税理士事務所や会計事務所を開業する際、検討するもののひとつにロゴマークがあります。この記事では税理士事務所でのロゴマークの必要性や作成の手順、注意が必要なポイントについて解説していきます。
目次
ロゴマークが必要な理由
税理士業界における事務所のロゴマークの必要性は、日増しに高まっています。
事務所のロゴマークが使われる場面は、看板や名刺、クライアントへの提案資料だけではありません。インターネット環境の普及により、ホームページやSNSアイコンなどにも使用され、さまざまな媒体で積極的に利用されています。
特に近年では税理士業界においてもWeb集客が浸透しつつあり、見込み客が事務所ホームページやSNSを通じて税理士に関する情報収集を行うケースも珍しくありません。税理士と直接対面する前に、事務所に対するイメージを形成する場合も多く、税理士としては適切なイメージを発信することが集客活動の成果にも直結します。
一般的に、文字のみの情報よりも絵や画像と合わせて掲載する方が目に留まりやすく、記憶にも残りやすくなっています。 プロフィール写真やロゴマークを有効に活用することで、事務所の認知度を高めることが可能です。
また、事務所のイメージに沿ったロゴマークを作成することで、「事務所の顔」としての存在感を発揮し、税理士としてのビジョンや考え方などを効果的に訴求できます。さらに、ロゴマークを作成することは対外的なメリットだけでなく、事務所内部に対する効果も期待されます。
ロゴマークの多くは事務所の経営理念や所長税理士の想いが込められているため、将来へのビジョンの共有や職員のモチベーションアップ、事務所への帰属意識の向上にも貢献し、事務所としての団結力強化にも役立てることができます。
ロゴマークの作り方
ロゴマークの作成に関しては、デザイナーや制作会社などのプロへ依頼するケースが一般的です。
ただしそのような場合でも業者へ丸投げするのではなく、制作者との間で事前にイメージを共有することで意思疎通がスムーズになり、満足のいく作品に仕上がる可能性も高まります。
外部に依頼する場合にはヒアリングされる内容は基本的に同様であるため、税理士としての理念やロゴマークに込める想い、大まかなデザインのイメージなどを自らの頭の中で整理しておくと良いです。
ロゴマークへの意味づけを考える
まずは、ロゴマークに込めるべき自らの考えや想いについて検討しましょう。
自らの事務所名やイニシャルなどをモチーフとして名前を覚えてもらうだけでなく、事務所のコンセプトや経営理念を投影することで、ターゲット層に効果的に訴求するなどの役割も期待できます。
ただし、情報量が多すぎると雑多な印象を与えかねないため、ロゴマークに投影する内容にある程度優先順位をつけておくなど、自らの考えを整理するように心掛けましょう。
配色をイメージする
ロゴマークを作成する際には、メインで使用する色をイメージすることも重要です。ロゴマークの作成を外部に依頼する場合にはデザイナーから提案を受けるケースもありますが、自分自身で使いたい色などがあれば積極的に伝えるようにしましょう。
ロゴマークの配色を検討する場合にはそれぞれの色が持つ印象を考慮したうえで、作っていきたい事務所のイメージに照らし合わせて決定すると良いでしょう。
- 赤色:積極性、情熱
- 橙色:活発、友好性
- 黄色:躍動、快活
- 緑色:調和、さわやか、平穏
- 青色:誠実、冷静
- 黒色:高級、重厚
- 白色:清潔、純粋
自らの専門性やクライアントとの信頼関係の構築が重要な税理士業においては、「誠実さ」や「安心感」を追求する傾向が強いため、青色や緑色を採り入れるケースが多いです。あるいは相続や事業承継業務を中心にサービス展開する事務所の場合には、黒などの暗色を使用して「重厚感」や「威厳」を強調する場合もあります。
一方で若手税理士の場合には自らの行動力やエネルギー、フットワークの軽さを印象づけるために、赤色やオレンジ色を選択することも効果的です。事務所のコンセプトに加え、自らの強みや競合する他の事務所との差別化戦略を検討し、それらをターゲット層へ訴求する際に効果的な色を選択しましょう。
ラフな形を考える
デザイナーにロゴマークの作成を依頼する前に、自分自身で大まかな全体像をイメージすることをおすすめします。ロゴマークに使用する色だけでなく、デザインに組み入れたい図案などがあれば、イメージが伝えられるようにラフな形で描いておくと効率的です。
また具体的なイメージが浮かばない場合には、参考としてお気に入りのデザインやロゴマークをデザイナーに提示することで、自らの好みに近いデザインの提案を受けやすくなります。
配色と同様にロゴマークの形状によっても与える印象は異なるため、相続専門税理士にもかかわらずポップなロゴマークを用いるなど、事務所の方向性とロゴマークのデザインが不一致とならないようにご注意ください。
デザイナーや制作会社に依頼する
ロゴマークのデザインについては、自分自身で作成するよりもデザイナーや制作会社などのプロへ依頼する方が確実です。特にロゴデザインに精通していない初心者が作成する場合には、多くの時間が必要となるだけでなく、出来上がったロゴマークが各種媒体に載せられるクオリティに達しない可能性も高まります。
外部に委託する際の料金相場としては、クラウドソーシングなどを通じて個人のデザイナーへ依頼する場合には1〜5万円、制作会社へ依頼する場合には10〜20万円程度が目安となります。
ただし、制作費用については依頼するデザイナーや制作会社の経験や知名度に加え、提案数や修正回数などの条件によっても変動します。また、ロゴマークのデザイン以外にも、事務所名などのテキスト(ロゴタイプ)のデザインが必要な場合には、それに応じてデザイン料も高騰するケースが一般的です。
作成を依頼するデザイナーや制作会社を検討する場合には、単に料金を比較するだけでなく、メニューに含まれるサービス内容を吟味し、自らのニーズに合った依頼先を選定してください。
自作する場合
独立開業して間もないケースなど、金銭的に余裕がない場合にはロゴマークを自作し、制作費用を節約することも可能です。自作する場合には、CanvaやFigmaなどの無料デザインツールを活用することで、デザイン初心者でも最低限のクオリティを追求できます。
出来上がったデザインについては、背景を透明にして他の素材と一緒に使用する場合にはpng形式で保存することをおすすめします。一方でjpg形式の場合には透過に対応していないものの、色彩表現が豊かであるため、風景やグラデーションなどの連続した色を表現する場合に効果的です。
このようにpng形式とjpg形式では特徴が異なるため、ロゴマークのデザインや掲載する媒体によって適切なファイル形式にも違いがあります。ロゴマークを自作する場合にはpng形式とjpg形式の2種類のファイル形式で保存し、ロゴマークの用途に応じて使い分けを行いましょう。
また、自作したロゴマークの使用を開始したあとに、プロに依頼して再度デザインする場合には、既存のロゴマークを差し替える作業が必要となります。自作のロゴマークを事務所のホームページや看板、名刺などに掲載済みの場合には、差し替えに際して別途費用が発生する場合もあるため、ロゴマークの作成や使用については計画的に行いましょう。
よくあるロゴマークのパターン
税理士事務所で活用されるロゴマークのモチーフについては、下図のようにいくつかのパターンに分類されるケースが一般的です。
なおこれらのパターンについてはいずれかひとつのみを採用するとは限らず、「イニシャル」と「経営理念」など、複数の要素を組み合わせてデザインする場合も多いです。
いずれのパターンにおいてもロゴマークを通して何らかのメッセージ性を持たせるケースが多く、事務所としてのコンセプトや自らの考えを外部に向けて発信することが主たる目的となります。
イニシャルをモチーフ
税理士事務所名や代表税理士の氏名の頭文字やイニシャルをロゴマークのモチーフとするケースは非常に多いです。たとえば「田中税理士事務所」の場合には、頭文字の「T」をもとにデザインするケースが一般的です。
事務所名や税理士の氏名をモチーフとすることで、税理士事務所としての認知度を高め、見込み客に対して印象に残りやすいロゴマークを作成できます。なお、ロゴマークとは別にロゴタイプを用いる場合においても、ロゴタイプとして税理士事務所名を表記し、ロゴマークでも頭文字やイニシャルをモチーフとするケースも多いです。
経営理念を投影
税理士事務所として掲げる経営理念や、コンセプトをロゴマークのデザインへ投影するケースもあります。たとえば「三方良し」を経営理念に掲げる場合には、三角形や3つの柱をモチーフとする方法が考えられます。
また、経営理念だけでなく事務所としてのサービス内容をデザインに反映し、ターゲット層に訴求する方法も効果的です。
具体的には新規創業者の支援をメイン業務として取り扱う場合には、新芽や若葉などの植物をデザインに採り入れることで、「安心感」や「親しみやすさ」だけでなく、「お客様との共生」などのメッセージも発信できます。
幾何学模様
幾何学模様とは、三角形や四角形、円などの図形を素材とし、それらを連続して組み合わせることで作成する模様をいいます。
幾何学模様をロゴデザインに採り入れる事例も多く、モノクロにすれば都会的でシャープなイメージを演出することが可能です。また、幾何学模様のロゴマークに色を加えることでインパクトが増すだけでなく、それぞれの色が持つイメージを全面的に押し出すことができます。
ただし、幾何学模様は存在感が大きく、人目につきやすい一方で、ロゴマークに込めたメッセージが届きづらいというデメリットがあります。複数の柄を使用すると雑多な印象になりやすい点にも、注意しなければなりません。
ロゴマークに幾何学模様を採り入れる場合には、シンプルかつ明瞭なデザインを意識することをおすすめします。
開業場所などのモチーフ
有名な建物や景勝地などに税理士事務所を開業した場所には、開業場所をロゴマークのモチーフとすることで、事務所の所在地や営業エリアと結びつけて覚えてもらいやすいというメリットがあります。
また、地域密着型の事務所経営を行う場合には、開業地をわかりやすく発信することで集客面においてもプラスの効果が期待できます。
ただし、開業地だけでは自身の強みや事務所としてのコンセプトが訴求しづらくなります。所在地以外の要素と組み合わせたデザインを採り入れることで、ロゴマークとしての効果を補完することも検討しましょう。
ロゴマークでは商標権・著作権違反に注意
ロゴマークの作成においては、「著作権」や「商標権」をはじめとする権利関係にも注意しなければなりません。「著作権」と「商標権」のいずれにおいても、他のロゴマークと類似したデザインを使用することで、権利者との間でトラブルに発展する可能性があります。
他人の権利を侵害した場合には、仮に意図的でなかったとしても賠償責任やロゴマークの使用が不可となるリスクもあるため、作成時にはこれらの権利関係についてもしっかりと確認してください。
「著作権」とは著作物を独占的に使用する権利を表し、自然に発生する権利であることから申請や登録などの手続きは不要です。ただし、ロゴマークなどの場合には著作物性が認められないケースもあるため、類似点の存在が必ずしも著作権侵害に該当するとは限りません。
なお「著作権」に関しては他のロゴマークに対する著作権侵害だけでなく、自らのロゴマークに関する権利の帰属についても注意が必要です。
原則として、ロゴマークの著作権はデザイナーや制作会社に帰属するため、完成時に著作権の譲渡を受けなければ、発注者が自由に使用できなくなってしまうケースも考えられます。ロゴマークの作成を第三者へ依頼する場合には、引渡しの際に「著作権の譲渡」を受けられるよう、契約書などに明文化されているかどうか必ずチェックしましょう。
一方で「商標権」は商品やサービスを識別するための印やマークについて、登録を受けた場合に独占して使用する権利を指し、自然発生する「著作権」とは異なり、商標登録によって権利が発生します。
ロゴマークについても商標登録が可能であるため、知らないうちに商標登録されたロゴマークと類似するものを作成してしまう可能性も十分に考えられます。作成したロゴマークがすでに商標登録された他のマークと類似する場合には、商標権侵害として責任を問われるケースもあるため、特にロゴマークを自作するケースにおいては慎重に対応しなければなりません。
デザイン会社の中には類似商標のチェックについてもサービスに含めている業者も存在するため、権利関係に対する不安がある場合にはプロに任せる方が確実といえるでしょう。
税理士事務所のロゴマークは早めに制作を
税理士業界においてもWebやSNSを通じて広告宣伝や集客活動は多様化しており、ロゴマークもさまざまな媒体で利用されています。
ロゴマークは自作できますが、デザイン初心者の場合には時間がかかるだけでなく、完成品のクオリティが不安定になりやすいため注意が必要です。将来的にロゴマークを差し替える場合には余分な手間やコストが発生するため、長期間にわたって使用することを想定し、プロに制作を依頼する方が無難といえます。
また、ロゴマークには経営理念やビジョンを投影するケースが多いため、ロゴマークの作成をきっかけに自らの事務所の展望を見つめ直し、アウトプットする良い機会となります。事務所のシンボルとしてたくさんの場面で活用できるよう、自分自身の想いが詰まったロゴマークを作成しましょう。
よくある質問
ロゴマークの作り方とは?
まずは自作と外注のどちらの方法で作成するのか決定してください。外注する場合でもロゴマークに投影する経営理念や配色、全体像を検討し、それらをデザイナーと共有することで自分好みの仕上がりに近づくでしょう。
デザインにおいてよくあるパターンは?
事務所名や所長税理士の氏名のイニシャルまたは頭文字をモチーフとする事例が多いです。それに加えて事務所としての経営理念あるいはコンセプト、サービス内容をイメージした図柄を採り入れる場合が一般的です。
ロゴマークの作成で注意すべき点は?
数多くの情報を詰め込むことで、雑多な印象にならないように注意してください。また他のデザインに類似する場合には著作権や商標権侵害となるおそれがあるため、一般的にはプロに依頼する方が無難といえます。