感を伝えていけるようになりたいですね。そうすることで、今後の利用者も増えていくと思います。

――最後に、女性の働き方をサポートしたいと考えている企業へアドバイスをお願いします。

鷲頭:従業員を支援する様々な制度を導入することが一歩になると思いますが、導入する際は事前に目的の明確化が必要です。当社でも、会社としてどこまでの範囲を制度として認めていくのか、なぜ女性だけなのかなど、取り入れる制度に対するメッセージをしっかりと発信できるよう考えています。

そもそも性別の差に関わらずサポートが必要な従業員もいます。例えば、当社には不妊治療を行う従業員に対する「不妊治療休職(チャイルドプラン)」や「不妊治療休暇(ファミリーサポート休暇)」という制度があり、男性であっても女性であっても利用可能です。他にも小学校6年生までの子どもを養育する従業員が利用できる「子育て休暇」など、女性だけではなく男女平等に利用できる制度を設けています。女性へのサポートを進めるにあたっても、このような公平性が従業員に伝わらないと不満も出ますし、女性が制度を気持ちよく利用できないので注意が必要ではないでしょうか。

また制度を評価する際は、単純な時間短縮などの尺度ではなく、その制度がどのように従業員の活躍やキャリアにつながっているのかの把握も必要です。そのためにも実際に制度利用者からの声も聞くのが重要ですね。

当社もこれからより一層、従業員一人ひとりが健康的に働くにはどうしたらいいのかを考え、自分で働き方を選択できる仕組みや文化を作っていきたいと思っています。

(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社、写真提供:エムティーアイ)

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