新しい経理の仕事の骨格 ④経理の環境インフラをデザインする

RPAやクラウド、AIなどさまざまなテクノロジーが台頭する昨今、これからの経理の仕事はどうなっていくか。一部では経理の仕事が「なくなる」「奪われる」などといわれるが、実際には経理が本来の仕事をできるようになる、とフリーランスの経理として活躍されている前田康二郎さんは言います。本連載では、前田さんと共に「経理の仕事の骨格」を見つめ直していきたいと思います。

経理の働き方は自由になるか

先日、海外出張に行きました。そこで今回は、海外にいても、日本の仕事をどれだけ問題なくできるかどうかということを考えてみました。

今の時代は、フリーアドレス(座席が自由)の会社もありますし、テレワークが認められている会社もあります。また、会計ソフトなどもクラウド化していれば、物理的には皆一律にオフィスに居るということがなくても、できる仕事が以前に比べて増えているはずです。しかし、現実的にそれで本当に業務に支障をきたさないのだろうかという懸念もあります。そこで今回は、自分自身で実践してみようと思いました。

私は会社員ではなく「フリーランスの経理」ですので、普段から遠隔でクライアント先と仕事をすることも多いため、会社員の皆さんよりも「海外で日本の仕事をする」、ということのハードルは低いだろうと予想していましたが、結論から言えば私の場合は想定通り、何ら問題はありませんでした。

まず、出張期間中に連絡が来るかもしれないクライアント先には「この期間は海外に出張に行きます」と連絡を入れました。そして出張先からも仕事に必要なデータが見られるように準備をしました。とはいえ、クライアント先のサーバーにアクセスさえできればそこに資料が入っているので、特に準備というほどでもありません。

今回は小さなノートパソコンを持っていきました。滞在先のホテルではWi-Fiが無料でしたので、ホテルに着いて、いくつか連絡事項を日本と同じように対応をして事足りました。YES、NOレベルの対応は、メールやSlackなど、スマートフォン上の操作で十分でした。一方で、Excelなどの経理関連の添付資料の閲覧や確認、修正は、スマートフォンでは画面が小さいのでパソコンで操作、作業をするほうが良かったです。また、長文のメールや原稿作成といったものもやはりパソコンで行うか、Bluetooth型のキーボードを持っていったほうが作業はしやすいと思いました。

いずれにしても、今回の海外出張で、私やクライアントが困ったということは何もありませんでした。

経理の働き方は自由になるか

私個人の話を言えば、支払請求書の即時振り込みといった、物理的にその日その時に待機していなければいけない仕事は、今はクライアント先の社員の方たちにお任せしていて請け負っていませんし、数字の最終確認や分析、あるいは執筆など、「場所を選ばない」仕事を中心に請け負うようにしているということも、遠隔作業でも支障がないという要因もあります。

私の例は少し極端に映るかもしれませんが、今の時代は遠隔でも対応可能な作業が増えてきているはずですので、もう少し経理も自由度が高い勤務体系になってきてもいいのではないかと思っています。

では、それを実際に具現化するためにはどうすれば良いでしょうか。私は経理業務の中で「遠隔でも大丈夫な仕事」と「そうでない仕事」、その区分けをしてみてはいかがかと思います。

クラウド上で処理できる経理業務と、そうでないもの

たとえば経費精算であれば、仕訳計上済みの「内容」のチェックに関しては、クラウド会計を導入していれば、遠隔であっても端末上で作業可能でしょう。一方で、期日までに経費精算や請求書そのものを提出しない社員に対しての「促し」などは、物理的には遠隔から「出してください」とメッセージを送ることはできても、その程度では反応・対応しない方たちだから提出をしないので、現実的には直接本人に対面で指導する必要があるかもしれません。

しかし、次第に経費精算などの申請を全員が遅滞なく、自発的に提出してくれるようになり、領収書のスキャン画像なども画面上で閲覧できるソフトを導入していれば、自宅や海外からでも経費精算のチェック作業、仕訳の計上作業まではできるようになることでしょう。

さらに上級者であれば、今は多くの会社が社員のスケジュールをネット上で共有していますから「〇〇さん、先月海外出張に行っているはずなのに、日当申請が上がっていないな」というように、遠隔からでも、申請漏れがないかという気遣いもできることでしょう。

経理がオフィスにいることで可能になること

ただし、請求書に関しては少し補足が必要ではないかと思います。よくあるケースとして、たとえば売上請求書であれば、新規で発生した案件を申請し忘れている、あるいは、毎月請求をしていた案件で、前月で契約が終了したにもかかわらず、現場担当者が間違えて今月も請求書を申請発行してしまった、ということもあります。支払請求書に関しても、新規で発注やサービスを利用しはじめたもので、支払請求書が取引先から現場担当者に直接メールで添付されてきているものを、担当者が見落としていて経理に回覧し忘れていた、ということが最近増えています。

このようなことは、実は「オフィスにいる」ということで、「A社との契約が先月終わったらしい」「新しく人事考課のクラウドサービスを使い始めたようだ」という「他部署からの情報」が伝染して経理にも伝わってくることが多いのです。同じ場所に皆でいるからこそ「あれ、この売上請求書、契約は終わったのに間違って上がってきていますよ」「先月からサービスを使い始めたB社の支払請求書、会社に届いていると思うんですけど」という確認や指示ができるのです。

税理士の先生が月に1回巡回でチェックに来られて、会計ソフトの「帳簿内」のことは把握できても、「帳簿外」の出来事に関しては、税理士の先生も社員から知らせてもらえないと何もわからない、ということを考えれば、その意味がわかるのではないでしょうか。

だから極端な話、常駐の経理社員を0人にして「1カ月すべてを遠隔操作の経理社員のみ」というのは、少し乱暴な話です。物理的に作業はできたとしても、私の経験上、おそらく何度も修正が入ってしまうということになると思います。交代でいいのでやはり1人か2人は経理がオフィスに居るということは重要ではないでしょうか。

経理業務を“遠隔でもできるようにしておく”意義

経理業務を“遠隔でもできるようにしておく”意義

このように、たとえば「経費精算」一つをとってもその作業をまるごと遠隔でできる・できない、ということではなく、作業の中身を細分化することで「遠隔で何ら問題のない作業」と、「やはり社内にある程度いないとできない作業」というものが見えてくると思います。

さらに、こうした取り組みは別のメリットも生み出せそうです。

近年は自然災害など、有事の際は無理に出社をしない傾向が定着しつつあります。その場合、やはり会社でしか情報を見られない、作業ができないものがあると、会社の業務上、支障をきたします。特にお金周りの経理業務に関しては、有事の時こそ重要な業務です。どのような「万が一」にでも、融通が利くように、働く環境インフラの自由度を高めるということは、労働者だけでなく、会社側にとっても有用なことではないかと思います。

また、子供の送り迎え、親の介護などで物理的に早い時間に退勤しなければいけない人も今は急増しています。そうした人たちがうしろめたさを感じたり、あるいは見送る人たちが不平等を感じたりしないように、自宅などでも希望者には作業の続きができるような環境を整えることも、これからはより必要になってくることでしょう。

「このクラウドソフトを入れておけば、万が一、台風や地震などで出社ができなくても、各自で自宅作業ができるから安心だね」「お子さんが急病で休まなければいけない時でも会社と変わらず自宅で同じデータを見てもらえる」というように、あらゆる想定を考えて、最大公約数のインフラ環境を構築、提案、実践ができる人は、これからの時代は重宝される人材になっていくことでしょう。

「自宅作業でも大丈夫なら、海外からでも大丈夫ということだね」「長期休暇をとっても、休暇先で1日1回データチェックをして皆に確認の報告をすれば問題ないよね」、余裕のある会社であれば、「経理業務を何日間連続で、自宅作業でやりきれるか」という実証実験やチャレンジをしてみることで、「この作業は遠隔でも可能だけれど、この作業はやはり自宅では絶対に対応できないよね」ということも逆に明確になってくるのではないかと思います。

経理の作業を一つひとつ分解して検証していくことで、経理社員も、より自分たちが働きやすい環境インフラを自らデザインできるはずです。

次回も、新たな時代における経理の仕事について考えていきたいと思います。(毎月更新予定)
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執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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