税理士が開業するメリットとデメリットとは?成功するために必要な準備も解説

独立・開業

税理士が開業するメリットとデメリットとは?成功するために必要な準備も解説

税理士にとって開業は、自身のキャリアを左右する重要な決断の一つです。開業して独立するか否かの決断は、働き方が大きく変わるため、さまざまな変化を考慮する必要があります。本記事では、独立することでどのようなメリットとデメリットがあるのかについて解説します。

税理士が開業するメリットとは?

税理士が自らの事務所を開業することで、下図のようにさまざまなメリットを享受することが可能です。
 

 
中には税理士業界特有の市場環境や背景も影響しているため、独立開業を目指す場合にはそれらのメリットを正しく理解したうえで、自分自身の開業計画を立てましょう。

自らに適した働き方ができる

事務所を開業することで税理士は個人事業主となり、ひとりの経営者として自身の働き方を決めることが可能になります。事務所の開業場所や勤務時間を自由に設計できるため、自らに合った労働環境を実現しやすくなります。

ただし、いくら自由度が高いとはいえ、クライアントが存在する以上は相手に合わせた働き方が求められます。自分が希望する働き方によって、顧客に不利益を与えてしまうことがないように注意しましょう。

所属税理士の場合には、組織の一員として勤務先の経営方針に則って働く必要があります。それに対して開業税理士の場合は、自らの労働環境だけでなく、事務所としてのサービス内容や経営方針についても自由に選択できます。たとえば、サービス内容としては、一般的な税務顧問業務に加え、資金調達や開業支援、M&Aなどのコンサルティング業務を展開することや、資産税業務や特定の業種に特化したサービスを提供することも可能です。

さらに、事務所経営に関しても、自らの経営方針に基づいた事務所づくりを追求することが可能です。顧客や職員の数を増やして規模拡大を目指すだけでなく、税理士ひとりで小回りの利く経営を目標とする事務所もあります。

さまざまな意思決定に対する自由度が高い一方で、将来のビジョンを明確にし、地に足のついた経営を実現することが重要です。理想とする税理士像や自分自身の強み、顧客ニーズなどを総合的に勘案し、開業税理士として目指すべき働き方を慎重に検討しましょう。

結果を出せば年収も上がる

税理士業界に限った話ではありませんが、独立開業するメリットのひとつとして、獲得した業務が自らの収入へダイレクトに反映される点が挙げられます。

もちろん所属税理士や社員税理士の場合でも、事務所への貢献度によって昇給となるケースはあります。しかし開業税理士の場合には、新規顧客を開拓することで得られる顧問料が売上へと直結するため、年収の増加幅はより一層大きくなります。

また、独立開業することで、自らの時間の使い方や業務内容の自由度も上がります。税務顧問業務に加えて書籍の執筆や寄稿、セミナー講師などの講演活動にも取り組むことができ、通常業務以外でも売上拡大を実現することが可能です。所属税理士や社員税理士に比べ、開業税理士の場合には顧客獲得が自らの年収へダイレクトに反映されるだけでなく、サービス内容を吟味して自分の得意分野に注力できるため、自然とモチベーションアップにもつながりやすくなります。

生涯現役でいることができる

開業税理士には定年退職という概念がないため、自分自身が健康である限りは現役で居続けることができます。特に税理士業務についてはモノとしての商品がなく、専門家としての知識や経験がサービスの質へとつながるため、キャリアを重ねるにつれてクライアントからの信頼も得やすくなります。

また、体力面や精神面での衰えを感じる場合には、それに伴って業務量の削減やサービス内容の見直しを図るなど、経営者として自らの業務負荷をコントロールすることも可能です。

ただし、定年退職がないとはいえ、開業税理士はいずれ第一線を退くことを想定し、他の経営者と同様に、事務所の後継者を育成するなどの事業承継を計画的に進める必要があります。生涯現役とはいえ、経営者自身に不測の事態が生じた場合にはクライアントに悪影響が及ぶこととなるため、開業税理士はさまざまなリスクを想定し、然るべき対策を講じておきましょう。

税理士が開業するデメリットとは?

税理士が独立開業する場合には、メリットばかりではなく、下図のようにいくつかのデメリットも存在します。
 

 
税理士事務所を開業する場合には、あらかじめさまざまなデメリットを想定し、開業後に想定外の困難に直面するリスクを軽減できるよう、然るべき準備や対策を入念に行いましょう。

収入の安定性が低い

独立開業によって顧客獲得が自らの収入に直結することは、事務所の業績が順調に拡大した場合にはメリットとなりますが、思うように仕事を受注できなければデメリットとなります。

所属税理士の場合には、基本的にはベースとなる給与収入が保障されています。それに対して、開業税理士のような個人事業主については、十分な売上が確保できなければ私生活にも悪影響を及ぼしかねません。

特に、税理士にとって基幹業務となる税務顧問業務については、顧客数だけでなく単価の変動によって事務所の収入が大きく左右されます。

顧客数の増加や顧問料アップによって毎月の事務所収入が拡大する一方で、顧問先の減少や顧問料の値下げがあった場合には、ベースとなる売上も減少してしまいます。また、税理士業務においては、閑散期と繁忙期における業務量の差が大きく、開業税理士の場合にはその業務量の振れ幅に比例して収入の波が大きくなりやすいです。

一般的な税理士事務所にとって、繁忙期である確定申告時期や3月決算法人の申告時期に比べ、閑散期では収入自体が減少する場合もあります。開業の際には資金計画をきちんと策定し、年間の収入だけでなく毎月のキャッシュフローにも注意しましょう。

自らが望まない業務に着手する必要もある

税理士が独立開業する場合、自分自身の強みや顧客ニーズなどを踏まえ、事務所のサービス内容については自由に展開できます。その一方で、経営者として避けられない業務もあります。

所属税理士であれば、勤務先の事務所が獲得した顧客の対応など「直接業務」に注力するケースが一般的です。しかし、開業税理士の場合には、通常の税理士業務に加えて集客のための営業活動や、バックオフィス業務も並行して行わなければなりません。

特に、営業活動に関しては独立開業前に十分な経験を積めていないケースも多く、独立開業を検討するうえでの最大の不安要素となる場合も少なくありません。開業前に勤務していた事務所からの「のれん分け」で顧客を引き継ぐケースは稀であり、一般的には新規顧客獲得のための活動を自力で行う必要があるため、自らの時間や労力の多くを集客活動に費やすこととなります。

中でも「顧客ゼロ」の状態から開業する場合には、新規顧客を獲得しなければ事務所の経営が立ち行かなくなってしまいます。独立開業を成功へと導くためには、経営者として営業や集客のノウハウを習得することが必要不可欠です。

なお、税理士事務所を開業する場合の効果的な営業活動や集客方法については、別記事にて詳しく解説していますので、ぜひ以下のリンクをご参照ください。

税理士が開業するときのデメリットを補うためには?

独立開業直後において事務所経営を早期に軌道に乗せることは、安定的な経営基盤を構築するための近道となります。そのためには独立開業のデメリットを洗い出し、それらによって発生しうるリスクを軽減するために下図のような対応策を講じることが重要です。
 

 

経営が安定するまで、他の収入源を確保する

開業税理士にとって、クライアントと顧問契約を締結して毎月顧問料収入を得ることは、事務所経営を安定させる方法として非常に効果的です。

ただし、税理士として顧問契約を獲得することは容易ではなく、営業活動の成果がすぐに表れないケースもあります。顧問料のような安定的な収入源を確保できるまでは、副業として他の収入源を用意することも検討しましょう。

税理士が行う副業は多岐にわたっていますが、基本的には税務や会計に関する知識を活かした業務が中心となるため、スポットの税務相談や予備校・セミナー講師、記事執筆などが一般的です。税理士としての本業以外の業務に従事することで、税務顧問業務では獲得できない経験を得ることができ、それらを本業へと還元することで相乗効果を期待することも可能です。

また、税務顧問業務の拡大に成功した場合においても、本業以外の収益の柱を育てていくことにより、事務所としての「経営の安全性」をより一層強化できます。テクノロジーの発展により、自らの知識やノウハウはさまざまな媒体を通じて提供できるため、既存の税理士業務にとらわれることなく、顧客ニーズを踏まえて収入源を確保するように取り組みましょう。

外注を検討する

開業直後においては、自分自身が望まない業務や十分な知識や経験がない業務も多いため、不得意な仕事や専門外の業務領域については外部の専門業者に委託し、自らは本業に専念することも可能です。

ただし、外注を活用する場合には相応のコストが発生するため、事務所のキャッシュフローに注意したうえで委託すべきかどうか判断しましょう。

また、業務を外注する場合には、税理士自らの業務負担が軽減する一方で、業務のノウハウが蓄積しないというデメリットもあります。特に営業や集客活動などの業務を外注する場合、月日が経ってもなかなか自分自身の営業スキルを強化できないため、事務所としての経営基盤が不安定になってしまいます。

業務を外注する場合には、単にコスト面で検討するだけでなく、事務所内部に蓄積すべきノウハウかどうかを考慮したうえで判断するように心掛けましょう。

開業して成功するため為に必要な準備

税理士事務所を開業する場合において、事務所経営の成功確率を高めるためには事前の準備が欠かせません。

税理士が独立開業する際には、少なくとも以下の項目については必ず準備を行いましょう。
 

 

立地選定と物件探し
まずは、税理士事務所としての開業地を検討する必要があります。周囲の環境やアクセスの良し悪しによって、その後の集客活動や人材採用にも影響を及ぼすだけでなく、万が一移転が必要な場合には余分な労力やコストが必要になります。開業場所の選定は慎重に行いましょう。

賃貸オフィスだけでなく、自宅開業やレンタルオフィスによる開業も可能です。それぞれのメリットやデメリットを正しく理解し、「来所型」や「訪問型」などの事務所の業務形態を考慮したうえで、自らの方向性に合った事務所環境を選びましょう。

備品の購入やインフラ整備
開業場所の選定以外にも、税理士業務で必要なパソコンなどの事務用品を購入したり、会計・税務ソフトを導入したりするなど、事務所としてのインフラ整備も行わなければなりません。顧問契約を締結した場合を想定し、一連の業務を滞りなく遂行できる環境を事前に整えることによって、安心して集客活動に取り組むことができます。
税理士会の登録区分の変更
独立開業する場合には、税理士会での登録区分を「所属税理士」や「社員税理士」から「開業税理士」へ変更する必要があります。
登録区分の変更においては、変更登録申請書類の作成が必要となるなど、変更が完了するまでに一定の期間を要します。スケジュールに余裕を持って手続きを行うように、心掛けてください。
資金計画の策定
開業場所の選定や事務所のインフラ整備に必要な備品などを検討する場合には、それらのコストを資金計画に反映し、実際の事業資金と照らし合わせて計画のブラッシュアップを行いましょう。特に、事務所の賃借や職員の採用の有無などによって用意すべき開業資金も異なるため、開業前の勤務期間中においては、将来の事務所経営を想定しつつ、実務経験を積みながら必要な資金を蓄えることをおすすめします。

また、自己資金ではキャッシュが不足する場合には、日本政策金融公庫などから融資を受ける方法もあります。その際には、申込書や創業計画書の作成が必要となるため、事務所の資金計画を策定したうえで、外部からの資金調達の必要性についても早めに検証することが重要です。

税理士が独立開業する場合に準備すべき内容については、別記事にて詳しく解説していますので、以下のリンクをご参照ください。

開業するメリットを最大限享受するために、万全の準備を

税理士が独立開業する場合には、ただ闇雲に事務所を開業するのではなく、事前準備を積み重ねることが必要不可欠です。

独立開業を成功させることによって、生涯現役のように自由度の高い柔軟な働き方や、顧客獲得による収益拡大を追求できるなど、さまざまなメリットを享受できます。開業後のリスクを想定することは、事務所経営を成功に導くうえで重要なポイントとなるため、事務所の売上計画や資金計画をしっかりと策定し、理想とする事務所経営を目指しましょう。

よくある質問

税理士が独立開業するメリットは?

独立開業によって自分に合った働き方を実現できるだけでなく、売上を増やすことによって自らの収益を拡大することが可能です。また業務内容や経営方針も自由に設計できるため、理想とする事務所経営を追求できます。

税理士が独立開業するデメリットは?

個人事業主となることにより、収入が不安定なことや本業以外の間接業務も行わなければならない点が挙げられます。特に営業スキルが乏しい場合には集客に苦しむケースも多いため、実践的なノウハウの習得が必要です。

開業を成功させるために必要な準備は?

税理士事務所としての機能を確保するためには、開業場所の選定や事務所のインフラ整備が欠かせません。その際には具体的なコストを集計し、自らの開業計画に必要な事業資金をしっかりと蓄えておくことが重要です。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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