企業の生産性は上がるか?コスト削減のために、経営者が大切にしたい考え方

経営者 コスト削減

会社の生産性向上のために策を実施したいが、何から手をつけるべきか、根本的に必要なことは何かなど、いまいち見えてこない━━。そんな悩みを持つ中小企業の経営者に向けて、経営コンサルタントとして活躍する前田康二郎さんに解説いただきました。「生産性とは、経営者の社員に対する考え方が反映される」という前田さんが、これからの時代に重要だと思う考え方とは。

ビジネスパーソン脳 vs 経営者脳—矛盾するコスト削減の考えかた

経営者の方々とお話をさせていただく中で、近年必ず話題となるのは「働き方改革」についてです。そのため私は、残業代を減らし、コスト削減をするための施策(マニュアル化、機械化、ワークフローの見える化など)をご提案するのですが、どうも経営者の顔色が一向に良くなりません。そこでよくよく話を聞いてみると、「うちの社員が残業をしたがらないのは、仕事にやりがいを感じていないのでしょうか」「好きな仕事なら労働時間は関係ないと思うのですが」「長時間働くこと自体のどこがそんなにいけないのでしょうか」ということで悩んでいらっしゃるのです。つまり経営者のマインドは、心情的な部分では「コストがかかる」ベクトルに向いているのですが、しかし一方で、コスト削減に興味がないのかというとそうではありません。「総務経理は1人で全部できるようにしてほしい」「営業は2、3人自分についてきてくれる優秀な人材がいればそれ以上は必要ない」という経営者は非常に多くいらっしゃいます。社員の立場からすると「じゃあ一体どうすればいいの?」ということになるのですが、経営者の立場としては、「コストを管理しなければいけない経営者としての立場」と「1ビジネスパーソンとしての自分」の二つを同時に抱えているので、こうした相対する考え方、矛盾する悩みが生じるのだと思います。

この矛盾というのは、責任感を強く感じている経営者の方、自分で仕事がとってこられる、手が動かせる経営者の方にこそ多い特徴です。「ビジネスパーソン脳」から考えると、どうしてうちの社員はこんなに仕事に対して情熱がなくさっさと定時で帰れるのか、と思い、「経営者脳」から考えると、「どうしてこんなに簡単な仕事が時間内に1人でできないのか」「人手が足りません、と、どうしてすぐ甘えるのだろうか、無限に予算があるわけではないのに」という考えが働くのではないでしょうか。

結果にこだわる社員を育てる

この矛盾とどううまく付き合い、そして解決したらいいのか、ということを私もコンサルタントとして考えていたのですが、結論としては、私は、皆さんが「時間」というものに、あまりもこだわりすぎ、少しとらわれすぎなのではないか、と思うのです。数字を見る立場の私からの意見として、「働く」ということに関していえば、まず1番手に「労働時間の長短」を考えるのではなく、「結果の有無」を1番手に据えるべきだと思います。

例えば早朝から深夜まで、ずっと出社している社員がいたとします。性格も真面目で一生懸命。でもその社員がそれだけ時間をかけても全く事務作業が終わらない、あるいは売り上げが1円もとれない、という状態が続いていたらどうでしょう。「頑張っているな、よしよし」と、そのまま放置していれば、その人は明日も、1カ月後も、1年後も、全く事務作業もできるようになっていないでしょうし、売り上げも1円もとれていないはずなのです。「0×1年=成果0」ということです。

経営者が「頑張ってくれる社員を評価する」という会社と「まず結果を評価する。それから勤務態度を加味する」という会社では、前述のような「頑張っているけれど結果が出ない」という社員の比率は、圧倒的に前者の会社に多いのです。つまり前者は、社員が経営者に「頑張るアピール」をすることに執心してしまうようになり、結果や作業の効率化が二の次になってしまうのです。当然コストも高止まりのままです。一方、「まず結果を評価する」という会社は、社長に目を向ける前に、まず自分の仕事や成果に目を向けます。「仕事の結果」とは具体的には何を指すでしょうか。営業であれば成績、事務であれば作業の効率化、スピード化、正確性を言うでしょう。これらの「結果」と言われるものの特徴は、「数字」で説明がつけられる、それも「利益につながる数字」だということです。営業であれば売り上げが上がる分、当然利益も伸びます。事務はどうでしょう。今まで2人がかりでやっていた仕事、あるいは2時間残業して終えていた仕事を、1人でできるようになった、ミスが0件になり、定時で収まるように効率化した、となれば、当然人件費のコストが下がる、つまり利益が上がります。結果にこだわる社員、つまり利益を生む(売り上げを伸ばす、コストを下げる)社員は、「自分の努力の成果=利益の増加」につながった時点で、初めて社長のほうへ振り返り、その結果を報告するのです。

「頑張っている」社員をどう評価するか?

「頑張っている」という言葉はくせものです。この言葉は客観的評価や数値化ができにくいからです。せいぜい、一般的に使われるのは「○時まで頑張った」という労働時間ということになります。ただ、その労働時間が実際に利益に結び付いたことが客観的な数値で証明することができるでしょうか。おそらく難しいでしょう。なぜなら、頑張って翌日仕事がとれる場合もあれば、とれない場合もあるからです。そうすると、成果を出して定時で帰っている社員から見ると、「別にそんなに頑張ってるアピールをしなくても事前に効率よく準備をして臨めば、定時内で成果を出せるでしょう」という意見も出て来るのです。

しかし日本の経営者は、むしろこうした数字的には優等生な社員よりも、むしろ夜中まで頑張っている社員のほうが「かわいい」と思う方が多いのではないでしょうか。それは自分、そして自分の会社に「コミットしてくれている」と心情的に感じるからでしょう。日本の組織が「家族的経営」と言われるように「手のかかる子ほどかわいい」ということがあるのかもしれません。その気持ちもわかりますし、まずその会社に社員が「在籍し続けてくれている」ということも組織運営では大切なことですから、そのことは維持しつつも、他方では、今触れたような数値で表せる「結果面」から見た人事評価や社員への指導ということも並行して経営者の方々は取り入れてみてはいかがでしょうか。そうすることで、「頑張っているけれどなかなか成果の出ない社員」と「頑張らなくても成果が出てしまう社員」の両方が満足する職場環境につながるのではないでしょうか。

残業 生産性

日本企業は本当に生産性が低いのか

私は日本語教師もしているのですが、その活動の中で知り合ったフランス人ご夫妻がいます。日本語のレッスンが終わった後に彼らと日本とフランスのビジネス習慣の違いなどについてよく話をするのですが、その中で「生産性」というトピックも話題になります。

日本は、利益は出ているけれど、その分労働時間も長いのでコストがかかり、統計上は生産性が低い。一方フランスは、友人も数週間バカンスを取得していますが、労働時間が日本よりも少ないので、統計上は生産性が高くなります。しかし、日本が「生産性が低い」というのは本当なのかな、と以前から私は感じていました。私がいろいろな会社をご訪問して確信することは、仕事の進め方においては、日本は確実に生産性が高いやり方をしていると言えます。どの会社に行っても、よく考えているなあと感心する、効率の良い仕事の仕方、ワークフローなどがあります。仕事をさぼっている人というのも、同僚同士では「あの人が…」と思うかもしれませんが、私が拝見する限り、まずほとんど見かけません。皆タイトなスケジュールの中で仕事をしています。ではなぜ諸外国と比べて生産性が低いと言われてしまうのでしょうか。

その答えのヒントは、フランス人との会話の中にありました。以前、ご夫妻が恒例のバカンスから戻ってきたときに「休暇は楽しめましたか?」と夫人に聞きました。すると「ええ。でも夫は仕事が少し残っていたからバカンス先でも少し対応していました」と言われたので私は逆に驚いてしまったのです。なぜなら、フランス人は、何が何でも休暇には絶対に仕事をしないと思っていたからです。それでつい「え?フランス人も休暇中に仕事をするの?」と思わず聞いてしまいました。すると彼女は笑いながら「それはしますよ。仕事がどうしても残っている時や、海外との取引で時差がある時は、自宅やバカンス先でも対応はしますよ。責任がありますから」というのです。そして最後に彼女が言った一言に私は「なるほど」と思ったのです。

「でも、仕事がないときは、当然働かないですよ」と彼女は言いました。

私はこれが、日本が統計上では、「生産性が低い」と言われている原因・理由だと思ったのです。例えば日本の職場では、自分の仕事は終わっているのに、定時では帰りづらい、ということがあります。そうすると、他国ではそのような習慣はないところが多いので、その分、「統計上は」労働生産性が落ちます。日本は「存在しない仕事」のための待機時間が長いから、その分統計上生産性が落ちてしまうのではないでしょうか。

すべての残業は悪か?

では、このことが会社にとって害悪しかないのか、というと、簡単にはそう言い切れません。日本はチームプロジェクトが多いので、「万が一、担当者にトラブルやミスがあったら、誰かがケアしないといけない」ということがあります。確かに自分の仕事が終わっている時は「どうして帰ってはいけないの」と思うでしょうが、反対の立場だったらどうでしょう。皆が「お先に」と帰ってしまって、1人ポツンと取り残されてしまったら、焦ったり、不安になったりすることもあるでしょう。「誰かがいてくれる」という安心感で、仕事が落ち着いてできるということもあると思います。業務と責任がはっきり区別されている外国と違い、日本はそれがあいまいな分、グレーゾーンの業務や時間が多いということかもしれません。

残業は悪か

社員一人ひとりの「自立」「自律」が求められる時代

そうは言いながらも、労務、特に残業時間に関してもきちんと管理、対応していかなければいけない時代です。そのためには、まず「私は大丈夫なので、皆さん先に帰って大丈夫ですよ」と残業する本人が言ってくれないと、周囲の人たちは帰ることができないのではないでしょうか。そして周囲の人が「わかりました。じゃあ今日はお先に」と、安心して言える実力を、上司や同僚、部下、皆それぞれが持ち合わせていないと、やはりなんとなく帰ることに罪悪感を覚えてしまい、お互いに帰れないのです。日本人は「心配性」なのです。気になるから、心配だから、という、何もしていない「待機時間」のある人が1人でも、1時間でも早く帰れるように、社員一人ひとりの「自立」「自律」がこれからは大切な時代なのではないでしょうか。

経営者や管理職が口出しをし過ぎない、ということも大切なポイントです。「親離れ・子離れ」のように「社長離れ・社員離れ」「上司離れ・部下離れ」をしていかないと、いつまでも社員が「大人」になれず、「子供」のままです。経営者の責任感が強すぎたり、面倒見が良すぎたりすることによる社員への過干渉、過保護、おせっかいが、逆に社員の自立、自律を阻害してしまうことがあるのです。社員は社員同士でコストが削減できるサービスをインターネットで探したりすることだってできます。むしろ今の時代のサービスはパソコンやインターネットに詳しい若手社員のほうが頼りになります。彼らが使いやすいソフトを導入して彼ら自身にプロジェクトリーダーになってもらい、経営者以下、上司が彼らから使い方を学ぶ。その方が若手社員のモチベーションアップにもなりますし、彼らの成果にもなります。今の時代にあったコストの下げ方は、今の時代をよく知っている世代の人たちに任せてもいいこともあるのです。

経営者の方々は「見守る」ということだけでも、コストが削減されることもある、ということを頭の片隅に置いておかれてもいいと思います。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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