税理士業界における課題とは?これからの税理士に求められることも紹介。

事務所経営

税理士業界における課題とは?これからの税理士に求められることも紹介。

時代の流れや技術の発展により、税理士業界にもさまざまな変化が起こっています。一方で、今まではなかった課題や変化に適応することが業界全体に求められているのではないでしょうか。そこで、本記事では税理士業界に起こっている課題や解消方法、これからの税理士に求められることについて解説していきます。

税理士業界に起こっている課題

今、税理士業界ではどのようなことが起こっているのでしょうか?ここでは、税理士業界が抱える課題や税理士に求められていることについて考えていきます。

税理士業界の高齢化

日本税理士連合会によると、令和4年に入って全国の税理士登録者数が8万人を超えました。下のグラフは平成17年から令和2年までの税理士登録数です。登録者数は、ゆるやかに増加していることが分かります。

上のグラフとは相反して、近年の税理士試験受験者数は年とともに減り続け、それに伴い合格者数も減っています。下のグラフは平成17年から令和元年までの税理士試験の受験者と合格者の推移を示しています。下記の期間において、受験者の減少率は47%、合格者の減少率は29%となっています。

10年に1度実施される「税理士実態調査」は平成26年時点と少し古いデータですが、これによると、税理士の53.8%が60歳以上であり、開業税理士だけを見ると60歳以上が全体の62.8%にも上ります。

上記のことから、税理士業界は税理士登録者は増えていますが、新たに登録する人は減る状態にあります。一旦登録をした税理士がその後もずっと業務をし続けていること、新たに税理士資格を取得しても税理士登録をしない人もいることなどが考えられます。平均年齢も60歳前後だと言われる税理士の高齢化に伴い、事務所の事業承継問題が発生しています。

人材不足

事務所の経営者という視点で見ると、税理士試験受験者の減少に加え、事務所の給与水準の低迷やそれに伴う離職率の高さから、人材不足の問題は深刻です。

下の表は、令和2年の賃金構造基本統計調査の結果です。

上の表で税理士補助となる会計事務従事者の労働時間数は多く、給与については一般的な総合事務員より低い結果となっています。上の統計は10名以上の事業所を対象としていますので、それより小規模な事務所においては、労働条件はさらに厳しいことが予想され、離職率への影響も懸念されます。既存先に記帳代行や税務申告などの従来業務についての値上げの打診は難しく、事務所の承継問題に悩みながら、深刻な人材不足も抱えているといった税理士事務所の姿が浮かび上がります。

デジタル化への変革

2017年、国税庁は「スマート税務行政」を目指し、AIの活用を打ち出しました。個人、法人を問わず、ICT社会への対応として、「申告・納付のデジタル化の推進」「調査・徴収におけるAIの活用」を推進することとなりました。

AI(人工知能)やRPA(ソフトウェア型ロボット)の発展により、新たに税理士に求められる業務は様変わりしています。税理士はこれらの変化に呼応して、納税者にわかりやすく説明することが求められるようになりました。その内容は、電子申告や電子帳簿保存だけではなく、その上流に位置する生産・販売・在庫・経理・人事などの各システムの運用にも影響します。もちろん税理士事務所自体のICTの利用は言うまでもありません。まずは記帳などの単純業務については積極的に効率化の促進が急がれます。そして、最終的にはより高付加価値な業務に特化できるような事務所の体制構築が求められます。

このようなデジタル化の対応には、きちんと状況把握をし、時間とリソースをかけて計画し、実行しなければならず、実際はなかなか追いついていないのが現状です。

税理士やスタッフを取り巻く環境の厳しさとは裏腹に、税理士に求められる課題が増えていることがわかります。

税理士業界の課題を解消するには

税理士事務所の抱える問題を解決するには、潜在的な問題も含め、今事務所が抱えている問題を明らかにし、対応可能な課題にまでブレイクダウンすることが必要です。ここでは、これらの課題を人材に関するものと業務に関するものに分けて見ていきましょう。

 

人材に関する課題解消

事務所規模が小さいほど、新たな人材には「即戦力」を求めがちです。未経験者を採用し、育成するには人的リソースも含め時間と労力がかかります。

しかし、会計未経験者であってもコミュニケーション能力に優れた人材、相手の立場を思いやり、感謝や友好の気持ちが示せる人材などビジネスパーソンとして高い適応力のある人材などに目を向けるべきでしょう。人材の育成自体がその事務所のスキルともなります。離職率の低下、採用数の増加を考えた労働環境の改善が望まれます。労働環境とは、給与や福利厚生制度だけに求められるものではなく、職場の雰囲気づくりも含まれます。

事務所の雰囲気づくりには、次の要素も必要です。

  • 清掃が行き届き、執務室に清潔感がある
  • 従業員同士の協力体制ができている
  • ワークライフバランスが整っている

特に、 仕事と生活のバランスがとれた環境の中でこそ、その人材が最高のパフォーマンスを発揮できると言えます。まずは、このバランスを確保するためのICT利活用へとつながることも重要です。

業務に関する課題解消

税理士に求められる業務が変わりつつある現状では、変化への対応を目に見える課題に落とし込むことが重要です。例えば3年後の事務所像をどのようにしたいかを具体的に検討します。

  • 業務効率化のためにはどのようなシステムが必要なのか
  • 外部に頼れるパートナーはいるのか
  • 事務所にとって高付加価値な業務とはなにか

記帳代行業務を外部に委託すると仮定します。この変化を、記帳代行の担当者からゼネラリストに育てるチャンスと考えましょう。

事務所内の現担当者を外部との窓口に置くことで、契約の締結や納品物のチェック、業務内容の見直しなど、他のメンバーの助けを借りながらでも外注案件を包括的に推進できる人材を育成する機会になり、記帳代行のスペシャリストから、今後は事務所内のゼネラリストとして機能する人材になります。これは、他の案件にも応用のきく付加価値の高い業務であると言えます。

会計コンサルタント業務などには深い知識や経験の裏づけが必要です。担当者の適性に合わせコンサル業務をアサインする場合には、システム要員とチームで担当することを検討します。これにはIT系の人材採用や育成が急務となりますが、他の分野で知識や技術を培ってきた人材の新たな視点が付加価値に結びつく場合もあります。
もちろん、ITの積極的な導入により業務効率化を図り、コスト及び単純作業時間の削減することは言うまでもありません。IT導入の効果を最大化するためにも担当者の養成は必須です。

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これからの税理士に求められるもの

税理士事務所の業務として、今後期待される分野として、「コンサルティング業務」「事業承継・M&A」「国際税務」の3つについて解説します。

 

コンサルティング力

コンサルティングと言っても、経営上の課題解決のためのアドバイスから、経営改善を望む企業への支援、ICTの導入を中心とした業務改革のフォローなど、さまざまです。 今後は、より経営者に近い存在として会計や税務から広がる分野を視野に、種々の相談を受け入れ、その上で事務所の独自性を発揮することが求められます。

コンサルティングにおいては、コミュニケーション能力やプレゼン能力が素質として求められますが、急に雄弁になれるものでもありません。今までの蓄積の中から、できることを着実に増やせばよいでしょう。

今までの顧客との関係性からどこに力点を置けばよいか、何から先に着手すればよいか、税理士事務所なら「痒いところに手が届く」存在となることが必要です。

事業承継やM&Aなどの知識

昭和22〜24年あたりに生まれた団塊世代の経営者は70歳を超え、いまだ事業承継、M&Aの問題が解決されていないケースも多々あります。

さらに感染症の影響などによる廃業のリスクも高まる中で、培われた技術や人材の引き継ぎは単に経営者だけの問題ではありません。事業の収益確保を優先することに注視し、M&Aなどは後回しにされているケースはよくあります。事業承継は一旦受注すると、長期的な案件でもあり、多くのケースを経験することで徐々にコンサルティング力が養われます。今後、ますます高齢化が進むことで需要が増えていくことも考えられます。

国際税務などの知識

経済のグローバル化に伴い海外と取引をする企業が増えており、海外取引における税務の需要は高くなりつつあります。

近年の税制改正だけを見ても、国際課税に関するものが増えてきています。取引の実態を踏まえ、相手国の動向調査や租税条約の確認などを推進できる、国内と海外の税制の両方に強い税理士は有利に働きます。

これからを生き抜く税理士事務所を作るために

税理士事務所に限りませんが、事業の継続には時代の流れに合わせて変化することが常に求められます。そのためには、税理士事務所として2つの軸を意識した事業活動を心掛けましょう。

  • 事務所の課題に対し計画的に取り組む
  • 顧客の課題を多方面からサポートする

このどちらについても税理士だけでなく、事務所のメンバー全員が自ら考える自律した組織として取り組めるかどうかということです。そこに税理士事務所の「これから」がかかっています。

よくある質問

税理士業界に起こっている課題とは?

税理士業界の高齢化や人材不足に加え、デジタル化への変革の難しさが挙げられます。税理士や事務所スタッフを取り巻く環境の厳しさとは裏腹に、税理士に求められる課題が増えています。

税理士業界の課題を解消するには?

事務所が抱えている問題を明らかにし、対応可能な課題にまでブレイクダウンすることです。高い適応力のある人材を注視したり、業務改革により付加価値の高い業務に特化できる体制を考えたりする必要があります。

これからの税理士に期待される分野とは?

税理士業界において、「コンサルティング業務」「事業承継・M&A」「国際税務」の3つは今後期待される分野です。

【監修】税理士・CFP 岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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