事業者の皆さんは、従業員が1人でもいると健康診断を実施しなければならないことや、健康診断の実施義務を怠ると50万円以下の罰金が科せられることをご存知でしょうか。従業員がパートやアルバイトだったとしても、条件を満たしていれば、健康診断を受けさせなければいけません。
目次
健康診断の実施義務
正社員の場合には、例外なく健康診断を受けさせなければなりません。それ以外の場合、以下の要件により義務が発生します。
2.1週間の労働時間が正社員の1週間の労働時間の4分の3以上であること
*要件2に関連して、「おおむね2分の1以上」の場合には健康診断を受けさせるのが望ましいとされています。
健康診断の実施とは
実施の義務がある事業所は、どのように実施すればいいのでしょうか。
実施時期
事業の種類により実施規定が異なります。主なものは以下のとおりです。
・深夜業や坑内労働など特定業務従事者は6カ月毎に1回
・6カ月以上の海外派遣労働者が国内勤務となったとき
実施費用は事業主が負担
実施費用は事業主が負担しなければなりません。健康診断時に労働賃金を支払う義務はありませんが、賃金を支払うことが「望ましい」とされています(厚生労働省労働基準局・行政解釈より)
・健康診断を受けた労働者への結果通知
健康診断の結果に問題があった場合の措置
従業員の健康に問題があった場合にとるべき措置はあるのでしょうか? 労働状況との因果関係があれば、労働環境の改善が要求できます。出勤日数や夜勤の減少、勤務地の変更など、従業員の身体状況を鑑みた対策が必要です。
(例) 脳血管・心臓疾患に関連する一定の項目に異常があった場合 この場合には「二次健康診断等給付」を請求することができます。請求すると、所定の病院で無料受診が可能です。診断内容は「脳血管と心臓の状況を把捉するための検査」と「保健指導」になります。
健康診断を実施する場合の注意点
主に事業主による健康診断の実施義務について述べてきましたが、従業員の側が健康診断を拒否する可能性もあります。しかし、「従業員には健康診断の受診義務がある」ということも法律で定められています。
権利であれば放棄することもできますが、これは義務ですので受診をしなければなりません。 実施すれば、それで終わりではありません。実施後の義務もあります。
健康診断の実施と所轄労働基準監督署長への報告書の提出(常に50人以上の労働者を雇用している事業者のみ)も必要となります。
従業員が診断拒否したら
「仕事が忙しくて行く暇がない」「病院が嫌い」などの理由で受診しない人もいるでしょう。冒頭で述べたように、健康診断の義務を怠ると罰金が科される場合もあります。
罰金支払いを回避するためにも、従業員の診断拒否は避けたいものです。では、事業主はどのような手段を講じるべきでしょうか。
アメとムチ作戦
従業員に健康診断を受けさせるには、受診しやすい環境を整えること、つまり「アメ」と、受診しない場合のリスク、つまり「ムチ」、双方の制度を整えておくと良いでしょう。まずは、「アメ」について見てみましょう。
2.従業員が行きやすい病院で受診させる
3.半休・有給を積極的に使用
2.の場合、従業員自身が選んだ病院で健康診断を受診し、結果を事業者に提出すれば事業主が指定した病院でなくても従業員は健康診断の受診は可能です。
その場合は、事業者に費用負担義務はありません。また、「賃金発生」「有給」は有効な手段ですが、健康診断の費用に加え賃金まで支払うと、事業者の負担は増大します。
一番の「アメ」は、健康診断を受けることが自分にとって、いいことだと認識してもらうことかもしれません。
次に「ムチ」です。
・就業規則に「健康診断受診義務」を明記する。
正当な理由なく受診を拒否した場合は、制裁の対象となります。
罰則の程度は軽いものが一般的です。規則に明記することで、心理的圧迫を与えるものとなります。
「受診拒否」の最悪のシナリオ
健康診断の受診拒否は、単なる罰金では済まない場合があります。例えば、受診拒否により従業員が健康を害してしまった場合には、「安全配慮義務違反」として損害賠償請求をされる恐れがあります。
単に「健康診断を実施した」というだけでなく、対策を講じることが必要です。損害賠償を請求された際に対策を取っていれば、事業主の減責が認められることもあります。
まとめ
従業員の健康診断を、法律における「事業主の義務」と「従業員の義務」、双方から見てきました。しかし、本来健康とは、法律で規定されるまでもなく大切なことです。
健康を損ない働けなくなると、従業員は生活の糧を失い、事業主は労働者を失います。そこを忘れなければ、この制度が双方にとって素晴らしい制度であることを感じられるでしょう。
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