難関の税理士資格を取得し、独立開業の準備を進めている方の中には地方での開業を検討されている方もいるでしょう。
ただ、地方での独立開業を検討する際に何を準備すれば良いのか、注意しておくべきポイントはどこかといった悩みは少なからず抱えているのではないでしょうか。
そこで本記事では、地方ならではの特徴や注意しておくべき点についてまとめました。
目次
地方での独立開業をするメリットとは?
税理士が地方で事務所を開業する場合には、下図のようにさまざまなメリットが期待されます。
開業場所を選定する場合には、これらのメリットを正しく理解しましょう。その上で、自分自身の事務所としての方向性やサービス内容も踏まえ、最適な経営環境を選びましょう。
特定領域などで1番を目指しやすい
首都圏のような都心部に比べ、地方では税理士の数も少ないため、競争環境が穏やかなケースが多いです。
日本税理士会連合会によると、令和5年5月末日時点での税理士登録者数は全国で8万人を超えていますが、そのうち東京都が約2.4万人であり、全体の約3割が首都圏に集中していることが伺えます。このような税理士登録者数の分布から見ても、税理士が首都圏で開業する場合には、激化する他の事務所との競争に勝ち抜くために、たくさんの時間や労力をかけて差別化を図ることが重要であると考えられます。
それに対して地方で開業する場合には、相対的に税理士の数も少ない傾向にあるため、しっかりと腰を据え、地域に根ざした事務所経営を追求しやすくなるでしょう。
また地域のニーズに合わせたサービスを提供することで独自性を高め、地域での評判や信頼を獲得できるだけでなく、特定の領域や業種に特化し、自らの専門性を発揮することによってナンバーワンを目指すことも可能です。
さらに地域社会とのつながりが強い地方では、特定のエリアや業務領域においてトップクラスになるなど、一定のポジションを確立できれば、既存顧客からの紹介を介した顧客獲得にもつながりやすく、より一層強固な顧客基盤を構築しやすくなります。
初期費用及びランニングコストが低い
税理士が自らの事務所を開業する場合、事務所を賃借してオフィスを構える方法や、自宅開業によって自宅兼事務所としてスタートする方法が一般的です。
いずれの事務所形態であっても、首都圏に比べると、地方で開業する方が家賃や固定資産税などの固定費を抑えることができ、事務所としての利益体質を強化しやすくなります。
たとえば賃貸オフィスの場合には、同じ10坪の広さでも首都圏では20万円になることもある一方、地方では10万円に届かないケースもあるため、毎月のランニングコストにも大きな差が生まれるでしょう。
さらに家賃だけではなく、人件費や交通費などのランニングコストについても、首都圏に比べて低く抑えることができます。
そのため開業後間もない税理士にとっては経済的な負担を軽減でき、事務所経営の安定化につなげたり、浮いた資金を広告宣伝活動などに充てたりすることも可能です。
口コミや紹介が顧客獲得の有効手段になりやすい
首都圏のような都心部に比べると、地方では人口密度が低く、地域社会との結びつきが強い傾向にあります。地域のイベントや活動に積極的に参加し、地元の企業や住民とのつながりを深めることで信頼関係を築くことも可能です。
地域に根ざした事務所経営を行うことにより、地元の中小企業や個人事業主との信頼関係が醸成されれば、クライアントとの間に長期的な関係性を確立でき、税理士事務所としての顧客基盤を固めることが可能です。
また地方では地域社会が独自のネットワークを築いているケースも多く、そのような環境下では口コミや紹介の輪が広がりやすいといった特徴もあります。
そのため、それぞれの地方の特性や環境に合ったサービスを展開することや、効果的なアプローチ手法を実践することで効率的な顧客開拓が可能となり、地方ならではの「拡散力」も相まって、さらなる顧客獲得にもつながりやすくなるでしょう。
ただし地方特有のコミュニティ結びつきの強さは、税理士事務所としての評判が良ければ大きな武器になりますが、悪評が立ってしまった場合にはより一層広まりやすくなるため、注意しなければなりません。
税務や会計に関するサービスを提供するだけでなく、その土地の風習や伝統を理解したうえで、地域性や土地柄に配慮した経営を心掛けましょう。
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地方での独立開業をする際の注意点とは?
税理士が地方で独立開業する場合には、メリットばかりでなく、下図のようにいくつかの注意点も存在します。
これらを理解せずに開業地を選定してしまうと、自らの「経営方針」と「経営環境」がマッチせず、事務所経営そのものに悪影響を及ぼすリスクもあります。
そのため、地方で開業する場合の注意点についても正しく理解することが大切です。その上で対応策を考慮し、税理士事務所としての経営戦略を検討しましょう。
顧客との密なコミュニケーションが求められる
人と人との結びつきが強い地方で開業する場合、顧客との関係構築が特に重要です。顧客との密なコミュニケーションを図ることで信頼関係を築き、長期的な顧客の維持や紹介ルートの獲得につなげることができます。
また首都圏などの都心部に比べると、求められるコミュニケーションの方法も異なる場合が多いです。近年ではオンラインによるコミュニケーションツールが発展していますが、地方ではオフライン形式による対面でのコミュニケーションが好まれる傾向にあります。
したがって首都圏において税理士事務所が行っているさまざまな施策やコミュニケーションの方法が、そのまま地方の事務所経営でも有効な手段になるとは限らないため、開業エリアごとの顧客ニーズをしっかりと分析し、それに基づいた対応を心掛けましょう。
移動手段が限られる
公共交通機関が発達している首都圏とは異なり、地方では電車やバスがほとんど通っていないエリアも存在します。
そのような地域で事務所を開業する場合、顧問先などへの訪問の際には自動車などの移動手段を自分で用意する必要があるため、車両の購入費用や維持費の負担が必要不可欠となるケースも多いです。
また、移動手段や交通手段の選択肢が限定される可能性も高まるため、業務生産性を向上させるためには、効率的な移動計画の立案や顧客訪問のスケジュール管理が欠かせません。
移動時間がかさんでしまう場合には、事務所としての収益性低下の原因にもなり得るため、移動コストも考慮したうえで適切な料金設定を行いましょう。
なおクライアント訪問などによる業務時間の圧迫を軽減するために、地方で独立開業を行う場合には、クラウドサービスの活用をはじめとする「業務のデジタル化」が重要です。
たとえば香川県にある大隈直人税理士事務所では、業務プロセスのデジタル化を実現することにより、移動の制約があっても不自由しない顧客対応を可能とすることで、県内だけでなく、東京から沖縄まで顧問先を拡大しています。
香川から全国へ。「地方だからこそ」を強みに|マネーフォワードクラウド
このように地元の顧客のみにターゲットを絞るのではなく、ITツールやAIを効果的に活用することで、地方で独立開業するメリットも享受しつつ、遠方にいるクライアントの獲得を目指すことも可能です。
採用活動が困難
税理士が地方で事務所を開業する場合、採用活動の面においても、都市部に比べると難しくなるケースが一般的です。その理由としては、主に「人口減少と高齢化による働き手の減少」や「専門教育機関の不足」が挙げられます。
昨今では地方に住む若者の都市流出による影響もあり、地方では採用対象となる働き手が少なく、人材難に苦しむ税理士事務所も多いです。
また、税務や会計分野を扱う税理士業務に対し、地方ではそれらの実践的な知識を習得するために必要な専門学校などの教育機関が限られており、税理士事務所が希望する専門的なスキルや経験を持つ人材が集まりにくい傾向にあります。
したがって、地方で独立開業する場合には、採用戦略や人材育成のための効果的な取り組みが欠かせません。
なお、人材確保が難しい地方での開業においては、クラウドサービスなどの活用によって人材不足を補い、事務所全体の労働生産性を高めることも効果的です。
記帳代行のようにまとまった時間を要する業務でも、自動記帳サービスなどの活用によって職員の負荷を軽減し、浮いた労働力をより高付加価値な業務に投下することも可能です。
たとえば高知県にある白川浩平税理士事務所では、クラウドサービスの活用によって人材不足の問題を解決し、職員の負担軽減による労働環境の改善に結びつけています。
人手不足と属人化で疲弊した暗黒期を乗り越え、残業ゼロで若手が活躍する「高知で一番働きたい会計事務所」に|マネーフォワードクラウド
このようにクラウドサービスなどを導入することで、単に人材難を解消するだけでなく、職員の労働環境改善による定着率の向上や、高付加価値業務への従事による人材育成にもつながります。地方で開業する場合には、「クラウド」と「マンパワー」の併用も視野に入れて、事務所としての経営戦略を構築しましょう。
ネットワーク構築が難しい
地方における人材難については、採用活動だけでなく、士業間連携に必要なネットワーク構築に関しても同様です。
首都圏などの都心部に比べると、弁護士や司法書士、社会保険労務士などの他士業についても事務所数が劣るうえ、すでに他の税理士と協力関係を構築しているケースも多いため、新たに開業する税理士にとってはネットワーク構築に苦慮する場合もあります。
したがって、新たにネットワークを広げるためには、地域のビジネスコミュニティや業界団体のイベント、セミナーなどに積極的に参加し、人脈づくりに取り組みましょう。
地方開業で成功するために知っておきたいポイント
税理士が自らの事務所を開業する場合には、闇雲に開業場所を選ぶのではなく、入念な事前調査が欠かせません。
特に、自らの強みやターゲット層のニーズ、競合する他の事務所など、自分自身が身を置くこととなる経営環境を細かく分析することによって、開業後の事務所経営の成功確率を高めることにもつながります。安定的な経営基盤を確保し、地方での独立開業を成功に導くために、押さえておくべきポイントを整理したうえで、効果的な対策を講じましょう。
地域に立地する企業の特性や競合を理解する
前述したように、首都圏などの都心部において効果的な施策やサービス内容が、必ずしも地方でも同様に有効であるとは限りません。
したがって税理士が新たに地方での開業を検討する際には、内部分析と外部分析の両面から市場環境を考察し、適切な開業場所を選定することが重要です。
具体的には、まずは自らの強みを正しく理解したうえで、開業候補地となるエリアに立地している企業の特性を分析することにより、需要と供給が一致しているか検討しましょう。さらに、近隣の税理士事務所もチェックし、料金体系やサービス内容、ターゲットとなる顧客層を検証し、競合他社との差別化の方向性を模索する必要があります。
このような分析作業を行わずに開業場所を見誤ってしまうと、経営状況の悪化や余分な移転コストの負担につながるリスクもあるため、開業地の事前調査は徹底的に行い、自らにとって最適な経営環境を選びましょう。
税理士コミュニティを活用する
同業者である他の税理士と情報交換を行うことで、自らの事務所経営に役立つヒントを得られる場合も多いため、税理士コミュニティに所属することも有用です。
税理士同士のコミュニティを活用することで、税務会計に関する意見交換だけでなく、最新のノウハウやトレンドの共有によって、自らの業務改善や営業活動に応用することも可能です。
また近年では、オフラインに加えてオンライン形式でのコミュニティ活動も活発化しており、事務所の所在地を問わず、さまざまな税理士とつながることができます。
地方ならではの特徴をつかみ、万全の準備を
税理士の独立開業において、「開業地の選定」は非常に重要な経営判断です。
首都圏などの都心部と地方では経営環境も大きく異なるため、地方で開業する場合には、注意点についてもしっかりと理解したうえで、地方独自のメリットやビジネスチャンスを活かすための戦略が欠かせません。
地方開業のメリットを最大限に享受し、事務所を拡大していくためには、自らの専門性や顧客ニーズ、競合他社などの経営環境を多角的に分析するなど、地域ごとの特性をつかみながら、自分自身の強みを活かしたビジネスプランを構築しましょう。
よくある質問
税理士が地方で開業するメリットは?
地方で開業するメリットとしては、首都圏などの都心部と比べると、同業者が少ないことによって特定の業務領域でトップを目指しやすいことや、初期費用およびランニングコストを抑えられる点が挙げられます。
税理士が地方で開業する際の注意点は?
地域全体で働き手が不足している場合には、税理士事務所として人材確保が難しくなります。また首都圏に比べると交通網が未発達な場合も多いため、移動コストの増加や労働生産性低下の原因になる可能性もあります。
地方開業で成功するためのポイントは?
まずは開業前の入念な事前調査が欠かせません。自らの強みや対象地域の顧客ニーズを把握し、需要と供給が一致しているか確認しましょう。また近隣の税理士事務所の特徴も確認し、差別化の方向性を検討してください。