新しい経理の仕事の骨格 ⑤正社員と外部社員の関係性

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RPAやクラウド、AIなどさまざまなテクノロジーが台頭する昨今、これからの経理の仕事はどうなっていくか。一部では経理の仕事が「なくなる」「奪われる」などといわれるが、実際には経理が本来の仕事をできるようになる、とフリーランスの経理として活躍されている前田康二郎さんは言います。本連載では、前田さんと共に「経理の仕事の骨格」を見つめ直していきたいと思います。

正社員、派遣、アルバイト…さまざまな人で成り立っている経理業務

昨今の企業の社員構成は多様化しています。正社員の中にも新卒入社組と中途入社組、そして正社員の他にアルバイトや派遣社員、フリーランスなどの業務委託者を採用している会社もあります。このように職場環境が時代と共に変わる中、経理部門も、自身の働き方や周囲とのコミュニケーションの取り方を環境に応じて日々変化させなくてはいけないのではないでしょうか。

以前であれば、年齢、キャリアに関わらず、あくまでも「正社員」が派遣社員などの外部社員をマネジメントするという主従関係的な形が一般的でした。経理部全体のうち派遣社員の人数も数人というところが多かったのではないでしょうか。しかし今の時代は、経理部全体のうち、派遣社員など外部社員のほうが正社員よりも多い、という会社もあります。そして請け負う業務そのものも、正社員のサポート的仕事ではなく、主要な業務の一つを担っている場合もあります。派遣社員のAさんは「経費精算のこの部分まで」、「請求書管理のこの部分まで」をやり、そこから先は、正社員Bさんがやります、という形式ではなく、経費精算は一式、派遣社員Aさん、請求書管理は一式、正社員Bさんがやる、といった形式の仕事の振り分け方ということです。私自身も、フリーランスでありながらクライアントによっては月次決算まで締める時もあります。つまり正社員と外部社員の業務上の境界線がボーダーレス化しつつあり、関係性も主従関係からパートナー的関係になってきている企業も多いのではないでしょうか。

このような環境の変化によって、今までになかった正社員と外部社員との間のコミュニケーション齟齬というものも生まれるようになってきていると思います。

外部社員と正社員、それぞれが抱える「些細な」悩み

私は正社員と外部社員、両方の立場で仕事をした経験があり、両方の立場の人たちからそれぞれ話を聞く機会も多いので、近年どのような齟齬があるかという一例を取り上げてみたいと思います。

「些細な」悩みは、なぜ問題なのか

たとえば外部社員の立場から見ると、今までであれば、基本的には正社員より外部社員のほうが遅くまで働いているということはあまりなかったのが、最近は業務自体も副次的業務ではなく主業務を外部社員が請け負うこともあるので、正社員のほうが早く帰宅する、というケースも増えています。そのようなことが続くと、外部社員としてはやや複雑な気持ちになるそうです。「子供を迎えに行かなければいけないとか、日中、休憩も簡単にとるだけで必死に作業をしているような人であれば早く帰ってもらっても気にならないけれど、日中も談笑しながらのんびり仕事をして、定時で遊びに出て行ってしまうような正社員がいたら、『正社員を遊ばせるために自分は仕事をしているのではない』と思ってしまうことがある」という話は、よく聞く話です。

また、外部社員のストレスとして、「当たり前の環境が整っていない」ということがあります。たとえば、「正社員は資料などを入れるキャビネットがあるのに、自分にはない」「帰った後に誰かが自分の席で何かをしていて机にゴミが置いてある」などといった業務以前のことです。これを読んで「たかだかそんなことくらいでくだらない」「そんなこと一言言ってくれればいいじゃない」と思った正社員の方がいたら、それは「少し鈍感」であると外部社員からは評価されているようです。
その理由として、一つ目に外部社員というのは、クライアント先の所属である正社員に些細なことでもクレームや要望を言いにくい立場なのです。

外部社員の人たちなら一度は経験することかもしれませんが「エアコン問題」というのがあります。エアコンの温度一つとっても、寒すぎたり、熱すぎたりしても、外部社員の人たちは言い出せない人が多いと聞きます。私は自分の身体があっての仕事なので、以前自分の席がエアコンの真下で風が直撃するような席になってしまったときは、風邪をひきそうだったので、対策を正社員の方たちにお願いしましたが、一般の外部社員の方たちは言いくにいのです。私自身も実はクライアント先に伺うときは、自分で温度調節できるような、簡単に脱ぎ着できるような服装で伺うようにしています。

そして二つ目に、人というのは、他人から見たら些細でくだらないと思うことほど、不平等にされると腹が立つものなのです。正社員から見たら、「そんな些細なくだらないこと」という論理でも、外部社員からするとそうではありません。「こんな些細なことにも気を配れない人というのは、本業の仕事に関しても、もっと気を配れない人だろう」という解釈になるのです。「小さなことができない人は大きなこともできない」という発想です。これは確かにその通りのことが多いような気がします。
経理の仕事でいえば、「外部社員は、使い倒さなければもったいない」という発想で、外部社員にパンパン仕事をふって、自分はマイペースで仕事をして定時になったら遊びにいってしまうような正社員がいたら、やはり外部社員からするといい気分にはならないことでしょう。

一方で、正社員が外部社員に対して困惑してしまうこともあります。近年は外部社員のほうが正社員よりも年齢が上、経験が豊富といったケースも多いです。そのため、外部社員の中には、その職場自体で自らが中心になり派閥を作って仕切ろうとしたり、経理の業務方針や、会社の経営方針にまで口出しをしたりするという人も時にはいます。本人は正義感の延長戦上、あるいは良かれと思って、おせっかいのつもりでしていることでしょうが、会社の管理職などの立場からすると、「分を少しわきまえてほしい」と思いつつ、正社員の人材不足で雇っている関係で簡単に契約満了するわけにもいかず、対応に困ると言います。たとえばそのような外部社員に「じゃああなたのおっしゃるとおりすべてやってみてください」「正社員になりますか」と正社員が言うと、「いえ、自分は外部社員なので」「それは正社員がやるべきことですから」と引っ込んでしまうそうです。言いたいことだけ言って責任はとらずに引っ込むというのは、少しずるい、と正社員から見ると映るようです。

経理部に外部社員は“なぜ”いるのか


正社員と外部社員の関係性。そもそも外部社員はなぜいるのか、ということを考えたことがあるでしょうか。私としては、「正社員で賄いきれないことがある場合に、外部社員にお願いをする」というのが本来の趣旨ではないかと思います。正社員の頭数、あるいはレベルがそれなりにあれば、外部社員は本来必要ないはずだと思います。しかし諸事情で正社員では業務がまかないきれない状況の時に外部社員に来てもらい作業をしてもらう、という位置づけではないでしょうか。
私はこのように考えていたので、会社員時代は、たとえば派遣会社から派遣されてくる外部社員に対しては、正社員と同じ職場環境を整えて「作業をしていただく」という姿勢で迎え入れていました。その代わり、業務のやり方、指示などは、正社員があくまでも主導するのでそれに従っていただくようお願いをしていました。当然作業の責任は正社員がカバーして請け負いました。

また、独立してフリーランスになった後は、基本的には依頼主の経営者や担当者の方たちに要望を伺い、原則それに従った仕事の仕方をしています。会社の経営方針などに関しては経営者や役員の方たちから意見を問われた時だけ、考えをお伝えするようにしています。
外部の社員が、そのクライアント先の職場環境や人間関係に対して言われてもいないのに首を突っ込むということもしばしば見聞きしますが、経営者からお願いされたときは私も対応しますが、そうでなければ、経営者はそれを求めていないので、「分を過ぎた行為」になり、良い結果にならないことが多いように思います。反面、意思決定や責任に関しては、正社員が外部社員任せにする光景を現場で見たこともありますが、それに関しては正社員が責任を果たすべきだと思います。

正社員と外部社員がともに経理業務を遂行する上で大切なこと

以前と比べて「拮抗(きっこう)」した関係になりつつある正社員と外部社員。このような関係性において、お互いに必要なこと、それは「敬意」ではないかと私は思います。

正社員は「外部社員に助けてもらっている」、外部社員は「あくまでも雇用主はクライアント」という前提を忘れず、お互いに甘え過ぎることなく、かつ、お互いに上から目線の言動をすることなく、敬意を払う。それが、正社員、外部社員それぞれが持つ特性を生かせるコツなのではないかと思います。上から目線になっていないか、そして周囲に敬意を払う言動を普段から心掛けているか。このようなことを振り返る習慣を身に着ければ、皆が良い環境で思いやりを持ちながら仕事ができるのではないでしょうか。

「敬意」のない職場というのは、心身ともに疲れるものです。生産性も落ちます。経理部門が社内のロールモデルとして、さまざまな雇用形態を前提とした人たちでうまく分業して業務をまわすことができたら、他部署にもその良い影響が派生し、社内の生産性や機動力も上がり、おのずと会社の数字そのものにも良い影響が表れるはずです。「誰かが誰かのサブ」ではなく、雇用形態や地位に関係なく「皆がそれぞれ主体性を持って考えている、そして敬意を払い合って行動している」という体制が強い組織であると思います。

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執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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