なぜ日本のオフィス改革は遅れているのか 海外企業から予想する10年後

日本のオフィスに改革が起きています。政府による「働き方改革」が盛り上がる中、残業規制や待遇改善のほかにもスポットライトが当たっているのが「快適なオフィス環境づくり」です。今回は、オフィス事情に詳しい、コクヨの情報メディア『WORKSIGHT』の山下正太郎編集長に、海外企業の先行事例やオフィス活用の最新トレンドについて聞きました。

なぜ「日本のオフィス改革」は海外より遅れているのか

取材協力:山下 正太郎(やました しょうたろう)
コクヨ株式会社 クリエイティブセンター 主幹研究員/WORKSIGHT編集長
コクヨ株式会社入社後、ワークスタイルに関するコンサルティング業務に従事し、手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞」を受賞。2011年にグローバル企業の働き方とオフィス環境をテーマとしたメディア『WORKSIGHT』を創刊。成熟企業の働き方、ワークプレイスの動向について研究を続けている。2016-2017年 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA:英国王立芸術学院)ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン客員研究員を兼任。

 

「日本では今、かつてないほどオフィス環境への注目が高まっています」
多様な働き方への対応、経営の効率化、人材誘致、コミュニケーションの促進――今、さまざまな目的でオフィスを見直したいという経営者が増えていると山下氏は言います。それでも欧米に比べると、日本のオフィス改革は遅れているそう。その要因の一つが、日本の経営スタイルにあるようです。

「欧米をはじめとする海外では、『ビジョンドリブン型』の企業が多いです。まず企業の目指す理念や見通しを立てて、その実現に向けて施策を行っていく経営スタイル。だから、現状に過不足がなくても先手を打って理想に近づけようとします。一方、日本はどちらかというと『ボトムアップ型』。潜在的な問題があっても当面支障がなければ、顕在化するまでそのまま放置されることが多々あります」(山下)

こうした構造の違いから、日本では「社員が増えたからオフィスを移転する」といった対処療法が多いと言います。さらに、日本のオフィス改善が進まない理由はほかにもあると山下氏は続けます。

「欧米では、人材の流動性がとても高い。オフィスが気に入らないという理由で転職する人も珍しくなく、企業は人材確保のためにもオフィスに創意工夫を凝らします。日本の場合、ITベンチャーなどはのぞいて、良くも悪くも人材の流動性が低い。どのような環境であれ、長く定着して働く人が多いのです。『オフィスがダサい』という理由で転職を考える人もそう多くないでしょう」(山下)

社員の定着率とオフィス環境の関係性が直結していない限り、経営者はオフィス改革を「コスト」と捉えてしまいます。ただ、情報がグローバルに行きかう今、日本のビジネスパーソンの価値観も海外の影響を受けているようです。

「たとえば、アメリカに本社があるGoogleやAirbnbのオフィスの様子がネットを通じて日本でも拡散され、ファッショナブルでクリエイティブな内装が話題を呼びました。その結果、『素敵なオフィスで働きたい』と思う人が増えています」(山下)

オフィス改革で盛り上がる2つのトレンド

世界的に進むオフィス改革。どのようなオフィスに企業のニーズが集まっているのでしょうか。

「今、オフィス環境改善の目的として2つのトレンドがあります。ひとつは『ABW』に応じたオフィスづくりです」(山下)

Activity Based Workingの頭文字をとったABWとは、時間と場所にとらわれず業務に応じて働く場所を選択するワークスタイルのこと。オランダやオーストラリアを中心に、世界で広がっている働き方で、日本の働き方改革の方向性もこちらに近いと山下氏は言います。

「『ABW型』のオフィスでは、さまざまな働き方をする社員に対応しなければなりません。例えば、社員がモバイルPCを携えて自宅やカフェなどの社外で働くことも多いです。そうするとオフィスに必要なコストやスペースは大幅に圧縮できるでしょう」(山下)

ただ、ABWのマイナス面もあります。オフィス滞在時間が短くなるため、社員同士のコミュニケーションが生まれづらい、孤独感や企業へのロイヤリティ低下も招きやすくなるのです。そこでABWを進める企業からは、社員同士のソーシャルな接点を生む仕掛けをつくってほしいとの要望が多いと山下氏は言います。

「極めて低予算の投資で効果が見込めるのは、コーヒーメーカーの設置です。できればハンドドリップで淹れるような時間のかかるものが理想的です。社員の接点や会話を促すためには、不特定多数の人が滞留するポイントをつくることが大切です。コーヒーメーカーを置けば、そこに人が集まり、いろんな部署の人と交流する機会が生まれる。費用対効果の高い施策ですね。ちなみに自動販売機では滞留時間が少ないため、あまり効果はありません」(山下)

Facebookのオフィスが雑然としている理由

山下氏によると、企業のニーズにはもう一つ大きなトレンドがあると言います。

「なるべく社員をオフィスに集約しとどまらせる施策です。この施策を社員のアイデア創出を加速させる『イノベーション型』のオフィスと呼んでいます。常に仲間とコミュニケーションをとって会話をヒートアップさせないと面白いものは生まれない。そのためには、仲間同士がなるべく同じオフィスにいる必要がある。社員の社内滞在時間が少なくなるABWとは逆方向の取り組みですね」(山下)

山下氏によると、イノベーション型オフィスの代表例が米Googleのオフィス(※)。無料でランチが食べられる社員食堂や、休憩スペースはもちろんゲーム機などのプレイルームも充実しているので、社員はオフィスにいる時間が長くなります。結果、社員同士のコミュニケーションが増えて、イノベーションが生まれやすくなるそうです。また、イノベーション型オフィスのもう一つの例として、米Facebookがあると山下氏は言います。

※米Facebookのオフィスの様子が紹介されている記事:Can Facebook Fix Its Own Worst Bug?(The New York Times)

「CEOのマーク・ザッカーバーグは、『常にハッカーマインドを持て』という考え方。常識にとらわれずハングリーに面白がって物事を追及する姿勢ですね。だからオフィスをあえて飾らず雑然とさせています。そういった環境が、社員たちが空間を思い通りにハッキングする“ハッカブル”なマインドを醸成するのです」(山下)

10年後、日本のオフィスはこう変わる

「働く」ことの捉えられ方が日々変わる昨今。とくにミレニアル世代など、新たな価値観を持つ新世代がビジネスの主役になっていくことを考えると、経営者はこれまでとは違ったオフィス環境を考えていく必要があります。最後に山下氏は10年後の日本のオフィスの変化をこう予測しました。

「私はABW型オフィスが浸透すると考えています。日本のオフィストレンドは、業界トップの企業から受ける影響が大きいのです。今はトヨタやリクルートなどのリーディングカンパニーが、すでに働き方改革に乗り出している。そうすると関連会社やライバル企業も、追随して働き方を見直していくことになるのです。それが突破口になって、時間や場所にとらわれずに働けるABW型のワークスタイルが浸透していき、オフィスはそれに対応する形になると予想しています」(山下)

2020年前後、日本の景気は大きく変動するかもしれません。仮に不況になったとすると、オフィスの縮小や統合を目的とした移転が活発になります。オフィスがコンパクトになるかわりに、ABW型のワークスタイルは加速していくと山下氏は考えます。幸いなことにコワーキングスペースやサービスオフィス、カフェといった、外で働く環境も整ってきました。とはいえ、全ての企業にABWがフィットするとは限りません。課題や従業員のニーズは企業によってさまざま。今回紹介した事例やトレンドを参考にしながら、ぜひ自社に最適なオフィス改革を実践してください。

BIZ KARTE編集部

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