石川善樹に聞く「社員のウェルビーイングを上げる方法」 日本人には雑談が効果的

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健康経営が叫ばれる時代。心身ともに、さらに社会的にも健康に働ける状態を指す「ウェルビーイング(well-being)」という考え方が注目されています。企業や経営者が社員のウェルビーイングを向上させるために何ができるのか、予防医学研究者の石川善樹さんに聞きました。

【プロフィール】石川 善樹(いしかわ よしき)
株式会社Campus for H 共同創業者 / 予防医学研究者
1981年広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きる(Well-being)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。多数の講演や、雑誌、テレビへの出演も行う。
Twitter:@ishikun3

日本人のウェルビーイングはどんな状態?

――そもそもウェルビーイングとはどのような状態なのでしょうか?

「ウェルビーイング」とは、簡単に言うと「よく生きている状態」のこと。「よく生きている状態」は人それぞれなので、「これがウェルビーイングの高い働き方である」という決まった形はありません。

例えば、一般的には不安を抱えないほうが働きやすいと考えがちですが、中には少し不安を抱えて働くほうがいい仕事ができる人もいます。同じ作業をしていても人によって感じ方はバラバラなので、「よく働く」という状態は人によってさまざまなんです。

――企業はもとより、社員自身でさえ「自分がよく働けている状態」を把握していないように思います。

そうかもしれませんね。たとえば「給料はどれくらい欲しいか?」と聞かれれば、ほとんどの人が即答できると思います。しかし、「過去を振り返ってあなたにとって理想的な日常と言える一日はどんなものだったか? それはなぜか? そのような一日を送るにはどうすればいいか?」と聞かれて即答できる人は少ないのではないでしょうか。

――日本人のウェルビーイングはどんな状態なのでしょうか?

国連は、毎年行う調査「世界幸福度報告書」の中で、各国のウェルビーイング度を発表しています。その調査におけるウェルビーイングは、「人生評価」と「ポジティブ/ネガティブ体験」の2項目で測定されています。

人生評価は、「最高の生活を10点、最低の生活を0点としたとき、今の自分は何点ですか?」という質問で測定します。ポジティブ体験は「昨日よく寝たか?」「昨日何か興味があることをしたか?」などの具体的な体験を測定します。同様にネガティブ体験は、「昨日怒りはあったか?」などの体験を測定します。

世界各国との比較でみると、日本人はネガティブ体験の低さで世界トップ10に入っています。これは素晴らしいことと言えるでしょう。その一方で人生評価やポジティブ体験は低く、世界50~60位の間となっています。

日本人には雑談が効果的

――企業や経営者が社員のウェルビーイングを向上させるためには、どんなことができますか?

いくつかの方法があると思います。例えばホワイトカラー限定になりますが、日本人労働者1万人を対象に調査した結果、雑談が効果的という結果を得ました。床にペンが落ちただけで音が響き渡るような静かなオフィスは、嫌な緊張感がありますよね。社員が雑談をしやすい空間を作り出すことも、企業ができる施策の一つでしょう。

例えば、社員の雑談が活性化するオフィス環境にタバコ部屋があります。90年代に分煙化が起こり、喫煙スペースができて、そこでは役職や職種を超えた雑談が生まれていました。では、喫煙しない人でもコミュニケーションが取れるような休憩ルームを作ればいいのかといえば、そうでもない。思ったように人が集まらないんです。

企業によっては、雑談をしていると隣で仕事をしている人から「うるさい」と苦情が出ることもあります。健康の観点から喫煙は避けるべきですが、「禁煙だけどタバコ部屋のような空間」があれば多様なコミュニケーションが生まれるでしょう。

――オフィス環境の改善のほか、組織の構造や制度など内的なアプローチはありますか?

組織のウェルビーイングが劇的に向上するものが一つあるとすれば、それはイノベーションを起こすことです。その際に、まったく新しい事業を立ち上げるというより、会社の基幹事業をイノベーションすることの方が有効だと感じでいます。

実際私も、数々の企業のイノベーション案件に関わらせてもらっていますが、古くからある基幹事業をイノベーションできると、従業員のウェルビーイングに与える影響は大きいと感じています。一方で、全く新しい事業を立ち上げて成功したところで、「まあ何かやっている人たちいるよねー、知らんけど」という状況も数多く見てきました。

ただ冒頭にも述べましたが、ウェルビーイングは一人ひとり捉え方が違うので、経営者がその機微に興味をもって取り組んでいくという姿勢が重要になると考えられます。

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