スキャナ保存と電子データ保存の共通要件と違い|本当に対応できている?電帳法対応の再点検⑥

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今回の電子帳簿保存法の改定を機に、会計・税務上保存しなければいけない証憑類を、すべて電子化しようとする事業者も多いのではないかと思います。

具体的には、紙面で受領した証憑は電帳法を利用してスキャナ保存により電子データで保存し、電子データで受領した証憑は電帳法に従いそのまま電子データで保存する、という枠組みです(便宜的に、前者を「スキャナ保存」、後者を「電子データ保存」と呼ぶことにします)。

いずれも最終的にすべての証憑を電子データで保存することになりますので、業務の効率化、データ管理・利用などの観点で大きなメリットがあると考えられます。

今回は、そのような枠組みを採用する場合のポイントや留意点を説明します。

スキャナ保存と電子データ保存

スキャナ保存は、取引の相手方から受領もしくは自分で作成した紙面の証憑を、スキャナ機器を使用して電子データに変換し、それを保存することをいいます(紙面の方は破棄します)。ここで証憑とは、領収書請求書、契約書といった書類を指します。

スキャナ機器には、スキャン専用機や複合機のスキャナ機能を利用します。デジタルカメラやスマートフォンのカメラ機能も利用可能です。

一方、電子データ保存は、電子取引(電子メールやブラウザ経由など)の際に相手方から受領もしくは自分で作成した取引情報を、電子データのまま保存することを言います(紙面に印刷したものを保存することは認められません)。

ここで取引情報とは、領収書、請求書、契約書といった書類に通常記載される事項を指します。

なお、スキャナ保存の場合には「重要書類」「一般書類」という分類があり要件に違いがありますが、電子データ保存の場合にはそのような分類はありません。

以下、スキャナ保存については「重要書類」の場合を前提にして説明をします。

タイムスタンプの要件

スキャナ保存の場合、タイムスタンプを付与する方法は、以下の2つの方式が認められています。

①早期タイムスタンプ付与方式
受領後、速やかに(おおむね7営業日以内に)タイムスタンプを付与する方式です。

②業務サイクルタイムスタンプ付与方式
受領後、業務の処理に係る通常の期間(最長で2か月)を経過した後、速やかに(おおむね7営業日以内に)タイムスタンプを付与する方式です(合わせて、最長で2か月+7営業日)。

ただし、業務の処理(受領から入力、タイムスタンプ付与までのそれぞれの事務処理)に関する規程を会社として定めておくことが必要です。

電子データ保存の場合も、基本的な考え方は同じになります。電子取引の取引情報を受領してから、原則として速やかに(おおむね7営業日以内に)、もしくは、業務の処理にかかる通常の期間(最長で2か月)+速やかに(おおむね7営業日以内に)タイムスタンプを付与することが求められます。

スキャナ保存のタイムスタンプについては、例外規定があります。第三者が提供するシステム上に「同等の機能」(保存日時、改ざん有無の確認)が備えられている場合には、タイムスタンプは不要となります。

なお、ここでいう「同等の機能」は、「訂正または削除の履歴の確保」(いわゆる「ヴァージョン管理機能」)とは異なることに留意が必要です。ヴァージョン管理機能の要件には、保存日時を証明する機能要件が含まれていないためです。

一方で、電子データ保存の場合は、ヴァージョン管理機能を持つシステムで取引情報の授受及び保存をする、または訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備え付けることにより、タイムスタンプは不要となります。

電子データ保存に比べて、スキャナ保存の方がタイムスタンプ(または同等の機能)に対する要求度が強いといえます。これは、スキャナ保存が「紙面から電子データへの変換」というステップを経ていることから、改ざん防止措置が相対的に強く求められるためと考えられます。

なお、電子データ保存の場合、ヴァージョン管理機能を持つシステムで電子取引情報を保存するだけでは要件を満たさないことに留意が必要です。

たとえば、電子メールで電子取引情報をやり取りし、そのデータをヴァージョン管理機能を持つシステムで取引情報を保存する方法では要件を満たしません。あくまでもそのシステムで「取引情報の授受及び保存」をすることが必要です。

検索機能の確保の要件

検索機能の下記の要件は、スキャナ保存と電子データ保存で共通です。

    1. ① 取引年月日、取引金額、取引先名称を検索条件として設定できること

 

    1. ② 日付または金額について、範囲指定ができること

 

    ③ 2つ以上の項目の組み合わせで検索できること

また、税務調査時にダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、①のみが必要な要件となることも共通です(ただし、「印刷した書面を一定の要件を満たすように整理しておくこと」により検索要件が不要になるのは、電子データ保存のみです)。

その他の要件

その他、閲覧環境の整備やシステム関連書類の備付けなどの要件があります。これらは、ほぼ共通です。相違点がある場合でも対応は難しくないと考えられます。

まとめ

このように、スキャナ保存と電子データ保存には共通する要件が多くあります。両者を満たすシステムを利用し、業務プロセスを可能な限り共通化して運用することにより、業務の効率化を図ることができるでしょう。

ただし、両者ではタイムスタンプに関する要件が異なっていますので、その点に留意する必要があるといえます。

最近では、経費精算システムや請求書受領サービスなど外部のサービスを利用して、電子取引データなどをやり取りすることも多くなってきています。従業員や外部の取引先が関係するプロセスについては、そのような外部サービスを導入して電帳法に対応するのも良いでしょう。

大切なのは、それぞれの会社や事業者の規模や業務内容に応じて、適切な対応方法をきちんと選択することです。自社での判断が難しい場合には、公認会計士や税理士などの専門家に相談されることをお勧めします。

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