導入事例
週5日の税務実務を週2日に。プログラミング未経験の税理士がAIエージェントでつくった新しい働き方
「クラウド会計だけでも十分速い。AIは、その先の“人にしかできない仕事”に時間を使うためのもの」そう語るのは、EMP税理士法人 新橋支店(旧・峯クラウド会計事務所)の峯英之様です。
2015年、いち早くクラウド会計に特化した事務所として独立し、2026年3月からはAIの活用にも着手。プログラミング経験はゼロでしたが、AIエージェントとの対話を通じて、仕訳業務の自動化や顧客対応のモニタリング、社内向けアプリの開発まで、自ら仕組みを構築してきました。その結果、峯様自身の税務実務は週5日から週2日程度に減少し、その時間をAIを活用した業務効率化の支援や、CFO業務に充てています。
今回は、クラウドとAIをどのように組み合わせて業務を変革してきたのか。そして、プログラミング未経験だった峯様が、なぜここまでAI活用を進めることができたのか。その具体的な取り組みと考え方について伺いました。
- 目的
- 業務改善・効率化
- 解決策
- マネーフォワード クラウドの導入
- 効果
- 業務改善・圧倒的な効率化、高付加価値業務への注力
クラウド特化の事務所を立ち上げた理由
事務所のご紹介を兼ねて、事務所の成り立ちについて教えてください。
峯様(以下、敬称略):私はもともと、手入力中心の会計事務所に勤めていました。そんな中、アメリカでは会計事務所がCFOやコンサルティング業務へシフトしているという記事を見て、「これからはクラウドだ」と直感したんです。そこで2016年頃、クラウド会計に特化した事務所として独立しました。その後、2025年10月にEMP税理士法人へ合流し、現在は新橋支店の支店長を務めています。
今は税理士業務そのものは週5日から週2日程度に抑え、空いた時間でAIを活用した業務効率化の支援や、CFO業務などに取り組んでいます。
「人が頑張る」のではなく、仕組みで品質を守る
独立時、あえて「クラウド特化」を掲げた背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
峯:三国志の軍師のように、数字を武器に社長の悩みに応える「参謀」でありたい。それが私の原点なんです。ただ、手作業が多い「人頼み」のモデルでは、どうしても限界があります。どれだけ丁寧に仕事をしても、人の感情や個人の資質に依存したマネジメントでは、品質を安定させることが難しい。そこで、感情や経験だけに頼る「人主導」ではなく、テクノロジーによって人を守り、品質を担保する「システム主導」の組織をつくりたいと考えていました。
ちょうどその頃、アメリカの会計業界がAIやクラウドを活用しながらCFO業務へシフトしていることを知り、日本でそれを実現するために「クラウド特化」という道を選びました。
AIを活用するために、まず「データが整っていること=クラウド化」が重要
なぜクラウド会計ソフトの中からマネーフォワードを選んだのでしょうか。
峯:自動化の成否は、データの「摘要欄」に何が入ってくるかで決まると思っています。以前試した他社ソフトでは、摘要が空欄になってしまうケースがありました。これでは、AIを載せたとしても、結局は人間が確認して判断しなければなりません。
マネーフォワードは金融機関との連携によって、取引に関する詳細な情報をデータとして取得できます。「7割程度の仕訳が自動で処理できる土台」があるからこそ、その上に自作のAIを組み合わせて、残りの3割にあたる高度な判断やチェックまで自動化できます。
私にとってマネーフォワードは、単なる会計ソフトというより、AI活用を支えるための重要な「データ基盤」だと考えています。
プログラミング経験ゼロから、AIとの対話で業務フローを自作
AIを活用されたきっかけと、現在構築されている「自律型AIフロー」について教えてください。
峯:最初にChatGPTに触れたのは2023年2月です。当時はAIを使って本を書いたりしていました。その後、AIエージェントが登場して、「これは仕訳業務そのものを任せられるのではないか」と直感したんです。そこから、本格的に業務へ組み込むようになりました。
プログラミング経験はありませんでしたが、AIに相談しながら、自分で仕組みを作っていきました。例えば、毎朝7時になるとAIが前日の未確定仕訳の仕訳登録をしてくれます。Google Driveに保存された領収書PDFを読み取り、内容に応じて科目を確認・修正し、証憑を自動で添付する。このフローは、AIと対話しながら2週間ほどで構築しました。
単に「AIに作業をやらせる」のではなく、人が間違えにくい業務フローそのものをAIと一緒につくっていくイメージですね。

販売部門は1人あたり約100社を担当できる秘訣
クラウドとAIの活用によって、働き方はどのように変わりましたか。
峯:販売部門では、1人あたり100社近くを担当できるようになりました。正直、多すぎて混乱していないか少し心配なくらいです(笑)。一方で、従業員数が減っているにもかかわらず売上は維持できているため、結果として利益率も上がっています。
面白いのは、従業員に「AIを使っている」という意識があまりないことです。私は、AIの使い方を一から教え込むよりも、裏側でAIが自動的に作業して、スタッフは必要な結果だけを受け取れる状態が理想だと考えています。「AIを使わなければ」と意識するのではなく、便利になった結果として、自然に仕事が速くなっている。そんな状態を目指しています。現場から「こうしてほしい」という要望があれば、例えばCSVを読み込ませてチェックできるようにするなど、できるだけ早く仕組みに反映するようにしています。
私自身も、週5日フル稼働していた税務実務が、週2日程度まで減りました。そこで生まれた時間を使って、現在は他社へのAI導入コンサルティングや、高単価なCFO業務にも取り組んでいます。
効率化によって生まれた時間は、単なるコスト削減ではありません。私にとっては、より難易度の高い「軍師」としての仕事に再投資するための原資になっています。
会計ソフトは専門家に任せる。AI活用で大切にする「役割分担」
AI活用を進める中で、不安だった点や気をつけていることはありますか。
峯:やはりセキュリティですね。オプトアウトの設定はもちろんですが、情報漏えいは人為的なミスだけでなく、外部からの攻撃なども含めて考える必要があります。
現時点での私なりの考え方としては、できるだけ情報をGoogleのシステムの中に置いておくことです。Googleのセキュリティ機能も活用しながら、リスクを抑えるようにしています。
また、会計ソフトや確定申告ソフトそのものを自分で作ろうとは全く考えていません。そこはマネーフォワードのように、専門の会社がきちんと作り込んでいるものに任せる。その上で、自分たちはその前段階にある資料整理や、補助的な事務作業など、AIを活用できる部分に注力する。「すべてを自社で作る」のではなく、既存のサービスとAIを組み合わせて、自分たちに必要な仕組みをつくる。それが、私の考えるAI活用です。
「税理士だからこの仕事をやる」を手放す。AI時代に求められる「軍師」の役割
事務所内部の自動化にとどまらず、そのノウハウを活かした新しいビジネス展開も広がっているそうですね。
峯:はい。現在では、年商100億円を超える規模の大手企業様に対して、業務効率化の支援やAIで手作業を減らすための専用アプリ制作などを提供しており、月額130万円のコンサルティング契約につながっています。自事務所での「手作業の撲滅」から始まった取り組みが、他企業の変革を支える新たな高付加価値事業へと昇華しつつあります。
今後、AIによって会計業界はどのように変わっていくと思われますか。
峯:仕訳のチェックひとつを取っても、正直、私がやるよりAIのほうが丁寧で正確な場合すらあります。税務・会計の実務作業は、これからますますAIに置き換わっていくでしょう。だからこそ、「税理士だから、この仕事をやらなければいけない」という執着を手放して、変わる勇気を持つことが必要な時代になってきていると感じます。
一方で、最終的なチェックを行ったり、社長が今何に悩んでいるのかに寄り添って話を聞き、相談に乗ったりする。そうした仕事は、これからも人にしか担えない領域として残っていくと思います。
税理士が仕訳の入力作業に膨大な時間を取られてしまうのはもったいない。クラウドとAIをうまく活用しながら、社長にとっての「相談相手」であり「軍師」であり続ける。それが、これからの税理士に求められる本質的な役割なのではないかと考えています。