2023年10月からスタートする「インボイス制度」の理解度は?インターネット調査と経営者による座談会を実施!
税理士を交えたインボイス制度に関する座談会を開催!
中小企業経営者、個人事業主のホンネを聞いて制度への対応をアドバイス
インボイス制度の影響を受ける経営者や個人事業主は、いまどういった状況に直面しているのでしょうか。ここからは、事業内容もさまざまな4名の経営者、個人事業主と制度に詳しい税理士による座談会の内容をお伝えします。
座談会の参加者(五十音順)
皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。今回は、経営者、個人事業主のみなさんに座談会形式でインボイス制度に対するホンネをお聞きしつつ、税理士の高橋先生に解説・アドバイスをいただき、制度理解の参考にもしていただけたらと思います。まず自己紹介からお願いします。
カーン:東京・早稲田でカレー店を経営している、オーナーのカーンです。インドから来日して15年、事業を始めてから5年が経ちました。よろしくお願いします。
遊馬:不動産仲介業と広告代理店業を営んでいる遊馬(あすま)です。2年前に脱サラして起業からは日が浅く、それまでは確定申告とも無縁だったこともあり、税についてはあまり詳しくありません。今日は勉強させてください。
赤澤:フラワープロデューサーとしてフラワーアレンジメントの講師や、花々を用いた商品の企画・製造・販売やイベントの企画をしています。2020年からはZoomなどを使ったオンライン講師を養成する一般社団法人を立ち上げて、代表をしております。
吉田:フリーランスのライターでしたが、3年前に法人化して現在は化粧品や健康食品など薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)関連のセールスライティングをしています。
まずお聞きします。「適格請求書等保存方式」、いわゆる「インボイス制度」について皆さん、どのくらいご存じでしょうか。
遊馬:お恥ずかしながら何も知らず、最初に聞いたときは「ボイストレーニングか何か?」と思ったくらいです。
赤澤:何となく聞いたくらいです。調べてみても詳しくわからず、何のための制度なのかは理解できていません。
カーン:私は10%と8%の混在する消費税率について、やっと理解できたくらいのレベルです。今日の座談会をきっかけに、こういった制度が始まると知りました。
吉田:私も制度の名前くらいです。消費税について意識したことはあまりなく、よくわかっていません。
総じてご存じないということで、では、高橋先生から簡単にご解説いただきます。
高橋:最初に、前提として頭に入れておきたいのは、事業者間で消費税を払ったり受け取ったりしても、最終的にはプラスにもマイナスにもならないということです。例えば、1000円の商品を売った場合、お客さまから100円の消費税を預かります。その商品の仕入値が500円だったとすると、50円の消費税を支払っていますから、税金分としては100円-50円=50円が手元に残りますが、国に納めるので事業者にとって損にも得にもなりません。この、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて収めることを「仕入税額控除」といいます。万が一消費税を払いすぎた場合でも、国から返還されます。
「インボイス=適格請求書等」とは、現在みなさんが発行されている請求書(区分記載請求書)にインボイス制度の「事業者登録番号」や「適用税率」「消費税額」などの記載を追加した請求書や領収書やレシート、データのことです。
例えば、カーンさんのお店でいうとインボイス制度の登録番号と、消費税10%(イートイン)と8%(テイクアウト)に該当する品目や金額、消費税額をそれぞれ明記して、わかりやすくしましょうということです。
先ほどご説明した、消費税を納める際の「仕入税額控除」をできるのは、今後、この新しい記載形式に対応したインボイスのみになります。
インボイス制度について詳しくはこちらからご覧いただけます
[関連記事]インボイス制度とは?2023年導入までに消費税免税事業者がとるべき対応をわかりやすく解説
この「適格請求書(インボイス)」は誰でも発行できるわけではなく、「適格請求書発行事業者」として登録した事業者のみが発行できます。登録受付は2021年10月から始まっていて、制度が開始される2023年10月に間に合わせるには、2023年3月31日までに所管の税務署に届け出を終えないといけません。
インボイス制度の事業者登録をしないと、取引先を失う可能性も?
吉田:そもそもインボイス制度の目的って何ですか。
高橋:本来は消費税の計算の簡便化や正確な納付が目的で、海外でも導入されているケースが多く見られます。一方、いま問題視されているのは、事業開始から2年目まで、もしくは3年目以降でも基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合に消費税の納税が免除される「免税事業者」の存在です。
インボイスを発行できる適格請求書発行事業者になるためには、消費税を払う「課税事業者」でなければならないという決まりがあるんです。免税事業者は手元に残った消費税を納める必要はありませんが、インボイス制度が始まったあとは適格請求書を発行することができません。適格請求書でない請求書は、購入者側にとっては仕入税額控除ができないので、消費税の支払いで損をしてしまうことになります。そのため、免税事業者は取引を敬遠される恐れがあると指摘されています。
それを避けるには、消費税を納める課税事業者になったうえでインボイスの事業者として登録しないといけません。ところが、売り上げの少ない個人事業主からすると、それまで免除されていた消費税を支払うこととなり、「売上の1割がなくなって死活問題になる」と一部から反発の声が上がっているのです。
遊馬:とはいっても、登録してない法人や免税事業者と取引すると、買い手側は仕入税額控除を受けられなくなるわけですよね。
高橋:そうです。買い手からすると納付する消費税額が増えてしまうので、嫌がるところも出てくるでしょうね。それに、インボイスとそうでない請求書を区別して処理するのはとても面倒で、顧問税理士や経理担当者からすると、取引はすべて適格請求書発行事業者で統一したい気持ちも働きます。我々はお客様から節税の相談も受けますが、来年10月を見据えて「インボイス制度の登録者のみと取引しましょう」と勧めるかもしれません。
赤澤:インボイス制度(適格請求書発行事業者)に登録する、しないの判断は、どういうポイントで考えればいいんでしょうか。
高橋:基本的には登録するかどうかは経営者や事業主の判断ですが、以前から消費税を納めていたのなら抵抗は感じないはずです。問題は免税事業者だった場合ですが、仕入税額控除を適用するお客さまや取引先が多いなら登録する、経費に無関係の一般消費者なら選択しないなど、付き合う相手次第で判断は分かれるでしょうね。
制度の仕組みや課題が明らかになってきましたが、仮に皆さんが免税事業者だとしたら登録しますか。
遊馬:まだ決めかねますね。
吉田:私はBtoBの取引が多いので登録を検討します。登録しないで取引先を失うリスクがあると考えると、インボイス発行事業者になった方がメリットありそうです。
赤澤:上場会社も取引先にあるので、それを考えると登録しているほうが心象は良くなると思います。まだ明確に決められませんが、した方がいいのかなと考えました。
カーン:私の場合は皆さんと少し理由が違いますが、進んで登録したいです。というのも、コロナ禍が始まり2年過ぎましたが、その間は国や自治体の補助金に助けてもらいました。とても感謝していて、新しい制度にも反対する立場ではありません。
固有のスキルや技術があるなら免税事業者との取引継続を検討
免税事業者の取引先がいる場合は価格を変更したり、消費税課税事業者になることを勧める、ならないなら取引をやめるなど、何か考えはありますか。
吉田:課税事業者になるよう勧めるでしょうが、応じない方もいると思います。とはいっても、こちらが消費税分を負担するのは困るので、条件を変更してもらうかも。けど、値引きを頼むのは相手に悪い気もするし……悩みますね。
遊馬:他のところにはお願いできないスキルがあるなら、税負担が増えても仕方ないかもしれないです。人柄や相性もありますし。同等の付き合いの深さ・技術を持つ相手が2人いるなら課税事業者さんを選びますが、そうでないなら仕事のしやすさを優先すると思います。
赤澤:私たちはお花を使って気持ちを伝える仕事なので、免税事業者だからといって取引を停止する理由にならないと思います。
高橋:いろんな考え方があって当然です。ですが、最初は免税事業者さんと取引を継続したとしても、納税額の負担増加は簡単なことではありません。辛いと思う日がやってくる可能性もありますので、本来であればインボイス発行事業者登録をしてもらうのがベストです。幸いなことに、制度実施(2023年10月)から3年間までは免税事業者からの仕入れを80%、さらにその後3年間は同50%控除できる経過措置が取られるので、その間に変更をお願いする手もあるでしょう。
カーン:そういったことを含め、こうした情報の周知では英文表記もお願いしたいです。私はインドの大学で経理などの勉強をしてきていますが、日本にきてからは言語の壁があり役に立たず悔しい思いをしています。
高橋:ちなみに、インボイス制度の導入によりレシートや領収書の書式が変わり、店舗レジなどの交換に迫られるかもしれませんが、軽減税率の時がそうだったように、国の都合なので補助金が出るはずです。クラウドの会計サービスなども法令改正に合わせて自動的にアップデートされますので、このタイミングで導入を検討するのもよいかもしれません。
制度開始まで時間があるからこそ入念な準備を!
ここまでで、制度の概要や求められる対応について、おおよそ理解できたと思います。最後に、皆さんの感想をお聞かせください。
遊馬:取引先から選別される怖さがあり、いち早く登録した方がいいと思いましたが経過措置があると知り安心しました。そういった告知ももっとしてほしいですね。いずれにしても、じっくり考えます。
赤澤:感性で仕事をしていて、どちらかというとお金の管理は苦手でしたが、今日はいいテーマでお話が聞けました。これを機にお取引先との付き合い方はもちろん、税についても考えたいです。
カーン:インドのシステムで生まれ育った私にとって、日本の公共システムは素晴らしく、インボイス制度についても賛成しています。あとは先ほど言ったように英文対応など、外国人事業者に配慮していただけるとありがたいです。
吉田:今日までまったく知りませんでしたが、法人の信頼獲得のためにも登録した方がいいと思いました。
高橋:制度の改正は往々にしてありますが、今回は内容がすでに判明していて、実施期間まで余裕もあります。その間に金額を含め取引相手を見直すなど、ぜひ準備をしてください。