税理士試験の科目免除は活用すべき?具体的な方法について解説

税理士登録

税理士試験の科目免除は活用すべき?具体的な方法について解説税理士登録を完了するには、まず税理士試験の合格が必要です。税理士試験の合格には、定められた全11科目のうち、必須科目を含んだ5科目の合格が条件とされています。しかし、一部要件を満たすことで税理士試験を一部免除することが可能です。この一部免除を行えば、税理士試験合格までの歩みを確実に進めやすくなります。本記事では、具体的な科目免除についての概要と具体的な方法について解説します。

税理士試験の科目免除とは?

税理士試験は一発勝負の試験制度ではなく、税理士登録に必要な科目合格をコツコツと積み上げることができる「科目合格制度」を採用しています。

原則として税理士登録のためには5科目合格を果たす必要がありますが、一定の条件を満たす場合には、いくつかの科目について受験を免除することが可能です。

科目免除を受けることで、税理士試験を突破するまでの期間を大幅に短縮できる場合もあるため、試験制度の仕組みについて正しく理解しましょう。

税理士試験合格の難易度は高い?

税理士試験は年に一度、毎年7〜8月頃に3日間にわたって実施されています。

税理士として登録する資格を得るためには、会計学に属する科目(簿記論および財務諸表論)の2科目と、税法に属する科目(所得税法、法人税法、相続税法、消費税法または酒税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税)のうち受験者の選択する3科目(所得税法または法人税法のいずれかは必須)の合計5科目に合格しなければなりません。
参考:税理士試験の概要|国税庁

国税庁が毎年公表している税理士試験の結果によると、下図のとおり、令和4年度の合格率は19.5%(「5科目到達者数」と「一部科目合格者数」の合計を「受験者数」で除したもの)となっています。
 

 
また下図のとおり、科目別合格率では簿記論の23.0%が最大であるのに対し、最も低い消費税法では11.4%であることから、税理士試験5科目合格の難易度の高さが伺える結果といえます。

科目名合格率
簿記論23.0%
財務諸表論14.8%
所得税法14.1%
法人税法12.3%
相続税法14.2%
消費税法11.4%
酒税法13.2%
国税徴収法13.8%
住民税17.2%
事業税14.1%
固定資産税18.4%

参考:令和4年度(第72回)税理士試験結果|国税庁

なお税理士試験では、科目ごとに満点の60%を合格ラインとする「絶対評価」の試験である旨が公表されています。しかし、実際には毎年の合格者数や合格率を一定水準に保つために、「相対評価」に基づく競争試験であると考えられています。

ただし、税理士試験合格の条件となる5科目については、必ずしも1年ですべての科目に合格する必要はありません。一度合格した科目は時間が経ってもその効力が失われることはないため、年月をかけてコツコツと科目合格を積み上げていくことも可能です。

特に税理士試験の受験者に関しては、税理士事務所などで勤務する社会人が大半です。実務と両立しながら毎年1〜2科目ずつ受験するケースが多いため、5科目合格するまでにまとまった年数を要する場合が一般的です。

しかし年数をかけたからといって税理士試験に合格できる保証はなく、合格するまでには時間だけでなく専門学校の学費負担がかさむ可能性も高いため、残念ながら試験合格を断念してしまうケースもあります。

科目免除で税理士試験合格の確実性が上がる

現行の税理士法では、修士や博士などの学位を取得することで、税理士試験の一部科目の免除を受けられる制度(以下「科目免除制度」とする)が設けられています。

なお税理士試験の科目免除制度については、平成14年3月31日以前は大学院の修士または博士学位を取得することで、場合によっては5科目すべての免除を受けることが可能でした。

しかし現在は税理士法が改正され、修士学位の場合、その研究内容が税法科目である場合には、試験科目のうち「税法に属する科目」の2科目が免除されます。また、会計学科目の研究である場合は「会計学に属する科目」のうち1科目のみが免除されます。

したがって会計学科目と税法科目の双方の修士学位を取得した場合においても、最大で3科目(「税法に属する科目」の2科目および「会計学に属する科目」の1科目の合計)が科目免除の対象となり、少なくとも残りの2科目については受験が必須となります。

このように税理士法改正によって科目免除制度は縮小されたものの、大学院修士課程の2年間を経て科目免除を受けることで必要な受験科目数を減らすことができ、税理士試験合格の確実性を高めることが可能となります。

税理士試験では各科目の合格率は毎年10〜20%程度で推移しており、5科目合格に到達するためには10年近くの年数を要する場合も少なくありません。
また税理士試験は年に一度しか実施されず、学習の成果が合格という結果に結びつく保証はないため、人一倍努力しても不合格となってしまうリスクはあります。

税理士試験の勉強と同様に、科目免除制度に必要な論文執筆や修士学位取得にもまとまった時間を要しますが、試験勉強と比べると、費やした時間に対して期待する成果が得られやすいという大きなメリットがあります。

さらに実務においては、受験科目以外の税法のノウハウや税法以外の周辺知識も必要であることから、税理士試験の合格や税理士登録はまだまだスタートラインに過ぎません。

これらの背景を踏まえると、必ずしも税理士試験で5科目合格を果たす必要はなく、科目免除制度を活用し、より確実に税理士試験を突破することも合理的な選択肢といえます。

科目免除の具体的な方法とは?

税理士試験において「科目免除制度」の適用を受ける場合には、税理士法によって定められた要件を満たしたうえで、申請手続きを行わなければなりません。

特に単位取得や研究内容に関する要件については、進学先となる大学院を選ぶ際にも押さえなければならないポイントであるため、科目免除制度の具体的な方法については事前にチェックしておきましょう。

単位の取得と修士論文の執筆

税理士法で定められた科目免除制度を適用する場合には、一定の要件を満たす「単位取得」および「修士論文の執筆」が必要とされています。

それぞれの具体的な要件は以下のとおりです。

単位取得
・税法2科目の科目免除を受ける場合
「税法に属する科目」を内容とする単位を4単位以上
・会計学1科目の科目免除を受ける場合
「会計学に属する科目」を内容とする単位を4単位以上

参考:修士の学位等による試験科目免除(研究の認定を含む。以下同じ。)について〔税理士法改正後〕|国税庁

なお上記の単位については、演習やゼミのような修士論文執筆の指導を目的とする単位は含まれず、あくまで租税法や法人税法のような講義形式によって履修する単位が対象となります。

修士論文の執筆
・税法2科目の科目免除を受ける場合
「税法に属する科目」に関する論文
・会計学1科目の科目免除を受ける場合
「会計学に属する科目」に関する論文

参考:修士の学位等による試験科目免除(研究の認定を含む。以下同じ。)について〔税理士法改正後〕|国税庁

具体的な論文の内容に関しては、必ずしも法人税法や消費税法のように税理士試験の試験科目とされる税法だけでなく、その他の租税や外国との租税など、財務省令で定められたものであれば対象に含めることが可能です。

現行の免除制度が適用される場合とされない場合

税理士試験の科目免除制度は平成14年3月31日を境に改正されていますが、その判定については「科目免除の申請日」ではなく、「大学院進学の日」に基づいて行われます。

したがってこれから科目免除の申請を行う場合においても、大学院への進学日によっては改正前の科目免除制度が適用される可能性もあるため、申請の際にはくれぐれもご注意ください。

平成14年4月1日以降に大学院に進学した場合には、現行の改正税理士法が適用され、修士学位を取得した場合には最大で3科目(「税法に属する科目」の2科目および「会計学に属する科目」1科目の合計)の免除を受けることができます。

なお現行の改正税理士法において、博士学位を取得した場合には、研究内容が税法科目の場合には「税法に属する科目」の3科目すべてが免除され、会計学の研究の場合には「会計学に属する科目」の2科目すべてを免除対象とすることが可能です。

それに対し、平成14年3月31日以前に大学院に進学した場合には、改正前の税理士法が適用されます。具体的には、「法律学」や「財務学」に関する研究によって修士や博士の学位を取得した場合は「税法に属する科目」の3科目すべてが免除され、「商学」に関する研究によって修士や博士の学位を取得した場合は「会計学に属する科目」の2科目すべてが免除されます。
参考:税理士法改正前の試験科目免除について|国税庁

したがって税法と会計学の2つの修士学位を取得した場合、改正前の税理士法であれば、税理士試験の5科目すべてについて科目免除を受けることが可能です。

税理士法改正前の科目免除制度を申請する方法は以下のとおりです。

  1. 過去の合格科目やすでに免除が決定した科目を含め、今回の学位取得(平成14年3月31日以前に大学院に進学)による申請で全科目免除となる場合
    →「全科目免除」の申請を行う。
  2. 過去の合格科目やすでに免除が決定した科目を含めても、今回の申請では全科目免除にならない場合
    →受験申込と併せて「一部科目免除」の申請を行う。

参考:試験科目の免除について|国税庁

なお「全科目免除」の場合には「税理士試験免除申請書」の提出が必要となるなど、必要書類にも違いがあるため、免除申請を行う際には手続きの流れを必ずチェックしましょう。

【税理士法改正後】申請方法・必要書類について

平成14年4月1日以降に大学院に進学した場合には、以下の区分ごとに必要書類を準備して手続きを行います。

1.一部科目免除(今回認定を受けても、試験科目の全部が免除とならない場合)

申請時期
税理士試験の受験申込受付期間内
※1科目以上の受験申込をした上で申請
提出書類
① 研究認定申請書(手数料8,800円の収入印紙を消印せず貼付)
② 学位取得証明書
③ 成績証明書
④ 修士の学位等取得に係る学位論文のコピー(表紙・目次・参考文献目録を添付)
⑤ 論文の内容および修士の学位等取得に係る論文であることについての指導教授の証明書
⑥ 履修要項等における修了した研究科の履修規定のうち、修了要件(在籍期間、必要単位数、修士論文の審査に合格等の条件)が記載された部分のコピー
⑦ 講義概要のうち、履修した全科目の担当教授、講義内容および単位数が記載された部分のコピー
⑧ 合格科目を証する税理士試験等結果通知書又は一部科目合格(免除決定)通知書のコピー

2.全科目免除(今回認定を受けることで、試験科目の全部が免除となる場合)

申請時期
随時
提出先
〒100-8978 東京都千代田区霞ヶ関3-1-1 国税庁内 国税審議会会長宛
(一般書留、簡易書留または特定記録郵便により提出すること)
提出書類
① 研究認定申請書兼税理士試験免除申請書
② 上記1.に掲げる②~⑧の書類
③ 郵便番号と宛先を明記の上、一般書留の場合555円、簡易書留の場合440円、特定記録郵便の場合280円分の切手を貼ったA4判大の返信用封筒

参考:2 修士の学位等による試験科目免除(研究の認定を含む。以下同じ。)について〔税理士法改正後〕|国税庁

【税理士法改正前】申請方法・必要書類について

平成14年3月31日以前に大学院に進学した場合には、以下の区分ごとに必要書類を準備して手続きを行います。
1.一部科目免除

申請時期
税理士試験の受験申込受付期間内
※1科目以上の受験申込をした上で申請
提出書類
① 学位取得証明書(A4規格でないものはA4用紙にのりづけ)
② 成績証明書(A4規格でないものはA4用紙にのりづけ)
③ 学位論文の概要(A4判で12,000字~16,000字程度の分量にまとめ左とじしたものに学位論文本文の目次(ページ数が記入されているもの)および参考(引用)文献目録を添付する)
④ 論文の内容についての指導教授の証明書

2.全科目免除

申請時期
随時
提出先
〒100-8978 東京都千代田区霞ヶ関3-1-1 国税庁内 国税審議会会長宛
(一般書留、簡易書留または特定記録郵便により提出すること)
提出書類
①税理士試験免除申請書
② 学位取得証明書(A4規格でないものはA4用紙にのりづけ)
③ 成績証明書(A4規格でないものはA4用紙にのりづけ)
④学位論文の概要(A4判で12,000字~16,000字程度の分量にまとめ左とじしたものに学位論文本文の目次(ページ数が記入されているもの)および参考(引用)文献目録を添付する)
⑤論文の内容についての指導教授の証明書
⑥税理士試験等結果通知書又は一部科目合格(免除決定)通知書の写し
⑦郵便番号・宛先明記のA4判大の返信用封筒

参考:2 修士の学位等による試験科目免除(研究の認定を含む。以下同じ。)について〔税理士法改正後〕|国税庁

科目免除だとクライアントからの信用が下がる?

税理士試験の受験生が科目免除制度の活用を検討する場合、5科目合格者に比べて「税務会計の知識で劣るのではないか」「クライアントからの信用が得づらくなるのではないか」など、実務において不都合が生じないかどうか不安を感じることも少なくありません。

たしかに法人税法や所得税法、消費税法など、実務で頻出する税目はありますが、税理士試験では全11科目のうち5科目(うち税法科目は3科目)のみを選択するため、5科目合格者でも試験勉強を通じて実務に必要な知識を網羅することは現実的ではありません。

したがって「5科目合格」の場合と「科目免除」を受けた場合では、試験後に必要な学習量に差が生じる可能性こそあるものの、どちらのケースでも自分に不足する知識を新たに習得しなければならない点は同様と考えられます。

またクライアントや第三者に関しては、そもそも税理士試験制度の仕組みを正しく理解している場合は少なく、試験合格や税理士登録までの過程よりも、現時点での専門家としての知識やノウハウによって評価されるケースが圧倒的に多いです。

このような背景から、税理士試験を通じて実務用の知識の習得を重視する場合には「5科目合格」、試験合格や税理士登録までのスピード・確実性を優先する場合には「科目免除」を選択する事例が一般的です。

税理士試験合格はゴールではなく、合格に至るまでのルートにも正解・不正解は存在しないため、自らの価値観や将来設計に照らし合わせ、自分自身にとって最適な方法を選択しましょう。

科目免除の活用は、税理士試験合格への大きなメリット

大学院に進学し、一定の要件を満たす単位の習得や論文執筆が必要になるなど、税理士試験における「科目免除制度」の申請条件や手続きは複雑です。

しかし難易度の高い税理士試験への合格を目指す場合において、科目免除制度を活用し、一部科目や全科目の免除を受けることは大きなメリットとなります。

税理士試験に挑戦するにあたっては、自分自身が重視することや税理士としての将来設計を考慮し、科目免除制度の活用も選択肢に加えたうえで、試験合格までの道筋を思い描きましょう。

よくある質問

大学院進学による科目免除制度とは?

大学院で修士学位を取得し、その研究内容について国税審議会の認定を受けた場合には、税理士試験科目の一部が免除されます。具体的には、税法科目であれば2科目、会計学科目の場合には1科目の免除が受けられます。

科目免除を受けるための要件は?

大学院で修士学位を取得し、税理士試験における科目免除制度を適用する場合には、税法または会計学に関する単位を4単位以上取得することに加え、それらに関する修士論文を執筆することが要件となります。

科目免除を受けるメリットは?

難易度の高い税理士試験において、5科目合格を果たすためには長い年月を要するケースが大半です。科目免除を活用すれば受験科目を削減できるため、試験合格までの確実性を高めやすいというメリットが期待できます。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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