週休3日でエンジニアの最低年収1000万円。600株式会社に聞く「生産性の保ち方」

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水・土・日曜日が休みの「週休3日制」を取り入れながら、「エンジニアの下限年収は1,000万円」という600(ろっぴゃく)株式会社。

週4日勤務で高水準の給与を維持できている理由は? 週休3日制を取り入れた経緯から、限られた時間の中で生産性を上げる方法について、代表取締役の久保渓さんにお聞きしました。

2日単位で仕事を進める。 週休3日制で生産性がアップ

【プロフィール】久保 渓(くぼ けい)
1985年生まれ。米国Carleton College政治科学とコンピューター科学のダブルメジャーで卒業。2010年にサンフランシスコで fluxflex, inc.(フラックスフレックス)を創業。2012年に帰国し、2013年にウェブペイ株式会社を創業、クレジットカード決済サービス「WebPay」をリリース。2015年にLINE株式会社の傘下となり、同年3月よりLINE Payの立ち上げに参画。2017年に600株式会社を創業。キャッシュレス運用で欲しい商品が気軽に買える、無人コンビニ(自販機)の「600」を運営。現在、東京都23区内を中心に約100台設置されている。

--御社の事業内容と会社の特徴を教えてください。

購買行動をより身近に体験できる「無人コンビニ600」の製造、販売、運営を行っています。社員数は現在25名で男女比は3:2。サービスの開発はエンジニア8名を中心に展開しています。

当社の特徴は、創業から土日の他に水曜日を休みにした「週休3日制」を取り入れていることですね。

--一般的には週休2日の企業が多いですが、なぜ週休3日制を取り入れたのでしょうか?

創業当時、妻が妊娠中でつわりがひどかったことが大きな理由です。前職を退職して600株式会社を創業した後、最初の数カ月はあまり活動せずにほとんど家にいて、妻のサポートをしていました。サポートしながら少しずつ新しい事業を立ち上げようと取り組みを始めたのですが、いきなり週5回勤務するとなると一気に不安がよぎったんです。

妻のつわりがひどい時は、緊急でサポートが必要になる可能性があったり、突発的な予定が入ってしまったりすることもあります。その状態で迅速に5日間働くのは難しい。そのため、もし何かあったときでもすぐに対応がしやすいように、月・火・木・金で働くようにしようと、水曜日を休みにして事業をスタートしました。

--実際に水曜日を休みにして、どんなメリットがありましたか?

私自身の仕事のパフォーマンスが上がり、生産性がアップしましたね。

以前は1週間の仕事量が安定しなかったり、日によってはだらけてしまいパフォーマンスに浮き沈みがあったりすることに課題を感じていました。

一方、水曜日が休みになると「月曜日と火曜日」「木曜日と金曜日」と2日間単位で仕事のスケジュールが立てられます。ミーティングが長引く、トラブルが起きてしまうなどの出来事が発生した場合でも、2日間の中で優先順位を立て直せるので、仕事がスムーズに進むようになりました。メリハリもついて、結果的に5日間働いていたときよりも水曜を休みにしてからのほうが、生産性が上がりました。

また平日に自由にプライベートに使える時間ができたことで、役所での手続きがしやすくなったり、出かける際も混雑しにくいなどのメリットも挙げられます。子どもがいるスタッフからは、学校関連の用事などを済ませられるようになったことも良かったと聞きますね。

休みが土日のみだと、プライベートを維持するのは大変です。水曜日に休みがあるだけで、プライベートのタスクも整理できて、より一層仕事にも集中できると考えています。

社員全員で守っているからこそ、週休3日制を維持できる


--社員が増えた今も週休3日制を維持できているのはなぜでしょうか?

週休3日制が会社経営の核となる部分に与える影響が大きいからだと思います。

当社はビジョンに「1分あれば何でもできる!」を掲げ、「無人コンビニ」事業は、コンビニに行ったり商品を探し回ったりする時間を削減して「自分の好きなことや大切なことに時間を使おう」をコンセプトにしています。社内の体制や働き方についても、同様に無駄な時間を減らし「大切なことに時間を使う」ことを重視しています。

週休3日制によって、全員が4日間のうちに仕事を終わらせて自分の時間を大切にするべく、優先順位を付ける意識が芽生えました。結果、生産性も上がり、制度によって社内の環境全体が会社として掲げているコンセプトに自然とつながっていきました。

また、優先順位付けを意識するようになり、かつ互いにリソースが限られていることも理解しているため、メンバーそれぞれが「これはできない」「これはできる」と声を掛け合っていることも大きいですね。忙しい部署に「仕事の棚卸しを手伝いましょうか?」「この仕事はこっちの部署で引き受けますよ」と、仕事の優先順位付けの手助けをするスタッフもいたりと、会社一丸となって週休3日制度を守っていこうという姿勢が根付いていると感じています。

働いていると、つい「この業務も頑張ろう!」と仕事自体を増やしてしまう思考になりがちです。ですが私たちは仕事を闇雲に増やすのではなく、業務時間内で最大限のパフォーマンスを上げることを考えているんですよね。週休3日制は福利厚生の1つですが、悪用するのではなく制度としてしっかり守っていこうとスタッフみんなが真剣に考えてくれています。

しかし、転職したばかりの人は、仕事量が4日間で消化できずに水曜日も出社してしまう場合もあります。当社ではそういう人に対し、従業員の生産性と働き方・満足度の最大化を担っているEX (Employee Experience)という部門を設けているんです。EXでは、執行役員が承認しないと水曜日には働けないルールや、必要に応じ容易に代休を取ったりできる仕組みを作っています。

--週休3日制を取り入れる際に懸念された課題はありましたか?

もともと株主も社員も私1人だったときから週休3日制を取り入れていました。もし何人か社員が入社してから制度を取り入れていたら、「生産性が落ちただけで何も変わらなかった」といった課題が生まれたと思います。

会社のビジョンやバリューと合わないのに週休3日制を取り入れたとしても、単純に100%から80%のパフォーマンス量になるだけ。目的がわからなくなり、うまくいかないことが想定できます。株主をはじめ、関係者全員に「なぜ導入するのか」をきちんと説明できないと、制度が浸透せずに生産性が落ちて失敗してしまうのではないでしょうか。

制度とそれを維持する意識を浸透させるための対応策の1つとしては「何度も発言する」ことが大切だと思います。私は1年に10回以上「週休3日制は生産性向上のために行なっている」というメッセージを伝えています。繰り返し伝えることで、「この施策は優先順位を明確にして生産性をアップさせるためなんだ」と頭に残るんですよね。次第にまわりの人も同じように振舞ってくれるようになり、課題を乗り越えられたのだと思います。

もちろん、一朝一夕で効果が出る訳ではないので、長期的な視野を持って取り組む姿勢が必要だと感じています。

“決定者”を明確にしてスピードを上げる。週休3日で生産性を上げるヒント

--昨年「エンジニアの下限収入は1,000万円」とツイートされ話題になりましたが、給与はどのような基準で決めているのでしょうか?

単純に高額な給与を払うことを良しとしているのではなく、フェアに払うことが一番適切だと考えています。

私はアメリカでキャリアをスタートしたのですが、給与に対する考え方がその時に大きく変わったんです。例えば、日本では年収1,000万円と聞くと高い印象を受けますが、世界の相場では実はそこまで高くはない。また、給与とは雇用主・労働者の“損得”や“時間”に対してつけるものではなく、社会からの評価も踏まえて労働と成果に対し“フェア”に設定するものだということに気がつきました。

そこで当社では、基本は市場価格をそのままで5日間働いた場合と同じ給与を支払っています。週5日勤務の場合と同等のパフォーマンスを上げることを前提としています。働く日数が4日間だからといって、給与も4/5になっているスタッフは一人もいません。前職と比べて、給与が上がっている人が多いです。

特にサービスの要になるエンジニアにおいては、会社のビジョンやバリューに合うことはもちろんですが、高いスキルセットを重視しています。駆け出しの方を採用するのではなく、経験豊富な方だったり、アルゴリズムに強かったりと、高いコンピューターサイエンスのスキルセットを持っている人を採用したい。そのようなプロフェッショナルな人に対して相応の対価を払うことは、大前提ですよね。その結果、現状で当社のエンジニアの下限収入が1,000万円になっているんです。

--週4日勤務でありながら週5日勤務の場合と同等の生産性を上げるため、優先順位の意識づけの他に会社として取り組んでいることはありますか?

会社で行う事柄には「意思決定者」と「承認者」を立てる「意思決定プロセス」を取り入れています。オフィス移転や新規事業の開発をはじめ、設置しているゴミ箱を増やしてほしいことなど、細々したことを含めて、一人の単独意思決定者と一人の単独承認者を立てて進めているんです。

意思決定者は、様々な疑問や悩みを集めて意見をまとめ、「ここをこうするべき」と意思決定して提案する役割です。自身の部署や案件に縛られることなく、どんな提案でもできます。例えば、全社員がマーケティング方法に関する提案を上げたり、エンジニアのメンバーが労務に関する提案を管理部門に起案したりと、他部署にどんどん首を突っ込んで疑問や悩みをすくい上げる場合もあります。

承認者は会社全体の整合性を見た上で、意思決定者の提案を「却下するか」「承認するか」という役割です。意思決定者と承認者には均等の関係があり、あくまで意思決定者が挙げてきたものを判断する役割を担っています。そして承認された提案は、提案した意思決定者がその後責任を持って進行していきます。

決定者を明確にすることで、やれなければならない仕事が曖昧に残っていたり、優先順位が上がらなかったりするものに対して「これは誰が意思決定者でしたっけ?」と社内で議論できます。そうすると「なぜか仕事が減らない」「よく分からないけれどこの仕事はしなきゃいけないらしい」など、ふわっとした仕事が減り、滞りなく業務が進められるんです。

仕事もプライベートも両方充実させる働き方を模索したい


--最後に、久保さんの目指す理想の働き方を教えてください。

週休3日制に関わる一つの価値観として重視しているのが、今の時代二者択一でモノを選ぶのではなく、全てをおざなりにせず大切にできるかどうかということです。

仕事とプライベート、妻と子どもなど、何か1つを選ぶのではなく、仕事を大切にしながらキャリアを追って、一方でプライベートも大切にする。人間は多面的であり、その多面的な部分から新しい価値観が生まれると思うのです。

何かを諦めるのではなく、全てを大切にしながら生きていくにはどうしたらいいのか。そのためにはどの時間を削ってどういう風に交わらせていけばいいのか。

週休3日制がその足掛かりとなり、従業員に考えるきっかけを提供できているので、より一層それぞれが時間を大切にできるような働き方を目指せたらと思います。そして事業を通して、半径50m・徒歩1分以内でいろんなことができるような世界を作り、働き方もプライベートも選択肢が増えて充実する社会にしていきたいですね。

(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社、写真・画像:600株式会社提供)

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